ノー・クロス
予想していた以上の大援軍の到着を目の当たりにして呆然としていたのはカイトだけではない。
彼らと戦っているノブヒコですら、度肝を抜かれる光景だった。
『な、なんじゃこれは!』
4500年の歴史のすべては城に記録されている。
だが、このような出来事が1519年の日本で起きたことなど、まったく記されていなかった。
明らかに意図して送られてきた、人為的な増援なのだが、しかし。
あまりに数が多すぎる。
「ふははは! 金持ちたる俺に続けぇ!」
桃色に輝く鎧に身を包んだ男の号令にあわせ、軍団が突進してくる。
人間だけではない。
明らかに怪異の類となる、みたこともない生物が混じっていた。
『ええい、あのような物が出てくるなどまったく予想はしておらんかったが、しかし! 儂らNOV4519の前に立ち塞がるのであれば、等しく敵兵である!』
数は多く、生体も不明。
しかしながら敵であるという事実だけは理解できている。
襲い掛かってくる謎の集団に対して、ノブヒコの集団は迎撃に移った。
「……この世の終わりかな」
そんな光景を城の上から眺めているのがカイトだった。
彼は破壊された壁から外の状況を確認しつつ、そう呟いた。
「生き物、ブレイカー、ノブヒコ。入り乱れすぎだろ」
もしもこれが漫画だったら、描写だけで力尽きてしまうに違いない。
巨大兵器は勿論、鎧をまとった兵士や異形だけでも頭を抱えてしまう。
しかも、彼らは一丸となってノブヒコと戦っているではないか。
ひとりひとりの戦力はかなり高いとカイトは感じていたのだが、彼らは上手くノブヒコと戦って見せている。
恐らく、スバルから事前に戦闘能力について聞かされているのだろう。
増援たちは決してひとりで無謀な戦いは挑まなかった。
数で有利なことをいいことに、絶妙に噛み合った連携でノブヒコ達と互角以上に戦っている。
「どうだ。これなら勝てそうか?」
「まだだな」
アルフレッドが問いかけるも、まだ決定打ではないとカイトは首を横に振る。
「この城が奴の本体だ。これを消し飛ばさない限り、討ち取ったことにはならない」
「殺さなきゃ終わりじゃないのか?」
「ああ。残念ながら、本人が納得しないだろうな」
なにせ一度討ち取ったと思ってもしぶとく未来へ生き延びた執念深さだ。
甘く見てはならない。
もし、彼らが見逃してやれよと言うのであれば、カイトはこの場で全員を敵に回すのも仕方がないと考えている程である。
「では、何時までもここにいるのは危険なのでは?」
「脳みそを燃やしても連中は動いているしな」
竜のメイド娘の疑問に頷くも、そこでカイトは気付く。
「ところで、肝心のスバルはどこだ」
周りを見てみる。
ここに駆けつけたアルフレッドとリナの他には誰もいなかった。
かと言って、外で戦っているようにも見えない。
ブレイカーの集団に紛れているのかと思ったが、それにしては大人しすぎる。
スバルの戦いはもっと乱暴だ。
動いている様子を見れば、彼でないことくらい一目で分かる。
「俺たちに時間稼ぎを頼んだから、後で来るんじゃないかな?」
「時間稼ぎだと?」
なにかの準備をしているのか。
だが、普通に戦ってもこのノブヒコの集団に勝てないことなど、スバルだって十分承知している筈。
この援軍が本命でないなら、なにをしようというのか。
「あの馬鹿、なにをしでかすつもりだ」
「なにもしない、ということはないだろう」
表情をまったく変えないまま、リナは言う。
「あの男、良くも悪くも行動力の塊のような奴だ。だから、私たちでは足りないなにかをしでかしてくれる筈」
「そうだな。そんじゃあ、その間はもう一働きとするか」
アルフレッドがスコップを掲げ、リナも手から炎を噴き出しながら城から降りていく。
ふたりが去ってくのを見ながらカイトは思う。
彼らは蛍石スバルを深く知っているようだった。
同時に、きっと彼が今後も様々な戦いに巻き込まれていくであろうことを察した。
果たしてその時に自分はいるのだろうか。
アルフレッドは自分を知っているようだったが、リナの方は特に何もコメントが無かった。
そのことから察するに、多分自分は途中でスバルの隣からいなくなったのだろう。
どうしようもない事情なのかもしれないが、そう考えてしまうと少し悲しかった。
「俺は、なにをしてるんだ」
『カイト君?』
不安な気持ちを察したのか、エレノアがどこか心配げに語りかけてくる。
『なにをしてるって、君。誰よりも体を張って戦っているじゃあないか。なにを負い目にする必要がある?』
それはそのとおりだ。
誰もが身体を張れるわけではない。
仲間の為に身体を犠牲にできるのは自分だけだと常に言い聞かせ、実践してきたのだ。
今更なにを迷う必要がある。
「……俺は今、怖くなってきてる」
『え?』
「考えたんだ。このままずっと頑張って、最後にはどうなるのかって」
前から考えていたことだ。
スバルにだって言った事がある。
「きっと、俺たちは全員が揃ってることはない。それを考えたら、悲しい気持ちになる」
今、こんなことを考えて足を止めている場合などではないのは理解している。
けれども、未来のスバルの『結果』がこうして目の前で戦っているのを見ていると、つい『探してしまう』。
未来の神鷹カイトなど、どこにもいなかった。
「これが結果だ。アイツのこれからの出会いと、頑張りの全部がここに詰まっている。でも、そこに俺はいない」
『カイト君……』
心のどこかでは安心している部分がある。
自分たちの時代は生き残るにはハードすぎた。
そこを乗り越えることができたのであれば、これ以上ない喜びである。
マサキとの約束を、きっと自分は果たしたのだ。
満足すべき結果なのだと、頭は言い聞かせてくる。
しかし心のどこかが叫んでいるのだ。
お前が本当に望んだ景色はこれか、と。
「わかってるんだ。これが今の俺には高望みなんだって。もう後戻りはできないし、人も殺し過ぎた」
『それこそ、タイムマシンでもパクってどうにかしちゃえばいいんじゃない?』
「もしそれをやったら、きっと俺は自分を許せなくなるだろうな」
『面倒くさいね。自分がやりたいんなら、そうしちゃえばいいのに』
「なんでも好き勝手やっていいなら戦争なんて起きないし、警察だっていらないさ」
だからどうしようもない。
踏み越えてはならない一線というものがあるのは理解しているし、踏み越える気もない。
ゆえに、この話はここまでなのだ。
神鷹カイトはどこかであの少年と道を違える。
「……俺でも感傷に浸れるんだな。これは大きな発見だ」
『あまり笑えないんだけども』
「ほう。これも珍しいな。貴様はなにがあってもケタケタと笑うだけなのかと思っていたが」
さあ、足を止めるのはここまでだ。
きっとこの出来事はタイムパトロール云々の事情で忘れさせられることになるのだろうが、せめてこの刹那の時に全力を賭けてみたい。
『カイトさーん!』
天から声が聞こえる。
虹色に輝く渦のなから現われたそれを見て、カイトは微笑んだ。
「ふん。遅いぞ、馬鹿野郎」
『さっき送り出したのに』
「いいんだ。さっきまでずっと戦ってた俺には言う権利がある」
『いいなぁ。そういう青春チックなの羨ましい!』
エレノアが何か言っているが気にしない。
しかしスバルが乗っているブレイカーは新型だろうが。
黒い装甲に、黄金の8枚羽。
カラーリングは獄翼に似ているが、発しているアルマガニウムエネルギーは明らかにこちらが上だ。
未来の最新ブレイカーなのだろうか。
「あれ」
だが、そこでカイトは見る。
スバルの奥からまた虹色の渦が出現している。
そこから、手前にいるのと全く同じ8枚翼のブレイカーが出現したのだ。
「ん? え?」
思わず目を擦る。
やはり同じブレイカーだ。
量産型で、乗っているパイロットが違うのかと目を疑う。
するとどうだろう。
空一面を虹が塗り潰したかと思うと、そのまま8枚翼のブレイカーが無数に降りて来たではないか。
しかも、すべて同じカラーリングで、全く同じ腕組み姿勢で。
『蛍石スバル、リベンジ参戦!』
最初に登場した翼のブレイカーが堂々と名乗りを上げる。
昔の武士のように叫んだ後、後ろの同型機が続いた。
『同じく蛍石スバル、1日後の未来から華麗に参上!』
『またまた蛍石スバル、1か月後の未来からお前を倒しにやってきた!』
『イエーイ! カイトさん、見てる?』
『今年の沢村賞を貰いに蛍石スバル、華麗に参上!』
空から無数の翼のブレイカーと、同じ数のスバルがやってきた。
感傷に浸っていた自分が馬鹿みたいだな、とカイトは強く思った。




