vsアクロバティック女神像
ジャスティスには勝算があった。
サイボーグ化する際、ドクトルに無茶を言わせて自身に付与した機能。それこそがツインアルマガニウムシステムである。
通常、ブレイカーの出力はアルマガニウムの欠片で決まる。そこに更なるアルマガニウムのパーツ――――つまり自分自身が加わることで出力がパワーアップするという代物だ。
当初、このプランを聞いたドクトルは頭を痛めていたが、そこは流石にマッドサイエンティスト。蓋を開ければジャスティスの希望通りの機能を発揮してくれている。
後はこのツインアルマガニウムシステムに、最高の純正アルマガニウムが加われば間違いなく敵はいなくなる。
正義の使徒、POJは最強無敵のアルマガニウムパワーで稼働し続け、絶対正義の力で侵略者共を蹴散らすことができるのだ。
「今、POJとジャスティスはひとつとなった!」
融合したジャスティスの意識は、はっきりとPOJの目線で脳へ流れていく。
何時ものように歩いてみると、足の代わりに鋼の巨人が歩いてくれる。今、文字通りジャスティスとPOJは融合したのだ。
中途半端なモーショントレースなどではない。
パワーも倍増した今なら、カルロス大統領の秘密兵器である自由の女神だって一発のグーパンチで沈めてみせる。
そんな決意を込めて決着をつけようと女神の出方を伺っていたのだが、ここで彼にとって最大のハプニングが起きた。
「え」
女神像がたいまつからエネルギーソードを構えた。
ここまではいい。曲がりながらもブレイカーを相手にするのだ。聖書がシールドにもなってるし、今更武器を展開しても驚きはしない。
問題はその後の行動だ。
自由の女神はこともあろうか跳躍すると、サーカスの曲芸のようなアクロバティックな回転をキメ、エネルギーソードを突き出しながら急降下してきた。
「な、なんだと!?」
パイロットが乗り込んだのか。
否。人間がブレイカーを動かして、あんな動きができるわけがない。今の自分のように完璧な同調をしているわけではないのだから。
では、モーショントレースか。
これも否だ。
さっきまでの戦い方と明らかに動きの質が違う。
『食らえ!』
解答は女神像から響いてくる少年の声で察することができた。
ジャスティスも知る声だ。
「君はあの少年か!」
蛍石スバル。純正アルマガニウムを飲み込んでしまい、人質として預かっていた少年だ。
彼が今、自由の女神像を動かしている。
「少年、君はブレイカーをそんな風に扱えるのか!?」
XXXがモーショントレースをしているのならまだ理解できる。
だが、彼は紛れもない旧人類の少年だった筈だ。彼がブレイカーを動かすスキルを保持していても、人間のスペシャリストのような動きを再現するとは、完全に予想外である。
「くっ!」
完全に不意をつかれたジャスティスは数歩下がり、女神像のエネルギーソードによる攻撃を回避する。
先程までPOJが構えていた場所に女神像が着地したと同時、エネルギーの刃が叩きつけられた。コンクリートが砕け、粉塵が宙を舞う。
「そんなものでは目くらましにもならんよ!」
スバル少年が動かしているのには驚いたが、冷静になりさえすれば怖い相手ではない。
彼のスキルなのか、女神像の隠された機能なのかは知らないが、相手は所詮人間とブレイカー。それならツインアルマガニウムシステムで動くPOJが圧倒的に優位なのだ。
出力なら、POJが負けることなどない。
『これで、どうだ!』
粉塵に紛れてエネルギーソードが突き出される。
ジャスティスは眼前に向けられた光の刃に取り乱すことはせず、ただ両手を前に突き出してこれを受け止めた。
「例え自由の女神がエネルギーソードを抱えて自由を謳おうと、正義の力の前では無力!」
『それなら、これだ』
女神像がたいまつを手放す。
「む!?」
そのまま腰を屈め、素早くPOJの背後に回り込む。
両腕で腰をがっしりとホールドし、女神はPOJを持ち上げた。
「おおう!?」
自身が持ち上げられたことに驚きつつも、ジャスティスはこの後の光景を予測する。
女神像が行っている一連の動作は知っていた。これはプロレス技でお馴染み、バックドロップの体勢ではないか。
「き、君! ブレイカーでの戦いだぞ、これは!?」
『なんでもありの戦いに、変な括りをつけるな!』
POJの脳天が地面に叩きつけられる。
頭部に発生したダメージはそのままジャスティスに痛みとして連動し、激しい頭痛が襲いかかった。
『まだまだぁ!』
POJが怯んだのをいいことに、女神像は体勢を変えて次の技へと移行していく。
その光景を見て、上空からエリックとマーティオは唖然としながらも、感嘆した。
「おお、あれは逆エビ固めだ!」
「しっかり下半身が悲鳴をあげてるな。エネルギーも漏れてねぇか?」
「お次はチキンウィングアームロック!」
「腕、完全に曲がってるな」
流れるように炸裂していく女神像の関節技。
巨人が仕掛けるにはあまりに華麗に決まる技の数々を見て、怪盗たちは『あのガキ、実は新人類なんじゃねぇのか』と勘繰り始める始末だった。
勿論、蛍石スバルはれっきとした旧人類である。
ブレイカーの操縦ではそこらの新人類以上のキャリアを(ゲームで)積んできたという自負もあった。
だが、彼がプロレス技をしかけたのはこれが始めてである。
それがどうしてここまで決まるのか。
謎の答えはスバルがつけているヘルメットと、そこに繋がる女神像に秘められたシステムにある。
結論をいうと、女神像にも同調システムが存在していた。
ジャスティスのような完全な融合ではない。自分の意図する動きを再現する為に、システムがパイロットの身体を強制的に動かすのだ。
故に、スバルはまるで本当の人間のようにブレイカーを動かすことができる。
しかも、彼には過去にXXXの化物軍団を後ろに乗せて、その動きを再現させた実績があった。指が痛くなりそうな複雑な動きでも、慣れたもんである。
『出力でお前に勝てないのは、その漏れまくってるアルマガニウムエネルギーを見ればわかるさ! だけど、ただ力任せにぶつかるだけが勝負じゃないんだぜ』
スバルは思い出す。
故郷で暮していた時、カイトに野暮なツッコミをする度にプロレス技を仕掛けられた過去を。
今思い返せばかなり手加減をされていたのだろうが、まさかこんな形で反撃することになるとは。
体に染みついた思い出は、思わぬ形で表にでてくるもんだった。
尚、彼はこの時の経験を経て、後に巨大生物を相手にブレイカーで本当にプロレス技を仕掛けることになるのだが、それはまた別のお話である。
「お、おの、れ!」
POJは確かに出力だけは最高のブレイカーだ。
だが、肝心なことをジャスティスは忘れている。
最高のエネルギー出力でも、その肢体を攻められれば弱い。
これが超人同士。あるいはただのブレイカーが相手だったら話は違ったのだろう。
しかしPOJの関節は完全に設計者が想定していない、『ブレイカーによる関節技』で破壊されてしまった。
痛みはそのままジャスティスにフィードバックされ、自由に動くことができない。
「こんな! こんな、子供のプロレス遊びで! 正義が、長年積み上げた正義が!」
ジャスティスの理想が崩れようとしている。
小さな児童がお遊びでやるような格闘ごっこで組み伏せられ、そのまま破壊されてしまった。
それは小さな亀裂となって、徐々に完璧だった筈の力に大きく広がっていく。
打倒新人類。
頭の上で輝く文字に、影が生じた。
「まだだ!」
理想の文字に浮かんだ影を振り払うように、ジャスティスはもがく。
唯一動く首だけが上下左右に暴れるが、虚しく空を切るだけだ。
『無駄だよ。下半身や腕は念入りに壊しておいたからな。アルマガニウムのエネルギーが漏れるだけさ』
「黙れ小僧!」
ジャスティスが吼える。
POJの双眸が不気味輝くと同時、そのボディも怪しく輝きを増していく。
「なんだ!?」
「今度はなにをするつもりだ」
POJから光が抜けていく。
全身から放たれていたアルマガニウムの光がまるごと空に集まっていき、ひとつの巨大な球体を形成していった。
自由の女神の胸部程度の大きさはあるであろう光の球の中心に、ジャスティスも浮かんでいる。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
苦しげな声を漏らしながらも、彼は女神を睨む。
両腕を前に突き出すと、彼は最終兵器を起動させた。
「こうなったら受けろ! ツインアルマガニウムの出力をその身に浴びた、この正義の突進を!」
本来なら砲身から発射される予定だったが、構わない。
エネルギーも上手く安定していないが、纏いながら突っ込むだけだ。
それなら砲身もいらない。POJからアルマガニウムを借りて、ただ全身あるのみである。
「ふははははははははははっ! 正義の行進をみろ!」
光を帯びたジャスティスが自由の女神へと一直線に飛んでいった。
猛烈な加速をつけて飛んでくる光の筋肉ダルマを視認し、スバルは静かに息を飲んだ。




