予選開催!
幸いにも、アクシデントはなにも起こらないまま大会当日を迎えた。
この日は予選リーグだけの開催となった為、彼が担当するエリアルの出番はない。
だが、その一方で彼がもっとも懸念する人物がエントリーしていた。
『で、誰が仮面狼なんだ?』
今から開始される予選リーグ。
その運営チームの中で、ライブラリアンは企画した友人に問う。
「おいおい。そんなこと、今はどうでもいいだろ?」
『どうでもよくはないよ。彼女が一番やりたがっているのが誰か、知っているだろう』
「まあな」
反社会勢力に所属してしまった友人への複雑な心境もあるのだが、そこは口にはしない。
親友である赤猿も心境を知ってか知らずか、あくまで場を盛り上げる為に答えた。
「でもよ。ゲームを楽しむって点だけにおいては信用できる人間だ。お前も知ってるだろ?」
『それを言われると弱いな』
「だろ? 兎に角、今は試合を楽しめ。なんか言われたら、その時に言い訳を考えればいいんだよ」
『事前に事情を知っていればもみ消す方法も考えられるんだけどね』
「こええな企業人!」
そんなやり取りをしつつも、予選リーグに挑戦するプレイヤーのリストが画面にアップされていく。
知っている人間がいれば、知らない人間も多い。
『これ、エントリールールはフリーだって聞いてたけど、人選はどうしたんだ?』
「ある程度実力ある奴は俺が呼んだ。それ以外は完全に外部参加者だな。でもまあ、実力ある奴の選定をするのが予選だからな」
勿論、実力だけで勝てる世界ではない。
時の運だって絡んでくる。
それらをすべて自分の味方につけた奴が勝つのだ。
「そんじゃあ、そろそろ俺は実況に専念させてもらうぜ」
『お前は出ないのか?』
「できればお祭りは最前線で観戦したいんでな。今回は出ないよ」
ただ、その分楽しませてもらう。
笑いながらその意図を伝えると、赤猿は通話を切る。
自前で用意した大型パソコンに表示されているモニターから、バトルロイヤルの状況を確認。
参加者は全員、スタインバイ済み。
後は実況者兼審判の自分が試合開始を宣言するだけだ。
自身の頬を叩き、気合注入。
マイクをオンにすると、実況の音声を入れた。
「いよーう、お前ら! 待たせたなぁ!」
陽気な声が響き渡る。
誰もいない自室で語りかけた声に、ネット上から次々と声が返ってくる。
『待ってた!』
『赤猿きた!』
『おせーよ』
大多数を占めるこれらのコメントを見て、赤猿は満足げに頷く。
「よし。まずは挨拶だな。今回、ブレイカーズ・オンライン最大級バトルロイヤルを実況・解説する赤猿だ。ルールは概要欄に書いてるから省くぜ。俺もさっさとブレイカー共が殴りあう姿が見たい! お前らだってそうだろう!?」
『見たい!』
『見せろ!』
『見るっきゃねぇ!』
「俺もだ! 俺もだよ……みんな!」
大袈裟に訴えてから赤猿は宣言。
「では、これより予選バトルロイヤルを開始するぜ! 勝っても負けても恨みっこなしの真剣勝負! レディー……!」
一旦貯める。
ややあった後、大声で叫んだ。
「ンゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
気合が入ったGOの掛け声を聞き、予選参加者が一斉に戦場に参戦した。
その参加人数、100人。
この中からプリンセスが待つ決勝リーグに参加できる人数は、僅か10人。
『さあ、戦場としてセレクトされているのはランダムステージ! 一定時間で次々とステージは切り替わる! 最初のステージは――――!』
赤猿が画面を見て、大きく目を見開く。
一面すべてを青で覆い尽くすその光景は、ブレイカーたちにとって地獄でしかないからだ。
『海だ!』
参戦した機体の殆どが動きを制限される魔のステージ。
それが海底だ。
基本的にブレイカーは地上、あるいは空での戦いが想定されている。
海での戦いは、想定されていない。
想定されているのは、とびきり奇天烈な機体だけだ。
ブレイカーズ・オンラインにおいて、トリッキーな機体は限られている。
『海での戦いに全てを賭けた機体は、このチャンスを物にしたい! だが、そんな酔狂な奴はいるのかー!?』
赤猿が問いかける。
彼の言葉に応えるようにして、あるプレイヤーが飛びだした。
「来た!」
明らかに素早く動き回る機影を確認し、スバルは詳細を確認する。
魚を印象させるシルエットだが、先端には敵を貫く槍。
海の中では迷彩の役割を果たす青の装甲に包まれたソイツの名を、スバルは叫ぶ。
「カジキ・ポセイドン!」
「なにそれ」
ちょっと間抜けに聞こえるネーミングを聞き、画面を見守っていたシデンが眉をしかめた。
だが、このカジキ・ポセイドンは馬鹿に出来ない。
「水中戦闘において最強クラスのブレイカーだよ。他にも何体かいるけど、水中の速度では絶対に追いつけない!」
「おい待て! これ、ランダムステージだろ!?」
「そうだよ! だからコイツの猛攻を1分くらいは避けないといけない!」
スバルの機体はカジキ・ポセイドンの近くに配置されている。
これから受けるであろう猛攻を全力で回避しなければ勝機はない。
「どう来る!?」
アニマルタイプのブレイカーは他と比べて武装のカスタマイズ性が制限される。
だから、そこまで奇想天外な攻撃は飛んでこないとスバルは予想した。
しかも試合は始まって時間が経っていない。
「来るとしたらミサイルで周囲にダメージを与えて、ステージが切り替わった瞬間に体力アドバンテージを取ることだと思う」
「即座に逃げれないのか?」
「回避は難しいね。障害物も制限されているから」
ゆえに、
「迎撃する!」
スバルの機体が刀を抜いた。
彼の機体は刀を腰に携えた、獄翼とよく似たシルエットの機体である。
獄翼と大きく異なる点は、カラーリングが3色に別れているところだ。
『さあ、早くも信号カラーの機体が刀を抜いた! カジキ・ポセイドンを正面から受け止めるつもりなのか!?』
「バカ言うな!」
頭部に取り付けられた槍とまともに戦ったら確実に負ける。
こちらはそれが来ないと踏んだうえで戦うのだ。
一方、カジキ・ポセイドンは尾を大きく振るい、装填されたミサイルを四方八方へとふりまき始めた。
『カジキ・ポセイドン! 遠距離からの攻撃!』
「よし来た!」
飛来する海中ミサイルの軌跡を読み取り、スバルはレバーを操作。
刀が振るわれ、接近してくるミサイルを両断する。
『どわあああああああああああああああああああああ! 近くで攻撃モーションを見ていたとはいえ、ミサイルを刀で一刀両断する奴がいる! なんだあの侍ブレイカーは!』
「止めろ馬鹿! 注目を集めさせるんじゃねぇ!」
「どう見てもお前の行動が注目を集めさせてると思うんだけど」
「でも、刀でミサイルを捌くとか普通でしょ!?」
「そ、そうなんですか!?」
これまでの戦いを思い返す。
確かにスバルは殆どの攻撃を刀でいなしてきた。
いなしてきたのだがしかし。
今考えると、割と狂っている行動かも知れない。
「……ごめん。多分、俺が狂ってる」
「大丈夫だよスバル君。ステージが切り替わったら目立たたないように立ち回ろう」
「偶然の産物として片づけられるのが一番無難だな」
しかし、彼らが願っても対戦相手には届かないものだ。
特に間近で攻撃を捌かれたカジキ・ポセイドン側は面白くない。
ミサイルを回避したブレイカーは多い。
だが、刀で両断されるとなると今後の戦績に響く。
故に、カジキ・ポセイドンは予定を変更。
賭けにはなるが、この侍ブレイカーを野放しにはできない。
幸いにも、海底はこちらに分がある。
有利なステージである間に、確実に仕留めた方がいい。
カジキ・ポセイドンは身を翻すと、頭部の先端を侍ブレイカーに向けた。




