vs怪盗交響曲
新人類に生まれたら誰もが強いわけではない。
彼らはあくまで『特化しやすい心材』だ。力の伸ばし方には個体差がある。
今でこそバトルロイドなどによって新人類の区別は容易になったが、力を伸ばさずに胡坐をかいた新人類などは旧人類と変わらない。寧ろ、努力して力を伸ばした旧人類を相手にしても歯が立たないだろう。
エリック・サーファイスの場合はあくまで『盗み』に特化された新人類だ。
その結果、彼が得た異能の力は身を守る、あるいは盗みに大いに役立っている。では、それが敵を倒せるかといえばそうではない。
マーティオは知っている。
エリックが戦いに抵抗を持っていることを。
本人が聞けば否定するだろう。彼が覚悟を持ってこの戦いに臨んでいるのも知っている。なにせ尊敬していた従兄弟や師もこの件に関わっているのだ。きっと、自分の手で決着をつけたいと考えているに違いない。
しかし、その一方で。
彼はマックス・サーファイスに拒まれて以来、他人を傷つけることを極力避けているのも事実だ。だからこそ自分のような汚れ役が必要だった。
マーティオは気にしていない。寧ろこれでよかったとすら思っている。彼が自分から人を殺す瞬間など、目撃したくなかったから。長い付き合いなのだ。あの友人が、どんな思いでスパイ活動を続けてきたのかよく知っている。
結論を言おう。
エリックではジャスティスに勝てない。
彼の力は圧倒的だ。今でこそ異能の力――――マーティオが名付けた『見えない腕』で捌いているが、一撃でももろに受けたらヤバい。ジャスティスはこれまでのサイボーグの比ではなかった。
「オレがやるっつってるだろ、そういうのは!」
カイトとネルソンが倒れた時点で大人しくしていればよかったのだ。
だというのに、どうして前に出てきた。マーティオは呆れ、仮面を越しに親友とジャスティスを見る。
「どけええええええええええええええええええええええええええええええっ!」
吼えるように叫ぶと同時、全力で飛んだマーティオがエリックとジャスティスの間に割って入る。もうひとりの怪盗から抜かれたナイフの一閃を華麗に回避し、ジャスティスは空中に浮かぶマーティオを視認した。
「ええい、また増えたか! だが正義的に考えて、どれだけ多人数でも問題はない」
「そういうのは聞き飽きたよ!」
エリックが前進する。
マーティオもまた突撃する。
「今だ、クソガキ!」
「む!?」
「え!?」
マーティオの号令に、エリックとジャスティスの動きが止まる。
その隙に、遠方のビルから自由の女神――――秘密ブレイカー、FVIが起き上がった。
「げぇ、マジで動いてる! あのガキ、あんなブレイカーでも動かせるのか!?」
「エリック、奴が勝負を仕掛けたら撤退するぞ」
言われ、驚きの表情で振り返る。
「なんでだよ!」
「当たり前だろうが! 戦闘中のブレイカーの上で戦えるか!?」
「馬鹿め、悪党はスケールが小さい。正義のスケールの大きさを見るといい!」
ジャスティスが大きく腕を広げて突進する。ラリアットの構えだ。
「こい!」
翼を広げ、加速。
マーティオはエリックの腕を掴むと、一気にPOJから離脱した。
「離せ! 奴を抑えられれば、ブレイカーは動かないんだぞ!」
既にネルソンもカイトも倒れた。
自分たちが残ってジャスティスを足止めし、その隙にスバルがPOJを倒すべきだ。
「テメェの言いたいことは理解できる」
全面的に正しいのも否定しない。
何時もなら断る理由などないだろう。
「だが、見ろ」
顎でジャスティスを指す。
エリックも彼を睨むと、ジャスティスは腕を組んで撤退する怪盗と向かってくる自由の女神を視界に納めた。
余裕たっぷりの笑顔で。
「あの自信。奴にはまだ何かある」
「いかにも!」
なぜか上機嫌になったジャスティスはそのまま跳躍。
「確かに、貴様ら悪党を順番に片付けていたらその隙にPOJは破壊されていただろう!」
だが、見よ。この切り札。
「確かにPOJは打倒新人類の為の最終兵器だ! しかし、POJの真なる姿は切り札である正義の魂と一体化することで始めて露わとなる!」
ジャスティスの筋肉が捻じれる。
先程まで膨れ上がっていた筋肉は一気に萎み、そのままネジのような形へと姿を変えた。
直後、ネジとなったジャスティスはPOJへと落下していく。
「おい、まさか」
「ウソだろ……」
ネジがPOJの外装に突き刺さる。
その瞬間、鋼の巨人の全身から青白い輝きが撒き散らされた。
「うわ!」
あまりの眩しさにエリックは手で顔を覆う。
だが間違いない。ジャスティスはPOJと文字通り、一体化している。
「アイツ、サイボーグ化してる癖にブレイカーと融合までするのかよ!? 本当に元人間か!?」
「まあ、死なないバケモンもいたくらいだからな……」
仮面をつけているためか、マーティオは輝きを物ともせずに飛行を続けていた。
が、そのお陰である事実を察することができる。
「どーやら、あのバカ発言も満更じゃないようだな」
「バカ発言って?」
「自分を発射して新人類王国にぶち込むって奴」
ジャスティスが練った『打倒新人類』の明確なプランがこれだ。
最初は自分を発射するなんてなにを馬鹿な、と鼻で笑いたくなったが、あんな融合が可能なら案外馬鹿に出来ない。
「あの発光は間違いなくアルマガニウムのエネルギーだ。あれに純正なんか使われてみろ。ただでさえ粒子が溢れ出す高出力に更に拍車がかかるぞ」
「勢いつきすぎて死ぬんじゃねぇか?」
「奴だけ死ねば話は簡単なんだが、純正を使って全力でぶっ放されると発射地点までクレーターになりかねんぞ」
しかも、現在が高出力なら自由の女神側はパワーで負けている可能性が高い。
スバル少年が乗り込んでからなにか隠された機能が見つかっていればいいが、ポリスマンの口ぶりからしてそれは考えづらいだろう。
「いずれにせよ、女神とやりあっている隙があればそこを攻める方向に切り替えた方が良さそうだ」
「しかし、すげー光景だな。本当に」
さっきまで怪獣映画のような光景だったのだが、POJがアルマガニウムの光を全身から溢れ出しているのもあって更に迫力満点の光景となってしまった。
パイロットが搭乗したとはいえ、自由の女神に勝ち目があるのだろうか。
「忘れるな。女神を操縦しているガキはまだ純正を飲み込んでる」
「あ」
すっかり忘れていたエリックが間抜けな声を出す。
「もし、女神が爆発でもしてみろ。ガキごとここら一帯が消し飛ぶぞ」
「お、おい! そりゃまずくねぇか!?」
「まずい。だから、確実にぶっ潰す必要がある」
一旦離れたのもそれが理由だ。
使える戦力をすべて使う必要があったとはいえ、カイトとポリスマンも倒れてしまった手前、もう自分たちまでやられるわけにはいかない。
「必要ならオレもやられてやる覚悟はある。だが、勝つ算段がついてからだ」
「その算段がつくまえに、ここが消し飛ばなきゃいいけど」
自嘲気味にエリックが呟いた直後、POJが突進する。
自由の女神はたいまつを握りしめ、それを空で振るった。先端から光の切っ先が出現する。たいまつに仕込まれたエネルギーソードを振るうと、自由の女神はアクロバティックな回転を決めながら敵機に飛びかかっていった。
想像を超えた動きを見て、エリックとマーティオは目が点になった。




