ヘル・アンド・ヘヴン
城にカイトを送り届け、スバルは勝利を確信していた。
タイムトラベラー退治についてはなんの心配もない。
問題があるとすれば、彼が狐を倒す前に自分たちがやられてはならないということだ。
「うおりゃ!」
手に取った刀で戦国ブレイカーをぶった切る。
爆発に飲まれるも、装甲は傷ひとつ負っちゃいない。
「流石は天狗殿! お強いですな!」
「どうも!」
アガキチが褒めてくる。
実際、今のポリーンの性能はずば抜けていた。
3000年の未来から用意された戦国ブレイカーをスピードとパワーで圧倒しているのだから、当然と言えば当然だ。
ただ、唯一の問題はポリーンを動かすスバルのスタミナにある。
「ふぅ……ふぅ……」
次第に息遣いが荒くなっているのを自覚する。
城はカイトが突入した為か、攻撃してこない。
それだけでも大分神経を使わずに済むのだが、戦国ブレイカーはまだ数多く残っていた。
しかもこちらに休む間もなく攻撃を仕掛けてくる。
「残りの数は!?」
「12機!」
「まだそんなにいるのかよ!」
全身に熱が籠りすぎている。
流した汗で操縦桿の動きを止めてしまった時には、一瞬で蜂の巣になるだろう。
まだそれだけの数が、目の前に残っている。
ほんの少しのミスが自分たちを殺すことになるであろう事実が、少年の肩に重くのしかかった。
「あのなぁ、テメェら!」
よってたかってくる機械の群れを見て、少年の苛立ちはピークに達する。
「かかってきなさいとは言った! 言ったけどさ。俺はニート予備軍だぞ!」
「え」
なにやら苛立ちに任せた、勢いだけの主張が始まった。
「だから体力はないし!」
迫る戦国ブレイカーを刀で蹴散らし、突進。
「勉強が嫌いだから学校も通う気ゼロ!」
相手の銃口の向きから軌道を読み、攻撃をくぐりぬけて次の敵を一刀両断!
「おまけに周りが全員ハイスペックと来た!」
「いや、さっきから君も凄いんだけど……」
後ろからタイムパトロール切実なぼやきが紡がれるが、無視。
「俺は旧人類でニート予備軍。よって、糞雑魚ヘロヘロマンなの!」
それなのに、
「お前らはそんな俺によってたかって冷酷に攻撃してくるってなんなんだ!
「かかってこいって言ったからじゃないの!?」
「血も涙もないのかよ!?」
「ロボットだからね!」
『マシーンですから』
とうとう未来のコンピュータからもツッコミが飛んできた。
同時に、背後の戦国ブレイカーが銃の引き金を引く。
「ふんが!」
ところが、自称ヘロヘロマンは寸でのところで刃先を切り替えし、盾のように構えることでエネルギー砲を防ぐ。
「お前で最後かぁ!?」
『いいえ、あれを倒せば残り8機です』
「じゃあ後9回切ればいいわけ!?」
『そうなりますね』
敵の攻撃を避ける。
急接近する。
相手が攻撃した後の隙をついて攻撃する。
これを繰り返す。
成程、わかりやすい。
「いいぜぇ、やろう!」
「ねえ、この子どんどん凶暴化してない!?」
後ろのタイムパトロール隊員がやや怯えた表情でアガキチに助けを求めるも、この時代の人間にはどこ吹く風であった。
「なにを仰りますか。天狗殿はまさに今、戦に出る武士の顔になっておられます。この志、アガキチも続きますぞ!」
「続かないでいいから!」
男ってもしかするとこういう暑苦しいアドレナリン大噴出現象が大好きだったりするのだろうか。
女のミズキは理解できない。
ひとつだけ言えるのは、完全にブレーキが壊れている彼らに命を預けるしかないということだ。
その事実が何より恐ろしく、不安になる。
「地獄だ……戦国時代は地獄だぁ……」
「戦とは常にこの世の地獄ですぞ!」
『しかし敵の撃墜は順調なペースで進んでいます」
こうしている間にも、スバルは鬼神のような凄まじい勢いで敵を切り裂いている。
もしもこの時代に彼のような活躍をした者がいれば、瞬く間に伝説となっていただろう。
先程からアガキチがスバルを称える発言をしているのも、この戦果が原因だった。
「残り3体ぃ!」
ひとつずつカウントしていった撃墜数は、とうとう指で数えられるほどになった。
この調子でいけば間違いなく勝てる。
未来のコンピュータはそう計算していた。
だが、ここで計算外のことが起きる。
「うあ!」
汗でスバルの操縦桿の動きがもたついた。
その一瞬の隙をつき、戦国ブレイカーのエネルギー砲が刀の根元に命中してしまう。
「しまった!」
激しい揺れがポリーンを襲う。
刀を手放し、一つ目の巨人は武装がない状態でその身を晒す。
「やばい!」
「て、天狗殿!」
銃を向けられる。
だが、刀を拾う時間はない。
「それなら」
咄嗟の行動だった。
大地に転がった刀の柄を思いっきり蹴り上げる。
宙に浮いた刃は戦国ブレイカー目掛けてまっすぐ飛んでいき、射撃体勢に入ったまま串刺しになった。
爆発。
「後2体!」
「どうするの!?」
エネルギーを弾き、多くの敵を錆びにしてきた刀はない。
敵の人工知能もそれに付け込もうとしたのか、接近戦に切り替えてきた。
残り2機の戦国ブレイカーが、刀を持って接近してくる。
「う――――」
武装はない。
その事実が、スバルにひとつの単語を突き付ける。
『死』。
お前はこのまま何もできずに無残に刻まれるのだ、という恐ろしいイメージ。
瞬時に。
それでいてあまりにスムーズに映りこんだ景色を見て、スバルは血の気が引いた。
「来る! 来るよ!」
刀の刃先が迫る。
このままコックピットを串刺しにしかねない勢いで突っ込んできた敵機を前にして、スバルは意識することなく、ごく自然に身体を動かした。
もし、これが己の肉体だったらきっと逃げていただろう。
しかし、1年間をブレイカーで戦い抜いてきたスバルに染みついた戦いの記憶が、ブレイカーでの逃走を許さない。
「この野郎!」
ポリーンが飛翔。
突撃してきた敵を上にかわし、そのまま急降下。
羽交い絞めにし、頭部を力任せにねじ切った。
「ラストワン!」
「天狗殿、すぐそこにいますぞ!」
もう1機が背後から迫る。
ポリーンは再度飛翔しようとするが、それよりも前に敵の頭部から射出されたエネルギー機関銃が背部に直撃した。
「うわ!」
背中から伸びる光の羽が消失し、バランスを崩す。
地面に落下し、振動がコックピットに襲いかかった。
「きゃっ!」
「うおお!」
仲間たちの悲鳴が聞こえる。
自分も心の中で思った。
ここまでか、と。
遂に機動力まで殺された。
敵が迫り、ポリーンを切断するのは容易い。
こちらに、それを防ぐ手立てはなかった。
「……あ」
顔を上げ、正面モニターを見やる。
スバルは見た。
城からのエネルギー砲を防ぐために放り捨てた、ロングライフルが眼前にある。
「届け!」
必死に手を動かす。
戦国ブレイカーが迫る。
ポリーンがライフルを手にした。
刀が振り上げられる。
長い砲身を構え、振り返る!
「食らいやがれ!」
砲身が戦国ブレイカーの腹部に叩きつけられる。
ロングライフルがへし折れた。
同時に、敵の胸部にもひびが入る。
ばちばちと鳴り響くそれは、やがて内部で大爆発を引き起こした。
ポリーンのモノアイから光が消える。
「たはぁ!」
息を吐き、スバルはその場で大きく身体を投げ出した。
周囲を確認し、残る敵が城だけなのを目視。
「見たか未来この野郎! ニート予備軍嘗めんなよ畜生が!」
「ひ、ひえええ……」
想像以上の戦果を目の当たりにし、ミズキは恐る恐るサブパイロットシートに身を潜める。
やっぱり20世紀は化物ばっかりだ。
彼女は深く心にそう刻みつつ、ニートの認識を『惰性の塊』から『修羅』へと変更させた。




