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エクシィズ外伝  作者: シエン@ひげ
超人大決戦! ~超人VS怪盗VS警察VSサイボーグ~
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vsホワイトワールド

 液体から気泡が漏れる。

 きっと呼吸をしているのだろうと思うが、その液体に入っているのが『脳みそ』なのだから反応に困った。しかも、先程のドクトルの話を信じるならこれは人間の脳ということになる。


「えっと、はじめまして」


 困惑のあまり、挨拶してしまった。

 脳みそから反応はない。代わりに返答したのはドクトルだった。彼女はおかしそうに笑いつつ、言う。


「返事はないさ。彼は今、カイト君の観察に夢中だからね」

「あの人、君付けされたら怒るから止めた方がいいよ」


 いや、そんなことはどうでもいいのだ。

 ドクトルがあまりにフレンドリーだから忘れがちだが、自分は拉致された立場である。しかも、カンチョーも迫られた身だ。

 いち早くこの状況を打破しなければならない。

 ならないのだがしかし。いかんせん、あの『神鷹カイト』をこの脳みそで倒せるのだろうか。


「こんな脳が、カイトさんと戦ってるの?」


 スバルはカイトの戦いを間近で見ている。

 理解が及ばない化物にも悠然と立ち向かい、戦ってみせた。

 そんな彼を、手足のない脳みそが倒すという光景は想像ができない。


「別に勝つ必要はないのさ。君はどうも勘違いしているようだが、戦ってぶちのめすことだけが戦いじゃない。彼は観察するのが目的だと言っただろう?」


 ドクトルは案外すんなりとホワイトの詳細を教えてくれた。

 どうも彼女は自分の成果物を自慢したくて仕方がない性分らしい。


「彼は本当に神鷹カイトを見ることしか考えていない。その為に身体を捨てた執念の持ち主だと言えば、君にも彼の異常性がわかるだろう?」

「そうだね」


 過去、カイトに迫ってきた数々の執念の持ち主を頭の中で思い浮かべる。

 苦笑いしかできなかった。

 どんどんカイトが不憫に思えてくる。


「言ってしまえば、神鷹カイトはホワイトの額縁に囚われてしなったわけだ」

「額縁?」

「絵を入れたりするだろう。彼は今、本当に鑑賞物とされている」


 ホワイトと繋がっているVR空間では、今頃カイトによる決死の攻撃が行われているに違いない。

 しかし、悲しいかな。その攻撃は眼前にいるであろうホワイト『らしき物体』を倒しても意味がない。そこにいるのはあくまで感覚を誤魔化して作り上げた虚構物に過ぎないのだ。

 遠く離れたこの場所に佇むホワイトの脳を、VR空間から攻撃できるか。


 否。


 それは断じて否である。


 神鷹カイトのデータは手元に揃っており、彼の能力についてもバッチリ記録していた。

 カイト本人に、ホワイトの観察から逃れる術はない。

 他の仲間たちが駆けつけて来れば話は別だが、その仲間も他のサイボーグとの戦いでホワイトの存在に気付いてすらいない。

 まさしく、隠された額縁だ。

 カイトは絵画として額縁に入れられ、人知れず行方をくらまそうとしている。


「このままVR空間にいると、どうなるんだよ!」

「どうもならないさ。栄養失調にでもならない限り、死にはしない。ただ、彼はゴキブリ以上にしぶといらしいからね。死ぬのに10年以上かかるかもしれないかな」


 呑気に言われ、スバルの頭は覚醒する。

 今回の相手はカイトにとってもっとも分が悪い敵だ。

 これまでの新人類の追手や新生物は、手段は違えど物理的にカイトと渡り合ってきた。


 だが、このサイボーグ・ホワイトは恐ろしいことに脳だけになってカイトに勝とうとしている。本人にその気はないのかもしれないが、このまま永遠に鑑賞され続けていたら、カイトが消耗するだけだ。

 消耗しきった後は、ただ藻屑になるだけである。


「くそ……!」

「君が足掻いてどうなる」


 腕を縛っている縄をどかそうどもがくが、即座にドクトルに頭を鷲掴みされた。

 彼女はジャスティスの指示に背き、手術用メスを握っている。


「いや、君が足掻けばホワイトは倒せるかもしれない。なにせ、文字通りただの脳みそだ。VRでは不死身の肉体を形成し続ける彼でも、外では剥き出し。君が椅子でも担いで叩きつければ、それで生命活動を終えてしまうだろう」

「よく喋るねアンタ!」

「昔から喋ってないと集中できない性質でね」


 それは兎も角として、ドクトルとしては急な仕事を終えてさっさと仕上げをしてしまいたい。

 ゆえに彼女はメスを少年につきつける。


「カンチョーだと思った?」

「尻に突き刺すには物騒な代物ですね!」

「残念。私は言う事を聞かない子だから、お腹から解剖して取り出しちゃう! 君もサイボーグ手術を受けれて正にwin-win!」


 ドクトルの目がぐるぐると回っている。

 明らかに危険な目だ。カイトはエレノアに迫られる時、こんな気持ちだったのだろうか。今なら心底同情できる。


「助けを求めても良いよ!」

「叫びたい気持ちで一杯ですが、そういうこと言うってことは誰も来てくれない算段があるんでしょう!?」

「もちろん! では諦めてサイボーグになろう!」

「せめて拒否権を!」

「そんなもの、捕まった時点であると思うなよ!」


 正論だった。

 大量の汗を流しながら、スバルは心のままに叫ぶ。


「カイトさん、寝てないでなんとかしてくれえええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!」














 手ごたえはある。

 ちゃんと敵を切断している認識もある。


 だが、肝心のホワイトが倒れない。何度倒れても起き上がり、こちらに向き直る。まるで無限に用意されている発泡スチロールでも用意されたかのような気分だ。


「……」


 ホワイトを睨み、再度動く。足首をひねり、回れ右。猛烈な速度でホワイトの肢体と首を切断した。

 が、


「まだ死なないか」


 転がるホワイトの首から糸のような物が飛び出るのが見えて、カイトは即座に切り返す。

 今度は身体中を繋げる糸を切り裂いてしまおうという魂胆だ。

 一閃する。

 糸が切断されるも、切れた糸は互いに触手のように絡みついて修復。再びホワイトの肉体を再構成する。


「……!」


 あまりの修復速度の速さに絶句する。

 どう考えても自分の再生能力以上の性能だ。どうやったら自分の武器でコイツを殺せるのかと考えるが、答えが出てこない。

 無論、切り裂き以外の攻撃方法はある。


 格闘、噛みつき、ロケットパンチ、etc。


 しかし、それらはすべてホワイトを倒すには至らなかった。

 そもそもホワイトは自分と戦う意思がない。先程から永遠と再生し続けるだけで、ずっとこちらを見て硬骨な笑みを浮かべたままなのだ。


「ならば!」


 あらゆる手段を尽くした。

 その上で倒せないのであれば、手はひとつ。


「ん?」


 カイトが背を向ける。

 即座に走り出したかと思うと、その姿は一瞬でホワイトの視界から消え去ってしまった。


「逃げるのか!?」


 非難する様に言う。

 が、考えてもみれば当然かもしれない。彼がここに来たのはあくまで純正アルマガニウムと、それを飲み込んだ少年だ。

 自分ではない。

 この再会に飢えていたのはホワイトだけ。


 彼が自分に固執する理由などない。


 だが、これではあんまりだ。

 見向きもしてくれないのは、いくらなんでも寂しい。

 ずっとこの時を待っていたのだ。

 ちょっとくらい――――いや、永遠に自分の鑑賞物になってくれたっていいじゃないか!


 絶対に逃がさない。

 幾らでも逃げるといいだろう。

 どうせこの世界に閉じ込められたことを認識できても、逃げ場など用意されていない。


 もうあなたは私の額縁に収められてしまったのだ。

 これから少しずつ、観察しながら心をへし折って見せよう。


 時間は、たっぷりあるのだから。 

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