第21部受難 殺人サイボーグ
一ノ瀬緑が失踪した。
直前、彼の安アパートの部屋に12歳くらいの女の子がやってきた
「あのね、お兄ちゃん、おまわりさんでしょ?ちょつと助けてほしいことがあるの。いい?」
だれにでも分け隔てなく優しく真面目なお人よしの緑君は、勤務明けで、へとへとだった。
けれで、愛想よく「ああ、いいよ」と二つ返事で、少女のあとについていった。
そこは街から離れた、街の広大なゴミ捨て場だった。
緑「こんなとこで、何があるの?」
女の子「ある、じゃなくいまから、起きるんだよ」
なんと、女の子は化粧で化けた28歳の大人の小人の男だった。
男の合図で、なんと目の前に恐ろしいロボットアーマで武装した男が2人現れた。
とても、生身の人間が相手できる手合いではなかったが、緑は1体をボコボコにして、もう1体を損傷させた。
(一ノ瀬緑は、東帝都の警察官になったとき、1年間、東帝都内のあらゆる格闘技の道場をまわり、すべての格闘技をマスターしていた。彼は技を1回かけられるか見せられると、見切って体がその技を覚えてしまうのだ)
しかし、ロボットアーマの男がさらに4人現れた。後ろから、激しい一撃を食らわされた緑は、力尽きて倒れてしまった。気を失った。
フェトム総統は、世界中から優れた格闘家を誘拐し、ロボトミーの手術を脳にほどこして、自分の意思を持たない他人に従うのみの奴隷の廃人にして、殺人用のサイボーグ兵士に改造していた。
*
ポエナ共和国はオルドムズの隣国に位置する。
軍事クーデターがある42年前までは、オルドムズとポエナは非常に親密な国だったが、いまは、ポエナ共和国は常にオルドムズの脅威にさらされている。
ポエナ共和国の国境沿いの町や村々はすでに焦土となっていた。おおぜいの人々が、恐怖を感じ、首都へと逃げてきた。
リリオル町はまだ、焦土にはなっていなかったが、焦土の端っこに接し、いまは一番オルドムズの脅威がいつ来るか、知れない町であった。そして今日、それが現実になった。
焦土となったポエナ共和国の領域にはポエナ国軍が配備されていた。
旧式のメリ型機甲戦車が数百台しかないが、搭乗している兵士たちは決死隊の覚悟と勇気を持ち対峙していた。
オルドムズの方から、一体の2メートルほどある漆黒のアーマノイドが現れた。見たこともない新型だった。
そのアーマノイドは、メリ型機甲戦車隊に襲い掛かると、100秒で200台の戦車をその鉄の腕で0.5秒で1台づつ叩き潰し玉砕させた。1発の弾丸も戦車隊に撃たせることなく、200台のメリ型機甲戦車隊を壊滅させ、搭乗していた200人の兵士たちは声を上げることもなく圧死した。
そのまま、リリオル町に入ると、市民に向かって、重機関銃を無差別に発砲し始めた。
街の中は悲痛な叫び声と血しぶきの飛び散る血の海の地獄絵図となった。
エレオノーラは一ノ瀬緑が行方不明になってから、セントバーナド社のすべての営業を停止させ、一ノ瀬緑の捜索に、自社の全エージェント10万人を掛かりきりにさせていた。
ただ、彼女の勝負勘が、ポエナ共和国のオルドムズとの境界に2千人の傭兵部隊を配置させた。
彼女自身も、傭兵部隊の野戦服を着てそこにいた。
(側近にとっては目の毒なくらい彼女はエロカッコ良かったが今はそれどころではない)
彼女は、自分の本能の勝負勘に従い、ただ、待っていた。
緑の意識を探し、彼女は町はずれの墓場に立ち、特殊能力の意識を集中していた。
漆黒のアーマノイドが現れた時、愛しい男の気配を感じた。「いた!」と彼女は小さく叫んだ。
ヘリに乗って、現場へ急ぐ。
2千の傭兵隊も彼女と共に移動した。
市内で、人々に重機関銃を撃ちまくる2メートルの漆黒のアーマノイド。
それに向かって、いきなり、傭兵隊の前列は、小さなカプセルを撃った。
たちまちあたりは絶対0度になり、カプセルの着弾したところは、木も人も凍り付いた。
漆黒のアーマノイドも凍り付き動きを止めたが
完全に凍らせるため、あとからも何十発もの絶対0度カプセルは発射された。
漆黒のアーマノイドは大型のロボットクレーンで駆け付けた大型輸送用超音速垂直離着陸ジェット機に注意深く積み込まれた。
エレオノーラは、戦車隊の搭乗員すべての遺体200体と街の犠牲者のすべての遺体160体を輸送機内に集めると、絶対零度カプセルで凍らせた。
そのまま2000人の傭兵部隊はリリオル町の守備のために現地に残るように指示し、エレオノーラは輸送機にのり、リケトニア公国の財団のメディカルセンターに向かった。
メディカルセンターにおいて、戦車隊の搭乗員200人と街の犠牲者160人を蘇生させるために、PS水溶液の高度な技術を持つ医師たちが、すみやかに蘇生治療を開始した。エレオノーラの指示により
5体のNPCエレオノーラと200人の優秀な医師団はその人々の蘇生を最優先で開始した。
注意深く、自爆装置が外され、コンピュータ・メグが操縦する何十本ものロボットアームの操作ににより、漆黒のアーマノイドは解体された。
アーマノイドの中には、いくつもの機械を取り付けられた、まだわずかに人間の形をしたものが入っていた。
それを見たエレオノーラの目から涙がこぼれ落ちた。
が、彼女はすぐにクールな無表情の医師の顔にもどった。
組織保存液ノーランデユバリ氏液、組織培養液ダムディ液を使い、緑の肉体の回復に着手した。
最優先はロボトミーを受けた緑の脳の回復復元だった。
幹細胞を誘導して神経細胞にし、その神経細胞の培養はスムーズにいくが、それを移植するのは困難だった。生着しないのだ。
でも有効な方法をまるであたかもあらかじめわかるように、エレオノーラは新技術を作り出し、やがて、緑は脳に受けたすべてのダメージが癒えた。
彼は、殺風景な巨大なビーカの中で意識をとりもどした。
まだ、目は見えなかったが、母の胎内にいるように温かかった。
彼の脳に、人工義眼が接続された。
緑はうっすら目を開けた・・・感じだった。
動き回る医師たちのなかに、エレオノーラの姿が見えた。
エレオノーラは緑に微笑むと、カードに字を書いた。
「愛してるよ、心配しないでいいよ」
緑「なんだよ? へんなやつだなあ?・・・でもいま自分に何がおきてるんだろう?」
緑は、なんだか疲れていたのであまり深く考えるのはやめた。
彼は、そのままふたたび、眠りに落ちた。
緑が殺人アーマノイドにされていたとき、殺してしまった人々、
戦車兵200人一般市民160人合計360人は全員、
医師でもあるエレオノーラの指揮のもと、
優秀な医師たち200人とコンピュータ・メグが操作するエレオノーラNPC5人との
医療作業と技術により、PS水溶液の奇跡によって、
蘇生され生き返り、ポエナ共和国の首都で元の生活に帰っていった。
*
意識が戻ったとき、そこはメディカルセンターのベッドの上だった。
エレオノーラNPCが言った。
NPC「ご気分はいかがですか?」
緑「エレオノーラは?」
NPC「ここ当分おいそがしいので、お会いになれませんが、緑さんのことは、お気にかけてらっしゃいます」
緑は少し変だと思ったがそれ以上聞かなかった。
緑の身体は回復した。
妹の渚が、順平と共に見舞いに来た。
順平「よお、死にぞこない」
渚「兄さん、調子はどう? なんかひどいケガだったそうだけど・・・」
緑「エレオノーラには会ったか?」
渚「いいえ、忙しいみたいね。ここにはいないみたいね。兄さんの様子は見に来てるんでしょう?」
緑「・・・・・・」
ーエレが一度も会いに来ていないーと言ったら、緑は、渚がかなりきつい言い方をする可能性があるので、黙っていた。
ーーーーなぜそんなにいそがしいんだろ?俺に逢いに来ないなんて?ありえないよな?
エレのやつ、どうしてるんだろう?------




