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エクシィズ外伝  作者: シエン@ひげ
未来からの侵略者
62/193

タイムパラドックス

 タイムパトロール隊員、ミズキは落下の衝撃で気を失っていた。

 彼女は意識を覚醒させた後、手で頭を抑えながらゆっくりと起き上がる。

 自身が生きている事実から察するに、あのタイムパラドックス集団から逃げることは成功したのだろう。だが、その後の状況がさっぱりわからない。


「コンピュータ、今の状況を教えて」

『大変よろしくない状況です』


 電子音がそう言ったのと同時、ミズキは窓から外の景色を眺める。

 何時も見ていたタイムトリップ中の外の景色だ。何度も見てきた、絵の具をぐちゃぐちゃにしたような奇天烈な風景。

 最初の頃はあまりの色彩に頭を痛めたものだが、今ではすっかり慣れてしまった。


『お察しの通り、一度別の時代に避難した後、再度タイムトリップを敢行しました』

「理由を聞いてもいい?」

『避難先の時代でタイムパラドックスが発生しました。恐らく、先程遭遇した集団が歴史を変えてしまったのでしょう。恐ろしい侵攻ペースです。既に我々の時代にも影響が出ていると判断します』

「そんな!? 幾らなんでも早すぎるわ!」


 実際にタイムパラドックスに直面するのはこれが初めてだが、ミズキはマニュアルで何度も目を通している。

 タイムパラドックスが発生した場合、後の時代では整合性を取るための修正が働く。人間でいえば、傷が自然と治癒されていくようなものだ。この力をタイムパトロールでは『タキオン粒子』と命名している。

 ゆえに、タイムパラドックスが発生しても検知さえすれば食い止めるよう、動くことができるのが本来の流れなのだ。


 ところが、そのタキオン粒子が恐ろしい速さで乱され、歴史が書き変わってしまっている。


『過去の事例と比べても凄まじい勢いです。あのまま残っていれば、我々もタイムパラドックスの影響を受けるところでした』


 今は時間旅行の流れにいる為、タイムパラドックスの影響はない。

 問題は、既に本部の方が影響下にあるということだ。


「本部との連絡は?」

『繋がりません。我々からの無線コードが無効となっていました。今の歴史の流れでは、このタイムマシンは開発されていないのでしょう』

「そんな……それじゃあ、先に出ている筈の応援は!? 他に出勤してたタイムパトロール隊員でも!」

『残念ですが、生きている反応は我々だけです』


 落胆するミズキ。

 だが、そんな彼女にもっと悪いニュースが飛び込んでくる。


『また、問題点はもうひとつ』

「なに?」

『このタイムマシンに侵入者がいます。恐らく避難先の時代から乗り込んだと思われる人間が2名』

「ええ!?」

『内、1名はまっすぐこちらに向かってきています。突入まで残り3、2」

「ちょ、ちょっと待って! 早すぎて心の準備が――――」


 入口が吹っ飛ばされる。

 扉がミズキの横顔を掠めていき、そのまま操縦席へと激突した。


「む、ひとりだけか」


 青ざめるミズキを見て、侵入者――――カイトが蹴りの姿勢を解く。

 この光景を見て、ミズキは震えながら問うた。


「あ、あの。今、なにをなされたのでしょうか」

「蹴った。見ればわかるだろう」


 いや、わかるだろうと言われても。

 明らかに人間の蹴りの威力ではない。頑丈な自動ロックがかけられており、爆弾でも壊れないように耐久性の試験も行われているのだ。マニュアルで読んだから間違いない。

 なのに、どうしてそれを蹴りで壊せるのか。


「あ、いや! 蹴ったのはわかりますよ。ええ、信じられませんがわかりますともさ! ですが、それ以前に! どうして!」

「なぜタイムマシンだと知って乗り込んだのかか? 賠償金を支払わせる為だ」


 なんだったらミズキが賠償金を請求したいのだが、カイトはひよっこ隊員の気持ちなどまったく考えず、ずかずかと近寄っていく。


「ウチのアパートを全壊させた罪は重い」

「な、なんの話でしょうか」

『お答えします。先の時代に避難した際、タイムマシンが不時着したところ彼らが住む建築物を押し潰すアクシデントが発生しました。彼はその抗議の為にきたのでしょう』

「正解だ」


 勝手に答えたコンピュータの存在に疑問を抱くことなく、カイトはミズキに指を突き付ける。

 とても偉そうだった。


「タイムパラドックスが起きるとか意味の分からんことを言っていたが、そんなものは俺たちにとってどうでもいい。貴様からはさっさと賠償金を貰ってから帰る」

『それはできません』


 すると、コンピュータから鋭い指摘が入った。


『既にあなた方の歴史はタイムパラドックスによって上書きされています。わかりやすく解説しますと、認識や存在自体にズレが生じているのです』

「……まったく意味がわからんのだが」

「もっと簡単に説明しますと、あなたの存在そのものが既に異なる形なんです」


 ミズキも解説に回る。

 この勢いで説得し、今回の騒動を少しでも柔らかくしたいというのが本音だった。

 既に彼女の胃はストレスでどうにかなってしまいそうだった。


「例えば、あなたのご両親が出会う前に亡くなっていた場合、あなたは生まれてませんよね。歴史が変わったことで、そういったアクシデントが起こる可能性がとても大きくなってしまんです。なので、タイムパラドックスから回避できた人間は、元の歴史に修正してから帰らないと、居場所がなくなってしまう可能性が高いんです」

「……」


 言われ、カイトは腕を組む。

 『居場所がない』という単語を聞いてから難しそうな表情で考え込み、溜息をついた。


「……どうすればいい」

「え?」

「どうすればタイムパラドックスとやらを元に戻せるのか、と聞いているんだ」


 案外すんなりと納得した上に、修正案の提示を要求してきた。

 もしかすると意外と頼れるかもしれない。

 直感的にそう思いながらも、ミズキはマニュアルに従って説明した。


「タイムパラドックスが発生した時代に出向き、原因を特定。パラドックス発生前の状態に戻すことが一番の解決法です」

「時代の特定はできているのか?」

『できています。西暦1582年。あなたの時代から500年近く前の日本――――所謂、戦国時代になりますね』

「なるほど」


 要は500年以上前の時代に赴き、タイムパラドックスの原因を突き止め、駆除する。

 纏めるととてもシンプルだ。


「わかりやすくていい。俺たちも手伝ってやろう。とっとと出向いて歴史とやらを修正して、アパートを元に戻してもらうぞ。大家が腰を悪くするよりも前に」

「手伝ってやろうって簡単に言いますけど、相手は30機もブレイカーを保持しているテロリストですよ! コンテナには有人仕様のブレイカーが1機しかないですし、私はそんな経験は――――」

「お前は案内をしてくれ。ブレイカーはこっちに任せておけばいい」


 幸運にも連れてきているのは自分が知る限り最高のパイロットだ。

 少々頼りない面もあるが、そこは自分がカバーすればいい。

 カイトに不安などまったくなかった。


「それとも、応援の当てはあるのか?」

『現状、期待できません』

「なら、さっさと行った方がいい。余計なアクシデントが襲ってくる前にな」

「余計なアクシデントって?」

「テロリストが相手だと言ったな。お前は戦力を把握していたことを踏まえると、相手もお前の存在を認識している可能性が高い。当然、逃げられたことも承知のはずだ」


 そういう不穏分子がいるならどうするか。

 元XXXのリーダーを務めた経験から察するに、ひとつしかない。


「連中はこちらを探している」


 カイトが言ったと同時、警告音が流れる。


『どうやらその追手が迫っているようです。数は3機』

「ええ!?」


 ミズキが慌てて操縦桿を握り、モニター映像にブレイカーを映し出す。

 間違いなくテロリストが扱っていた機体だ。


「囲まれる前に突破した方がいい」

「3機のブレイカーからどうやって逃げるんですか!?」

「突破すると言ったんだ」

「このタイムマシンの乗組員は私なので、せめてこちらの指示に従って貰えますか!?」

「歴史の勉強ならそうさせてもらおう。だが、戦闘の経験ならこちらが上だ」


 自信満々に宣言すると、カイトはコンピュータに問う。


「ブレイカーに通信を」

『内線を通じます。音声どうぞ』

「スバル、聞こえるか?」


 既にブレイカーに乗せていた少年に向けて尋ねた。

 すると、ブレイカー側から返答がくる。


『通信なら無事に聞こえるよ!』

「オーケーだ。今、ブレイカーが3機近づいてきている」

『どうすればいい?』

「落とせ。こっちの話はつけた。連中は敵だ」

『了解。ハッチ開いて』

「ちょ、ちょ、ちょ!」


 ミズキがちょっと待って、と言うよりも前に、コンピュータはスバル達の判断を尊重する。

 タイムマシンのハッチが解放された。

 同時に、スバルが乗る白のブレイカーが前に踏み出す。


「それ、私の機体!」

「気にするなスバル。こっちはアパートをぶっ壊されてるんだ。好きに暴れていい」

「ちょっとぉ!?」

『了解だ!』

「了解しないで!」


 ミズキの悲痛な叫びはスバルに届かず。

 時間の流れの中に飛びだしていくと、背中に装着していた飛行ユニットが羽ばたいた。

 右腕にはライフル。左腕には電磁シールド発生装置を携え、スバルは3機の赤いブレイカーを視認。


「あの子、私より年下じゃないですか! そんな子にブレイカーが操縦できるんですか!?」

「できなかったら俺は任せない。黙って見ていろ」


 そしてよぅく観察して判断するといい。


「俺たちが使えるか使えないか。お前が判断するんだな、時間警察さん」


 強気すぎるカイトの視線を受け、ミズキは怯む。

 内心、彼女は心の中で考えを整理した。


 コンピュータの話から察するに、彼らは2000から2100年の人間の筈。

 その時代はまだタイムパトロールは組織として存在しないし、そもそもタイムマシンすら存在していない筈だ。

 どうしてこうも順応できる上に、ブレイカーの大軍に対して強気でいられるのだ。

 彼らの時代にもブレイカーはある。

 それがどれだけの破壊力を有しているのかなど、想像するに容易い。


 つまるところ、どう考えても無理なのだ。

 たった1機とひよっこタイムパトロール隊員に、別の時代から乗り込んだ二人がいたところで、どうにかできるわけがない。


 そう思っていた。


 思っていたのだが、しかし。


『終わり』

「え!?」


 ミズキの視界に映ったのは、自分よりも前の時代に生まれた少年が、支給されたブレイカーで容易く3機のテロリストを撃墜した光景だった。

 恐ろしく正確で的確な狙いだ。

 ライフルの引き金を3回引き、すべて命中させている。


「ウソ……相手が攻撃を仕掛ける前に全部落としちゃった」

『割と早撃ちは得意なんだ。ガンシューティングゲーもノーコンテニューでいけるし、何より無理やり100連射撃たされた経験もあるから』

「それ、なんの拷問?」

『苦しいよ。指、本当に釣るから』


 どうやら彼はミズキの想像以上の修羅場を潜り抜けた少年のようだ。

 そして恐らくは、隣で妙に得意げにしている青年も。


「鈍ってないようだな。安心したぞ」

『当然。それで、どうするの?』

「一度こっちに戻って来い。このままタイムスリップして、歴史の改変とやらを調査する」

『おお、なんかSF映画っぽい!』


 なぜだかとても嬉しそうだった。

 ミズキは頼りになるのかならないのかよくわからないまま、テロリストに立ち向かう羽目になったのである。

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