イマジネーション・アーツ
カイトの左手から伸びる光の剣がノブヒコ達を薙ぎ払う。
この一撃はノブヒコが想定していたパワーを遥かに上回るものであり、防御体勢に入ったクローンたちをあっさりと吹っ飛ばしてしまった。
『おぬし、それはちょっと反則なんじゃあないんかのぅ!?』
「4500年から2000年以上昔の人間を潰しに来てるお前がどうこう言うな!」
至極まっとうな台詞であった。
正論なのでノブヒコも思わず『うむ! そりゃそうだ!』と納得した始末である。
『だが武士とモノノケが合わさったせいで、今のおぬしは最強に見える。恐らく、4500年ある人類の歴史の中でもここまで掛け合わせて強さを手に入れた者はそうはいまい』
少なくともノブヒコが入手した歴史のデータベースには一切存在していない。
これほどの力を手にしながらなぜに歴史に名を刻んでいないのか不思議に思ったが、ノブヒコは即座に結論に至った。
そういえばこの男、天下を望んでいないのだ。
ゆえに自ら前に出て覇者となる事を良しとしないし、戦っても自らの戦果を語ろうとしない。
もったいないと、強く思った。
『その力があれば天下を取ることも夢ではなかったろうに。儂らからすれば考えられんことじゃな』
こういうのを確か、彼らの時代ではこう言うのだ。
『これがあれだな。じぇねれーしょんぎゃっぷ、というやつじゃな!』
「楽しんでいるところ悪いが、お喋りをしたいなら通してもらうぞ」
糸に繋がれた蜘蛛の巣に入っている仲間たちを城に届けるという大仕事が残っている。
この任務を完遂しない限り、カイトは止まることが許されない。
向こうがミストラルの力とやらに怯んでいるなら、そのまま押し通してもらうだけだ。
『いや。なにを感じたかは知らぬが、それを許す程甘くはない』
ノブヒコは計算する。
先の一撃を叩き込まれた際、自分の想定よりも高い攻撃力を撃ち込まれた。
結果としてクローンたちは吹っ飛ばされたわけだが、まだ死んだわけではない。
死んでおらず、まだ立ち上がれるのなら、戦える。
その為に再計算を行う。
2300年に地球に本格襲来するというミストラル。
人類を崩壊寸前まで追い詰めた超パワーを計算式に打ち込み、その場で自己改造を実施。
『言った筈だ。儂はそなたらを甘くは見ぬ。全力で討つ、と!』
最初の全力計算から導き出したスペックは超えられた。
ならば次だ。
幸いにも4500年の技術は、クローンたちの細胞を一瞬で作り変え、計算通りの強さへと変貌させる。
『さあ、儂よ。参るぞ!』
吹っ飛ばされ、倒れていたノブヒコ達が一斉に起き上がる。
各々の武器を持ち、再度カイトへ突進してきた。
「きやがったな」
「カイトさん、気をつけて!」
今度は右手でスバル達を運んでいる手前、囲まれるわけにはいかない。
ゆえにカイトはイメージする。
左手だけで攻撃する手段を。
具体的なものを意識。
最終的にはノブヒコ達をすべて吹っ飛ばすのが理想だ。
だから破壊力が求められる。
破壊を強く意識して、左手にイメージを具現化させればいい。
新人類王国での戦いで学んだことだ。
次はイメージの具現化に使う代物だ。
さっきはとっさに巨大な剣を出したが、あれは普段使っている爪を大きくして使った結果でしかない。
彼らは鎧以上に頑丈で、数もある。
だから同じ手段ではなく、もっと違うなにかで攻めた方が効果的な筈だ。
槍がいいか。
いいや、あれはリーチはあるが直線的で、仕留めきれなかった敵の処理に困る。
斧がいいか。
いいや、叩きつける分には有効かもしれないが、上から振り下ろす時点で避けられる恐れが大きい。
この際小さな短剣を意識して、全員を切りつけるか。
いいや、スバル達を運んでいる状態でそれは現実的ではない。
距離を一旦とって弓や銃で狙い撃つか。
いいや、今回は城へ運ぶことが優先度が高いから、例え戦法でも後退が必要そうな武器は使いたくない。
では守りを意識し、盾を使って一気に突っ込もうか。
いいや、自分は守れてもスバル達がやられたら意味がない。
思考に思考を重ね、破壊を意識すること1秒未満。
結論をだし、カイトは左手をかざした。
『貯めたパワー、どうやって使うのかな?』
「もちろんぶつけるのさ」
『どんな形で?』
「決まらないから、そのまま投げる!」
自分の中のストーカーに向けて言い放つと、カイトは投擲。
左手に凝縮された破壊を球体に変え、そのままノブヒコ達に投げ放つ。
『むぅ!?』
強烈なエネルギー反応が城を通じてキャッチ。
さっき放った光の剣とは明らかに違う武器を見て、ノブヒコは身構える。
『じゃが、守りだけでは戦には勝てぬ!』
ゆえにノブヒコは敢えて防御の姿勢をとった。
正面から受け止め、力を示すつもりだ。
『来るがよい!』
緑の光球がノブヒコのひとりに命中。
槍の柄にぶつかったそれは鎧ごとノブヒコを押し込み、一気に後退させた。
『なんという力!』
「潰れろ!」
掌を前に突き出し、カイトは強く念じる。
言葉のまま、光球の前に潰れて消えろ、と。
『おぬしの意思の力が生みだした物ならば、それに抗うのもまた意思の力よ!』
ノブヒコもまた、演算。
球を受け止めたクローン・ノブヒコの肉体を更に強化し、姿勢を維持したまま均衡を保っている。
その他のノブヒコも後ろに回り、背中を押していたのだ。
「ぐ、ぎ!」
押し出した掌から圧力を感じる。
過去、新人類王国で最強と呼ばれた鎧すら消し飛ばした攻撃が通用していない。
それどころか押し戻されかけている。
この危機をどう乗り越えるべきか考えていると、後ろからスバルが知恵を回す。
「カイトさん!」
「どうした!?」
「押してダメなら引いてみろってなんかで聞いたよ!」
「なるほど。それでいこう!」
藁にもすがる思いで提案を受け入れる。
破壊の力を一点させ、これまで念じていた『破壊』をすべて『引き寄せ』に変更した。
光球に込められた破壊のエネルギーが一瞬にして吸引力に変わる。
『ぬう!』
その効果は絶大だった。
周囲にいたノブヒコ達は一斉に引き込まれ、球にくっついていく。
近くにいた一軍は肉体強化の恩恵を受けつつも吸い込まれ、ひとつの塊として取り込まれてしまった。
「やった!」
「君、あそこまで考えて提案したの?」
「いや、なんか押し出して苦しそうだったから……」
適当な回答だった為、ミズキはあきれ果てる。
上手くいったからいい物の、一歩間違えたらカイトごと殺されていたのだ。
適当な言葉に、苛立ちすら感じる。
「でも、ほら! ゲームでもこんな感じで塊作るのあるから」
「ゲームとこの状況を一緒にしないでよ!」
「でも、俺って割とゲームでブレイカーを動かせるようになったけど」
ミズキは思った。
2000年代のゲーム事情はどうなっているのだ、と。
修羅を量産する思想でもあったのだろうか。
眩暈がしたところに、カイトが言葉をかける。
「賑やかなところ申しわけないが、少し困った」
「どうしました?」
「引っ張る力が強すぎて俺もそろそろ飛びそう」
真顔でとんでもない事実をあっさりと言ってのけた超人を目の当たりにし、ミズキが叫ぶ。
「自分の攻撃でしょ!? なんとかうまくコントロールして吸い込まれないようにできないんですか!?」
「色々と考えているんだが、頭の中で吸いこめと命じてないとアイツらが動くから……」
ゆえに、球は吸引力を維持したまま展開している。
しかもカイトは現在進行形で思考中だ。
自然と足は浮き、カイトが握っている糸も吸い込まれ始めた。
「やばいやばいやばい!」
吸い込まれていくカイトとスバル達。
飛びこむ先には、ノブヒコで構築された巨大な塊。
「あれって流石にぶつかったら死ぬんじゃないですかね!?」
ノブヒコ達は武器を構えている。
あそこにくっついたら間違いなく串刺しだ。
やたらと棘が鋭いサボテンに触れるような物である。
「むぅ。どうするのが一番いいのか」
「ねえ、この人どうしてこんなに呑気なの!?」
「刺さっても我慢しちゃう人だからね……」
言われ、カイトは気付く。
そういえば今の自分は再生能力があまり機能していないのだ。
ここでノブヒコ達の攻撃を受け止めようものなら、妙な心配を彼らにさせることになる。
自分だけなら我慢するが、この状況はいただけない。
「まだ慣れてないが、こうなったら直感で行こう」
瞼を閉じて視界をシャットダウン。
ノブヒコ達を見ないようにし、念じた。
自分たちは霧である、と。
具体的なイメージを構築すると、左目に収められたミストラルの眼球がそれを具現化する。
カイト達は一瞬霧になると、ノブヒコ達を通過して城の手前まで瞬間移動してみせた。




