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エクシィズ外伝  作者: シエン@ひげ
プリンセスにおしつぶされて
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狼は仮面をかぶる

「今、連絡が来た。大会自体は承知したらしいが、一応探るだけ探るんだそうだ」

「まあ、あの人はそう言うだろうね」

「後、飛行機は金属探知機で引っかかったから走って海を渡るらしい」

「何してんのあの人」


 心の底から吐き出された言葉だった。

 前者はなんとなく予想がついていたので驚きはしなかったが、後者はどういうことだ。

 海は走って移動するものではなかった筈なのだが。


「アイツ、ガキの頃に泳げないのをよくからかわれてたんだけどよ」

「そういえば、泳げないって言ってたような」

「え!? カイトさん、泳げないんですか!?」


 マリリスが驚愕の眼差しで訴える。

 無理もない。

 スバルとて始めて聞いた時はとても信じられなかった。


 しかし神鷹カイトは何時までも己の弱点を放置する超人ではない。

 彼なりに自問自答し、泳げないことへの解決策を編み出したのだ。


「ああ。だからアイツは海の上を走れるよう、ひたすら訓練したんだ」

「それおかしくない?」


 真顔で説明したエイジにつっこむも、本人はスルー。

 当時を知るであろうシデンも真顔になったままなので、昔なじみでもあまり納得できない技なのだろう。


「ともかく、今回はアイツ抜きだ。だからポッポマスターが出ることはない」

「望むところさ」


 スバルが握り拳を作る。

 この戦いはズバル自身が望んだことだ。

 誰かの助けが来るとは、微塵も期待していない。


「俺の我儘だからね。ゲームの内容まで手助けしてほしいとは思ってないさ」

「だが、他のプレイヤーはそうも考えてないかもしれない」


 ルールはあくまでバトルロイヤル。

 スバルやプリンセスが得意とする1対1ではなく、乱戦だ。


「漁夫の利を得ようとする連中なんか昔から沢山いる。お前、自分の戦闘スタイル忘れたのか?」

「勿論、承知しているよ」


 蛍石スバルはこれまで接近戦を主体にして生き残ってきた。

 機動力や射撃も勿論だが、狙いをつけた接近戦は乱戦の中だと非常に危険である。

 接近する間に、狙撃される恐れがあるからだ。


「大丈夫だよ。別に狙撃されてもそこまで怒らないから」

「本当かぁ?」

「なんか不安」

「本当だって! 俺がそんなゲームで負けて落ち込むような奴に見える?」


 見えるから困っているのだ。

 少し前、この島に流れ着いた直後に起きたトラブルは記憶に新しい。


「赤猿。ルールの詳細はどうするつもりなんだ?」

「おっと。運営する会社よりもフライングして情報収集か?」

「頼むよ。俺には時間があるから、そこを少しでも有利に動かしたいんだ」

「素直すぎるのも考えようだが、お前のそういう所は嫌いじゃないぜ」


 ゆえに、赤猿は今考えている詳細を簡潔にまとめた。


「バトルロイヤルとはいうが、MAPは常に切り替わるランダム仕様。だから特定のどこかに隠れていても、時間が経てば目立つ場所に切り替わる可能性が高い。制限時間は無制限。誰かが生き残るまで戦うのがルールだ」

「予選やシードはどうする?」

「参加希望の人間がどの程度来るかにもよるが、今声かけている連中が全員参加表明を出してくれたら、第一予選は簡単にできるな。シードには勿論お姫様を据えるつもりだ」


 次に、制限事項を。


「基本的にパーツは自由だ。どんなブレイカーでも使用できるし、武器も自由にカスタマイズしてくれていい」


 この辺は重要だが、特に大した制限を設けるつもりはない。

 お祭りに制限を設けるのはあまりしたくない、というの赤猿の信条だった。


「勿論、この前ポッポマスターと戦った機体を使ってくれても構わないけど?」

「いや、アレは使わない」

「へぇ」


 神鷹カイトを追い詰め、ギリギリで勝利を掴んだ機体を組んだことはある。

 だが、それもあくまで1対1だからこそできたのだ。

 多人数戦での勝負では、うまく機能しないとスバルは考える。


「それに、名前もだ。少し仮面狼に拘りすぎてたみたいだし、ここは新しいエントリーカードを用意するよ」

「そうしてくれ。でないとカイトの野郎が海を走ってお前のカードを破壊しに来る」


 本当に来そうだから笑えなかった。


「じゃあ、本当に乱戦でやる以外のルールは設けるつもりはないってことでいいかな」

「当然。なんでもありだけど、それだけやりたいことができるとは限らない。それが乱戦の奥深いところだ」


 赤猿はとても誇らしげに語っていた。

 乱戦のなにを理解しているのかは知らないが、今だけはやけに大物に見える。


「よくロボットアニメなんかだと、1体のスーパーロボットが敵の軍勢を圧倒的なパワーで焼き尽くす光景がある。俺はアレも大好きだ。だけどな。大勢の連中が昔の青春不良漫画みたいに殴りあって、倒れていく姿はもっと大好きだ!」

「スバル君、彼って頭ヤバいんじゃない?」

「知ってるから大丈夫だよ」


 とても酷いことを言われているのだが、赤猿はスルー。


「その中には当然ドラマが生まれる。バトルロイヤルは参加している連中、全員が勝利の資格を持っているが、逆に言えばあっけなくやられるリスクもあるのさ」


 リスクを天秤にかけ、行動を常に選択される。

 1対1以上に、バトルロイヤルではそれが要求されるのだと、赤猿は考えていた。


「俺は、そのドラマが見たいっ!」


 立ち上がり、赤猿は力説。

 心なしか、彼の背景に大波が見えた――――気がした。


「じゃあ、それまでは準備期間か。お前、今回はどんな機体をこしらえるつもりなんだ?」

「できれば仮面狼の存在は臭わせたくないんだけど」


 ゆえに、接近戦は控えめ。

 機動力重視の動くもなるべく制限しての戦いがベストだ。

 ベストなのだがしかし、それでは蛍石スバルの技量をフルに活かせない。


 それに、できればプリンセスと戦ってみたい。

 勝利してみたい。


「彼女の動き方は、普通にやってたら真似できない。でも、特化した武器を使ったら、その弱点を突かれて一気に持っていかれる」

「スバル君?」


 仲間たちの言葉を無視し、スバルの集中力はすべて脳内の機体イメージへと集約されていった。

 ボディ。

 頭部。

 脚部。

 出力から武器、そのカスタマイズ性に至るすべてに意識を集中。

 椅子に座ったまま、勝てる機体を空想の中で組み上げていく。


「出力重視だけじゃダメ。マシンガンで蜂の巣にされる!」

「お、おい」


 明らかに意識が別の方面に持っていかれている。

 エイジが心配げに声をかけたが、スバルの意識にはまったく届いていない。


「装甲。これも駄目。分厚くし過ぎても、彼女の行動範囲の中なら避けるなんて容易い!」


 では特殊なアニマルタイプならどうか。

 カスタマイズ性は一気に乏しくなるが、その分性能は尖りやすい。


「だけどこれまでアニマルタイプの操縦経験なんてほとんどない!」


 強いて言えば、これまで何度か戦った事がある程度だ。

 ヘルズマンティスに念動神。

 どちらも油断ならぬ敵だが、プリンセスの前ではどうしても霞んでしまう。

 その理由が、彼女の圧倒的すぎる立ち回りだ。


「ダメだ! 結局のところ、俺が彼女の動きを上回ることができないと勝てない!」


 果たして獄翼を用意できたとして、彼女に勝てるだろうか。

 否。

 自分がやるであろう戦術はイメージできるが、それが通用している場面が悲しい程に想像できない。


「そんなことはないと思いますけど」


 そんな時。

 ふと、マリリスが呟いた。


「だって、スバルさんってこの前カイトさんと戦った時、立ち回りでは殆ど負けてたんですよね?」

「あ、まあ。あの時は上手く切り返せたからよかったっていうか」

「じゃあ、その切り返しが多く用意できたらいいのでは?」


 とても簡単に言ってのけた。

 初心者ならではの発言だ。


 なのだが、しかし。


「あ」


 切返しの多さ。

 その発言が、スバルの脳に電撃を走らせた。


「おお、来た! 来た来た! これだ! これならいけるかも!」

「どうした?」


 あまりに興奮した様子なので、仲間たちは訝しげに見やるが、スバルは気にせずに赤猿に問う。


「赤猿! 今から俺が言う機体、ブレイカーズ・オンラインの大会に出たことがあるか!?」

「あ!? 俺だって全部把握してるわけじゃねぇんだけど!?」

「でも俺よりは知ってるだろ!」


 勢いのまま、スバルは機体イメージをそのまま赤猿に伝えた。

 それを聞いた赤猿は黙り、顎に手を当てて考える。


「……見たことねぇ、と思う」

「良し! これならバトルロイヤルを上手く生き残れるかも!」

「いや、でも待て! その機体、本当に作られるのか!?」


 ブレイカーズ・オンラインのカスタマイズ性には拘りの部分がある。

 そこを突き詰めれば、スバルが目指す機体の完成は可能かもしれない。


 だが、今だ嘗て彼のイメージする機体を作り上げた者は誰もいなかった。

 あまりにロマン性が溢れ出し過ぎているがゆえに。


「やってみる。後のことは、組み立てた後に考えればいいんだよ!」


 言い残し、スバルはゲーセンに向けて走り出した。

 彼が笑顔のまま機体完成報告を告げたのは、それから僅か3時間後のことだ。

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