狼は鋼鉄の姫を観察する
前夜祭と呼ばれるだけあり、大会の出場者は全員強者揃いだ。
噂のプリンセスの相手も同様である。
「始まった」
動画チャンネルを開き、開始されたライブ中継が表示される。
3Dでモデリングされた少女が手を振り、挨拶をしてきた。
軍服らしきデザインの服装に身を包んだ、白銀の髪色が特徴的な少女である。
『皆さんこんにちわー! バーチャルブレイカー乗りのエリアル・ブルーミーです!』
「コイツが噂のプリンセスか」
「声だけ聞くとオッサンとは思えねぇな」
「わからんぞ。地声がやたらと高いオッサンかもしれんし、ボイスチェンジャーの可能性もある」
「カイトさん、黙ってて」
全てを台無しにするカイトの発言を無理やり締め出すと、スバルはエリアルの対戦相手の詳細を見る。
「相手はディシジョン7か」
「何者だ」
「アメリカの企業プレイヤーだよ。簡単に言えば、プロかな」
企業がスポンサーについて、選手が結果を出す。
選手が結果を出せば企業の宣伝に繋がる。
スポーツとて同様だ。
「スバル、お前はコイツに勝てるのか?」
カイトが問う。
仲間たちも口にはしないが、同様の興味を抱いていた。
即ち、蛍石スバルは全国的にはどの程度強いのか、である。
これまで何度か『コイツは業界だとスゲーんだよ』とは聞いたことがあるが、実際どの程度凄いのかは知らないのだ。
「冗談言わないでよ。相手はプロだぜ」
「だが、お前も動画を出してただろ」
「それとこれとは話が別」
企業がプレイヤーを雇う場合、相応の活躍が求められる。
蛍石スバルはそれなりに名の知れたプレイヤーだが、そういった交渉が来たことはない。
だから、彼らは自分よりも雲の上の存在なのだ。
「実際に戦ったわけじゃないの?」
「俺が一方的に知ってるだけだよ」
「ふぅん」
これ以上聞いても本人は本気で敵わないと考えていそうなので、問答を打ち切る。
代わりに注視するのは、プリンセスことエリアルの試合だ。
彼らが雑談をしている間にエリアル側の雑談も進んでいたようで、遂には試合開始の流れとなった。
『じゃあ、少しの間集中するんでコメント読めなくなります。ご承知ください』
プリンセスはリスナーに配慮をすると、画面が切り替わってブレイカー選択画面が表示された。
迷うことなく機体の選択がスキップされ、ブレイカーの映像が映し出される。
その名も、
「メタルエンプレスか……」
「解説の蛍石選手、素人の俺らでも分かるように機体の説明をしてくれるとうれしいな」
エイジがどこかからかうように言うも、スバルは真剣な眼差しで機体を見つめていた。
少しの間をおいて、彼は呟く。
「凄くバランスが整ってる」
「どういうこと?」
「機体パラメーターが綺麗に整ってるんだ。だから加速力は十分あるんだけど、特化した機体ほどじゃない。防御もそうだし、火力もそうなるかな」
装備はライフルにマシンガン。
そして近距離戦闘用にエネルギーソードを所持している。
ミサイルランチャーも肩に装備しているようだが、スバルとしてはここも驚くような装備ではない。
「紅孔雀なんかは星喰いからの攻撃を避ける想定で作られたから、かなりの加速力重視の機体だった。だから追いかけっこになると、普通に負けると思う」
「勝てるのか? そんなんで」
「それだけ駆け引きに自信があるってことだろう」
カイトもある程度このゲームに慣れた為か、メタルエンプレスの強みを理解していた。
「この機体は弱みがないことが強みだ。プレイヤースキルがそれだけ反映しやすいとも言える」
「だね。これまで戦ったブレイカーのどれとも違うけど、強いて言うなら鳩胸が一番近いかな」
それに対して、対戦するディシジョン7の機体も表示された。
こちらはスバルとしても馴染み深い装備だ。
「ディシジョン7は加速力重視の組み合わせだね」
「獄翼と比べると、ライフルが2丁あるけど」
「接近戦はなるべく避けたいんだと思う。マシンガンは至近距離で浴びると、ミラージュタイプは蜂の巣になりやすいからね」
それだけではない。
ディシジョン7の機体にはエネルギーパックが装備されていた。
所謂、回復アイテムだ。
これにより、体力のアドバンテージはディシジョン7側に軍配が上がる。
「ミサイルやフェアリーのようなオプション装備を外して、回復をとってる。マシンガンを至近距離で浴びせても、2回までなら回復できるな」
「体勢を立て直すチャンスも当然用意してるってわけか」
「長期戦を仕掛けるつもりかな」
様々な予想が飛び交う中、試合が始まった。
一斉に飛びだす2機。
ステージはランダムセレクトの結果、『ビル街』が選択されている。
無数の建物が障害物となっているステージだ。
建物を壁としても扱えるが、その耐久力は低い。
ライフルやミサイルの直撃を受けたら、あっさりと崩れるような脆い壁で囲まれた戦場である。
「先に仕掛けるのは」
反射的に呟きつつもスバルは脳内でシミュレートを開始。
比較的、自分が扱うブレイカーと特徴が似ているディシジョン7側の視点を想像しながら、メタルエンプレスと相対する。
戦場はビル街。
隠れる場所は多いが、相手にはミサイルがある。
弾頭の爆発に巻き込まれたら、一気に障害物を消し飛ばすことも可能だ。
だから隠れながらのヒット&アウェイを最初から仕掛けたくない。
いざという場面が来たときに隠れられないのは困るからだ。
これはスバルが至近距離からのマシンガンの連射を受けたくない、という考えから来ている思考である。
では、本来動かしているディシジョン7はというと、
「飛びだしているな」
互いにライフルを持っているが、機動力はディシジョン7が有利。
この点を最大限に活かし、先制攻撃を仕掛けようとしていた。
狙いがメタルエンプレスに定められる。
「うっ」
瞬間、メタルエンプレスが動いた。
左右に揺れ、フェイントを加えながらライフルに備えている。
「なんだ、これ」
スバルが画面にしがみつくようにして接近する。
完全に少年の背中で映像を遮られたカイト達は、訝しげに言った。
「おい、どうした」
「こんな動き、見たことないぞ……ただ動いてフェイント入れてるだけじゃない!」
声が震えている。
喉の奥に潜んでいる感情は恐怖と歓喜が入り混じっていた。
「不規則すぎる! ライフルは確かにメタルエンプレスに向いてるけど、ロックしきれない!」
ライフルの弾幕が唸る。
ディシジョン7から放たれるそれは、スバルから見ても相当脅威だった。
外見だけではわからないよう、リロードと弾数をカスタマイズしていたようだ。
「ディシジョン7のライフルは左右共にマシンガン並みの連射力を備えたスペシャルカスタマイズだ! 隠蔽も上手い! 初見で分かる筈がない!」
にも関わらず、メタルエンプレスはまるで最初から弾丸の軌道と速度を理解し、どこにいけばこれらを回避してやり過ごせるのかをわかりきっているように行動しているではないか。
メタルエンプレスは理想的な回避を決めた瞬間、一気に加速。
ブレイカーズ・オンラインでは『速すぎず遅すぎず』くらいの速度でディシジョン7の懐へと迫る。
「マシンガン!?」
メタルエンプレスの装備でもっとも警戒しなければならない武器だ。
これを至近距離で受けたらダメージの蓄積が発生し、装甲が薄いミラージュタイプが致命傷になってしまう。
絶対に回避しなければならない。
スバルは脳内で回避行動をとるが、
「近づいて、相手が動いたところをミサイルか」
「あ!」
カイトがぼやくと同時、まったく同じ行動をメタルエンプレスが取った。
絶対に受けたくない攻撃に備えて回避に移っていたディシジョン7は、完全に軌道を読まれた一撃を受けてしまう。
「カイちゃん、どうしてそう思ったの?」
「コンセプトはなんとなくわかった。コイツは駆け引きが上手いというか、その時の最適解がわかるんだ」
エリアルがそういう異能を持った新人類なのかは知らない。
だが、破竹の連勝記録を残しているのも頷けるスキルであると、カイトは思う。
「だからどんな時でも対応しやすいバランス型のブレイカーが一番相性がいい。装備も、多分その時の感覚で選んでる」
「そんなことができるの!?」
「勿論、これは俺の勘だ」
馬鹿げているとは自分でも思う。
しかし、そうでないとゲームを支配しているようなプレイが説明できない。
「恐らく、1対1でコイツを仕留めるのは不可能に近い。チーム戦やバトルロイヤルのようなものでないと、難しいだろうな」
いずれにせよ、自分が働いているゲーセンに襲来してこないことを祈ろう。
そうでないとスバルがまた変なスイッチを拗らせて大変な事件に発展するかもしれない。
マシンガンで華麗に勝利を収めたメタルエンプレスの勝利演出を眺めつつ、カイトはぼんやりとそんなことを考えていた。




