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白の綾  作者: ぺの
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煙草

 ついていきながら自分の感覚について考え込んでいると、子供が塀の中に入っていくのが見えた。小さいが洒落た一軒家で、金持ちそうな家だと八代は思う。子供を追って塀の中を覗くと、玄関の前で子どもが立ち尽くしていた。

「どうした。ここが家なんだろ」

 門を入りながら八代が聞くと、子供がちょっと肩をすくめる。その仕草に桜井と似たものを感じて、かすかな動揺が八代の胸を突いた。

「まだ鍵かかってる。昨日から外に出てないんだよ。たぶん」

 八代は記憶にある高木を思い出してため息をついた。この子供も慣れているふうなのがあわれだ。高木は学生時代から、制作に熱が入ると外出を嫌うタイプだった。

「インターホン押せば」

「届かない」

 八代は玄関横に目をやる。八代の家のものよりずいぶん高い位置にある。確かに子供の背では届きそうにはなかった。子供がじっと八代を見る。八代は目を向けられる寸前に顔を背けていた。子供を無事送り届けたら高木には会わずに帰るつもりだった。どんな顔をして会えばいいのか分からない。高木と桜井が喧嘩をしている間にデートと言われて断らず、桜井の最期を一人で見届けておいて、それをなぜか忘れていた年月がある。しかも、桜井と最後に出かけたのは春休みで、卒業式に高木は来なかった。個展があって忙しいということは聞いていたが、八代はとうとうその個展にも足を運んでいない。今思えば、卒業後に連絡が来るわけがない。高木とはそれきりだった。今更顔を合わせたところで、何を話すべきか分からない。そういう八代を、子供がじっと見つめている。インターホンを押すだけのことを頼みたくて、じっと立っている。その刺さるような視線に勝てる気がしなかった。

 八代は首筋を掻いて玄関の前に立った。平静を装い、インターホンを押す。十秒を数えたが、中からものが動く気配はなかった。もう一度押し、十秒数え、再度押す。居留守かもしれないと思う。八代は自分の喉仏が上下するのを感じる。さらに押そうとしたとき、かすかな足音とともにドアが素早く開いた。内心ぎくりとし、思わず一歩下がる。

 出てきた高木はチェーンの奥から八代を認め、わずかに目を見開いた。

「久しぶり。入りたいってよ」

 引っかかったような声で子供の肩に手を置く。前に押し出すと、初めてその存在に気づいたようにわずかに瞠ったままの高木の目が下に落ちる。

「お前、どこ行ってた」

「この人のうち。公園から尾けて入れてもらった」

 そう、と落とされた声は半ば呆然としている。一度視線を上げ、もう一度子供に目を落とす。

「入ってろ。オレは出かける」

 と、子供を家に押し込み、玄関脇の物入れからカギと小銭入れをジーンズの尻ポケットに突っ込んだ。滑り出るようにしてドアの隙間を抜ける仕草に懐かしいものを感じた。閉まったドアの向こうで、遠慮がちに鍵が閉まる音が聞こえる。それを確認すると、高木は目線で促す。ついてこい、の仕草だ。歩き出した高木の後ろに黙ってついていった。さっき通った道を抜け、公園まで戻る。昼下がりの公園には誰も先客がいなかった。高木はさっさと柵をまたいで隅のベンチに腰を下ろす。八代はその横にある自動販売機で缶コーヒーを二本買った。片方を高木に渡すと、高木は煙草に火を付けながら目線だけを八代に投げ、煙を吐きながら受け取る。

「煙草、やめたんじゃなかったのか」

「あ?」

 高木は煙草をくわえたまま八代を見上げ、

「ああ、そういやそういう時期もあったな」

 やっとそこに思い至ったように煙草をつまんで吸い口を眺める。高木にとって、桜井のために煙草をやめたのは「そういえば」程度で済む話だったのだろうか。


ラーメン食べたいなあがっつりしたやつ。

シンプルなのも好きだけど今の気分はにんにくと背脂。

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