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エクシィズ外伝  作者: シエン@ひげ
襲撃! 超団長ロボ、ブナシメG!
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スコップと友情はキノコとタケノコに勝てるのか

 シデンからエイジに同調先が変更されたことによって、獄翼の装備にも異変が起きる。左右の両脚部に装備されていた6つの銃口が光の粒子となった。が、粒子は霧散することはない。銃を形成していた光は獄翼の手元に集まっていき、新たな姿を構築する。

 掌に収まったそれは、


『このスコップでドリルを弾き返してやるぜ!』


 アキハバラで天動神の頭を凹ませた恐るべき武器、アルマガニウムのスコップだ。獄翼用に再現されたそれは、さながら槍のように振り回されたかと思うと、エイジの意思によって刃先をドリルへと突き付ける。


「俺、今物凄い体験をさせられた気がする」


 スコップによる演舞を獄翼を通じて体験させられたスバルは半目で呟いた。

 この感覚を忘れずにいられたらブレイカーで大道芸ができるかもしれない。


『生き抜いたら大道芸にでも使ってくれ。そして俺の雄姿もな!』

「頼りにしてる」

『嬉しいこと言ってくれるぜ』


 迫る巨大ドリル。

 振りかぶる獄翼。

 ふたつの影は時間と共に近づいていき、やがて重なる。


『うおりゃ!』


 獄翼エイジが吼えた。フルスイングされたスコップが、猛烈な勢いを纏って回転してくるドリルと激突。ドリルの内部に搭乗しているキノコに激しい振動が走る。


『っぷ!』


 息が詰まる。キノコは横に置いてあったカステラの山が崩れていくのを察知し、自然とそれを押しとどめた。操縦席から手が離れる。ゆえに、ドリルの勢いも自然と弱くなる。


『もらったぁ!』


 その弱みを正気と睨んだエイジ。彼はスコップでそのまま振り抜き、キノコドリルを打ち返した。

 野球ボールのようにかっ飛ばされたキノコドリル。その先には発射先であるブナシメGが空中で佇んでいる。


『キノコドリル、打ち返されました!』

『男のドリルが通じません!』

『キャッチだ!』


 ブナシメGの光の腕が弾き返されたキノコドリルをキャッチ。何事もなかったかのように頭の上にかぶせた。


『キノコ、無事か!?』

『へい、ボス! カステラは無事でさぁ!』

『団長と呼べと言ってるだろうが!』


 叱っていながらも団長は思う。

 相手はやはり新人類王国を退けたトンデモ連中だ、と。始めは愉快な集団かと思っていたが、いざブレイカーを捕まえてしまおうとすると、あまりの破天荒ぶりに驚かされるばかりである。

 だが、負けはしない。勝つのはこちらだ。

 光りの腕という決定打さえ打ち込めればこちらの勝利は確実である。ゆえに、団長はあくまで戦うことを選択した。


『キノコがダメならタケノコだ!』

『了解です、団長!』


 キノコと違い、タケノコは礼儀正しく敬意を示す。

 タケノコが乗るブレイカーは光の腕によってある物質へと変貌し、キノコと同様にブナシメGの武器となったのだ。

 その武器とはズバリ、


『唸れ、タケノコ白馬!』


 ブナシメGの先端。今はドリルが頭に装填されているが、その先から小さな物体が出てきた。見たところ、人のようだ。


「なんだあれ」

「モニター、拡大する」


 カイトがタッチパネルを操作し、カメラをズームに切り替える。

 ブナシメGの先端を映す映像が拡大された。

 馬だった。正確にいえば木馬だ。メリーゴーランドなどでよく見かける木造っぽい馬だ。しかも人が跨っている。


「なんだあの馬は」

「あの人、寒そうだね」

「鼻水垂れてるぞ」


 獄翼内部では唐突な馬の出現に戸惑っているが、団長側は一切遊んでなどいない。一見、ただの玩具のようだが、これも立派なブナシメGの武装なのだ。いや、ブレイカーなのだ。


『キノコドリルを打ち返したのは褒めてやろう! だが、今度のブレイカーは一味違うぜ!』

「いや、あの。あれ、ブレイカーじゃない……」

『その名もタケノコ白馬だ! どうだ、見事な白馬っぷりだろ! この白さの前にはどんなブレイカーも真っ青だぜ!』

「いや、だから。ブレイカーじゃない……」

『このタケノコ白馬とキノコドリルで俺たちは世界征服を成し遂げるのだ! タケノコ、やれぃ!』

『はい、団長!』


 まったく話が噛み合っていない。

 キノコドリルと比べても武器にさえ見えない。

 タケノコ白馬に跨っている男が寒そうなだけである。


「気を付けろ、ドリルの後に来るんだ。なにかある」


 カイトは警戒しているが、スバルとしてはなにがきても大したことはないんじゃないかとさえ思いはじめていた。

 なんたって馬である。あの馬が体当たりをしたとしても獄翼の装甲に傷がつくとは思えない。それこそ電磁ライフルで狙撃してくる方が脅威だ。


 が、そんなスバルの考えはすぐに払拭されることとなる。


「先端からエネルギー反応」

「ドリルから!?」

「馬の口から」

「馬から!?」

「規模はサイキックバズーカよりは低い。だが、直撃を受けたら獄翼も消し飛ぶ」


 先日の戦いでシールドは使い物にならなくなった。自慢の機動力も、まだカイトを使って修復が完了していない。


「カイトさん、交代を!」

「遅い」


 既に発射態勢は整えられた。ここで交代しても、再生にはやや時間がかかる。ましてやトップスピードで切り抜けるには時間がいるだろう。


「連中はこっちの攻撃にも怯まずに攻撃を仕掛けた。勝つならこっちも殴り返すしかない」

『任せろ! キノコもタケノコもスコップで弾き返してやる!』

「いや、俺に考えがある」


 カイトが立ち上がる。

 彼は堂々とメイン操縦席を跨ぐと、スバルに命じた。


「開けろ。俺が出る」

「え」

「早くしろ。来るぞ」

「お、おう!」


 なにをする気なのかわからないが、とても嫌な予感がした。

 が、彼の気迫の籠った表情を見ては空けざるをえない。ゆっくりとハッチが開いていく。


「カイちゃん、今度はあのタケノコを切り裂くつもり?」


 シデンが問う。

 問われた本人は振り返りもせずに即答した。


「それが取柄だからな」

「凄く距離あるけどどうするの!?」

「生憎、力自慢の親友がいてな。放り投げられた後の捜索は頼んだぞ」


 その言葉で獄翼側の人間は全てを察した。


『カイト弾か!』

「防ぐのはそっちに任せる。俺は決着を」

『美味しいところを全部お前に待っていかれてないか?』

「ドリルをスコップで弾いた奴に言われたくない」


 それに、


「お前に投げてもらわんとあそこまで届かん」

『よく言うぜ。走ってジャンプすれば届きそうだろ』


 愚痴りつつも獄翼の掌に乗ったカイトを眺め、エイジは狙いを定める。


『残り時間は?』

「後1分!」

『決着の時間には丁度ってところだな』

「ああ。長引かせると新人類王国にも見つかる。さっさと終わらせるぞ」


 故に、


「一撃だ」

『元から弾にできるのはお前だけだぜ』


 獄翼が構える。

 カイトを掌に乗せたまま、大きく振りかぶった。


『食らえ必殺』


 右腕が振り下ろされる。


『カイト弾だ!』


 カイトが投げ飛ばされた。空気を切り裂き、残された腕を正面に向けて爪を伸ばす。黒づくめの人間弾丸はまっすぐ馬へと飛んでいった。


『団長! 向こうは人間を投げ飛ばしてます!』

『電磁ライフルを足で弾くような奴だぞ。人間だと思うな! タケノコ白馬、発射だ!』

『了解、発射!』


 馬の口から凝縮されたエネルギーが発射される。圧倒的な光と熱量が放たれるも、その光の柱はカイトに着弾した途端に弾けた。


『なにぃ!?』


 爪が切り裂いたのだ。切り裂かれた光は雨となり周囲に降り注ぐ。


「時間がない。防御はこっちでやる!」

『わかった。任せるぜ!』


 獄翼はスコップを手にし、光の雨をひたすら弾く。

 一方、タケノコ白馬の一撃を見事に切り裂いたカイトはブナシメGの先端に辿り着いた。近くで馬に跨っていたタケノコは、着弾した人間弾丸が突っ込んでいく様を目撃する。


「げっ」


 爪で装甲を貫通し、そのままブナシメGの巨体を貫いたのだ。

 タケノコの眼前に大きな穴が開いているのが見える。気のせいでなければ、穴から火花が散っていた。


「団長、ブナシメGが貫かれました!」

「おう、わかってる!」


 背後から声をかけられた。振り返ってみれば、他の団員達も何時の間にか勢揃いしている。


「喧嘩には負けたが、生きていれば世界征服のチャンスも来るってもんだ。今日の敗北を決して忘れず、明日に出直そう! 野郎ども、脱出だぜ!」


 力強く握り拳を握る団長。

 彼は悔しげに歯ぎしりしつつも、その拳を天へと掲げた。


 同時、ブナシメGは大破した。









「おーい、カイト。どこだ?」


 カイト弾は強力な技だが、いかんせん弾丸がカイト自身なのが最大の欠点である。

 アキハバラで披露した時はビルがあったから丁度受け止めれたが、今回は辺り一面が荒野なので中々見つからない。

 獄翼のセンサーを総動員して周囲を探すが、生体反応は野生動物くらいしか見当たらなかった。


「方角的にはこっちに飛んだ筈なんだけどな」

「今度からあの技やる時はあの人にロープでも結んだ方がいいよ……」


 死んだ魚の目のような無感情な表情でスバルは呟く。

 広大な大地から人をひとり見つけるのは結構大変なのだ。


「スバル君、生体反応があったよ!」

「え、本当!?」


 シデンが見つけた反応が後部座席から転送される。獄翼はその進路へと飛んでいくと、荒野に足だけ生えている珍妙な光景が見えた。


「……なにあの植物」

「凄いバタバタしてるね」

「写真撮るか?」

「止めとこう。後で殺されそうだし」


 とりあえず、先に救出だ。

 獄翼を着地させ、ハッチを展開。ウィンチロープを使って三人は大地へと降り立った。頭から大地に突っ込んでいる足に近づいていく。


「おい、無事か?」


 エイジが足を掴んで一気に身体を引き上げる。砂まみれになった黒ずくめのカイトが姿を現した。

 口から砂を吐き出しつつ、カイトは咽る。


「げほっ、がはっ……」

「お前って本当に不死身だよな」

「いや、毎回死ぬかと思ってるんだが……」


 カイトが虚ろな目で周囲を見やる。


「例のでかいブレイカーは?」

「破壊できたよ」

「連中はどうなった?」

「わからないよ。爆発に巻き込まれたか、脱出したか……」


 どっちにしろ、夜叉半月を破壊した今、ブナシメGの脅威はないものだと考えていいだろう。

 新人類王国以外の脅威がここまで凄まじいとは思わなかったが、もうあんな障害はないと考えていいだろう。

 カイトは半目になって獄翼のハッチを見つめる。


「よかったな。もう足で操縦されることはないぞ」

「反省してるからぶり返すなって言ってるでしょうが!」


 獄翼の瞳がきらりと光る。

 それが機体の感情を表現しているのかは誰にもわからなかった。


 ただ、後日。

 紙相撲でムキになった大きな子供が後部座席で大暴れするのだが、それはまた別のお話である。

ブナシメG編、完結!

次回はトラセット編と星喰い編の間の時期に起きた番外編、『超人大決戦編』にご期待ください。


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