モンキー・パーティー
「かぁー! また面白いことになってやがるな!」
それが赤猿と呼ばれている少年の感想だった。
先の『プリンセス』が予想通りの勝利を収め、今後はどう活動するのかと注目していたらまさかの仮面狼の指名だ。
特に面白いのは、丁度自分がその仮面狼にプリンセスの動画を勧めていることである。
興味本位で動画を見たら、相手側が自分を指名してくるシチュエーションは、とても面白い。
今頃、旧人類最強のプレイヤーと呼ばれた少年は激しく狼狽えているだろう。
「とりあえず、本人インタビューしてみるか!」
この好カードを逃す手はない。
誰よりもお祭りごとが大好きな赤猿としては、是が非でも仮面狼に主役を務めていただきたいところだ。
「たのもー!」
元気よくアパートの扉をノックし、挨拶。
扉が開いたかと思うと、太い腕に掴まれてそのまま中へと連れ込まれた。
「うお!?」
「来たぞシデン! マリリス、椅子をおけぃ!」
「はい!」
赤毛の少女が機敏な動きで椅子を設置したかと思えば、有無を言う暇もなく着席させられる。
直後、赤猿の身体はメイド服を着こんだ青髪の少女(実際は22歳、男)の手によってロープできつく縛られた。
「え!? なんだこれ! そういうプレイか!?」
男と少女たちは明らかに怒りにも満ちた表情をしていた。
彼らとは面識がある。
仮面狼と共にこのアパートで暮らしている仲間たちだ。
どうして彼らがこんなに怒っているのだろう。
少なくとも、自分はまだ何もしていない筈なのだが。
「だがいいぜ! そういうプレイ、俺は嫌いじゃないからな!」
傍から見たら青髪メイドは中々好みの顔だった。
こんな少女(22歳、男)に睨まれながら縛り付けられるの悪くない。
寧ろ、いい気分だ。
清々しさすら感じる。
「ふっ、ちょっとゾクゾクするぜ」
「ああ、そう」
大男の方に蔑まれた顔で見られた。
こっちに睨まれても特に嬉しくないので、ちょっと残念な気持ちになった。
というか、やや引っ掻き傷のような痣が顔にあるのが怖い。
「あの、みんな? 赤猿も混乱してるみたいだから、ちゃんと事情を話してあげた方がいいんじゃないかな」
そんな時だ。
丁度席を外していたのか、蛍石スバルこと仮面狼がこの場にやってきた。
どうやらトイレにいたようだ。
彼は急いでいたらしく、全身がトイレットペーパーまみれだった。
「おお、仮面狼! いや、トイレットミイラ!」
「不名誉な名前を勝手につけるな!」
ミイラにされたスバルは狼狽え、巻き付いていた紙をとりながら訴える。
「それより、赤猿!」
「おう、なんだ!」
「お前、知ってたのか!?」
「なにが?」
「例のプリンセス。俺を指名してきたぞ! どういうことなんだよ!?」
「そんなに不思議なことか?」
寧ろ、自然なことかと思う。
仮面狼はブレイカーズ・オンラインでも名の知れたプレイヤーだ。
確かに特化された新人類には及ばないし、オンラインの大会でもあと一歩、という結果までしか出せていないのだが、玄人達からの評価はとても高い。
「これまでの活動経験とか、知識とか、そういうのを考えても普通に戦ってみたい候補に挙がると思うぞ。特にプリンセスは割と血気盛んな方だからな」
「だからって引退した奴の名前を出さなくてもいいだろ……!」
「そんなだけ熱心なファンだって事だ。羨ましいぞテメー」
と、ここまで話したところで赤猿は気付く。
「もしかして、俺が縛られてるのってそれが理由?」
「どうせ碌でもないことを考えて、変なお祭り騒ぎを考えてるんだろうが。島ならともかく、オンラインでそんなもんに巻き込まれたら溜まったもんじゃねぇぞ」
エイジが指をぽきぽきと鳴らした。
下手な問答をすれば首をへし折られるかもしれない。
寧ろ、エイジ自身は既に脅すつもりだったのだろう。
だが赤猿は自身の欲望に正直な男だった。
「確かにな。もしも俺に任せてもらえるなら、便乗してイベントを考えるぜ」
「やっぱり!」
「スバル君、君の友達はここでひとり消えることになるよ。とても残念だけどね」
「待って! タンマ! シデンさん、銃を降ろして!」
蟀谷に銃口を突き付けてくる青髪メイド(くどいようだが22歳、男)に興奮を覚えつつも、赤猿は高揚を隠さぬ表情のまま続けた。
「アンタ等が何を警戒してるのか知らないけどさ。なんか誤解してねーか? 向こうは企業に所属してる人間だぜ? しかも売り物的な扱いのキャラクターなんだから、一般人の俺がイベントを組めるわけがねぇだろうが」
「おお、確かに」
あっさりと納得した。
エイジは拳を解き、シデンは銃を降ろす。
赤猿は何故か残念そうな顔をしていたが、その上で自身の想いも口にする。
「まあ、それは置いておいて、だ」
「ん?」
「お前自身はどうなんだよ。プリンセスの対戦、見たんだろ?」
「ああ、まあ」
「指名されたんだろ? 周りは混乱してるみたいだけど、お前自身はどうしたんだ。結局のところ、その上で行動すべきなんじゃねーの?」
友人として、真剣にアドバイスを送ったつもりである。
なにが彼らをそこまで狂わせているのかは分かっていないが、複雑な事情があるのはなんとなく赤猿も察していた。
「そりゃあ、やってみたいよ! 俺がどこまでやれるのか、試してみたいよ」
「だったら決まりだ!」
「おい、言っておくが目立つ行動は無理だぞ」
「誰も目立てとは言ってねぇよ。確かに演出的にはやりやすいけどな」
赤猿の心の中ではあるイベントの企画が進んでいた。
プリンセスも巻き込めたら面白いと考えていた企画である。
彼らの事情を察するに、仮面狼の名前は使えず、かつ顔出しの出演も駄目。
ならば手段はひとつ。
「有象無象のモブに隠れればいいんだよ。なにもブレイカーズ・オンラインはタイマンだけのゲームじゃないんだぜ」
「え、そうなのか?」
「確かにバトルロワイヤル機能やチーム戦はあるけど、プリンセスってガチバトル専門なんじゃないのか?」
「まあ、普段はな」
だが赤猿にはこの企画を推し進めれる手段がある。
アイドル的な扱いを受けているプリンセスには、確かに一般人からの企画なぞ通らないだろう。
しかし赤猿にはそれを可能にする勝算がある。
「仮面狼の名前を出す必要はない。そんでもって、お前自身はやってみたいわけだ。だったら俺の話、乗ってみても損はないと思うぜ!」
妙に自信満々な笑顔を見て、エイジとシデンを複雑そうに顔を見合わせた。
それを眺めるだけのマリリスも口を挟めず、妙な沈黙が続く。
均衡を打ち破ったのは、スバルの一言だった。
「ごめん。我儘言うみたいだけどさ。赤猿は人を困らせてまで祭り騒ぎを楽しみたい奴じゃないと思うんだよな。プリンセスの方は知らないけど、赤猿が企画して、上手くやってくれるっていうなら、俺はやってみたいんだけど、どうかな」
どこか縋るような目で見られ、エイジが観念したように天を仰いだ。




