第30部
天才バイオストの少年北条仄は、女帝虹の宮飛鳥さまに近づくと、切ない目をして、こう言った。
「飛鳥、人払いしてくれないか」なんとため口である。
横についていた。野茂村治五郎が、「なんだ、おまえ、陛下に対して」と飛鳥さまの前を遮ると、北条仄の胸倉捕まえて、横に控えていた警備の一ノ瀬渚に「陛下への暗殺予告があったんだろう? さっさとこういう不審なゴミをつまみだせ!」と高圧的に言って、北条仄の身体を、劇場の床にたたきつけた。
北条仄は、床に這いつくばったまま、切なげに、飛鳥さまの方を向いていたが、なぜか飛鳥さまは振り向きもしなかった。
野茂村治五郎は、北条仄の顔につばを吐きかけた。
「さっさと、このガキを排除しろ」と渚に向かって言った。
一ノ瀬渚は「いきましょう、陛下はお疲れのようですので」と北条仄をそっと立ち上がらせると、
北条仄に手を添えて、その場所から連れ出した。
「すいませんでした」
立ち上がりざま、少年はふらついて、倒れた拍子に頭を横の柱で打った。
その拍子に、なんと少年の頭の一部が欠けた、最初、カツラが飛んだのかと思ったが、そうではなかった。
それは頭の一部であった。一ノ瀬渚は腰を抜かさんばかりに驚いたが、声を出さずに、少年の頭の外れた部分を拾った。なんとその拍子に少年の頭の中身が見えた。それは脳ではなく、電子頭脳だった。驚いて、固まっている渚をよそに、少年は立ち上がると、渚が手に持っていた自分の頭の一部を手から取り上げると、自分の頭に戻した。少年の頭は元の見かけに戻った。
少年は、渚にむかって、切なげに言った。
「飛鳥は変わってしまった。僕はもう長く生きられない」それだけ言うと迎えに来た、眼付きの鋭い人相の悪いマネージャーと会話した。
「どうかしましたか?」「なんでもありません」というとマネージャーと共に、楽屋に帰っていった。
それから数時間後、すでに一ノ瀬渚は自分の警護時間が終わり女帝陛下の警護を他の警察官と交代し、現場の警備総責任者に報告し、仕事の責任を解放されて夕食を取りに行っていた。
カモネギホールの周囲の繁華街を「さて、どこで夕食を取ろうか」と歩いていると、雑踏の中で誰かが小声で渚を呼ぶ声がする。振り返ると、大勢の人込みにまぎれながら、あの天才バイオリニスト少年、北条仄が、フード付きジャンパーを着て、渚の前に立っていた。
「ようやく、逃げ出したんだ。僕を守ってよ」
「逃げ出したですって?!」
「僕は、あの教団の広告塔にされていたんだよ。おそろしいカルト教団さ。ド・テナ教て言うんだ」
「そういえば、きみの講演を主催しているのはなんちゃら言う宗教団体なんだね」
「おそろしいカルト教団だよ。麻薬や臓器売買やバイオテロ用の細菌を売ってお金稼いでるのさ」
「きみはロボットなの? さっき電子頭脳の様な物が見えたけど」
「事情があるのさ……お母さんとドクターにこんな体にされたんだよ」
「お母さんてだれ?」
「武烈宮霞子さ」
「え?! じゃあエレオノーラの弟さん?」
「エレオノーラ? それ誰?」
渚はすぐにエレオノーラに電話を入れた。
「なに? いま重要な手術中だけど、よほど大事な要件?」
「あなたの弟さんがここにいるのよ」
「リュシスなら、あなたの妹の泉ちゃんと私の家でいちゃついてるはずよ」
「武烈宮霞子の息子がここにいるのよ」
「ええ?!」
「わかったわ。この手術は、ほかのドクターに代わってもらう。話を詳しく聞かせて」
「……人命にかかわる状況なら、あとでいいよ……」
「はい、代わったよ。話していいよ」
「エレ姉って真面目に医者やってるの?」
「やってるわよ、それより早く話して!」
ーーまじめにエレオノーラが医者をやってると信じるしかない渚であるーー
渚はこれまでのいきさつをすべてエレオノーラに話して聞かせた。
「それは、すごい話だわ。わかった、セントバーナド警備保障のトップエージェントを差し向けるわ」
そのとき、雑踏の中に停車していた自動車が、いきなり大爆発を起こした。
周りにいた数十人の人間が犠牲になり、数百人が吹き飛ばされた。
あたりは大混乱になり、とみるまに、渚と北条仄の周りに、いきなり、
「すべては教祖プテオ・インビテアのために」と叫ぶ人々が、二人の周りを取り巻いた。
4,50人いそうだ。
そのとき、渚の携帯電話が鳴った。すべてのカモネギホールの警備担当者に今の爆発で緊急招集がかかったようだ。しかし渚はそれどころではない。電話に出ることはできない。
4,5人がいきなり渚に飛びかかってきた。
渚は、軽く身を交すと、北条仄を守りながら、3人を蹴り倒して、二人を投げ飛ばした。
しかし、北条仄を守り切れない。さらに10人が渚を組み伏せようと飛びかかってきた。二人の男が北条仄に拘束具をつけてつれて行こうとしている。
そこへ、「エレオノーラさんからご命令を受けて参上しました」と叫び、パワードスーツを着た、派手な格好の男女10人が渚の周りを囲んだ。
「北条仄さんは、お引き受けします」
北条仄に拘束具を付けていた二人は既に伸びていた。
「エレオノーラさんのご命令で、北条仄さんをお預かりします」と言うと、そのまま走ってきた車になんと10人が飛び乗り、車はそのまま、道路を走っていたかとおもうと、空へ飛び立って、姿を消してしまった。
北条仄はあの10人に連れ去られた
すでに現れたド・テナ教の信者は、全員、地面に伸びていた
渚は、携帯に出た。
「なにをやっとるか! さっさとつぎの指示を受けに来い!」
上司の怒鳴り声が渚の鼓膜に突き刺さった。
足元に伸びているドテナ教の信者たち
あとは警察による逮捕を待つばかりだが、駆け付けた警察は、爆破事件の処理と多忙である。
渚は事情を現地の本部長に手短に説明すると
こんどは、招集をかけた上司の元に向かった。




