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エクシィズ外伝  作者: シエン@ひげ
未来からの侵略者
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天狗の仕業じゃあ

 人間の身体から、新たな人間が出現する。

 世の中には摩訶不思議な才能に恵まれた新人類がいたりするが、こんな光景を見せつけられたら腰を抜かしてしまうものだ。

 2500年の未来からやってきたミズキ・フローライトも例外ではない。


「コンピュータ、私の目の前に化物がいます。コンピュータ、助けて。2000年代の連中怖い」


 壊れた玩具のようにぼそぼそとノートパソコンに呟く彼女の姿は、見ていてとても痛々しい。

 モリマルのコックピットから相手の情報を抜き取る作業をしている筈なのだが、心なしかモリマルそのものから負のオーラが滲み出ている気がした。

 ポリーンの操縦席からそれを眺めるスバルは、思わず口にする。


「エレノアさんってさ。本当に人をびっくりさせるのが上手だよね」

「うふふ。君はもうすっかり慣れてるみたいだけど?」

「カイトさんと一緒にいたら、流石にね」


 エレノア・ガーリッシュ。

 少し前、新人類王国から逃げる際にカイトと融合してしまった彼のストーカーであり、新人類。

 昔は囚人として襲い掛かってきた事もあったが、今ではカイトと身体を共有したのをいいことに『当然仲間として扱ってくれるよね』といった態度をとっていた。

 だが、殺されかけた経験があるスバルでも今更そんなことで愚痴を言うつもりはない。

 エレノアは有能な技術磨いた新人類である。事実、この時代では彼女以外にアルマガニウムの加工を任せられる人間などいないのだ。


「スバル、あまりそいつに話しかけるな」


 少年とストーカー女が接触するのを遮るようにしてカイトが口を挟む。

 普段はどちらか片方の肉体で出現するようだが、この時はカイトとエレノアは分離して行動していた。

 カイト曰く、『無駄にコイツと一緒にいたくない』とのことらしい。


「なんだい。私が他の男と話すのが悔しいかな?」

「教育に悪い」


 すぐそばでカイトの爪をブレイカー用に改造するエレノアだったが、頬を膨らませて抗議する。


「なにを言うんだい。考えてもみてくれ。私はこう見えても人生の先輩だ。寧ろ教えてあげられることは沢山ある」

「ストーカーが何を言う」


 もっともなご意見である。

 スバルは心からそう思った。


「で、加工はどの程度で完了するんだ?」

「ブレイカーの方も多少の改造は必要だからもう少し時間は欲しいな。あっちのモリマルとかいう未来のブレイカーから拝借すれば足りるとは思うけど」

「悠長にしてる時間はないぞ」


 モリマルを撃破してから既に数時間は経過している。

 その間、敵が次の手を打ってきていないのは奇跡的だといえた。


「確実に次の敵は来る。それに間に合わなければ――――」

「わかってるとも。だからいい加減に仕上げるつもりはない」


 凛とした声でエレノアは断言する。


「君らが困っている姿を見るのは大好きだが、だからといって死なせるような真似をするつもりもないからね」

「そいつは結構」


 だが時間がかかればそれだけ危険性は増す。

 いざとなったら再び自分が出ることを考えつつも、カイトは自身の指を見やる。

 スバルに託した2本の爪を引き抜いた際に飛びだした出血は、まだ治まっていなかった。

 普段なら即座に治っている筈なのに、自己再生の速度が目に見えて落ちている。


「……急いでくれ。負けるつもりはないが、お守りをしながらだと負担が激しい」

「ただのお守りになるつもりはないけど」

「それは頼もしい」


 もしもそうなったら、今の自分はどこまで戦えるだろうか。

 カイトは考える。

 今、自分の身に不思議な出来事が起きているのは事実だ。その影響は、まだ計り知れてない。

 モリマルとは普通に戦えた。だからブレイカーとはまともに渡り合えるはずだ。

 問題はダメージを受けた時、どうするか。

 あまりに治りが遅い場合はもっと別のやり方を考えなければならない。


 今、まともに戦えるのはカイトだけだ。

 故に、そのカイトが自分から不安を撒き散らすわけにはいかなかった。

 異変に気付きつつも、彼は沈黙を選択したのだ。


 これが後に彼自身の運命を決めることになるのだが、それはまた別の話である。


『周囲に生体反応』


 思考を切り替えるきっかけは、ミズキが持つコンピュータの警告からだった。


『タイムマシーンの周辺を複数の人間が囲いはじめています』

「て、敵!?」

『いいえ、装備から判断し、この時代の人間かと思われます』

「イシナリ軍か」


 カイトは顔を上げ、ミズキへ確認。


「おい、現地の人間への対応はどうする」

「協力を仰げる時は協力すべきです。規定にも違反しません。それに、今回はモリマルの件もありますし、この時代の人からも情報が欲しいですね」

「わかった。なら交渉はお前たちに任せる」

「ええ!?」


 これまで有無を言わさず指揮を出していたカイトが、突然放り投げてきた。


「俺は動けない。エレノアの作業に中断が必要なら、その時に動く」

「それってつまり、私に付きっきりってことかな?」

「そうだ」


 あっさりと肯定したので、エレノアは喜び踊り始めた。

 作業が中断されたので、カイトは無言で裏拳をお見舞いする。根暗美女は悶えるも、なぜか嬉しそうに身体をクネクネさせていた。


「いや、でも……私、新入りなもので。直接交渉をした試しがないのですが」

「マニュアルがあるんじゃなかったのか?」

「あるにはありますけど、天狗や河童と例えての自己紹介なんてどうすればいいんですか!?」

「なるほど。それならいけるかも」


 ふと、スバルがなにか閃いた。


「今のでなにを閃いた」

「いや、この時代の人たちに新人類とかブレイカーをどう説明しようって考えてたんだけど、妖怪の設定が未来で使われてるなら、それに従えばいいのかなって」

「俺を妖怪にする気かお前」

「寧ろ妖怪の方が可愛いと思うな」


 ネットで閲覧した、美少女化された妖怪イラストの数々を思い出しながらスバルは断言した。

 一方、断言された方は深いため息をついていた。


「……俺は妖怪よりも化物なのか?」

「化物ですね。間違いありません」


 誠実に生きてきたつもりだが、未来人からも断定されてしまった。

 神鷹カイト、22歳。

 この時、心の底から今後の身の振り方を考え始めた。


「じゃあ天狗設定で交渉を始めてみようか」


 ブレイカーのスピーカー機能をオンにする。

 迷う事のない動作を見て、ミズキは思う。


「ねえ、君が声をかけるの?」

「だってカイトさんは動けないし、アンタは交渉苦手なんでしょ?」

「君ができるのかって聞いてるんだけど」

「人間、誰だって初心者さ」


 妙にふっきれた少年だった。

 頼りないのか頼れるのかよくわからない。

 未来人の不安を余所に、スバルはマイク越しで声をかけてみる。


「イシナリ軍のみなさん、元気ですかー!?」


 きーん、とその場に声が響き渡った。

 当然ながらハッチ越しなので返答は返ってこない。

 が、様子はコンピュータがばっちりと記録していた。


『外のイシナリ軍、困惑しています』

「だろうな」


 あんなプロレスラーの決め台詞みたいな挨拶をされても困る。

 半目で腕を組むカイトに対し、スバルは要求した。


「テーマソング流した方がいいかな!?」

「どう足掻いても勢いは伝わらないと思うし、急に音楽を流しても困惑するだけだぞ」


 後、マイクがオンになったままだ。

 突っ込もうとしたが、喉の奥でぐっとこらえる。


「好きにやってくれ。俺は天狗だ。天狗らしく鼻を伸ばしておくことにする」

「ねぇ、もしかして気にしてる?」

「いいからとっととやれ。天狗は気が短いんだ」


 睨みつけられたのを感じ、額から冷や汗が流れる。

 後で謝っておこうと心に誓いつつ、スバルは呼びかけを続行。


「えー、突然だが!」


 ここで喉に詰まる。

 行動に移したまではよかったが、具体的になにか考えがあるわけではなかった。


「……我々は天狗である!」


 なんの捻りもなかった。


「大天狗様は、赤きブレイカーに山を荒らされたことに大層お怒りである! よって、イシナリ軍。お前たちはあるべき真実を話すのだ。よいな!」


 かなりざっくばらんに話している。

 頭を抱えるカイト。ノートパソコンの画面に額を付けて絶望するミズキ。

 だがコンピュータからは予想だにしなかった答えが飛んできた。


『おめでとうございます。イシナリ軍からこちらの呼びかけに答える声が上がりました』

「ええ!?」

「マジかよ」


 カイトは更に頭が重くなり、ミズキは一気に脳が覚醒する。

 この様子を見ていたエレノアは『忙しいね君たち』とぼやきつつもくすくすと笑っていた。


『イシナリ軍から代表者が来るようです。タイムマシーンへの乗艦許可を出しますか?』

「向こうの代表者のお名前は?」

『イシナリ本人が来るようです。それと小林・ヨシヒデ、光智・ミツアキ、陀戸汁美・アガキチの3名が』

「だとしるび」

「あがきち」


 他にも反応すべき点はあるが、スバルとカイトは最後の人物の名を聞いた途端、だんだん青ざめていった。


「あの人、先祖が日本人?」

「まさか……いや、まさか」


 気を回してくれたのか、コンピュータが外の映像を出力した。

 鎧を着こんだ男がこちらを見て回転している。身体全体で。


『ふぅーううううううううううううううぅ! 天狗! 天狗様! 私の声が聞こえていますか。天狗様の美を理解する私ことアガキチが参りますぞ!』


 どこかで見たことがあるテンションだった。

 陀戸汁美・アガキチ。彼の子孫は後にアーガス・ダートシルヴィーと名乗り、スバルたちの前に立ちふさがるのであった。

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