出現! その名はブナシメG!
夜叉半月。
ブレイカーマニアならその名を知らぬ者はいない。世界に3体しか存在せず、あらゆるブレイカーと合体してしまうスーパーマシンだ。
「待て、いくらなんでもそんなことがあり得るのか」
合体するブレイカーなら以前にも見たことがある。
だが、たった1機のブレイカーの力だけで合体することなど可能なのか。
「それができちゃうんだよ。夜叉半月なら」
周囲のブレイカーを取り込み、全く新しい機体へと変貌する。これが夜叉半月のコンセプトだ。
そのあまりの技術力の高さ。周りの機体を敵味方関係なく取り込んでしまうため、殲滅力も高い。唯一の弱点はコストの高さと開発者が偏屈すぎることだろうか。
夜叉半月の開発者は、この機体を開発する際にこんな言葉を残している。
『いいか、私は童貞だ。30までこの身を汚さなかった。だから私は魔法が使える。だが、私の魔法で生み出せる機体は3体までだ。いいか、私の童貞力で生み出せるブレイカーは3体までだからな!』
この後、彼は童貞を捨ててしまったので夜叉半月を造れなくなったのはマニアの間ではあまりに有名な話である。彼が童貞を捨てた事による怒りの声は大きかったのだが、それ以上に大きかったのはこの夜叉半月が3体とも莫大な価格で売れてしまったことだ。
流石にどこに売られたのかまでは知られていない。一説では新人類王国が買い取り、自国の戦力として取り入れた。あるいは大金持ちのコレクターが購入したと様々な噂が飛び交ったものだ。また、開発者が童貞を捨てた瞬間に自爆したのではという噂まで飛び交った。根拠はないが、スバルはこの説が一番信憑性が高いと考えていた。
そんなスーパーレアなブレイカー、夜叉半月が目の前にいる。
周りには作業用ブレイカー。
「距離を離せ! 取り込まれるな!」
「わかってる!」
狙撃から身を守りつつ、獄翼は後退。
「折角見つけたと思ったら、今度は近づけないってどういうこと!?」
「意外と面倒くさい相手だな」
「遠くから撃つしかないでしょ。いざとなったらシデンさんに凍らせてもらうから」
「じゃあ、いまのうちに席替えかな」
後部座席でいそいそと座席交代が行われる。
そんな獄翼を尻目に、夜叉半月の周囲に作業用ブレイカーが集った。
『エリンギ、合体だ!』
『了解アル!』
夜叉半月に乗ったエリンギが赤いボタンを押下する。
電磁ライフルを担いだ紫のボディから青白い光が放たれた。関節部から漏れ出した光が獣のように暴れ狂う。光は周囲に留まるブレイカーを掴むと、それを力任せに引き寄せていった。
「なんだあれ!」
夜叉半月の関節部から漏れる光は、まさに腕だ。光の腕がブレイカーを掴みとり、無理やり夜叉半月にくっ付けている。しかも、元のブレイカーの形状が残っていない。まるで粘土のようにぐちゃぐちゃになった後、別の形になって取り付けられている。夜叉半月のパワーアップアイテムのような扱いだった。
「あれが童貞の力……!」
スバルが固唾を飲む。
彼の発言を耳にし、後ろの超人達は思わず顔を見合わせた。
「どういう意味だ?」
「わかんない」
「今のうちにエネルギーピストルで撃ったらダメなのか」
カイトがとても野暮な発言をするが、スバルは気にしない。
「撃つのは合体が終わってから」
「なぜだ」
「合体が終わってからなの!」
少年の力説に気圧され、カイトは押し黙る。
「俺、おかしなこと言ってるか?」
「今のはカイトが悪い」
「合体や変身を邪魔するのは野暮ってもんだよ。ありえないよ。空気読めないにも程があるでしょ」
カイトの味方は誰もいなかった。どう考えても自分の主張が一番理に適ってる気がするのだが、こうまで否定されては彼らに任せるしかない。
「どうなっても知らないぞ」
こうしている間にも夜叉半月は光の腕で仲間たちを取り込んでいる。ある機体は巨大な翼へと変貌し、またある機体は夜叉半月を覆う鎧へと姿を変えた。それらが一体化することにより、彼らの切り札は降誕する。
『がっはっは!』
スピーカーから団長の五月蠅い笑い声が木霊した。
作業用ブレイカーを取り込んだ夜叉半月は巨大な翼で宙に浮くと、そのまま真横へと胴体をスライド。自身を覆う鎧と翼を広げ、巨大な戦艦へと変貌する。
『見たか正義の味方共よ! これが俺たちの秘密兵器、超団長ロボ、ブナシメGだ!』
「超団長ロボ……」
「ブナシメジー……」
物凄いネーミングセンスだ。夜叉半月のままでよかったのではないかと一行が揃って考えていたのだが、その思考を団長の叫びが遮る。
『わざわざ合体シーンを待ってくれたことには礼を言おう。ありがとな! だが、ブナシメGの前ではあらゆるブレイカーは無力となるのだ!』
ブナシメGの両翼が展開し、光の腕が伸びた。夜叉半月が作業用ブレイカーを取り込むのに使った腕だ。
「合体しても、あの腕は健在なのか」
「捕まったら獄翼も取り込まれちゃう!」
『そのとおりだ! 今からブナシメGの一部にしてやるから大人しくしてろよ!』
ブナシメGのブースターが点火する。急接近してくる巨大理不尽ブレイカーを前にし、カイトは半目で抗議した。
「やはり撃っておいた方が正解だった」
「合体シーンの最中で撃つとかマナー違反だろうが!」
「そうだぞカイト! アキハバラじゃ常識だ!」
力の限り怒られた。
おかしい。どう考えてもこっちが正論な筈なのに。
「ではどうする。獄翼ではライフルしかまともな遠距離装備がないんだぞ」
「当然、合体が終わってから狙撃さ!」
獄翼がエネルギーピストルを構える。団長達が扱っていた電磁ライフルよりも最新のライフルが火を噴いた。銃口から光の弾丸が解き放たれる。
『ふん!』
ブナシメGが光の腕を眼前にかざした。まるで蚊を振り払うような動作である。だが、その腕の動作は光の弾丸を確かに消滅させてしまった。
「あの腕は盾にもなるのか」
『その通り! ブナシメGの光の腕の前では、最新のピストルなんぞポップコーンみたいなもんよ!』
「それなら!」
タッチパネルを操作する。獄翼に取り付けられた特殊システムを稼働させ、コックピット内に機械のアナウンスが流れ始めた。
『SYSTEM X機動』
「シデンさん、よろしく!」
「任された!」
真上からコードに繋がれたヘルメットが投下される。落ちてきたヘルメットはスバルとシデンの頭にすっぽりとハマり、機体と同調する。
シデンの意思と力は獄翼に。そのかじ取りはすべてスバルへと託された。
『さあ、スバル君。お望みは?』
コックピット中にシデンの声が響き渡る。本人の身体はがくりと項垂れており、意識はない。
しかし意識と能力は確かに獄翼とスバルへと託されていた。その力の使い方は操縦者と獄翼次第なのだ。制限時間である5分のカウントダウンが表示される。
「エネルギー弾でダメなら、氷の弾丸をマシンガンにして防ぎきれなくする!」
『了解!』
獄翼の両足が光る。左右の足からそれぞれ3つずつ銃口が飛びだしたかと思うと、それらはすべてブナシメGへと向けられた。
『それじゃあ指が痛くなるけど我慢してね』
シデンが小さな宣告を出す。
それと同時、スバルの指が本人の意思とは関係なく連打を始めた。彼は苦笑しつつも、自分でも信じられない速度で超手の親指を連打させた。
連打でボタンが叩かれた瞬間、6つの銃口から氷の弾丸が一斉に射出される。
『ガードだ!』
ブナシメGが両手でガードの姿勢を取る。
しかし光の腕の隙間を潜り抜けて氷の弾丸はブナシメGの装甲を叩いてく。
『損傷です! 光の腕ではガードしきれません!』
『被害状況は!?』
『損傷率は低いですが、このままだと落とされます』
『ならば攻撃だ!』
防御しきれない程の広範囲攻撃ならば、こちらも攻撃しよう。
殴り合いは昔から得意だ。団長はそうやってこの弱肉強食の世界で生きてきた。強者と弱者の2種類しか存在できない世界で、ずっと殴りあって。
『だが、ただ殴るだけだと奴らはびびらねぇ!』
やるならおっきく。
夢はでっかく。
攻撃も激しく。
いつでもこれらのモットーは忘れない。
負け犬である自分たちがデカくなるための条件だから。
『キノコドリル発進!』
『了解でさぁ、ボス。キノコドリル、いっきまーす!』
キノコがいうと同時、ブナシメGの背中から巨大なドリルが出現した。獄翼並みの大きさがある巨大ドリルだ。
螺旋状の刃が渦巻く。
光の腕がガードを解くと、巨大ドリルをキャッチ。それを獄翼めがけて放り投げた。
『キノコのドリルは男のドリル!』
『貫けキノコ!』
『土産はカステラで頼むぜ!』
仲間たちの声援を受け、キノコが乗る巨大ドリルが獄翼に投げつけられる。
ドリルは氷の弾丸を弾き飛ばしながら接近。獄翼めがけて飛びかかっていく。
「くる!」
『スバル君、あれは氷の弾丸じゃ砕けない!』
「代われシデン! 俺がぶっ飛ばしてやる!」
後部座席でエイジが身を乗り出す。
彼はシデンのヘルメットを脱がすと、自らがそれを被った。
「一度ドリルと馬力勝負したいと思ってたんだ!」
エイジの身体が崩れ落ちる。SYSTEM Xが新たな超人を取り込み、再同調を開始した。