蛍石に集う
天井をぶち破る。
その階になにもなければ、またぶち破る。
何度かそれを繰り返した後、カイトは戦国時代から大きくかけ離れた景色へと辿り着いた。
「当たりだな」
壁は銀色。
床には輝くプレートで張り巡らされているが、それらすべてに光の直線が走っている。
光が向かう先には、培養カプセルらしき円柱状の装置が存在していた。
「何時の時代も、人間を保存するのは脳みそだけなのか?」
嘗て相対した脳みそだけのサイボーグを思い出す。
規模はこちらの方が大きいが、明らかに同じ用途で存在しているものだった。
目を凝らし、中身を観察。
案の定、カプセルの中には人間の脳が浮かんでいた。
それも通常のサイズではない。
『栄養だけは大分摂取してるようだね』
「4500年の技術とやらは身体を捨ててるのかね」
どちらにせよ、敵の本体を見つけたのは好機と言える。
目標を捉え、カイトは疾走。
『来たな!』
ノブヒコの声が響き渡る。
床、壁。
あらゆる場所から槍が飛んできた。
迎撃用の罠なのだろうが、カイトは止まらない。
「4500年が笑わせるな! そんな罠、幾つも潜り抜けて来たぞ!」
『そなたは4500年の歴史にも語られぬ強者よ! おぬしの力があれば、歴史の積み重ねすら超える!』
事実、ノブヒコは迎撃システムを頼りにはしていない。
こんなもの、仮に当たったとしても身体を霧状にできる彼には通じないだろう。
だが役には立つ。
ほんの少しでも気を逸らすことができれば、上出来だ。
「もらった!」
槍をすべて掻い潜り、カイトはカプセルに爪を突き刺した。
貫通したガラスから培養液が漏れ、貫かれた脳から悲鳴が漏れる。
『おぐ……!』
「今度こそ討ち取ったぞ!」
『く、ふふふふ』
不敵な笑い声が聞こえる。
確かに痛みを感じながらも、ノブヒコは笑っていた。
相手が脳だけになっても理解できる。
この声は、何かを成し遂げて満足した声だ。
『そなたは強い。荷物もおったが、やはりひとりで儂を殺した。そなたなら、できると思っておったぞ』
「なぜ喋れる」
脳は潰れている。
だが、ノブヒコの声は止まらなかった。
『そなたの予想通りじゃ。儂は4500年に飛び、時代のてくのろじぃとやらで城とひとつとなった』
だが、それはあの時代では特別なことではなかった。
クローン技術。
肉体の物質化。
これらはすべて初歩的な技術だ。
完成された超人の前では、霞むことなど予想できている。
ならばどうするか。
『儂はおぬしこそが天下に相応しい強者であると考えた。だから、もし儂の用意した戦力が通じない場合は、こう考えた。おぬしの身体を儂が貰おうと』
「貴様……!」
脳が溶ける。
溶けた後、銀色の輝きとなったそれは腕に纏わりつき、カイトの身体へと侵入していく。
「うお!」
爪の中から液体が侵入してくるのがわかる。
すぐさま腕を切り離そうとするが、身体の自由が利かない。
『ねえ、もしかしてやばかったりする!?』
「見てわからんか!? さっさと交代しろ!」
『そうしたいんだけど、交代できない!』
ノブヒコの影響はエレノアにまで及んでいる。
霧化が封じられたことにより、この状況から脱することはかなり難しくなってきた。
「この!」
左手を伸ばして右手を切断する事も出来ない。
ならば壁にぶつけてノブヒコにダメージを与えようと試みるが、上手く立ちあがれなかった。
足に力が入らない。
よろけ、その場に倒れる。
『流石のそなたも4500年の融合技術の前では手も足も出ぬか』
「なんだその気味の悪い技術は」
『2300年に襲来したミストラルを参考にした技術よ。なんでも、連中は他種族を取り込むことにより自己進化を促してきたようじゃな。4500年では、その力すら解析されておるわけじゃ』
その結果、ノブヒコはミストラルに近い力を手に入れた。
前述した初歩技術などはこれの副産物である。
『では、その優れた肉体を貰い受けるぞ! 儂が人間の世を見るためにもな!』
「俺の身体は俺の物だ!」
身体の奥からエレノアが『そう、そして私のものさ!』とほざいているが敢えて無視。
床にぶつけて肩を外すという荒業を試みる。
「止めておきなって。見ていて痛々しいからさ」
背後から声をかけられた。
知らない声だ。
思わず振り向く。
「誰だ、貴様」
やはり見知らぬ男だった。
見たところ、スバルより少し上くらいだろうか。
だがこの男のもっとも特筆すべき点は、なぜか鎧を身に纏っていることだ。
この戦国時代でも鎧は珍しくないが、この男のそれは明らかにアガキチたちが纏っていたものとは違う。
どちらかといえば、ファンタジー映画の兵士が装備しているような格好だ。
同時に、彼は明らかに日本人ではない。
この場にいることも含め、怪しすぎる。
『貴様、何者だ! どこから入ってきた!?』
「どこからって、アンタと同じさ。液体になったからわからなかったかな?」
鎧の少年がなにかを取り出す。
それはカイトの時代でもお馴染みの文明機器、スマートフォンだった。
「少し後の時代から手助けを頼まれたんでね。助けに来たよ、山田さん」
「え」
唐突な山田呼びにカイトは面食らう。
何度か山田と名乗ってきたが、こんな少年が知り合いにいただろうか。
「アンタには後で死ぬほど世話になるから、その借りをここで返す!」
スマホの画面が輝く。
同時に少年の手に長いなにかが出現した。
カイトもよく見たことがある物体だ。
「それはエイジのスコップ!」
「肩のそれを外せばいいの!?」
少年が問う。
どうやら未来の自分が助けた恩が、妙な形で手助けしに来てくれたらしい。
そう解釈すると、カイトは素早く指示を出す。
「俺の右腕をまるごと潰せ!」
「え!?」
「できるんだろ!?」
「あ、うん。たぶんいけると思うけど……大丈夫? 痛いんじゃない?」
「とっととやれ!」
「は、はい!」
少年がスコップを一閃する。
エイジの攻撃にも見劣りしない、見事な振り抜きだった。
刃先はカイトの右肩に命中すると、そのまま肉ごと骨を破壊。
寄生された部分が取り外れたことを確認し、カイトは素早く後退。
「よし!」
「どう見ても良しじゃねぇ!」
「いや、ナイスタイミングだ。お陰で助かったぞ。お前は――――」
未来で知り合う筈の少年に名を確認する。
後で知ることになるのだろうが、今はなんでもいからなんと呼べばいいのか知りたかった。
「アルフレッド。アルフレッド・エルカだ」
「そうか、アルフレッド。お前、アイツに頼まれてきたのか?」
「ああ、スバルさんがわざわざ過去から来て助けてくれってさ。あの人にも寝床を用意してもらったし、断る理由はないだろ」
成程、この男はスバルと同じような理由で動けるらしい。
つまりはお人好しだ。
「で、そのスコップはなんだ」
「ガチャで当てた」
「は?」
「いや、ガチャで手に入れたんだけど」
なんだガチャって。
自分が知っているガチャといえば、玩具が入っているガチャガチャくらいしかないのだが、まさかワンコインで入手したわけではあるまいな。
「あれ、知らない? お金入れて、ランダムで出てくる奴」
「……マジかよ」
「アンタだって入ってたけどな」
「マジかよ!」
神鷹カイト、22歳。
この時、自身のこれからの運命を激しく呪った。
「何時まで無駄口を叩いている」
未来の自分を呪っていると、今度は女が話しかけてきた。
こちらはアルフレッドと比べると明らかに異形だ。
コウモリのような翼を背から伸ばし、頭には角。
しかも大きな尾まで伸びている。
化物タイプの人間なのだと思ったが、この少女も面識がない。
なぜかメイド服を着ているので、この少女も金を毟り取る悪鬼の一種なのだろうと解釈した。
「お前は?」
「私もアイツの頼みで来た」
「に、しては不満そうだな」
「そうだな。私はあのお方以外の命令で動く気はなかったわけだが、いざ頼られると断れないらしい」
腕を液体化したノブヒコに向ける。
掌から猛烈な炎が噴き出したかと思うと、右腕ごとノブヒコを焼き払う!
「聞いたぞ。お前、身体が取れても平気なんだって? だったら腕ごと燃やして問題ないな?」
「ああ、構わん」
構わないのだが、焼いてから聞くなと言いたい。
言いたいのだが折角来てくれた未来からの援軍だ。
ここは素直に礼だけを述べることにする。
「助かった。未来のメイドはやけに火の扱いが上手いな」
「リナだ。アイツもそう呼んでいるから、お前も呼ぶといい。今は助けてやる」
「どうも」
姿はヘリオンに似ているが、明らかに『素』の態度だ。
戦闘慣れしているようにも見える。
未来のスバルは、自分が想像している以上に偏った友人関係を構築していたようだ。
嬉しい筈なのだが、少し悲しい。
『ぬぅ、後の世から援軍を連れて来たか!』
ノブヒコが騒ぐ。
液体化した脳はリナに焼き払われたが、呆れた事にまだ無事なようだ。
「まだ死なないのか」
「奴はこの城と一体化したと言っていた。城ごと消し飛ばすしかあるまい」
『そうはいかん! 外にいる儂らが、まとめておぬしらを相手してくれようぞ!』
外にいるNOV4519が一斉に動き出す。
カイトが腕を失ったのと同時、吸引の光は消えた。
その隙に再び動き出したようだ。
「敵は大軍だが、いけそうか?」
カイトは未来からの援軍ふたりに問う。
すると、ふたりとも迷いなく答えた。
「問題ない」
「こっちもさ。それに、俺たちだけじゃないぜ」
アルフレッドが壁をスコップで掘り起こす。
そこから広がる景色には、カイトが予想だにしないものが並んでいた。
「……なにこれ?」
並んでいたのは、圧倒的な数の兵士に異形。
それに空には戦艦と、見たことがないブレイカーが並んでいた。
星喰いとの戦いで用意した戦力を大いに上回る数である。
『ふははははははは! 金持ちたる俺が来たからには、過去の侵略などなんのその! 我らサイ・ゲルパ一同、全力で戦おう!』
『こちら外宇宙調査部隊連合。おじいちゃ――――マスター蛍石の命令により、24世紀よりタイムスリップ成功。これより他部隊と連携を取り、敵軍の殲滅に移ります!』
『こちらは20世紀の元新人類王国。代表の……そうだな、アイツがいるならタイラントと名乗った方が手っ取り早いな。兎に角、援護してやるからありがたく思うんだな』
なんか一杯いる。
そしてツッコミどころが万歳だった。
金持ちが来てどうなる。
おじいちゃんって言いかけたか、今。
後、タイラントがいるのか。
様々な疑問が浮かぶが、それらをひっくるめて一言。
「……アイツの人徳、すげぇな」




