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白の綾  作者: ぺの
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出会い②

不思議なことに、八代はやってきた彼のことが異様だとは思えなかった。自分と同じ顔かたち、同じ体型をして、同じ癖を持つ他人がいるだけのことだ。部屋に入ってきた時、八代は取り乱さなかった。不審者が上がり込んできたとも、なぜ八代と同じ顔をしているのかとも思わなかった。これがいわゆるドッペルゲンガーというものなのだろうと思い、それで死ぬのならもうどうしようもないだろうと思った。なにしろ、見かけるどころか家に上がり込んで当たり前のように生活を始めた。足音も影もあり、体温もあった。八代と彼が廊下ですれ違う時ぶつかることさえあった。それを気の迷いと言い切ってしまうほど、八代は器用ではなかった。

彼は熱が見せている幻覚かもしれないし、もしかしたら幽霊や化け物の類かもしれないし、知らされていなかった双子の兄かもしれなかったが、あまり興味はなかった。好きにさせておけば良いと思っていた。彼は八代とは違いよく外に出かけたが、それで不都合が生じるようなこともない。何年も前からほとんど外に出なかったから、ばったり会って困るような友人もいなかった。

それよりも、彼の持つ感覚のほうが八代の頭を痛めた。見るもの聞くもの、彼の五感が八代に伝わった。記憶のようでもあったが、目の前のものと同時に二つを取り入れることは、ひどく精神を消耗した。彼を見る時、八代は自分の顔を二つ見た。そのたびにめまいを感じた。彼はただの八代の人形ではなかった。その証拠に、いくら八代がめまいに苦しんでいても、彼は彼で動きたいように動いた。

仮に彼が八代であるとすると、確実に差が出るのは外に出る回数だった。彼はしまいこんだカメラを引っ張り出し、よく外に出かけた。そのあたりをあてもなくうろつき、写真を撮る。もちろんその間も、八代は二つの五感を持っていた。彼の散歩は長く、時には朝から日付が変わるほど遅くなることもあった。

八代には彼の気持ちがよく分かった。同じ顔をした人間が部屋の中にいるほど気詰まりなものはない。帰ってきたからと言って、何を話すわけでもなかった。彼は八代だから相手を知る必要もないし、友好関係を結ぶ必要もなかった。八代も彼も、おそらくごく当たり前に互いの存在を認めていた。

彼が出かけている間、八代はベッドでぼんやり寝転ぶのが習慣となった。そうやって、彼の感覚を客観的に観察しようとした。そうすることで何かが分かることを期待していたのかもしれないし、あるいはただの興味本位かもしれなかった。今日も彼は出かけ、家からはずいぶんと離れた児童公園まで来た。

彼は街灯を見、そこに集まる羽虫を目で追い、焦点を失ってブランコを見て、その後に立つ子供を見つけた。まるで視線を引き寄せられたかのようだった。あの子供に何かあるのだろうかと思いながら、八代自身もその視線の動きに集中していた。何かを握りしめて立つ子供は暇そうに見えた。そして、奇妙に老成している印象があった。なぜと思いかけて、気づく。その子供は、世の暇な子供がよくやるような落ち着かなさがなかった。きょろきょろあたりを見回すことも、足踏みをすることもなく、ただぼんやりと立っていた。なにか引っかかりを感じる気がした。記憶の膜をちりちり引っかかれるような気がした。なにかに似ている気がした。

彼がふと歩き出す。八代はかすかな不安を感じる。声をかけるのだけはやめろと思う目の前で、彼が声をかけた。

「何してるの」

子供がこちらを向く。瞬きをする目が、彼を図っていることを告げていた。子供は迷いながら答える。

「別に、何もしてない」

「親は? そろそろ暗くなるけど」

また子供は迷った。ただし、視線はほとんど動かなかった。一度つぐんだ口元にそれが滲んだような気がしただけだ。

「家にいる」

「早く帰った方がいいんじゃないか」

 今度は目がはっきりと揺れた。

「……もうちょっとしたら、帰る」

 彼は黙った。きっと彼は考えているのだ。この子供に何を言うのかを。彼は耳の後ろを押した。

「帰りたくないなら、そう言えばいい。暇ならちょっと見てくれないか」

カメラを取り出し画面を見せると、子供は少し背伸びするようにした。彼は少し身をかがめて、いくつか写真を見せる。子供の目に、初めて感情らしきものが映った。驚いているように見えた。

「おじさんが撮ったの?」

「おにいさん、な。そう」

 子供はじっと画面に見入って、彼がボタンを押す度に瞬きをしていた。何枚か動いたところで、子供が飽きてきたことが分かった。

「どうだった」

 彼がカメラをしまいながら聞くと、子供は顔を曇らせて口を開く。今度は迷わなかった。

「色が変」

 彼はカメラをしまう手を止めて子供を見返した。意味を取りかねたのは八代も同じだ。彼の視界から子供の顔を凝視している。

「どんなふうに」

彼が聞くと、子供はぐっと顔を歪めた。また、ちりちりする何かが引っかかった。

「なんか、気持ち悪い。おもちゃみたいで、やだ」

 彼は再び黙り込んだ。もう一度カメラを取り出して見返しながら、子供の反応を待っている。しかし、子供はそれ以上何も言わなかった。

 彼は子供の方に目をやり、その手に握ったものを見つけた。

「なんだ、それ」

 子供は手に握ったブロック大のものを見せた。

「お父さんにもらったやつ。犬」

 木彫りでできた小さなそれは、一見犬には見えなかった。形は確かに犬なのだが、様々な色で迷彩に塗られている。何かがぱっと繋がった気がした。

 彼は、八代も、驚いていた。じっと顔を見れば、確かに面影を見出せる気がする。

「お前、笑え」

 彼が言うと、子供は顔を上げた。

「なんで?」

「いいから」

 子供は急な言いつけを口の中で転がし、訝しんだ。それからほんの少し口元に苦笑を滲ませた。

「なんで? やだよ」

 困った時の顔が、桜井に似ていた。


最近いろんな飲み物あっためるのにはまってます。

オレンジジュースとか豆乳はおいしかった。

たぶんスパイスとかはちみつとか入れたらおいしいんだろうなあ。

ホットカクテルなんかも試してみたいですね。

現状はあったかい素材の味です。

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