表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エクシィズ外伝  作者: シエン@ひげ
未来からの侵略者
70/193

アイアム・タイムトラベラー

 1582年。

 この煩悩寺で家臣だったイシナリに殺され、ノブヒコの天下への道は志半ばで閉ざされる。

 後の世に伝わっている教科書ではこんな筋書になっていた。


 狙い通りである。

 イシナリの配下としてタイムマシーンに乗り込んだ狐――――ミツアキは己の描いたシナリオの進行具合に7割がた満足していた。

 これを完璧なものとするには、タイムパトロールについてきた謎の新人類達をやっつけるだけである。

 タイムパトロールなど問題ではない。


 わざわざ自分が飛ばされた未来よりも500年前のタイムパトロールに接触し、彼女に自分の後を追わせたのだから。

 こうすれば技術力で負けることはなくなる。

 機体パワーはより未来の時代からブレイカーを仕入れたミツアキの方が圧倒的に優位だからだ。


 タイムパトロールについても勉強済みである。

 彼らは効率化を図る為、基本的に指示を出す人間以外は人工知能に操縦を任せていた。

 ゆえに機体パワーで圧倒できるなら、先にタイムパトロールを倒してしまえばいい。500年前の彼らと接触して、倒すことなどわけがなかった。

 当然、生き残りが追ってくるのも想定内である。


 想定外だったのは、そこに未知の存在がついてきたこと。


 ブレイカーを生身のまま倒してしまう新人類と、マニュアルで未来のブレイカーを圧倒する2000年代の少年。

 まったく想定外のコンビだ。

 2000年の歴史では、こんな化物共がいたのかと思うと頭が痛くなる。


「イシナリ様。戦いの炎が来てはかないませぬ。この場は離れましょう」

「うむ、あの天狗と名乗る者もわけがわからぬが、この際利用できるものは使わなければ」


 ヨシヒデとイシナリが会話をする。

 まったく歴史とは面白い。

 ほんの少し前の時代に来て、立ち振る舞いを変えただけでこうも立場が変わるとは。


 ミツアキはほくそ笑む。


 懐かしい物だ。


 忘れもしないこの時代。

 1582年。ミツアキが()()()()()()()だった頃。

 ノブヒコの側近とも言えたヨシヒデは自分に囁いた。


 ノブヒコを討つなら今しかない、と。

 あのお方のやり方は家臣をすべて滅ぼすぞ、と。


 実際、ノブヒコは力に任せて大和の国を統一しようとしていた。

 逆らう者は容赦なく殺し、時には家臣さえも暴力で屈服させる『力』のやり方に、ミツアキは危機感を抱いていたものだ。

 今のイシナリのように。


 結局、自分はヨシヒデに言われたようにノブヒコを討ち取った。

 だが結果はどうだ。

 ヨシヒデは自分を騙し、その後の天下を統一。

 そしてイシナリの息子はその家臣として、後の大決戦に名を馳せた。


 結局は騙し合いで繋がった天下の時代ではないか。

 ミツアキは狐となった後、未来の教科書を詳しく読んだ。


 江戸時代。

 外国の襲来。

 文明開化。

 世界大戦。

 地球外物体の有効活用。

 新たな親類の誕生。

 謎の巨大生物の襲来。

 地球外生命体との接触。


 結局、蓋を開けてみればいつの世も力が物を言った。

 この国の内部だけではない。

 国の外。星の外まで視野を伸ばせば、小さな力で収めた世界などいかなるものか。

 

 国民の自由の尊重?

 なにもしないで粋がっているだけの彼らになにができた。


 戦争はよくない?

 ならば戦争そのものがなくなるまで、徹底的に支配力を強めよう。


 未来のことを知れば知るほど、そんな考えが強くなった。

 こうなった時、ミツアキの頭に浮かんだ支配者は自分ではなく、ノブヒコだったのである。


 彼のやり方は暴力的だった。

 だがそのやり方にこそ、本当の天下があったのではなかろうか。

 ノブヒコに足りないものがあったとすれば、それは老いと、充実な僕たちである。

 だからこそ狐は用意した。

 人間を機械にし、永久的に支配を強める技術を。


 ゆえに後の邪魔者さえ片付け、立場を入れ替えた大うつけ共を殺せばすべてが丸く収まる。

 その筈だった。


「ねえ、君」


 女に肩を叩かれる。

 振り向くと、顔色の悪い外国の美女がとてもいい笑顔で語りかけた。


「気取ってるところわるいんだけど。君の身体って、どんな部品を使っているのかな?」

「……なにを仰っているのか、わかりませんな」

「このエレノアさんの目を誤魔化せるとは思わないことだね。こんな素敵な人形を自分で作れるんだ。未来の人形でも見抜く自信はあるともさ」


 言われ、戦慄。

 2000年代が万能すぎる上にえげつない。

 ミツアキはエレノアの手を掴むと、そのまま力任せに放り捨てる。


「おおっと」


 異国の女性が黒い霧となって霧散する。

 霧は再度集まっていくと、今度は男の肉体を構成した。ブレイカーを生身で切り裂いた新人類の方だ。


「お前がタイムトラベラーか」


 カイトが爪を伸ばして戦闘態勢を示す。

 それを見たイシナリ達は後ずさり、ミツアキを懐疑の眼差しで眺めていた。


「ふぅ」


 ミツアキは溜息。

 予定よりもばれるのが大分早かった。

 ここまで来ると早いか遅いかの違いなのだが、それにしても2000年代の超人が万能すぎる。


「ブレイカーを生身で倒し、俺の身体を見極める。お前、なんなんだ」

「ガキの頃からそういう教育を受けたんだ。お前の正体を見破ったのは、女の方の功績だな。少し近づいてみたらすぐに見極めてくれるから助かった」


 口ぶりから察するに、男女で肉体を共有する化物のようだ。

 案外、未来で見た地球外生命体とはコイツのことではないかと疑いはじめる。


「聞きたいことがある。お前は未来の人間か? それとも」

「この時代で生きた人間だ。わけあってタイムスリップしてしまったが、そこで私は未来を知った」

「だからノブヒコを生かそうと?」

「そうだと言ったら満足か?」


 直後、カイトの爪がわずかにブレた。

 肉体を機械化させたミツアキの目でさえも、完全に追い切ることはできない。


「うう!」


 身を引く。

 直後、鼻が削げた。

 カイトがそれを握りしめていたがゆえに、攻撃が行われていた事実を認識できる。


「汚い色の鼻血だな」


 切り取った鼻をまじまじと観察しはじめる。

 黒い液体と機械のパーツが入り混じった、燃えないゴミだ。


「どうやって未来に行ったのかなんてナンセンスなことは言わん。お前を処理してノブヒコを倒せば済む話だからな」

「それはこちらとて同じだとも」


 不敵に笑う。

 逆立ちをしたところでこの超人には勝てない。

 自分の全人格を移植させた戦闘用アンドロイドでも、この化物には勝てないだろう。

 けれども、構わない。


 こいつ等は自分を倒せば済むと考えている。

 おめでたい話だ。

 こちらには幾つもの勝利条件が並んでいるというのに。


「ふ、はは」

「む」


 カイトが異変に気付く。

 狐の皮膚がひび割れ、光が漏れ始めていた。

 同時に、発達した嗅覚は嫌な匂いを感じ取る。


「まさか」

「もう遅い!」


 直後、狐が爆ぜた。

 爆発は一瞬でタイムマシーンを包み、中にいる者を容赦なく焼き殺す。

 中にいる、今後の歴史の異人ですらも。


「あ、が」


 至近距離で爆風を受けたカイトとて例外ではない。

 だが、大昔に似た経験を経ているためか、異常な生命力を発揮させてしぶとく生き残っている。


『ねえ、大丈夫? 君、不死身だからあまり心配してないけどさ』


 頭の中でエレノアの呑気な声が聞こえてくる。

 普段なら即座に『五月蠅い』と黙らせるところだが、今は口も自由に動いてくれなかった。


『いやぁ、未来式の爆弾とは参ったね。これはイシナリ達は死んだかな。タイムマシーンも修復できないだろうね。いやはや、敵ながらあっぱれ』


 丁寧に状況分析をしつつ、エレノアは問う。


『ところで、気になってるんだけどさ。なんで皮膚が元に戻ってないの?』


 答えは返ってこない。

 カイトは焼けた皮膚と吹っ飛んだ肢体を懸命に動かしながら、もがくだけだ。

 普段の彼なら、もうとっくに復活している筈なのに。


『え!? ウソだろ。ねえ、まさか死ぬ寸前だったりしない!? そういうのダメだよ! 交代でもなんでもして身体を構成し直すからそのままでいてね!』


 よりにもよってバレたら一番五月蠅そうなのに知られてしまった。

 元に戻らない肉体よりも、そちらに対する苛立ちの方が強く身体に募っていく。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ