NOV4519の野望
天下を目前にしたノブヒコは、自信に募る焦りを自覚していた。
特に意識せざるをえなかったのは老化による衰えだ。
勢力が広がるにつれ、自身の目が届かない場所がどうしても出てきてしまう。
裏切りなどが起きても笑って首を刎ねる自信はあるが、これが続いてはやがて終焉を迎えるだけだ。
なんとかできないものだろうか。
夢物語のようなことをノブヒコは考える。
老化を克服し、かついかなる敵が現われても絶対勝利をもぎ取れる強い肉体が欲しい。
天下を統一できても、その後に起こるであろう内乱。
そして島国の外のことを考えると、どうしても欲しくなってしまう。
だが、そんな方法などありはしない。
天下を目指すノブヒコは常に多忙だった。
ありもしないとわかりきっている妄想を求める余裕など、彼にはなかったのだ。
ところが、である。
彼は知った。
はるか未来に、自分が求める肉体を持つ人間が誕生したことを。
狐と名乗る未来人が『もにたぁ』なる見世物で見せてきた。
巨人となったモリマルを圧倒する人間の姿を。
その堂々たる態度と圧倒的な力は、まさにノブヒコが夢見た姿に他ならなかった。
彼を迎え入れようとは考えない。
あれもまた、自分の天下の道を阻む者。
狐は任せよと言ったが、史上最強の『武士』を前にして勝てるとは思えない。
では自分の手で倒すしかない。
例え自分が倒れた後で平和な時代が訪れたとしても。
その先に更なる戦乱の世が訪れる。
必要なのは一時の平和ではない。
未来永劫に続く『天下統一』なのだ。
ノブヒコは狐によって知った。
この島国を含め、世界が混沌に陥る戦いが起きることを。
そして更に後の世では、天の向こうに住む者との戦いが待っていることを。
平和など突然の戦火の前では役に立つまい。
民が安心して暮らせるのであれば、それも悪くはないとは思う。
しかしそれだけではダメなのだ。
この時代だけではない。
人類がこの先も生き残るために必要なのは、そういうものじゃない。
強き統率者が必要なのだ。
ノブヒコはそれになりたい。
できることなら、これから続く人類の未来を永遠に守ってやりたい。
その為には証明せねば。
織田のノブヒコこそが天下統一に相応しい覇者である、と。
この時代の人間にだけではない。
後の時代からやってきた、ノブヒコの天下を許さぬ者にも、しっかりと証明せねば。
ゆえに戦を始めよう。
これは、この星の運命を決める天下分け目の大決戦である。
4519年に辿り着いたノブヒコの答えが形となり、カイトとポリーンに迫る。
全身を銀の鎧に包み、各々が好きな武器を所持していた。
その姿は、カイト達が元居た時代に存在していた『鎧』と酷似している。
『酷い数だね、これ』
カイトの脳裏にエレノアが語りかける。
「交代するか?」
『冗談はやめてくれ。あれ、全部にアルマガニウムが使われてるよ』
「今度はバッテリーじゃないってことか」
反アルマガニウムになった未来から更に後の時代からこんな代物を持ってくるとは、歴史とは中々に激動であるとカイトは思う。
歴史の教員となったヘリオンはどんな反応を示すかと少し興味が湧いたところで、カイトは走り出した。
『正面から行く!?』
「やるしかないだろう!」
狐などに構っている余裕はない。
今は眼前の敵を倒し、全員で生きて帰ることのみを考える。
スバル達では、ブレイカーが倒された瞬間に殺されてしまう。
「だから先頭には俺が立つ!」
一歩を強く踏み込む。
直後、大地が揺れた。
カイトの肉体は加速し、ノブヒコの軍勢へと突撃!
『む!』
城からこれを見ていたノブヒコも、目を疑う。
当然だ。
さっきまでこちらに向かってきていた男の姿が急に見えなくなったのだから。
『モリマルめには手加減していたということか。しかし!』
ノブヒコ達が一斉に視界を共有させる。
その数、年数と同じく4519。
合わせて9038もの目玉がひとつの視界となって、カイトを追いかけた。
『そこか!』
ノブヒコのひとりが槍を掲げる。
柄に爪が激突した。
「ちぃ!」
『見切られた!?』
「しかも、堅い!」
一撃で穿つつもりで放ったが、しっかりと防御されてしまった。
しかも連携もできている。
左右に回り込んできたノブヒコ達がこちらに武器を向けた。
『どうするの!?』
「こうするのさ」
大地を踏み込む。
今度は破壊ではなく、軽く自身の身体を宙に浮かせるためのものだ。
槍の柄を爪でしっかりと挟み、それを軸として真上へと浮かぶ。
左手の爪を伸ばし、真上から銀の兜を貫いた。
「討ち取ったり!」
『他のも全員大将だけど!』
「わかってる!」
ひとりを倒してもまだ終わらない。
周りは囲まれ、自身はまだ宙に浮いている。
真下に集ったノブヒコ達が、一斉に槍の矛先でついてきた。
それを見たカイトは、宙で身体を翻した。
くるりと回転し、右足の爪を伸ばす。
真下へ向けると、丁度槍の矛が爪とぶつかった。
カイトの身体が無数の槍と右脚の爪で固定される。
「む!」
防御には成功した。
だが次の攻撃は既に迫っている。
銃だ。
軍勢の後方にいるノブヒコの集団が、光の銃弾を発射してくる。
しかしカイトは焦らない。
自身に命中するであろう軌道のみを視界に入れ、光が命中する瞬間に両手の爪を振りかざした。
爪に弾かれた光の弾丸は真下にいたノブヒコたちに命中。
ぐらついた槍によって大地に落下し、カイトは顔を上げた。
『流石よのぉ! 儂の想像以上に動きよるわ!』
一連の動作を見たノブヒコが笑う。
まだまだ余裕がある笑い方だ。
『モリマルめを壊した時は本調子ではなかったか?』
「まあ、黙って見てろ。すぐにもう一度捌いてやるからな」
『ふむ。そなたに明確に狙われているのは少し怖い気もするが、儂ばかり見ている余裕はあるのか?』
言われ、カイトは気付く。
振り返ると同時、ノブヒコもまた明確な言葉を紡いだ。
『ぶれいかぁ、と言ったか。そちらの方は儂に対応できていないようだが』
「いかん!」
ポリーンが刀を振るってノブヒコ達と応戦しているが、自慢の速度が完全に殺されているせいで囲まれてしまっている。
まともに飛べる気配すらない。
「スバル、どうして飛べないことを黙っていた!?」
『ブレイカーが出てこないなら、追っ払う事はできるかと思ってた!』
だが、現実はそんなに甘くなかった。
ノブヒコ達は鋼の巨人が振るう刀をなんなく避け、脚部に飛びついては攻撃をしかけている。
銃を持った個体は後方に構えているお陰でまだ致命傷にまで至っていないが、立っているのもやっとの状態だった。
あれでは退避する事さえ難しい。
『退け、この!』
『儂はそなたの奮戦も見ていた。おぬしもまた武士なのであろう』
『いや、ニート予備軍ですが』
『ふむ。それがそちらの時代の武士の呼び名なのか?』
なにやら凄まじい勘違いが生まれてしまった。
だが、大事なのは彼らの在り方であって呼び名ではない。
『まあよい。万全に攻めれぬ敵を倒すのもまた戦。卑怯と思うかもしれぬが、許せ。儂もまた必死なのだ』
『それで殺されて、許せるほど、俺は心が広くないです!』
足の関節が槍で貫かれる。
ポリーンの巨体が大きく揺れ、胴体は大地に倒れ込んだ。
『うわぁ!』
『きゃあ!』
スバルとミズキの悲鳴が聞こえる。
アガキチは中で耐えているのか知らないが、危険な状況なのは一目瞭然だった。
「ちぃ!」
舌打ちし、カイトは猛然とダッシュ。
ポリーンを囲むノブヒコ達を無視し、まっすぐコックピットへ駆けていく。
『ふむ。頭ではなく胸のくぼみのような場所へと向かったか。つまり、そこが急所であるな』
ポリーンを囲む自分へと指示を出す。
倒れた巨人への攻撃は胸へと集中。
モリマルを倒した武士ともども、集中攻撃せよ、と。




