ゴートゥー・2378
敵の大軍を抜き去ることができた。
ゴールである城は目の前。
理想的な状況であることを認識すると、霧状から再構築された肉体は迷うことなく一歩を踏み出す。
「中に突入するぞ!」
「いっちゃって!」
「やっちゃって!」
運んでいるスバルとミズキの後押しを受け、カイトは腕を前へと突き出した。
光の剣が伸び、眼前に聳え立つ城壁に穴を開ける。
『おぐ!』
直後、城から声が漏れた。
ノブヒコから放たれた苦悶の声だ。
「ぬ?」
気付き、カイトは疑問に思いながらも突入。
場内へと入り込むと、片腕で引っ張ってきた糸から仲間たちを解放する。
「立てるか?」
「大分揺さぶられたけど、なんとか」
ゆっくりと起き上がるスバル。
ミズキもふらつきながら立ち上がり、アガキチを揺さぶっている。
「タイムマシーンの場所まではわかるな?」
『はい。後はそこまで辿り着くだけです』
「よし、ならここから先は任せた」
上を見上げる。
天井を見つめる青年を尻目に、スバルは尋ねた。
「任せたって、カイトさんはどうする気!?」
「できるだけ敵の目をこちらに集める。その間にタイムマシーンを奪え」
「でも!」
「来るぞ!」
外のノブヒコたちが吸引地獄から剥がれていく。
次々と大地に伏した彼らは迷うことなく起き上がると、そのままカイト達がいる城へと走り出した。
「ふ!」
右手で拳を作り出す。
その動作と同時にノブヒコたちの上空に光の球体が作り出されたかと思うと、再び彼らは光へと吸い込まれていった。
「早くしろ! 同じ手が何度も通用する相手じゃないぞ!」
「わ、わかった!」
意識が覚醒したばかりで『ううん、南蛮にいきたいぃ』などとぼやいているアガキチの頭部を軽く叩くと、スバルは先頭へ。
ミズキが持つコンピュータへと尋ねる。
「どこにいけばいい!?」
『ミズキ、城内のマップをモデリングしました。目的地までナビしますので、案内通りに進んでください』
「わ、わかった!」
仲間たちが目的地に向かって走り出す。
ここは敵地だ。
カイトがいない状態で、外のノブヒコと同じような敵に襲われたらひとたまりもない。
彼らとてそれは理解している。
『行かせぬわ!』
ノブヒコも馬鹿ではない。
城内で動き回る敵を排除すべく命令を送ろうとするが、その言葉は直前で遮られた。
「今からそっち行くから、黙って待ってろ!」
城内を震えさせるほどの大声で放たれた、カイトの咆哮だった。
どしん、と音が鳴る。
振動と共に鳴り響いたそれを感知すると、ノブヒコは激痛と共に恐ろしい光景を目の当たりにした。
『待てぇい、おぬし! なんぞ天井をぶち抜いて跳んでくるか!?』
「ちょっと前に同じ方法で上まで登ったから同じことしてるだけだ」
爪を伸ばして天井をくり抜く。
できた穴を通ってジャンプ。
カイトは一度の跳躍でこれをこなしていた。
回転を加えたこの動作は、傍から見れば削岩機のような動きである。
『おふぅ!』
「やはり痛いか」
核心を突かれ、ノブヒコは焦る。
「4500年がどういう時代なのかは知らん。だがその技術でお前はこの城と文字通り一体化したわけだ」
だから城を攻撃すれば痛みが生じる。
言ってしまえば、この城自体がノブヒコの身体そのものなのだ。
先程城壁を破壊した際の悶絶が、日常生活でタンスに小指をぶつけたエイジのそれと全く同じだったのが幸いした。
ここにはいない親友に感謝の念をこめ、カイトは上へと突撃していく!
『おご、ぬぐ!』
「だが、身体を貫くだけじゃまだ足りない!」
城に比べたら自分は小さい。
こんな一撃など、盲腸を促しているような物だ。
大きくなり過ぎたノブヒコの前だと、自分の切れ味はそこまで大したものではない。
だから上へと向かい、探さねばならない。
人間の核。
超再生能力を保持した自分でも、ここを狙われたら確実に死ぬだろうと確信した部位。
すなわち脳か心臓を。
ノブヒコの苦悶の声が城に響き渡る。
その声を聞き、ミズキは驚愕した。
「もしかして、あの人は私達を待たずにノブヒコを討ちとるつもり!?」
「なんと! いかになんでもそれは無謀というもの!」
ミズキとアガキチの狼狽を感じたスバルは、反射的に答える。
「あの人はあの人でやれることを全力でやってるだけだよ。だから俺たちもやれることをやろう!」
幸か不幸かタイムマシーンは近くにあった。
狐が使っていたのであろうそれの扉を開き、スバル達はまっすぐ操縦席へ向かう。
やがて目的の場所へと辿り着くと、ミズキは操縦席の前にパソコンを設置。
「コンピュータ、これで準備は完了! 目的の年代は!?」
「やっぱりノブヒコの歴史よりももっと古い時代に行くのか?」
『いいえ』
コンピュータは問いに対し、短く答える。
『目的の時代は2378年の8月13日です』
「2378年!?」
なんでそんな中途半端な。
そう口を開きかけた時、ミズキは気付く。
「ミストラル襲来事件の50年後!」
『そうです。ミズキ、セキュリティロックの解除は完了しました。ノブヒコがこちらに攻めてくる前に早く発進しましょう。スバル、アガキチの両名も席についてください』
「了解だ!」
「畏まりましたぞ!」
席についたのを確認し、ミズキは手慣れた動作でシステムを稼働。
「よし、私たちが使っていたのと基本システムに違いはない! 行ける!」
操縦桿を引く。
それと同時にタイムマシーンは虹色の輝きに包まれ、時間の荒波の中へと消えていった。
時間移動を始めて目の当たりにしたアガキチは戸惑いながら周りの景色を眺めるも、既に経験しているスバルとミズキはそんな余裕などない。
「それで、結局どうするんだ? なんか作戦があるみたいだけど」
コンピュータはカイトが覚醒した直後、急に具体的な指示を出してきた。
カイト達はそれを信じて行動したのだが、時間がなかったために内容までは確認できていない。
「そもそも、相手の技術力は4500年モノだろ? なんで2300年なんかに」
『我々に残された戦力があなただけだからです。蛍石スバル』
急にフルネームを呼ばれ、スバルは身震いする。
「確かにそうね。アガキチさんは武士だけど、戦国時代の人間に化物の戦いは無理よ」
「なんの! このアガキチ。皆様の為ならばこの身が朽ちるまで――――」
「そういうのいいから!」
気持ちは嬉しいが、今求めているのは意気込みではなく勝算だ。
しょんぼりと椅子に座るアガキチを尻目に、ミズキは続ける。
「そうなると、私たちに残されているのはブレイカーだけってわけね」
『はい。他の時代から更に応援を求める手もありますが、それよりも前にポリーンに代わるブレイカーを手に入れるべきだと思われます』
既に狐の手により歴史は大いに狂っている。
今はノブヒコとカイトが激突しているがゆえに、時代の修正はまだ起きていないだろう。
『まだタイムパトロールも復活していませんが、ひとつだけ確定したまま残っている未来があります。それが2300年のミストラルの襲来事件です。狐はあれを回避したかったのだと思いますが、具体的な行動をとる前に敗北しました。ノブヒコも知っていましたし、この未来は迎えているものだと判断します』
「あの、コンピュータ。あまり過去の人間がいる前で当人たちの未来の出来事の詳細を語るのは宜しくないんじゃない?」
『本来ならばそうですね。ですが、今回は緊急事態です。それに、彼らにとっても無関係ではありません』
「それは、あの人がミストラルに寄生されていた人間だから?」
『いいえ』
すべてが解決し、スバル達が元の時代に戻った時、タイムパトロールの掟によって記憶は末梢する。
だから今から語る事も、やがては忘れる。
そう前置きしたうえでコンピュータは語った。
『蛍石スバル。あなたはそのミストラル事件の当事者です』
「え?」
『ノブヒコの城にハッキングを仕掛け、ずれた歴史の相違点を確認しましたが、それでも間違いありませんでした。あなたは自分の時代の大戦を生き延びた後、冷凍睡眠に入ることで宇宙進出の時代を迎えることになります』
「ええぇ……?」
急にとんでもない話を振られ、スバルは戸惑う。
「それ、本当に俺なの? 名前が同じだけの赤の他人なんじゃなくって?」
『タイムパトロールのデータベースには、各事件に対応できるようにするため、現地で協力すべき人物をリストアップしています。かなり詳細です。間違いありません』
「ウソだぁ」
「ウソだぁ」
「ウソであろう」
ミズキとアガキチまで疑ってかかっていた。
当然だ。
あまりにすっ飛んだ方向に話が進んでしまっている。
『いずれあなたが歩む未来です。それが本当かどうかは、あなた自身が確かめていただければ』
「じゃあ、そうだとしてどうするんだ? 未来の俺に助けを求めるの?」
たったひとりが応援に駆けつけてどうにかなる状況だとは思えない。
ブレイカーにしたってそうだ。
ノブヒコの数を考えれば、軍隊並みの規模が欲しい。
『これから我々がタイムスリップする日時は、あなたが亡くなる日です』
「あ?」
『ご安心ください。享年96歳。立派に天命をまっとうしました』
「待て待て待て! 自分の死に立ちあえってのか!?」
『そこまでは求めません。ですが、過去も未来も含め、あなたが一番優れていると感じたブレイカーを選んでいただきます』
後はそれにスバルを乗せ、『軍』を用意する。
具体的にどうするのかというと、
『狐が侵略してくるよりも前の時代に配置します。そして1日ずつあなたを回収して、あの戦に送り込みます。当然、最初のあなたがやられてしまえば後の日からやってくるあなたも消えてしまいます』
これは過酷な戦いだ。
コンピュータもミズキも、アガキチも知っている。
スバルはブレイカーでの戦いとなると修羅のような戦いをする男だ。
だがその分、危うい。
そんな彼を何度も同じ戦いに送り込もうとしている。
一度でもやられてしまえば、すべてが台無しになってしまう、長い戦いに。
「……わかった。それでいこう」
だがスバル本人に迷いはなかった。
疑いたくなるようなスケールの大きい話だが、それでカイトを救えるのであれば構わない。
彼は何時だって身体を張って戦ってくれた。
自分だって、何かをしてあげたい。
「連中の数は?」
「4519体でした」
「じゃあそれ以上の俺が必要になるってことだよな」
単純にひとりが1体を倒すと仮定し、4519人のスバルが動くことになる。
その為に必要なのは4519回の出撃。
想像すると気が狂いそうになるが、そこは息と共に飲み込もう。
今、スバルの中にある意思は『勝利のため』にまっすぐ突き進んでいた。




