ミストラル・ギフト
敵に取り囲まれているのは理解している。
だが、その上でカイトは救出を優先させた。
転倒した巨人の胸部までよじ登ると、彼は語りかける。
「開けれるか!?」
すぐに返答がない。
ゆえに、力ずくでこじ開ける選択を取る。
爪を振るい、装甲部分を綺麗にカット。
切断面を乱暴に蹴り飛ばした後、中の様子を確認する。
「全員、無事か!?」
「痛ぁ……」
即座に目に入ったのは頭を抑えながら悶絶するスバル。
後ろに座っていたミズキはひっくり帰っているが、足がぴくぴくと動いているので問題ない。
アガキチは顔面がめり込んでいるように見えるが、あのアーガスの祖先なのできっと大丈夫だろう。
パツキンの血筋は頑丈なのだ。
きっと。
「すぐに逃げろ! ベルトも外せ!」
周囲を改めて確認する。
ノブヒコが周りを覆っていて、とてもスバル達が逃げられるような道は残されていない。
『どうする? もうよじ登ってくるか、直接飛びかかってくるのは時間の問題だと思うけど』
エレノアが脳に直接語るまでもない。
普通に脱出させるのは、既に不可能な状態だ。
「横がダメならどうするか知ってるか」
『なんとなく察したけど、是非とも君の口から聞きたいかな』
「下から行くんだよ」
カイトがコックピットへ飛び込む。
それを合図とするようにして一斉にノブヒコたちが跳躍してきた。
「死にたくなかったら俺から離れるな!」
ベルトを外し、ひっくり返っていた3人を掴んでから足を突き出す。
コックピットの背面を思いっきり切り抜いた後、ポリーンの背後に大きな穴が開いた。
装甲をぶち抜いた後を見たカイトはすかさず3人を抱えたまま跳躍。
地面に着地すると、抱えた3人を思いっきり放り投げた。
「え、ちょ!?」
「わあああああああああああああああああああああああ!?」
ぶん投げられ、宙に浮くスバルとミズキ、アガキチ。
カイトは右手を掲げ、指示した。
「エレノア!」
『はいはいっと』
右腕だけが黒い霧に包まれ、エレノアの物と入れ替わる。
指先から無数の糸が噴き出したかと思うと、一瞬でスバル達を確保した。
さながら蜘蛛の巣のように展開されたソレはクッションの役割を果たし、スバル達に傷をつけることなくポリーンからの脱出を成功させる。
「助かったぁ」
「でもないんじゃないのかな!?」
だが、逆にいえば宙から身動きが取れないことを意味している。
当然ながらノブヒコはその隙を逃すまいと迫ってくるが、
「ここは俺がなんとかする。お前たちは一旦ここから離れろ!」
右腕をエレノアと入れ替えたままのカイトが間に割って入る。
蜘蛛の巣はスバル達を包み込むと、城から離れ始めた。
『ぬぅ、なんだあれは! どういったカラクリか!』
ノブヒコも戸惑っている。
どうやら彼はまだエレノアの存在を認識していないようだ。
あくまでカイトが奇妙な手品を使っているとしか思っていない。
似たようなものだが、これは好機だ。
動きは捕捉できても、糸までは認識できていない。
「左手も使っていい。こいつ等を近づけさせるな」
『奮発するねぇ! そういうの嫌いじゃないよ』
左手も黒い霧に包まれ、エレノアのそれと入れ替わる。
こちらの指から伸びる銀の閃光は瞬く間にノブヒコ達の間に割って入り、肢体を一瞬で絡め取った。
『ああ、もう! 本当に堅いね、こいつ等!』
絞め殺す勢いで糸を伸ばしているのだろう。
腕を通じてカイトにも伝わってくる。
だが、ねじ切ることができない。
できるのは足を動かすのを封じることだけだ。
「カイトさん、エレノアさん!」
「ここは任せろと言っている!」
後ろからスバルの声が聞こえる。
長い付き合いだ。
なんとなく彼が言いたい言葉は理解している。
だが、ブレイカーを失った今のスバルにできることなど、なにもない。
アガキチやミズキにしたってそうだ。
このノブヒコ集団はひとりひとりが強い。
せめて元の時代でサイボーグを退治できるようになってから戦闘に参加してもらわないと話にならないレベルなのだ。
「でも!」
「やりたいんだったら知恵を回せ。なんとかできるように!」
蛍石スバルは赤点王だ。
彼に趣味以外の知識は期待していない。
ここで彼に求めるのは知識ではなく、知恵だ。
このまま戦ったら遅かれ早かれ、自分は倒れる。
そんなことはわかっているのだ。
だから後ろから同居人が心配そうな声をかけてくる。
頭にくる話だが、理解はできる。
「その為に生きろ! どんな手段を使ってもいい」
「アンタだって生きないと話にならないでしょうが!」
「時間なら稼げる!」
手段がないわけではない。
ある程度スバル達とノブヒコの距離が開いたのを確認すると、カイトは深呼吸。
左目を覆っていた布を乱暴に放り投げ、その黒い眼を露わにした。
『む!?』
ノブヒコが息を飲む。
遠巻きでそれを見ていた狐や、スバルの後ろで頭を抱えていたミズキも同様だった。
「あれはもしや!」
「コンピュータ、確認して! あの人からの反応はもしかして」
『はい、間違いなくミストラスの反応です』
コンピュータが紡いだ言葉に、スバルが振り返る。
「ミストラルってなに?」
『あなた方がいた時代より300年ほど後の宇宙進出時代に記録された、地球外生命体の名称です。わかりやすくいえばエイリアンです』
「エイリアン!?」
それがカイトから検出されたという。
つまり、
「カイトさん、エイリアンなの!?」
「バカを言うな。俺はれっきとした地球生まれだ」
「正直、宇宙人でも納得できるんだけど」
これまでのデタラメな活躍を見せつけられたミズキがぼやく。
が、カイトはしっかりと訂正を求める。
「ミストラルがなんなのかは知らん。だが、俺はちゃんと地球で生まれて、そこで生きてきた」
親の記憶はない。
だがエリーゼに強さを与えられ、マサキの優しさに触れて、ここまで生き抜いた。
その事実は、絶対に曲げられない。
「俺が神鷹カイトだ!」
プライドと共に、瞳に炎が宿る。
燃えるような真っ赤な深紅が左の黒目に浮かび上がると同時、全身から黒い湯気が湧き上がった。
『まさか、彼はタイムパトロールにも記録されていない、人類初のミストラルを取り込んだ人間!?』
「どういうこと!?」
コンピュータがなにやら勝手に納得しかけているのを見て、スバルは狼狽する。
だが、未来の化学は沈黙。
やがて、スバルではなくミズキに提案する。
『提案があります、ミズキ』
「どうしたの?」
『この場は彼に任せるべきです。我々は現状を打破すべく、タイムスリップすることを提案します』
「でも、もうタイムマシーンはないよ!」
『いいえ、ノブヒコが今使ったものがあります』
スバルとミズキが同時に城を見やる。
カイトによって距離を放されたが、無数のノブヒコが立ち塞がる銀の居城。
あそこに突入してタイムマシーンを奪え、と言っているのだ。
「ウソでしょう!? 考え直して!」
『いいえ。残る勝算はこれしかありません。あの方が記録通りの人物なのであれば、我々は彼が抑え込んでいる間にタイムスリップを敢行する必要があります』
「カイトさんだけじゃ勝てないの!?」
スバルが問う。
彼は以前見ている。
新人類王国での白羊神との決戦で見せた、目玉の超パワー。
あれと同じ現象が再現されているのだ。
この未来人たちはあれを『ミストラル』と名付けているようだが、そのミストラルでもどうしようもないというのだろうか。
『残念ながら、あれは使うたびに身体の細胞を大きく破損すると記録されています。ミストラルに寄生された人間は、長時間の戦闘は避けなければなりません』
ざっくりとした説明だが、それだけすんなりとスバルの脳にも理解が及ぶ。
だが、張本人のカイトは納得したようだった。
「なるほど。どうりで」
深く頷き、コンピュータの言葉に納得する。
自己再生能力の修復が遅い理由に、ようやく合点がついた。
「つまり俺が倒れる前にお前たちが勝算とやらと持ってくると認識すればいいんだな?」
『はい』
「いいだろう! その賭け、乗ったぞ!」
右手を掲げる。
左手からは不気味に輝く緑が伸び始め、爪先から光の剣を形成し始めた。
『なるほどのぉ。おぬし、武士であると同時にモノノケであったか!』
結構前に時代錯誤のスニーカーサムライからも似たような言葉を贈られたことがある。
あの時は憤慨したが、今となっては否定材料がない。
だったら見せてやろうじゃないか。
本物のモノノケが、大暴れする様を。
「モノノケを槍や鉄砲でなんとかできると思うなよ!」
疾走する。
左手から伸びる光の剣が伸びて、横薙ぎに繰り出された。
鞭のようにしなるそれはぐんぐんと伸びていき、ノブヒコの軍勢を押し流す波となって襲い掛かる!
『むお!?』
「ぶっ飛びやがれ!」
緑に輝く巨大な鞭がノブヒコたちを払った。




