vs純正アルマガニウム
アメリカ、連合公共宇宙局。
ここでは日夜、地球外部のあらゆる研究を行っており、将来は人類の宇宙進出を担うであろう組織であることは国民に多く知られている。
そんな宇宙局にこの日、珍しい来客がやってきた。
「へぇ、ここが宇宙局」
「始めてきたけど、随分広いな。宇宙人とかがいたらまっさきにここが狙われるんだろ?」
民間人である。
働いている当人たちは、ロケットの打ち上げを見守る為に関係者が来るとだけ聞いていたのだが、どう見ても関係があるとは思えない出で立ちの面々だった。
百歩譲ってエリック・サーファイス議員はまだわかる。
その隣にいる、もの凄く人相の悪い長髪の男と、観光気分丸出しの大男、メイド、少年少女に、これまた無愛想な男という珍妙な組み合わせはいったいなんなのだろうか。
「あれ」
「どうした」
「あの黒いアジア人ってさ。例のハヤミ事件の奴じゃないか?」
「え?」
ハヤミ事件。
日本からバイクだけで月へ到達した恐ろしすぎるライダーが、地球に再度突っ込んできたという前代未聞の大事件だ。
この詳細は世間には公表されていない。あまりに素っ頓狂な話なので、説明するだけでも頭が痛くなるし、納得してもらうとも思えないからだ。
そのハヤミ事件に関わったとされるコードネーム、『ジャパニーズ・キチガイ・ランナー』が目の前にいる。
「あいつも走って大気圏突入できたりするんだろうか」
「まさか、ここに来たのはそのための準備!?」
「エリック議員の知り合いだそうだが、もしかして宇宙開発の新しい技術提供に……?」
ざわつき始める局員たち。
彼らの様子を見て、エリックはぼやく。
「お前って、有名人なんだな」
「そんな筈はない。ここには始めて来たぞ」
「局員たちは全員お前を見てひそひそ話てるけど?」
「日系人が珍しいんだろ」
普段、宇宙開発に務めている好奇心旺盛な連中が日系人を見ただけでそこまでのリアクションをとるのかと疑問を抱くが、胸の奥にしまっておく。
今日、ここに来たのは彼らを紹介する為ではないのだ。
「局長。準備の方は?」
「既に完了しています。何時でも発射できますよ」
この日、局から新たにロケットが宇宙へ飛ぶ。
世間には無人ロケットと報道されているが、その中には密かに純正アルマガニウムが格納されていた。
当初の約束通り、純性アルマガニウムは誰の手にも届かない場所へと打ちあげられることになったのだ。
「スバル君、身体の方はなんともない?」
「医者がいうには至って健康だとさ」
飲み込んでいた張本人もすっかり健康で、5機の獄翼から戻った純正アルマガニウムの影響をまったく受けていない。
叩かれても痛いので、マリリスのように新しい生物になるといった現象も危惧しないでいいだろう。
「俺のことよりさ。サイボーグの方はどうなったの?」
「ジャスティスとかいうボスは警部に引き渡した。どんなに正義を語ろうが、連中がやったことはテロ行為。立派な犯罪だ。辛うじて生きていたサイボーグも回収されて、刑務所行きだと聞いている」
「俺たちもそういう意味なら犯罪者だよね?」
「先に手を出してきた向こうが悪い。それに」
戦って勝ったら無罪、というのが新人類王国のやり方だ、と言いかけてカイトは止める。
肝心の王国がまだ納得していないのを知っているし、そんなことを言っていれば堂々巡りだ。
「それに?」
「いや、なんでもない」
カイトは知っている。
正義と銘打てばなんでも許されると考えてしまう、とても厄介な思考の怖さを。
この少年も今回の件で理解したかもしれないが、直接口にするのは躊躇われた。
自分が正しい。
そう思うことは、誰にだってある。
だが今は、それを考える時ではない。
「そろそろ発射するそうだ。見物するなら、特等席を用意してるけど?」
「それじゃあ遠慮なく見物させてもらいますか」
「しかし、そっちはホントに良かったのか?」
エリックが問う。
「お前らの仕事は、アレの奪取だろ?」
「悪用されないなら、越したことはない。依頼主にもちゃんと了解はとった。渋々といった具合だがね」
間にイルマを挟むと厄介なことになりそうなので、この辺の説得は直接ウィリアムと行った。
彼がイエスと答えるのならイルマも屁理屈で外壁を囲んではこないだろう。
どうにもカイトはイルマに苦手意識を持ったままだった。
「だから、ちゃんと地球の外に放り出されたのを確認したら俺たちの仕事は終わりだ」
「そうかい」
そう、終わるのだ。
純正アルマガニウムのような、奇跡を起こしてしまうような超エネルギーはまだ人類の手に余る。
小さな破片ですら奪い合うのだ。
こんな大きな奇跡をちらつかせたら、もっと大きな騒動になってしまう。
ゆえに、奇跡は地球から去ってもらおう。
少なくとも、人類の手に届かないところに。
「純正アルマガニウムの回収は完了いたしました」
「ご苦労様」
ウィリアム・エデンの個室に入ると、イルマは小さな箱を手渡した。
中身を開ける。
虹色に輝くビー玉のような結晶体が入っていた。
「よろしかったのですか。ボスとの約束を破ってまで回収しては、機嫌を損ねるかと」
「いらない心配はしなくていい。君は言われたとおりに行動すればいいんだ」
「失礼しました」
睨みつけるように言われると、イルマは深々と礼をする。
「大丈夫さ。彼は確かにこれを見ているが、加工してしまえば見分けはつかなくなる」
「加工、するのですか」
「ああ。君には少しだけ話しておこうか」
イルマは今回の件の功労者だ。
飛び立った後のロケット内部にテレポートし、中から純正アルマガニウムを拝借して戻ってきた。カイト達の目を誤魔化す為には飛び立った後に行動するしかなかったのだが、過去にイルマが局長と入れ替わって行動していたのが功を為したわけだ。
そんな働き者彼女に、ほんの少しだけご褒美を与えてあげよう。
「実を言うと、新しいブレイカーを作る計画がある。鬼よりも強力な奴だ」
「鬼よりも?」
いまいち想像できないようで、イルマは首を傾げる。
当然だ。鬼とゼッペルは最強の矛として用意しているのだ。実績もあるし、それを超える機体と言われてもいまいち想像できないのだろう。
しかし、ウィリアムには具体的な光景があった。
「まだ開発段階だから細かくは言えないんだけどね。とにかく、ソイツにカイトを乗せたいと思ってたんだが……ブレイカーとはいえ、彼らと並んで戦えるのなら、あの少年でもいいかもしれない」
なにせ想定しているマシンは身体に大きな負荷がかかる。
カイトしか乗れないだろうと考えていたのだが、使い捨ての旧人類が乗って真価を発揮してくれたらそれに越したことはない。
いざとなれば自分の催眠を使えば、蛍石スバルは100%の力で最高のマシンを操ってくれる。
カイトが支配者。スバルが殲滅者。
案外、お似合いかもしれないと思い始めた。
「ウィリアム様。その機体に純正アルマガニウムを?」
「ああ。そのつもりだよ。通常のアルマガニウムでは、鬼を超えるマシンを作れないだろうからね」
「名前は既に決まっているのですか?」
「ああ」
ウィリアムは企画書のような紙の束をイルマに見せる。
ブレイカーの設計図のようだったが、表紙にはこう書かれていた。
「エクシィズ。XYZと書いてそう読むんだ。最後を締めくくるブレイカーに相応しい名前になると思うよ」
このブレイカーが本当に最後を締めくくるマシンとなるのか、今のイルマにはわからない。
ただ、ウィリアムは鬼とゼッペルを用意した張本人だ。
そのウィリアムが自身を持って推すのであれば、間違いないだろう。
きっとこのブレイカーと、純正アルマガニウムはボスの助けとなる。
己にそう言い聞かせ、イルマは胸の中で納得させた。
ボスに謝罪すべきではないかと葛藤する、心の中の叫びを封印して。




