第32部
緑は右手で左手のリストバンドに触れて、アーマノイドスーツを装着した。
少女を左手に抱えて右手で力を込めて地面を殴ると、5台のジープがぶっ壊れ、乗っていた15人ほどの兵士は吹き飛んだ。
少女をお姫様だっこして、そのまま、ラ・トカ遺跡の近くまで走ってから、アーマノイドスーツを解除すると、
少女に聞いた。
「家はどこ?」
「すぐそこだよ。とおちゃんの名前はハトで村長だよ。かあちゃんはマアていう。あたいはアマナ」
少女の指さす岩山の向こうに、小さな泉と少しの畑があり、少女の住むラ・トカ村があった。
しかしラ・トカ村の方角から黒煙が上がっていた。
緑は、またアーマノイドスーツを着ると、少女を抱っこして、村へ瞬時で着いた。
そこには軍の戦車が3台いて、村に向かって火炎放射を行い、村の家々を焼き払っていた。
「かあちゃん! とうちゃん!」少女が悲鳴を上げた。
緑は少女を泉のほとりにそっと置くと、戦車を3台、上の昇降口を引きちぎり、中にいる兵士を全部襟首捕まえて外に放り出すと、戦車をボコボコにしてしまった。
40人ほどの兵士たちは、アーマノイドスーツの姿の緑を見かけると、6台のジープに山盛りになって逃げ去ってしまった。
軍隊はさっき来たばかりだった。村には軽いけが人しかいなかった。
しかし戦車の火炎放射で、乾いた葦でできた村の家々はそのささやかな財産ともどもすべてが焼き尽くされていた。
少女が「とうちゃん、かあちゃん」と若い男女に走り寄った。
少女がとうちゃんと呼んだ男が「ありがとうございます。外国人の方ですか? 今はもうラ・トカ遺跡には入れませんよ」と言った。
「なぜ、軍はこの村をいきなり焼き払おうとしたんですか?」と緑は聞いた
そうする間に、さっきのゾンビからのひっかき傷がひどく痛み出し、激痛となり、傷口がただれ始めた。
「ああ、その状態はいけませんね」少女の父親ハトがツボの中から薬草を取り出し、それをすぐにすり鉢ですって緑の傷口に塗ってくれた。
傷の痛みは引き、爛れも収まったが、身体に広がる黒ずみは収まらなかった。
「この村も、きのう、マルムに襲われて、村人はみんな、なんらかの小さな傷を負って、マルム化してしまったのです」
「マルム化すると、どうなるんですか?」
「知性も何もない化け物で呪術者の意思にしたがい砂の中を自由に移動し人を襲う幽霊のような屍のような存在になりますね。でもいまの薬草でそれは防ぐことができます。ただし、ほかの人間に触れると、傷口があれば、その人はそこからマルム化しますね」
とハトが言う
少女の傷に薬草を塗りながら、母親のマアが言った
「この地方に古くからある病で、なんでも空から星に乗ってやって来た悪魔の仕業と言われています」
「その呪術者とはだれ?」
「ラ・トカ遺跡の中にいるド・テナ教の信者ですね」
父親のハトが少女を抱っこしながら言う
「これでもう、ここに住むことはできなくなりました。これから地下のマルム者の部落へ行きます。
さもないと、また軍がやってきてわれわれを殺そうとしますから」
マアが「あなたも一緒に来られればよろしいでしょう」
村人たちは揃ったようだ。
ハトが泉の横の石を動かすと泉の水が無くなった。泉の底に大岩があった。その底の大石を数人がかりで動かすと、穴があいた。そこには下へ降りる階段があった。
村のすべての者と緑がその階段の中へ入ると、ハトは壁の石を動かした。
ゴゴゴゴゴ!!と腹に響く音と共に、階段の入り口の大岩が閉じた。
下へ続く階段を暫く降りると、自然の洞窟になった。
荒野はとても暑かったが、洞窟の中はヒンヤリしていた。
そこで、一人の老人が待っていた。
「あんたらもとうとうマルムにやられなすったのか」
「はい、マルムの部落の長老さま」
「仕方ない。この土地に済む業のようなもんかのう。これでだれも地上の町と連絡取れる者がいなくなってしまったな」
緑が長老に聞いた。「あの、携帯電話とか、ここにはないんですか?」
「それはなんじゃ? われわれはここに60年前から住んで居る。ここは古代の猿人類とかの原始人が住んでおった自然の洞窟なんじゃ」
ハトが言う「ここ四十年ほどの間に開発された文明の利器ですよ」
「ははは。そんなもん、あるわけなかろう」と長老
抱っこした眠そうな娘をあやしながら、ハトが緑に
「われわれの村は食べるのにやっとで、そんなぜいたく品はもってないんですよ」と笑顔で言う
少し行ったところに、大きな自然の空洞があり、どこからか自然の風が入ってくる。
真ん中に火が焚ける場所があった。ここがマルム者の部落のようだ。何十人かの人がいた。壁に何十個の横穴が開いている。
長老はそれぞれの家族にひとつひとつの穴をあてがった。
村から避難してきた家族たちはささやかな持ち物を新しい家となる、家族が寝るだけのスペースはある横穴に置いて横穴の入り口に中が見えない様に布でカーテンを吊るし始めた。
ここに永住する気のようだ。
途中をごうごうと地下水脈が流れて、そこにはたくさんの魚が泳いでいた。
その奥には地底湖があった。
どこからかおぼろげな光があり、完全な闇ではない。ヒカリゴケの光か。
「けっこう暮らせそうですね」と母親のマアが笑顔で言った。
緑は、ーー「とんでもない」ーーと腹中思ったが、口には出さないーー
そして、なんと、マルム者の部落の中心の焚き火の焚かれている場所に
…………
「はーい、兄貴、兄貴もここへ来たのね」と声をかけてきたのは、一ノ瀬渚だった。
「なにやってんだ、お前」
「携帯電話もってねえか?」と緑が聞いた
「あれ、兄貴も? じつはあたしもここへ来ることになったゾンビとの戦闘で携帯電話入れた荷物を無くしてしまったのよ」
「おまえもか。俺も、さっき軍と戦ったときに、火炎放射器で、携帯電話いれた荷物を焼かれちまったんだ」
「あれ、じゃあ、エレ姉に連絡取れないね」
「……そうなんだよ……」




