ポリーン・ポリーン
「奇天烈な! これは奇天烈な!」
アガキチがコックピットで叫ぶ。
時は戦国。
世は戦乱の最中。
鉄砲が戦に導入されて間もない時代のアガキチは、人類初のブレイカー搭乗者となった。
当然、彼はブレイカーについてなんの説明も受けていない。
「本当に乗せちゃって大丈夫ですか?」
「だが乗せるしかない。城までの道を知っているのはコイツだけだ」
アガキチの役目はあくまで城までの道案内である。
後ろでアガキチが場所を指示し、ミズキがこれをコンピュータを使いナビ。
スバルがポリーンを動かして城まで向かうのだ。
尚、この時唯一働いていないカイトは何時でも生身で戦えるように後ろで待機している。
「天狗殿!」
「なんだ」
未来からやってきた自分たちを天狗と自己紹介した為か、ポリーンも含めてすっかり天狗扱いされていた。
鼻が長くなくても案外なんとかなるものだと思いつつ、カイトはアガキチの言葉に耳を傾ける。
「このアガキチ、生まれて始めて天狗殿の胸の中に包まれているわけですが!」
「……うん」
ポリーンのコックピットは胸部である。
つまり、胸の中だ。
間違っちゃいない。
「天狗殿の胸の中というのは、不思議な物なのですな! 小さな天狗殿が何人も入り、しかも風を受け付けぬとは!」
「狭いからあまり大声で叫ばないでほしいんだけど」
「パツキンは先祖の代からテンションが高いな」
だが、同時にカイトは思う。
もしもアガキチを失うことになれば、それはそのままアーガス・ダートシルヴィーの存在が失われることを意味してるのだ、と。
「……」
「急に押し黙ってどうしたのさ」
「いや、コイツは果たして殺しても死ぬのだろうかと考えてた」
「当たり前でしょ。人間なんだから」
「いや、パツキンの先祖だからな」
「いやいやいやいや」
なにを言ってるんだ、と言わんばかりの口調で返されてしまった。
「考えても見ろ。外に出しても普通にしがみついているくらいだぞ。しかも子孫のパツキンはアレだ」
アレだ、で納得できてしまうのが悲しかった。
「納得したな」
「納得はできたけど、死んだらアウトだからきちんと面倒みようよ」
「ここで大人しくしてもらったら一番安全だ。頼むぞ」
「ははっ、このアガキチ。皆様のお頼みならば!」
既に主従関係に似たなにかが勝手に構築されていた。
とても単純なのだが、いちいち説明するまでもなく味方になってくれるので、パツキンの一族には感謝だ。
2000年代ではとても酷い目にあうわけだが、それはそれである。
「目標地点が見えてきましたよ」
そんなやり取りをしていると、ミズキが声をかける。
カメラの視点をズームに変更し、スバルたちは眼前に映る『この時代には本来ないもの』を確認した。
「あれが件のグレートなんちゃらか」
想像だと普通の城だったのだが、実際に目にするとカラフルすぎる。
目に痛い、と言ってもいい。
ひたすら明るい配色が施され、まるで昔の芸術家が塗りたくったかのような光景だ。
絵画の中にあるカラフルなお城が、そのまま飛びだしたとさえ思える。
「派手過ぎない?」
「さて。未来に生きた奴の趣味なんぞ知ったこっちゃない」
知ったこっちゃないが、無視できないものが飛びだしてきてる。
「早速仕掛けて来たぞ! ブレイカーだ」
城の周りから戦国ブレイカーが顔を出し、こちらに向けて飛んできた。
巣から飛び立つ蜂のように、集団で。
「スバル」
「わかってる!」
カメラの視界を素早く戻すと同時、ポリーンは戦闘態勢に。
ロングライフルを抜き、射撃のモーションに移る。
「敵の数は?」
『27機です』
「ほぼ全機を投入して来てる!?」
「上等!」
ここで決着をつけるつもりなのはこちらも同じだ。
だから、受けて立つ。
少し癪だが、その方が都合がいい。
「全部まとめて落としてやる!」
「君、射撃の腕は!?」
「強制100連射撃を何度かやってるから、連続でトリガー引くのは全然大丈夫!」
照準を合わせる。
ひとつの敵影をロックした瞬間、引き金は引かれた。
直後、スバルは近くの別の敵へと瞬時に照準を合わせる。
最初に放たれたライフルの弾丸が1機目に命中した直後、2発目の引き金は解き放たれた。
「今のは命中したからいいけど、外したらどうするの!?」
「その時は誤魔化す!」
「君、決断力高くない!?」
「そのくらいの判断力を日常生活で発揮してほしいものだ」
ミズキは不安がっているが、カイトは腕を組んで完全に任せている姿勢だ。
「あなたも、この子に任せていいんですか!?」
「最初からコイツの技術が頼りだ。俺だと飛んでるブレイカーを落とすのに少し手間がかかる。飛べないし」
「そういうこと」
なので、未来人のタイムパトロールには大船に乗ったつもりでいてもらいたい。
そもそもロングライフルは長距離で相手を仕留めるための武器だ。
これで頑張っているのを評価してほしいところである。
「カイトさんは最終兵器として待機しててもらうから、雑魚は俺に任せとけ!」
「なんで人間が最終兵器なの!?」
「疑問ある?」
「今更ないけど!」
「だったら黙ってサポートして!」
「黙ってたらサポートできないでしょう!」
「天狗殿は仲がいいですな!」
とても賑やかなコックピットになってしまった。
喋っている間にもライフルは鳴りっぱなしなのだが、戦国ブレイカーも何機か攻撃可能な範囲に近づいて来ていた。
「従来のロングレンジの射程範囲に入られた!」
アルマガニウムのエネルギーを使ったロングライフルの超遠距離攻撃を掻い潜ってやってきたブレイカーは、なるべく早めに撃墜したい。
なので、狙いは近づくブレイカー重視にする。
「待て!」
「え」
後ろのカイトが待ったをかけた。
「城を狙え! なにかする気だぞ」
「なにかって、どういうこと」
「動いてる」
言われ、スバルは狙いを城へと移す。
戦国ブレイカーがこちらに狙いを定めているのを確認し、回避行動をとりながらも彼は見た。
カイトが言う通り、城が蠢いている。
地震で揺れているのではない。
城から腕と足が伸び、稼働しはじめている。
「まさか、あの城!」
「巨大なブレイカーだ。恐らく、城としてもブレイカーとしても使えるようにしている」
「おお、なんたる奇天烈! 狐めの城があのような!」
最上階にモノアイの光が宿った。
巨大な瞳に黄色いフラッシュが灯ると同時、声が鳴り響く。
『アルマガニウムは絶対に排除しなければならない!』
「狐!」
アガキチが叫ぶ。
狐は城を稼働させつつ、無限エネルギーに挑む。
『アルマガニウムは無限のエネルギーを生み出すと言う。ならば我らはノブヒコ様への無限の忠義で戦おう!』
「我ら?」
スバル達は知らない。
城が狐たち家臣一同による自転車発電で動いていることを。
こうしている間にも、彼らは健康的な汗をかいていた。
「だが、出力はこちらが上の筈」
『このNO・ブを甘くみるな!』
NO・ブと名付けられた城が唸る。
全身に取り付けられた家紋が点滅した瞬間、高エネルギーが解き放たれた。
城に取り付けられたすべての家紋からエネルギー砲が放たれたのだ。
「げぇ!?」
「避けて、早く!」
ライフルを放り投げる。
すぐさま刀を抜くと、ポリーンはこちらに迫るエネルギー砲を真正面から切り捨てた。




