デストロイ・フィンガーズ
目下の敵はノブヒコが用意した4519体のクローン戦士と城のふたつだ。
これらを確実に破壊するため、スバルは未来の自分から至高の機体を聞きだした。
その名はエクシィズ。
新人類と旧人類による戦いを終結に導いた、圧倒的破壊マシーンである。
時期としては、まだその全貌をスバルは知らない。
だが、彼は知っている。
エクシィズを同じ数だけ集めれば、敵に負けることなどありえないのだ、と。
『俺たちは蛍石4519』
『お前たちを倒す為に』
『色んな時間から駆けつけてきた』
『ローン払い4か月で』
『4519回お前を倒す』
『今年のゴールデングラブ賞はもらったぜ!』
『今年のノーベル平和賞ももらったぜ!』
指を突きつけ、好きな事をほざきまくる蛍石4519。
金色の翼を複数羽ばたかせ、そこから漏れ出すアルマガニウムエネルギーの量から推測するに、確かな力があることが伺える。
『ぬぅ、今度はこちらの記録に残っていない機体を持ち出してきおったか』
そしてスバル達にとって有利に動いたのは、エクシィズが公式な記録として抹消された機体だったことだ。
アルフレッドたちにしてもそうだが、もし少しでもデータが残されていれば、ノブヒコはその対策をすべて用意した上で挑んできた事だろう。
ゆえに、単純なパワーでは力負けしているかもしれないと、とノブヒコに考えさせられる。
『じゃが、天下を取る為にはここで引き返すわけにはいかぬ!』
周囲を異様な軍団に取り囲まれ、逃げる隙はない。
ならば敵を倒すしかないだろう。
元々そのつもりで準備してきたのだ。
あの金色の羽が生えたブレイカーは不気味だったが、出力が高いだけなら負けはない。
『儂らの動きを見切れるか、小童が!』
ノブヒコ達がそれぞれエクシィズに近づいてきている。
恐らく、こちらを警戒した上で1対1を仕掛けたのだろう。
どれかが多数になった時点で負けるかもしれない、という懸念があるからだ。
だが、それはスバルにとって好都合。
『みんな、ここは俺に任せてくれ!』
応援に駆けつけてくれた未来の仲間たちを制止させる。
向こうから来てくれるのであれば、こちらは動く必要がない。
すなわち、エクシィズを不必要に動かすことがないことを意味している。
未来の自分は言った。
これは動かすだけで寿命を縮める危険な機体だ、と。
ならば向こうから来てくれれば一番いい。
こちらにはすべてを滅ぼす絶対の一撃があるのだから、カウンターで決めれるじゃないか。
『それはもう未来で何度も見ている景色だぜ!』
スバルのひとりが決定的な一言を加える。
同時に、すべてのエクシィズが右腕を前へと突き出した。
掌に光が集う。
その光は小さく膨張したかと思うと、突撃してきたノブヒコに向けて炸裂した!
『みんな揃って!』
『デストロイ―――――』
『フィンガアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!』
4519回繰り返された一斉攻撃の掛け声が鳴り響く。
光は眼前に飛び込んできたあらゆる物体を破壊し、一瞬で焼き尽くす。
『ぬわぁっ!』
デストロイ・フィンガーによる破壊の光が城を照らした。
そこから外の様子を眺めていたカイトも、光の中に飛び込んでいったノブヒコ達がどうなったのかを目撃する。
「消し飛ばした……全員、跡形もなく」
呆然と眺め、信じられないとでも言わんばかりに驚いている。
勿論、エクシィズのようなブレイカーと生身で戦った人間で比べる方もおかしいのだが、カイトは実際に戦ってノブヒコのクローン兵士達の恐ろしさをしっかりと理解しているつもりだった。
「アレは何時どこで作られたブレイカーだ? とんでもない破壊力だぞ」
『君の全力にも耐えてきたアイツらを一撃で消し飛ばすとはね。敵に回らないでくれて本当に良かったよ』
エレノアが呑気に語る。
だがカイトは考えた。
なぜスバルはあれに乗っているのか、と。
未来からきたタイムパトロール隊員がアレに乗せた線も考えた。
だが否だ。
もしもミズキがあの機体を知っていたら間違いなく止めた筈だ。
彼女はアルマガニウムを搭載させた機体を使う事を最後まで渋っていた。
今、スバルが駆る機体は明らかに自分たちがこれまで見たどの機体よりもアルマガニウムの放出量が高い。
恐らく、以前ニューヨークで見た純正アルマガニウムくらいではないだろうか。
「……まさか、アレを使っているのか。純正を」
本当に使っているのだとすれば、大変な事だ。
『どうしたの。結構深刻な顔してるけど』
「お前は知らないんだったな。純正アルマガニウムは砕けると、都市ひとつはまるごど消し飛ぶと言われているエネルギー量を欠片に内蔵している」
それを巡って大変な争いがあったのだが、結果的に宇宙に打ち上げることで事件は解決した筈だった。
だが、もしも誰かが回収していたらどうだろう。
「アレの存在は誰かが漏らさない限り、絶対に知りえない」
『じゃあ身内が作ったと考えたらいいんじゃないかな?』
身内。
あの莫大なエネルギーを、文字通り破壊するだけのブレイカーに搭載するような身内。
ひとりしか思い浮かばなかった。
「ウィル……アイツ、どういうつもりだ」
憤慨するカイトを余所に、クローンを一気に壊滅させられたノブヒコはまさに身を打ち砕かれた思いだった。
ここまで凄まじい破壊力を押し付けられるとは、まったく予想できなかったのである。
『なんじゃ、アレは! ミストラル襲来の時にも、あのようなものは存在しておらぬぞ!』
当然だ。
このエクシィズが活躍したのは数度ほどしかない。
活躍を終えた後、その強大すぎる力は『できる秘書』が中心となって厳重に解体された。
記録からも、当然ながら抹消されている。
データだけでは絶対に発見できないだろう。
実際に乗り、戦ったスバルでなければ知りえない究極の破壊ブレイカー。
それこそがエクシィズ。
『終わりだぜ、ノブヒコ!』
『とっととお縄につきやがれ!』
これももしや4519回繰り返したやり取りなのだろうか。
超プログラムとなったノブヒコに久しく忘れていた『焦り』『怒り』『怯え』といったマイナスの感情が次々と湧き上がっていった。
退却の道は断たれ、立ち向かえば殺されそうな超兵器が4519体。
まさに絶体絶命というやつだ。
『天下はノブヒコを求めぬというか……』
天を仰ぐ。
城から見える景色は、エクシィズによって埋め尽くされていた。
まるで『俺がいる限り、お前はなにをしてもダメなんだ』と訴えてくるように。
『……おぬしを倒さねば天下の時が来ぬと言うのなら!』
城が歪む。
揺れた直後、手足のように伸びた城壁から棘が生えた。
棘は周囲全体に駆け巡ったかと思うと、エクシィズ目掛けて一斉に襲い掛かる。
『いいっ!』
ひとりのスバルが驚き、回避行動をとろうとする。
それだけで今までに感じたことがない圧迫感が来るのを感じ、咽た。
『おえっ! がっ!』
口の中から吐き出す。
それがなにかを確認しようものなら、もう貫かれてしまうだろう。
だから次の動作に移ろうとするが、
「ふはははははは! 案ずるな原住民よ。貴様らの安全は金持ちたる俺と愉快な国民たちが保障しよう!」
棘が爆発した。
応援に駆けつけてくれたピンクの鎧を着こんだ偉そうな金髪野郎が、笑いながら手を掲げている。
その動作に合わせるようにして、仲間たちがエクシィズが庇ってくれた。
あるブレイカーは盾を展開して棘をやり過ごし。
ある竜のメイドは業火で刺を焼き尽くした。
ある若者に至ってはスコップで無理やり棘をへし折っている。
結局のところ、最後の抵抗として繰り出された攻撃は、すべて阻止された。
『ぐぬ、う!』
「お前の負けだ。わかってるだろ」
悶えるノブヒコにカイトが声をかける。
「ここから未来のスバルだって来てる。この展開を、アイツはもう何千回も見てるんだ。びびってたのは、最初にここに駆けつけたアイツだけだろうな」
片目に力を入れる。
そこから力を引き出そうとイメージし、左手に具現化する破壊の姿をイメージ。
ここはエクシィズを真似て、光る掌底にしてみよう。
そこまで思考し、彼は手を床につけた。
「トドメは俺がさしてやる」
スバルにはできないことをするのが自分の仕事だ。
カイトは自分にそう言い聞かせた。
この台詞も、ノブヒコではなく自分に向けているものだ。
『時代はノブヒコを求めなかったか……』
意気消沈。
まさにその言葉が似合うような、覇気の籠ってない言葉だった。
『ならば魑魅魍魎となり、黄泉平坂の地にて天下を取らんとしようか。おぬし、その時は儂に仕えるつもりはないか?』
「スカウトはお断りだ」
光が床に浸透する。
ややあった後、城は光に包まれて爆発した。




