オズワルド・リュム(3X)は結婚したい
オズワルド・リュムは旧人類連合に所属するブレイカーのパイロットである。
年季を重ねて少しずつ腕を磨き、階級も大尉まで上がった。
周りからの評判も上々。最近、彼らの指揮を務めることになった神鷹カイトからの評価も良い。
そんな彼だが、ある悩みを抱えていた。
「結婚がしたいッ!」
トレーニングルームの休憩室でテーブルから立ち上がり、オズワルドは天井に向かって叫んだ。
相席のスバルは突然の出来事に狼狽えつつも問う。
「どうしたんですか、急に」
「聞いてくれるか!?」
餌を貰った魚のように飛びついてきた。
テーブルの向かい側から20歳近く年の離れた少年の胸に飛びかかり、むせび泣くオズワルドの姿はとても痛々しい。周りのパイロットたちは全員、見て見ぬふりをしていた。
「実はこの前、上官に勧められて婚活パーティーに出たんだが……」
「はぁ」
泣きつかれたスバルはとても困った表情をしていた。
無言で『早く退いてくれませんか』と圧を放っているのだが、オズワルドは気付く気配がない。
カイトにチクろうと連絡用のスマホに手を付ける。
「聞いてくれよ!」
「うお!?」
するとオズワルド。少年がスマホを手に取った瞬間、素早く太い腕で取り押さえた。
がっちりとした腕に指ごとスマホを握りしめられ、スバルは怯む。
その隙に、とでも言わんばかりにオズワルドは素早く話しはじめた。
「婚活パーティーに出たんだ! 可愛い子が大勢いて、上官に心の中で感謝を述べたものだ!」
「あの! 指がとても痛いのですが!」
「じゃあ俺の話聞いてくれる!?」
涙目で訴えられた。
アラフォー男性(パイロットなのもあって、かなり体格もいい)からの有無を言わさぬ圧を受け、スバルはやはり怯むだけだった。
しかし、直前の魂の叫びを聞いてしまった為、彼はこの話のオチを大体予想してしまっている。
「……あの。もしかしてですけど」
「なんだい?」
「成果、よろしくなかったのでしょうか」
遠慮がちに。一応、最大限遠慮したつもりで聞いてみた。
直後、オズワルドの涙腺が崩壊する。
彼は自分よりも20歳くらい若い少年の胸で泣いた。
「うわ、止めてくださいよ! 訓練用のスーツが!」
「ぢーん!」
「鼻をかまないで!」
どさくさに紛れて汚いこともしでかしやがったアラフォーのおっさんを見て、スバルはとてもよく理解した。
オズワルド・リュムは結婚願望が強い。
どうしてかは知らないが、かなり強い。
だが、いかんせん強すぎるのだ。本人からすれば愚痴を聞いてもらいたいだけなのかもしれないが、とにかく重すぎる上に気合が空回りしている。
こんな調子で『僕と結婚してください』と言われても、女子は退くだけではないだろうか。
男子の自分でさえ既に疲れ果てているのに。
「ふぅ、すっきりした」
少年の訓練用スーツで一通り体液を出しきった後、オズワルドはすっきりとした表情で落ち着いた様子を取り戻す。
それに反比例してスバルはげんなりとしていたのだが、彼の気が済んだのなら問題なしとしよう。
言いたいことは一杯あるが、何事も全部言えばいいわけではないのだ。
「じゃあ、俺はクリーニングへ」
「まあ、待ってくれ。話はまだ終わりではない」
そそくさと退出したかったところだが、オズワルドの肩を掴まれてしまった。
嫌々振り返ると、オズワルドは自分のスマホをスバルに見せつける。
画面にはあるHPが掲載されていた。
「婚活パーティーへの参加ですか?」
「まさか。もっとよく読んでくれ」
まいまじと内容を読み始める。
そこには大きな文字でこう記されていた。
『君も邪神様にお仕えして、救われよう! 我々が日々を辛く生きなければならないのはなぜか!? 戦争のせいか。人格のせいか。邪神様は我々よりもはるかに高度なお方。信じる者は救われる! さあ、君も今すぐ入信しよう!』
「やばそうな宗教の勧誘じゃないですか!」
思わずスマホを床に叩き落としたくなった。
ぎりぎりで踏みとどまれたのはオズワルドが正面にいたお陰だろう。
「こんなの俺に見せてどうリアクションをしろっていうんです!?」
「よく見てくれ。募集要項のところだ。入信はペアでやったほうが入信料金割引とある」
「俺を巻き込まないでくださいよ! 大体、こんな宗教に入ってどうする気なんですか!?」
「もちろん、結婚したいからだ!」
オズワルドは強く主張した。
「俺は救われたい! 結婚して、救われたい!」
スバルは思った。
結婚ってなんだろう、と。
「君も幸せになりたいだろう!? 一緒に邪神様に幸せにしてもらおうじゃないか!」
「嫌ですよ! ていうか、邪神様って時点で怪しいじゃないですか!」
「いい邪神様かもしれないじゃないか!?」
物凄い形相で詰め寄られる。
オズワルド・リュムは嘗てない程に必死だった。
婚活パーティーで結果を出せなかったのを悔いているのかもしれないが、信じられない程に必死だった。
必死すぎて、スバルは完全にドン引きしていた。
「他の人に協力してもらえば……」
「こんなことを頼めるのは、君くらいだろう」
「もしかして、俺は頼めばなんでもしてくれるって思ってません?」
「いや、他の連中は……俺に哀れみの眼差ししか送ってくれなかったよ……」
「俺もそうなんですけど」
「でも、君なら俺を助けてくれるだろう!? どうか、頼むよ!」
既にスバルはオズワルドとセットで行動するようになっている。
これはカイトの指示でもあった。
オズワルドは星喰いから生還した人物である。
彼から聞ける情報や、キャリア、技術はきっと役に立つはうだから学んでおけ、と言われたのだ。
こんなどうしようもないかたちで関係を無下にするのは、たぶんよくない。
「……わかりました」
「行ってくれるか! よし、これからは俺たちは勝ち組だぞ!」
本当にこの人から学ぶところはあるのだろうか。
スバルは真剣に悩み始めた。
「よし。では今日の夕方から早速向かおう」
「この宗教の場所にですか?」
「そうだ。目印はレストランらしいが、どうもその裏口から入れるらしい」
「レストランの裏口?」
怪しい宗教がレストランの経営をしているのだろうか。
スバルは改めてスマホを眺め、場所を確認する。
キッチン・ベルセリオン。そこが怪しい宗教の活動場所らしい。
一体どんな怪しい連中がいるんだろうか。
スバルは不安すぎる表情を隠さぬまま、このレストランの名前を睨んでいた。




