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エクシィズ外伝  作者: シエン@ひげ
プリンセスにおしつぶされて
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ターゲットはプリンセス

 結局のところ、ラウンド1はエリアルがゲームの流れを支配して圧勝。

 続くラウンド2、ディシジョン7は執念で勝利を掴みとるが、最後のラウンド3は全てにおいて安定した動きを見せたエリアルに軍配が上がった。

 誰の目から見ても文句のつけようのない、芸術的な動きである。

 勝利の為にディシジョン7が用意してきたカスタマイズライフルを初見で完璧に見極め、その後はひたすら対応した動きを見せた。

 圧巻である。


『いやぁ。ビックリした。ライフルをあそこまで連射力に振るかな?』


 戦いが終わり、エリアルがコメント欄の対応に戻る。

 その隙を見計らい、スバルは素早くキーボードを叩いた。


「何をする気だ」

「初見で見切れたのはなにかに気付いたからか、知りたい」


 所謂未来予知系の能力を持った新人類なのでは、というのはあくまでカイトの予想だ。

 本当にそうなのか否かは、ここからではわからない。

 だから直接本人に聞いてみる。

 勿論、大量に流れてくるコメントの中から拾い上げてくれるのなら、の話だが。


『ディシジョンさんのライフルのカスタマイズに何時気付いたって? そりゃ、撃たれた時!』


 気になったリスナーは大勢いたようだ。

 彼女は発見と対応について語りだす。


『射程は絶対向こうのが長いんだよね。でも、向こうの機体って持久戦みたいだけど、マシンガン持ってる相手にそんな悠長な手を使うかなって』


 それに、


『ライフルって、牽制には向いてるけど、致命傷を与えにくいんだよね。だから、カスタムでなにか隠すタイプだと思ったよ』


 つまり、最初から勘ぐっていたということだ。

 ライフルになにか仕込んでいるのは予想の範疇ということだ。


『で、ライフルぶっぱなしてきたから、これだって思った。半分勘だけどね』

「直感を信じたって事?」

「その線も否定はしない。実際、2ラウンド目はディシジョン7が取ってるからな」


 しかし、終始ゲームを支配していたのは間違いなくエリアル側だ。

 素人目でもハッキリ理解できる。


「それにあの動き。実際のブレイカー乗りでもあそこまでの動きができる奴は見たことがない」

「スバルもがん見してるくらいだからな。プリンセスの異名は伊達じゃないってことか」


 新人類軍と旧人類のあらゆる敵と戦ってきたが、明らかに動きが軽やかすぎる。

 まるでひとりだけ重力から解放されているかのような錯覚さえ感じた。

 そこに加えて不規則なフェイントとチェンジ・オブ・ペース。

 実際の戦争でどうなるかはさておき、1対1でこのプリンセスに勝利するのは至難の技だ。


「破竹の連勝記録持ちで、次回のチャンピオン候補はマジもんの化物ってことだな」

「だけどさ」


 ふと、シデンが疑問を口にした。


「もうそろそろ大会なんでしょ? 彼女、色んなプレイヤーと名指しで戦ってるって聞いてるけど、付き合ってくれるプレイヤーなんているのかな」


 無論、オンラインで潜れば相手は幾らでもいる。

 しかし、ただの相手で調整相手になるとはシデンには思えなかった。


「ある程度強い相手と戦わないと、練習にもならないんじゃない?」

「かもな。大事な時期になると、どこも手の内を明かしたくないものだ。プリンセスはどうかは知らんが」


 しばし雑談を続けた後、エリアルは今後の予定を語りだした。


『全国大会までは、ちょくちょく潜ろうかなって。ただ、面白そうな大会があったら出てみたいっていうのが本音だね。この辺はマネージャーさんと要相談かな?』

「マネージャーなんているのか」

「動画配信も楽じゃないな」


 XXXの面々が社会の仕組みを感じつつも、エリアルは続けた。


『あー! それと、できればあの人と一度やってみたいな。仮面狼さん!』

「ぶふっ!」

「げ」


 スバルが吹き出し、カイトが露骨に嫌そうな顔をした。


「仮面狼?」

「なにそれ」

「……スバルの登録名だ。日本を出る前のな」


 要するに、プリンセスはスバルと戦いたいと仰っているのだ。

 公の前で、堂々と。


『ブログだと引退したらしいけど、どこかで復帰したって聞いたよ。本人だったら是非ともやってみたいな! あの人の動画、とても参考になるから皆も見てみるといいよ!』


 恐らく、この前の赤猿主催『スバルVSカイト』戦が動画で出回った結果だろう。

 この時のスバルの名前は似たような物を使っていた上に、動きもほぼ似ていたから復帰したものと思われているかもしれない。


『連絡先とか知りたいけど、残念ながらプロじゃないし……』

「おい、これやばくねぇか」


 エイジが真剣な眼差しでカイトを見る。

 彼も同じことを考えていたのか、剣幕な雰囲気で語りかけた。


「仮面狼が生きてることがこんな有名人にばれたら、新人類王国が確実に追手を出してくる! 配信元から場所を割り出すなんて簡単だろ!?」

「凄くやばい」


 一方のカイトも額に汗を貯めつつ、状況の悪さを考えていた。


「ブレイカーズ・オンラインはプレイ人口も多い。一度注目されたら、一気に視線は集まる」


 カイトがそうだった。

 彼は地元でスバルのものまねを実践しつつ、圧倒的反射神経と学習能力であっさりと注目を集めてしまったのである。


「後、野次馬根性の連中が多いのも宜しくない。特にこういう、有名人の配信に集まる連中は情報を細かく検索して、チェックしてきそうだ」


 そこまで言った瞬間、カイトは思い出す。

 この島で一番危険な野次馬根性持ちを。


「いかん!」


 勢いよく立ち上がる。

 驚いてひっくり返りそうになったマリリスを無視し、カイトはその場にいる全員に言い聞かせた。


「サルを急いで黙らせるぞ!」

「サルっていうと……」

「ああ、赤猿か!」


 スバルの仲間で、先日お祭り騒ぎを起こした張本人だ。

 仮面狼ことスバルの正体を知っており、尚且つなんでもお祭り騒ぎにしないと気が済まない彼が、この発言を見逃すはずがないのである。


「すぐにしばく! スバル、奴の連絡先は!?」

「え!? えっと、携帯が無いから知らない!」


 そりゃあそうだ。

 彼のスマホを破壊したのは他ならぬカイト自身である。


「ヘリオン! ヘリオンはいるか!」

「アイツはもう出勤したぞ」


 学校に勤務しているチームメイトに呼び出してもらおうと思ったが、既にいない。

 と、なればどうするか。


「こうなったら……」

「こうなったら!?」

「どうするんですか!」

「奴はリアルタイムで計画を立てる。こうしている間にも企画は立たされ、仮面狼の存在は知られてしまうだろう」


 だったら別方面で対策を立てるしかない。

 カイトは瞬間的に脳をフル回転させ、もっとも安全な策を出すことにした。


「エリアル・ブルーミーが所属している企業を脅す」

「はぁ!?」

「企画を頓挫させる。それが一番安全だ」


 心なしか、カイトの瞳が凍てついているように見えた。

 素早くテーブルの上を片づけると、彼はそそくさと扉を開ける。


「ちょ! ちょっと待った! 待って!」


 明らかに状況は悪化している気がする。

 スバルはカイトの足にしがみつき、訴えた。


「企画頓挫はいいけど、どう考えても企業にテコ入れするより赤猿を探した方が早いと思うけど!?」

「今はな。だが、総合的に考えると情報源は世界中のいたるところにいる。少しでもこの島が標的になるようなことがあってはならんのだ」


 ゆえに、企画の中心に立つであろうプレイヤーを攻める。

 あるいは会社を直接攻撃するのもいいだろう。

 カイトはそう考え、乱暴に足を振る。


「うわ!」


 しがみついていた少年があっさりと吹っ飛ばされた。

 エイジはスバルをキャッチすると、心配げにカイトを見る。


「確かにな。お前の言いたいことは分かるぜ」

「え。わかっちゃうの?」

「心配の種は、根元から切るべし。よく覚えておくといいよ、スバル君」


 XXXの面々は全員攻撃的な意見だった。

 彼らは呆気にとられているスバルとマリリスを眼中に置くことなく、最低限のやり取りだけで立ち回りを決定する。


「企業情報は後で確認する。取りあえず、動くのはエレノアと交代できる俺の方が安全だろうな」

「じゃあ俺らはこいつ等の守りだな」

「早速有休申請出してくるよ」

「頼んだ。それと、サルが来たら閉じ込めておけ。絶対に外と連絡を取らせるな。最悪、手足の骨を潰しても構わん」

「オーケー。俺もそのつもりだ」


 赤猿の命運が本人のいない間に着々と決まりつつあった。

 あまりにスムーズすぎて、スバルたちが話の間に割って入ることができない。


「じゃあ、行ってくる。このアパートの平和を守る為にな」


 カッコいい言葉を残した筈が、とても物騒だった。


 こうしてブレイカーのお姫様は、この地球上でもっとも恐ろしい男から狙われる羽目になったのである。

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