サード・チャンス
狐とノブヒコがこの戦いに勝利する条件は揃っていた筈だ。
1500年も未来の技術を持ち込み、邪魔なタイムパトロールも歴史の上書きで行動不能にさせた。
なのに、これはどうしたことだ。
天下を取る筈のノブヒコは討たれ、戦力として用意した戦国ブレイカーはすべて破壊される始末。
カイトに連れ出され、城の外に広がる惨状を目の当たりにする。
「なんの冗談だ、これは」
たった1機の旧式ブレイカーを倒すことができずに全滅した自分の軍を見渡す。
目が眩むのを堪えるのがやっとだった。
「お前が知らんものがこの世にはふたつある」
あまりの理不尽に身を震わせる狐に、カイトは真顔で語りかけた。
「ひとつは俺。もうひとつはアイツだ」
「化物共め……!」
「本人の前で言ってみろ。全力で否定するだろうよ」
悪態をつくも、負け惜しみなのはよく理解している。
完全な敗北だ。
異常な超人と、異常なスペシャリストの登場で狐の計画は完全に崩れてしまった。
その事実を見せつけられ、身体から力が抜ける。
「私を殺すがよい。それで満足だろう?」
「殺して全部解決するならそうしてやるさ。だが、ゲームむたいにボスを倒せばそれで解決という単純な話でもないだろう」
狐による歴史改変は既にカイト達の時代にも影響が出ている。
元に戻す為には、辻褄合わせがどうしても必要だった。
だが困ったことに、どうすればその辻褄合わせが起きるのかがわからない。
未来からやってきた新人タイムパトロール隊員は『タキオン粒子』なる修正力が働くと言っていたが、それにしたって狐の持ち込んだ超技術はこの時代では持て余してしまうだろう。
「とりあえず、お前はタイムパトロールに引き渡す。後のことはその後考える」
ミズキのタイムマシーンは破壊されてしまった。
ゆえに、狐が使ったタイムマシーンを奪う必要がある。
それを吐かせる為にも、まだ狐を殺すわけにはいかなかった。
「ふん。私にはもうなにも残されていない。なんだったら、お前たちをこの時代に道連れにしてもいいのだぞ」
「言ってろ。無理やり口を開かせる手段はそれなりに知ってるんだ」
振り返り、狐に勝ち誇った笑みを見せた。
その時だった。
「ん?」
ぼんやりと城が輝いている。
搭載されたエネルギー砲が暴発しようとしているのかと思ったが、違う。
「なんだ、あれは」
「ん?」
狐も城を見た。
意外なことに、彼にとってもこの現象は予想外なものだったらしい。
しばし呆けたように眺めた後、首を横に振った。
「貴様が城になにか仕掛けたのではないのか?」
「い、いや。知らない。私はあんな物、知らない!」
自身の計画に更なる歪が浮かんだのを知り、狐は動揺を隠せない。
化物共に計画を防がれただけでは飽き足らず、この上まだなにか起こると宣言されているのだ。
狐は既に、まともに思考できる精神状態ではなかった。
「確かに城を改造したのは私だ。だが、あくあで巨大ブレイカーとして設計し直したのだ。ノブヒコ様の天下のシンボルとする為に!」
織田の城が歪む。
光は湾曲し、まわりの景色もろとも、歪みの中に溶けていく。
『カイトさん!』
ポリーンをなんとか立たせ、中からスバルが声をかけてきた。
ブレイカーの計測器と未来のコンピュータを頼りに、カイトは素早く尋ねる。
「なにが起きている!? 攻撃が来るのか?」
エネルギー砲の発射態勢でないことは間違いないのだが、この城の光が攻撃以外の用途で使用されるとは思えないがゆえの問いかけだ。
カイトの疑問に答えるべく、ポリーンの中からミズキとコンピュータが状況を調査。
『こ、これは……!』
「わかったのか!?」
『タキオン粒子の膨張を確認。タイムパラドックスがあの城で発生しています』
コンピュータが答えを出した。
だが、そうなると次の問いが生まれる。
「なにが出てくる!? いや、それ以前に誰がやった!?」
狐は捕まえた。
外に連れ出す道中、ずっと監視の目を光らせてきたが、怪しい行動は一切確認できていない。
だから狐ではない。
彼以外のなにかが、更なる歴史改変を行おうとしている。
『正しい時代に戻ろうとしてるんじゃないの!?』
『タキオン粒子の膨張パターンが異なります。残念ですが、修正力よりも上書きする力の方が強いようです』
スバルの問いは、最悪な答えによってあっさりと否定された。
「城が、構築され直していく」
城を覆っていた歪みが復元していく。
だが狐が改造した巨大ブレイカーではなく、あくまで居城として。
NO・ブとして存在していた事実は、更なる過去の上書きによって、より歪な形へと変貌する。
『なんだ、あれ』
構築され直した織田の城は、元の形の面影が一切ない。
すべてが金属のような銀色で覆われ、伸びていた手足も姿を消した。
完全な新しい建築物そのものである。
「知らない。知らないぞ、私は」
狐が震える。
お面で覆われた顔に、混乱の色を浮かばせながら。
「私はあんな城を知らない。私の計画に、あんなものはない!」
『当然であろう』
城から重い声が響いてくる。
この声に、カイトは聞き覚えがあった。
「貴様は、さっき腹を掻っ捌いたと思ってたんだが」
「まさか貴方様は!」
『そうだ、狐よ。儂じゃ』
声の主、ノブヒコは力強く肯定する。
「何故ですノブヒコ様。何故に生きておられ……!」
『つまらぬことを聞くでない。重要なのは、儂に三度の機会が与えられたことよ』
狐はカイトの始末を提案したのはいい物の、その後の結果が宜しくない。
元からあまり信用していなかったのだ。
見切りをつけるのに、迷いはない。
だが狐が他の家臣と違うのは、未来の技術を持っていることだ。
『そなたのたいむましぃん、とやら。存分に使わせてもらったぞ。お陰で儂の影武者を用意するのも容易かったわ』
「し、しかし。コンピュータのロックが」
『ああ、あれか。動けと言うに言うことを聞かぬからな。少しばかり躾けてやったまでよ』
「タイムマシーンを殴って起動させたのか……」
アナログの暴力って凄い。
カイトは心の底からそう思った。
「それで。俺たちが争っている間に城を自分好みに改造したわけか」
『儂の城だ。どう使おうが、儂の望むままよ』
「所有物云々はどうでもいい。タイムマシーンのいたちごっこはこりごりだ」
問題はただひとつ。
「アンタは天下を諦めきれない。そんでもって、コイツも信用しなかった。だから自分で未来を知り、自分で戦力をかき集めて来たってことだろ。やってることは同じだ」
だったらカイト達がやることも変わらない。
狐と同じようにノブヒコの歴史改変も食い止める。
幸か不幸か、カイトやスバル達は狐と争っていた為か歴史改変の影響を受けなかった。
ノブヒコを止めるための時間は、用意されている。
「スバル、そっちはいけそうか?」
『少し、しんどいけど』
軽く機体状況を確認する。
背中の飛行ユニットは損傷し、機動力は大きく低下していた。
だが切れ味鋭すぎる刀は健在である。
これらの要素を天秤にかけて、スバルは判断した。
『戦えないこともないと思う』
「どっちなのかハッキリしろと言いたいが、そんな暇はくれなさそうだな」
城から影が湧き出てくる。
こちらを倒す為に、ノブヒコが用意した兵士の姿だ。
見たところ、人間の大きさである。
ブレイカーの姿はない。
『でも、人が相手なら脅しで使える筈!』
「ただの人じゃないぞ」
ノブヒコは狐と自分たちの戦いを知った。
当然、ブレイカーの存在をも知っているだろう。
なのにそれに対応する人材を用意しないわけがない。
「斬れないと思ったら直ぐに退け。俺がやる」
『わかった』
城から影が次々と飛びだす。
鍛え上げた新人類のような動きを見て、カイトは目を凝らした。
彼らの姿を視認し、驚愕する。
「サイボーグか!?」
今まで戦った敵の中でもっとも近い姿をしているのが彼らだった。
ゆえにとっさに口に出したが、そこに否をかけたのはノブヒコである。
『さいぼぅぐ、か。確かに後の世に作られた人の知恵のひとつではある。じゃが儂は、たった数人で立ち向かったそなたらに敬意を表した上で言おう』
それは否である、と。
『狐は3000年の世から技術を持ちだしたと聞く。しかしそなたらには勝てんかった。ならば儂が持ち出すのは更に1500年未来!』
4519年。
繁栄に繁栄を重ね、しぶとく生き延びている人類の英知の結晶。
『最初は裏切りで炎と共に我が野望は潰え、二度目は狐と家臣たちに任せ、敗れる運命にあった。で、あるならば儂は儂自身を強くし、儂の手で天下を取る!』
『じゃあ、こいつら全員!』
『ノブヒコってこと!?』
クローンな上に超未来のサイボーグ。
ノブヒコの声に、自信が上乗せされていく。
『さあ、戦と参ろうぞ。そなたらの数が少ないのは承知しておるが、儂は勝てる戦いは捨てぬ。そなたらを過小評価もせん。今持ちえる全力で挑もうぞ!』
その言葉を号令として、ノブヒコの大軍が雪崩れこんできた。




