世界を我が手に
『団長、電磁ライフルは完全に見切られました!』
『おじさん、どうするアルか。あれは完全に気が狂ってる人間アル!』
『うるせぇ! ステルスオーラが見える人間に言われたくねぇ!』
これまで団長たちがブレイカーを奪ってこれたのはエリンギの活躍が大きい。
彼女の新人類としての力が、透視能力。最初は壁の向こうが見える程度だった才能が、研ぎ澄まされたらブレイカーの透明な膜まで見通せるようになってしまった。
この力をフル活用して今の団長達がある。悲しいが、エリンギ以外の団員や団長は全員が旧人類である。特にこれと言った特技はなかった。なんといっても履歴書の特技に『カステラの早食い』と書くくらいの者がいるのだから堪らない。
だが、だ。例え履歴書で自慢できるような特技が無くても、世界征服はできる。
『お前ら、驚いているのはわかる。正直、連中がデタラメなのは俺もびびったさ』
しかし、だからなんだ。
それがどうした。
向こうが超人。こっちは常人。だったら超人が勝つというのか。
否。
『だが忘れるな。先に連中をビビらせたのは俺たちだぜ!』
世間では新人類だ、旧人類だ、と騒いでいるがなんと小さないざこざだ。
団長から言わせてもらえば姪のエリンギもその他の団員も特に変わらない人間じゃないか。相手が凄い奴だからなにをされても仕方がないなら、殴り返そう。これまで賊として活動し、世界征服を進めていく中で障害は何度もあった。
だが、団長は立ち止まらなかった。諦めた事もない。
『いいか、てめぇら。奴らがなにをしてこようが関係ねぇ。お前らには俺がついている。俺は旧人類だが、気にいらない奴は殴れる男だ。どんなに生意気で、どんなに凄い奴だろうが絶対に嘗められねぇ!』
なぜなら凄い奴でも殴り返すから。
なぜなら凄い奴でも怯まないから。
なぜなら凄い奴でも負けているとは思わないから。
『確かに俺たちは世間から見れば負け犬かもしれねぇ。税金は払えないし、夢から落ちぶれた。だが、はみ出した俺たちが這い上がったらダメだと誰が決めた!?』
もしもこんなことを言う奴がいたら全力で殴ってやる。
俺たちは社会的には負け犬かもしれない。だが心まではお前たちの言葉には屈しない。
世界征服を成し遂げるその日まで。
『俺たちの夢はなんだ!?』
『世界征服!』
『世界征服!』
『世界征服!』
『世界征服!』
『世界征服アル!』
『その通り!』
今度はカステラを飲み込んだキノコもちゃんと加わり、6人の魂はひとつとなった。
普段の作戦が通じない今、自分たちの世界征服の心で戦うしかないだろう。獲物はこちらの予想を上回って強大だ。旧式とはいえ、電磁ライフルを生身で食い止めるような連中である。
より強大な武装。より圧倒的なパワー。より気合を入れた世界征服魂を見せなければならない。
嘗められるな、橘・ヒロシ。俺は団長だ。俺が挫けたら、誰が世界征服を成し遂げる。
『野郎ども、合体だ!』
団長が号令をあげた。
『了解!』
団員たちが承認する。彼らは一斉にステルスオーラを解除し、自分たちが搭乗しているブレイカーの姿を露わにさせた。
「あれ?」
その行動が獄翼側の不意を突いた。
スバルとしてはてっきり再び狙撃してくるかと思っていたのだが、まさか堂々と姿を見せるとは思ってもみなかったのである。
「ステルスオーラを解いたか」
「こちらに対して無意味なのに気付いたのかな」
後部座席からも意見が飛び交うが、それも長くは持たない。背後から電磁ライフルの弾が飛んできたのだ。
「今度は俺が!」
スバルが素早くレバーを引く。獄翼は鞘から刀を抜くと、素早く回れ右。
飛んできた電磁ライフルを鋭利な刃で弾き飛ばした。
「天動神に比べると軽いぜ!」
「まあ、あれと比べるとな」
先日、アキハバラで戦った超マシンと比べるとどうしても旧式の武器は霞んでしまう。
武装だけではない。その辺のブレイカーなら負けない自信がある。
「取り囲んでいるブレイカーは全部作業用だな。恐らく、センサーの範囲外にいるのが狙撃手だろう。こっちを先に片付けるぞ」
「了解!」
飛行ユニットはまだ修復は済んでいないが、それでも周りを取り囲んでいる作業用ブレイカーよりは速く動けるはずだ。ブースターを起動させ、低空飛行で狙撃手へと接近していく。
「待った! 作業用ブレイカーが一斉に動いてる!」
「え」
ミラーボードを取り付けただけの作業用ブレイカー達が一斉に動き出す。
彼らは獄翼には目もくれず、一目散に走りだしていた。
「逃げてるのか?」
思わずそんな感想を抱くが、狙撃手からの電磁ライフルは止まらない。
刀で再度弾き、スバルは敵の動きを観察する。
「狙撃手はこっちを狙ったままもたいだけど、援護に向かうのかな」
「だとしてもステルスオーラを解く理由にはならない」
カイトは考える。傍から見ると、団長と名乗る一派が使っているブレイカーはいずれも獄翼の敵ではない。シンジュクで戦った鳩胸の方が立派な武器を使っていただろう。彼らは電磁ライフルの反射以外で戦う術を持っているとはどうしても思えなかった。
だが、彼らは戦闘意欲を失っていない。
少し前から通信を切っているので向こうのやり取りは聞こえないが、彼らは目的を持って移動しているように見える。しかも、逃走ではない。ステルスオーラを解かなければならない移動なのだ。
猛烈に嫌な予感がする。
「……スバル、確認したい」
「なに?」
「奴らが乗っているブレイカーだが、なにか特殊なシステムがあるのか?」
「ないよ」
ブレイカーを良く知る少年の解答は、思った以上に早かった。
「わかりやすくいえば、ショベルカーやブルドーザーのブレイカーバージョン。建築とかに使われる、作業用のブレイカーだよ。少なくとも獄翼みたいな同調システムは無いし、武器だって本来は取り付けれない」
「では、カスタム性はどうだ?」
カイトもここ最近理解し始めたのだが、ブレイカーという機械の巨人には様々な可能性がある。
特にアキハバラで出会ったゲテモノマシン、念動神のことを思えば尚更だ。
「アニマルタイプは普通、カスタム性が効かないんだったな」
「……そうだったね」
「だがサイキネルはそれらを合体させた」
無論、念動神は新人類王国の技術力の賜物である。一般人、しかも賊があのような機体を用意するのは難しいだろう。
しかしまったく不可能だとは言い切れない。
「作業用のブレイカーをカスタムするような連中だ。武器を取り付けれないと言っていたが、連中は少なくともそれに武器を取り付ける技術がある」
それから導き出される答えはズバリ、
「アイツら、合体しないだろうな」
「……」
スバルの表情が青くなる。
先日の悪夢を思い出したのだろう。無数に放たれる光の雨を思い出し、彼は戦慄していた。
「結構速いな」
一方、エイジとシデンは後部座席から作業用ブレイカー達の動きをじっくりと観察していた。彼らの移動速度は思っていたよりも早い。流石に獄翼程ではないが、飛行ユニットを起動させないと追いつくのは難しい。
「あ」
センサーから届くギリギリの場所で、異変は起きた。
狙撃手が前へと出てきたのである。
「センサーに狙撃手が入った!」
「モニターに出して!」
正面モニターに狙撃手の姿が表示される。ミラージュタイプの、ライフルを構えたブレイカーだ。他の仲間達と比べると外装は豪華だが、やはり古い装備である。
問題は、機体の特性。
「夜叉半月!」
スバルが驚愕の表情で言い放つ。
「ウソだろ! なんであんな装備で夜叉半月なんて用意してるんだよ!」
「どんな機体なんだ!?」
「簡潔に纏めるけど、凄い豪華な機体だよ!」
なぜならば、
「世界に3体しかない、周りのブレイカーを纏めて合体しちゃうスーパーロボットだ!」
「はぁ!?」
なんだそれは。
本当になんだそれは。
空いた口がふさがらない後部座席の超人達は、唐突に現われたとんでもない狙撃手を前にして、ただ唖然とするだけだった。