vs愛の美少女戦士(化物)
「おいコラ、戦えクソ野郎!」
「俺たちはアイツに対してどうしようもないから逃げてるんだよ。お前は自信があるから挑んだんじゃねぇの!?」
怪盗ふたりの指摘はもっともである。
もっともではあるのだがしかし、ゼッペルだって逃げたい時がある。
「あんな品のない化物はちょっと」
「さっきまで俺達はそれと戦ってたんだけど!?」
「人間だもの。ああいう下品なのは遠慮したいというか」
どの口がそれをいうのだろう。
だがゼッペルにしては珍しいぼやきが、ビーストの足を止めさせた。
「下品。ぼくぁ、下品だったのか!」
衝撃を受けたらしく、ビーストは蹲る。
ビーストも気品を気にする時だってあるのだ。元人間だもの。
「つまり、君はアレか! 動物のように昂ぶり、荒ぶるぼくぉ、下品だと思うわけだね!」
「さっきからそう言ってるのだが」
「むしろ、一度鏡を見た方がいいよアンタ」
人間としての尊厳を保ちたいのであれば、是非そうしていただきたい。
だが怪盗とゼッペルの指摘を受け、ビーストは蹲ったままぶつぶつと独り言を呟き始めた。
「品がない。つまり、ぼくぁ顔が悪いのだろうか。彼はああ言っていたが、面食いな可能性もある。ううん、確かに男の子としてはそのまま合体するのは味気ないかもだね。年頃のようだし」
なんだか凄い勘違いをされている気がする。
「なあ。アンタは面食いなのか?」
「そういう問題ではない」
「では、ぼくぁこれから君好みに変身しよう!」
すっくと立ち上がるビースト。
なにか仕掛けてくる。
警戒する怪盗たちとゼッペルだが、ビーストの変貌は彼らの予想を超えていた。
まずは変身シーン。
肉が膨れ上がり、そのまま捻じ曲がる不気味な形。
そのプロレスを経て、ビーストの肉体は化物から新たな形へと変身を遂げた。
「ミッドナイトビースト・パワー!」
ねじ切れ、肉体は爆ぜる。
が、爆発の中から新たなビーストは顕現した。夜の暗闇の中から愛を求めて生まれた戦士。その名も、
「美少女ラヴ戦士、セーラー・ビースト! 愛に代わって、お仕置きよぉ!」
「あうとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
あらゆる意味でアウトだった。
まず、顔はかわっていない。つまり、ビーストの変身後の顔はおっさんのままである。
更に、名前の通りセーラー服を着用していた。船乗りが着る方ではなく、女学生が着用する方である。
つまり、ビーストは美少女に変身するどころか、更に事案待ったなしな姿になってしまったのだ。
尚、脛毛や腋毛は綺麗に処理されていた。
「ぼくの愛を受け入れない奴は、愛に代わってお仕置きを受けなければならないの! なぜならば、愛こそすべて! すべてを否定するってこたぁつまり、存在価値なし!」
あんまりな超理論である。
「しかし、ぼくぁ愛の美少女ラヴ戦士。存在価値なしでも愛する為にハグできる!」
大柄なセーラー服おっさんが両手を広げてゼッペル達を歓迎した。
彼らは無言で距離をとった。
「警戒する必要はない。いんだよ、好きになっても」
「ぐふっ!」
「エリック!」
吐血し、膝をつく怪盗シェル。
あまりの悍ましさに強烈な精神ダメージを受けた瞬間だった。
「やべぇ。やべぇよ。あんな化物、俺の求めるはにぃじゃねぇよ」
「寧ろ、アレが貴様の好みだったらこれからのお前との付き合いを真剣に考えていたところだぞ」
友情に亀裂が生じなくてよかった。
怪盗シェルことエリックは本気で思いつつも、眼前にいる怪物美少女戦士(自称)がこちらに突撃してきたのを目撃する。
「げぇえええええええええええええええ! こっちきやがった!」
「当然! なぜならば、ぼくぁ愛の戦士だから!」
助けてお師匠様。あの化物、意味がわからないの。
思わず目を覆いたくなるようなグロテスクな愛の化身。
その突進を前に、ゼッペルはただ溜息をつくばかりだった。
「あれが愛の戦士か。資料では見たことがあるが」
「あるの!?」
「ああ。少女漫画とかいう、戦闘の資料だ」
それ絶対に戦闘の資料じゃないと思う。
エリックは口に出さなかったが、心の中で強く主張した。
「その資料によれば、愛は無敵の力を与えてくれるのだという。私は一度その力と戦ってみたいと考えていたのだが、普通の女性と戦ったらダメだと強く反発されてな」
「そりゃそうだ」
「だが、いざ目の前に現れた愛の力がその……あれか」
ゼッペルはとても困ったようにビーストを指差す。
「流石に漫画と現実は違うとは理解していたが、あれだ。違い過ぎるというのも困るな」
「アンタって、もしかして世間知らずって言われない?」
「なぜわかる」
「そりゃわかるよ。無知そうだもん」
「失礼な。こう見えても数学は得意だぞ」
「無知ってのはそういう奴じゃないぞー」
どうもこの戦闘馬鹿も微妙に話が通じない。
話が通じない化物同士で仲良く戦ってくれたら話は早く済みそうなのだが、中々そうもいかないのが現実だった。
戦闘怪物、ゼッペル・アウルノートは好みにうるさかったのである。
「で、どうなんだ結局」
マーティオがいらついた口調で尋ねた。
「やれるのか。やれないのか。戦わないなら邪魔だ。帰れ」
「できればそうしたいが、どうもそうはいかないらしい」
ゼッペルは振り返らないまま背後に気を配る。
イルマ・クリムゾンが抗議の目線を送っているのが嫌でも理解できた。
「アレはああ見えてチクる時は本当に恐ろしいチクりかたをする女だ。私は時々傲慢に見えるらしいが、彼女の我儘に比べたらまだ可愛げがあるとは自覚している」
「よくわからねぇが、テメェに可愛げがあるとは思えんな」
「そうか?」
「この惨状を作ったのはテメーだろ」
周囲に散らかるサイボーグたちの残骸。
これをひとりでやってのけたのであれば、どこにも可愛げがない。
「ゼッペル、残り時間がありません。ボスの期待に背くおつもりですか?」
背後から少女の脅しにも似た文句が聞こえてくる。
青年は前髪を掻き上げ、肩を落とした。
「私にも戦いたいのと、そうでないのくらい区別させてほしいのだが」
「いいえ。あなたにその権利などありません」
イルマははっきりと断言する。
「あなたは最強の戦士です。戦士であれば、戦いに好みなど必要ありません。ただ邪魔なものを倒せばいいのです。あなたはその為に最強の戦士になったのですよ」
「……」
腕を組み、ゼッペルはしばし無言。
ビーストが直前まで迫った段階で、つまらなそうに漏らした。
「権利などない、か。わかった。それなら、いい」
ビーストの動きが止まった。
勢いよく本能のまま、ゼッペルを愛そうとハグの姿勢のまま固まっている。
「おう!? なぜだ! どうして僕の愛のハグが届かない!?」
「喋るな。臭いから、せめて歯を磨くといい」
直後、ビーストの顔面を覆うようにして水晶が形成された。
顔だけではない。
足、背中、胴体、腕。
ビーストの五体がすべて水晶で固められてしまっている。
「さて、これで動きは封じたわけだが」
腕を解く。
水晶で固められたビーストのオブジェを睨むと、ゼッペルは宣言した。
「あなたは醜いわりにしぶとい。こうして固めてもまだ生命活動を続けようとしている」
それも『愛』の為せる技なのかはわからない。
だが、片付ける手段ならいくらでもある。
『不死身の戦士』を殺すシュミレーションなら、脳内で何回もしているのだ。
ゼッペルはその手段のひとつを実践する。
軽く握り拳を作ると、ビーストを固めた水晶がみるみるうちに縮み始めた。
圧迫されていく水晶。中のビーストもひしゃげ、水晶と共に小さくなっていく。
「動けないか。なら、そのまま潰れて死ね」
言い放ったと同時、水晶は小さな石となった。
中に閉じ込められたビーストは断末魔の悲鳴をあげることもなく、石の中に閉じ込められる。
指でつまめるほどの圧力に押し潰されて、まだ生きているのかはわからない。
だが、彼は自力で水晶から出てこれなかった。
だから、これで終わりだ。
「終わりだ、イルマ・クリムゾン。仕事はしたぞ」
「ゼッペル、確認しますが今の技はボスに放つつもりではないでしょうね」
「別に」
どこかわざとらしく微笑み、水晶を弾き飛ばす。
「やる気なら、もう少しまともなやり方でやるさ」
「……あなたは少し教育が必要だと判断します」
言われ、ゼッペルは肩をすくめた。
彼は隣にいる怪盗たちに振り向き、尋ねる。
「見ろ。あの態度を。私の方がまだ可愛げがあるとは思わないか?」
「いや、ねーな」
「オメーも十分バケモンだから」
「あれ」
不服そうに首を傾げながらも、ゼッペルはイルマに掴まれる。
そのまま時間通りにテレポートして消えていったのだが、ゼッペルはその間ずっと不服げだった。




