ジェネレーション・タイム・ギャップ
「バッテリー可動式ってのは聞いてないんですがねぇ!」
それがタイムマシーンに戻ってからのスバルの一言であった。
元の時代ではアルマガニムでブレイカーが稼働するのが一般的だったのに、急に視力が落ちたのは痛すぎる。
未来から来たマシンだというのでとても興奮していたのだが、一気に熱が冷めた気分だ。
「バッテリーに決まっているじゃないですか! 寧ろ、他に何があるというんですか!?」
「え」
「えぇ……」
スバルとカイトが顔を見合わせ、困惑する。
どうやら未来は彼らが思っている以上に、資源の使い方に厳しいようだ。
「確認したい。アルマガニウムはあるのか?」
「アルマガニム!?」
ミズキが驚き、その場にこけそうになった。
「あんな危険な代物、ここにあるわけないじゃないですか! 戦国時代でも、未来でも絶対に残していてはいけないものです!」
「そうなの?」
「一応、新人類はあれのおかげで生まれたと言われているんだがな……」
遠回しに自分の生まれを否定され、カイトはとても複雑そうな顔をしていた。
「皆さんの時代は知りませんが、我々の時代ではアルマガニムの使用は厳禁となっています。タイムパトロールだって使えませんし、どんなテロリストだってあれを使うことはできません」
「テロリストが盗んで使うとかは?」
「絶対にありえません! 断言します!」
断言されてしまった。
こうなってしまっては、そういうものだと認識し、自分たちで納得するしかない。
「大体、ポリーンがあんなに早くバッテリー枯渇したのは、君が稼働しっぱなしにしていたからでしょう!」
「う……」
「そういえばやけに準備がいいと思っていたが、お前まさか、始めて乗った時からずっと稼働しっぱなしにしてたのか?」
「はい、そうです……」
スバルが弱々しく頷く。
未来人と同居人からはため息が聞こえた。
「まぁそこは仕方がない。知らなかったことだ」
だがバッテリーが限られているのは問題だ。
敵の数はまだまだ多い。仮にこれらを全て相手をしなければならないとなった時、果たして自分たちは戦いきることができるだろうか。
「みず吉、そういえば確認していなかったが、敵の規模は分かっているのか?」
「我々を襲った機体の数なら、大凡20はあります。しかも戦艦や特機も確認できました」
「スバル。こいつらが一斉に襲いかかったとして、勝てるか?」
「正直辛い」
つい先ほどモリマルと戦い、一つ目巨人――――ミズキはポリーンと呼んでいたが、あの機体で全てを相手するのは厳しいと感じる。
特別な武器や、運動性能をもう少し高めてくれるのであれば話は別なのだが。
「でも、きっとばれてるよね。こっちで戦えるのが一機だけだって」
「だろうな」
すでにこちらの戦いぶりはテロリストたちに伝わっていると考えていい。
こちらもそのことを承知だったが、バッテリーで動いているのが誤算だった。
「てっきり承知の上かと思っていましたよ……」
ミズキが落胆する。
タイムギャップというものだった。
「だが、あそこで出ていないとこいつを捕まえることができなかった」
ポリーンの隣で回収されたモリマルを見上げる。
顔を切断されて以来、深紅の巨人は全く動く気配がない。少なくともコックピットは全く無傷だ。中にいるパイロットがこうまでおとなしいとちょっと不気味になる。
モリマルはここまでの間、一切抵抗を見せていないのだ。
「やけに静かだよね」
「最初の口ぶりから察するに、やつはこの時代の人間のはずだ」
「開け方が分からないのでしょうか?」
「動かしているのにか?」
コックピットが無事なのだから、パイロットも無事のはずだ。
中で気絶しているのであれば説明はつくのだが、いかんせん機体の顔面を切り裂いただけなので、衝撃は少なかったはずである。
「とにかく確認してみよう。念のため下がっておいてくれ」
カイトが一歩踏み出す。
その様子を見て、ミズキは不安そうにしながらも指示に従った。
「大丈夫なんですかね。1582年の人間ですよ? 刀とか持ってるんじゃないですか?」
「ブレイカーの顔面を切り裂くような人だけど、刀を触れるだけでなんとかなると思う?」
なぜカツバルが得意げに言ってくる。
そう言われてしまってはぐうの音も出ないのだが、この少年に言われるとなぜだか無性に腹が立つ。
「開けるぞ」
カイトは跳躍。コックピット前まで大ジャンプをすると、ハッチに手を付けた。
頑丈に閉じているそれに手をつけて、力づくでこじ開けにかかる。
「え? あんな方法で開けることができるんですか?」
「絶対に真似しないでね。俺たちの時代だと、フィクションの世界か、信じられないぐらいの鍛え方をした新人類じゃないとあんなことはできないから」
めきめき。
そんな嫌な音を響かせつつも、力任せにコックピットのハッチは開かれてしまう。
中から侍が斬りかかって来るかと警戒し、カイトは敵意をむき出しにしながらも突撃していった。
「ぬ」
しかし、コックピットには何もなかった。
スバルが座っているのと同様のパイロットシートがあり、 上に奇妙な物体が置かれているだけだった。まるで大きな水筒のような、円柱の金属物質だ。
「カイトさん、どうしたの?」
「スバル。お前サイボーグとの戦いを覚えているか?」
「いきなりどうしたの」
「確か、脳だけになっても戦ってきた奴がいたよな」
「いたけど……まさか」
「そのまさかだ」
円柱状の物質から無数のコードが伸びている。それらはすべて、コックピットのあらゆる場所につながっていた。
「操縦桿は全てオート。この時代の人間の脳みそを取り込み、その意識をフォーマットさせることで動いている」
「そんな!」
下から抗議の声が届く。
中に危険はないようなので、スバルとミズキも上に確認しに来た。
「……こちらのバッテリーはまだ生きているようだな」
彼らが来る間、カイトは他に得ることができる情報を探る。
最初の近道はブレイカー・モリマルの機体情報だ。このマシンがどこで作られ、どういった経緯で扱われているのか。
情報が知りたい。
カイトは電源を入れ、モリマルを起動させた。
円柱状の物体はなんの反応もない。
「起動させちゃって大丈夫?」
「動かんよ。脳が死んでる」
モリマルはスバルとの戦闘でダメージが発生する度に、リアルな痛みを表現していた。
つまりマシンに繋がれた脳は動きをフォーマットさせると同時に、痛みも感じてしまう。
画面を切り裂かれたのなら、脳にも同様のダメージを受けているのだ。
だからこの機体が勝手に動くことはもうない。
意識してなかったとはいえ、モリマルは未来からやってきた超人によって顔面を切り裂かれたのだから。
「連中はこの時代の人間にブレイカーを提供した。それは間違いない。当面は同じ機体と戦っていくことになるだろう」
「つまり、この時代の人と殺し合わなきゃいけないってこと?」
「そうなるな」
肩を落とす。
表情が見えないが、スバルがどんな顔をしているのかは難なく想像がついた。
「テロリストは何が目的なんでしょう」
「分からん。だが、ノブヒコと接触していることだけは確かだ。この機体はイシナリを排除しようとしていたし、史実だと死んでいる筈のノブヒコは、この時点で生きている。コイツがその証拠だ」
だとすれば目的はタイムトラベルそのものか。
いや、まだ情報が足りない。
モニターに表示されたマニュアルを眺め、カイトはぼやいた。
「製造元の情報が出た。みず吉、確認してくれ」
「わかりました」
ちょうどハッチに辿り着いたミズキが席に向かう。
そこからモニターに表示された情報を黙読していくが、2秒もしないうちに彼女の表情は青ざめていった。
「製造年月、3019年の5月8日……!?」
「どうした」
「私がいた未来よりも500年も後の時代で製造されたマシンです」
衝撃を受けた時、コンピュータはこれらの機体を当時の最新機だと認識していた。
だが事実は違う。
中身はもっとハイスペックだ。
「3019年からわざわざタイムスリップして、私の時代から狙ってきた……!?」
何のために。
全く理解できない状況になってきた。500年も前の時代のブレイカーと誤認させるだけの技術力を持ちながら、目的が全く見当がつかない。
「どうやら今回の敵は想像以上に強いようだな」
ミズキの表情を見て、カイトはそう判断する。
だがその一方で、スバルはモリマルの中身を興味深げに観察していた。
「3019年のブレイカーか……多分、他にも種類があるんだよね。戦艦があるくらいだし」
「だろうな」
「だとしたら、さ」
スバルは少々遠慮がちに振り向くと、こう言った。
「俺にちょっと考えがあるんだけど、どうだろう」




