vs鑑賞者
サイボーグ化の手術を受ける際、どのような機能に特化したいのかとドクトルに尋ねられた。
私はこう答えた記憶がある。
『鑑賞者になりたいですね』
『鑑賞者』
ドクトルはどこか呆れたような口調で続けた。
『カメラでも内蔵したいのかな?』
『そうではありません。ご存知かは知りませんが、新人類王国にとんでもない少年兵軍団がいるのを御存知ですか?』
『知っているよ。それがどうかしたかな』
『私は、その中のひとりに殺されました』
この時、ドクトルはなにを考えていたのか私にはわからない。
だが私なりに、精一杯の情熱を伝えるつもりだった。そうでないとただの戦闘マシンにされてしまう。それでは意味がないのだ。
『ただ、殺された瞬間に、なんていえばいいのでしょうね。不思議な興奮と感動に包まれた気がするんですよ。勿論、やられたって自覚はありました。自分が死ぬんだって自覚もありましたね。でも、どういうわけか不安とか、悲しみとかそういう感情が湧かなかったんです。どちらかというと、殺した彼をもっと見てみたいって、思うようになりましたね』
『君は変態かな』
自らをサイボーグにした女に言われるとは心外だ。
だが、言われてみると納得してしまう。
確かに自分は変態だ。彼に出会い、殺されたことで人生を大きく狂わされた結果、きっとアドレナリンが別の方向にすっとんでしまったのだろう。
『因みに、興奮したと言っていたが、あれか。君はその少年兵に恋をしたのか?』
『いいえ。恋をしたっていうより、強い信仰心のようなものを感じましたよ。私自身、そこまで宗教を強く信じるタイプではないのですがね』
だが、実際に出会ってしまった。
圧倒的なパワー。そこに一種の芸術性を感じたし、カリスマ性さえも見た気がする。
きっと宗教に入る人間は、こういうものに魅せられてしまうのだろう。
いってしまえば、天然の魅了という奴だ。
『男にも子供を作る機能があると聞いたことがありますがね。私は彼の子を産みたいと思ってないんですよ。寧ろ、彼の姿をしっかり、くっきりと記録して、眺めていれば、それで満足なんです』
『それでまた殺されたとしても?』
『そうですね。堪能できればそれで満足なんでしょう』
だが困ったことに、今の人間の身体では彼の全てを堪能できない。
アレは天災だ。
人間なんてあっというまに殺されてしまう、災害の塊。
それを鑑賞したいのであれば、もっと頑丈で、もっと近くまでいけて、永遠に鑑賞し続けなければ。
『だからこそ、彼と永遠に閉じこもられる最高の肉体が欲しい。あなたなら、できるのでしょう?』
私の目はどんな色をしていただろう。
この時、感情から溢れ出る色はきっと醜い物だったに違いない。
しかし、ドクトルは私の目を見て笑った。
『いいね。君のような変態は大いに結構だ。私としても、件の少年兵に私の技術がどれだけ通用するのか興味がある』
だが。
ドクトルは私の耳にそっと警告した。
『最高の肉体が欲しいと言ったね。つまり今の肉体はまるごと捨てるってことだ。とても痛いし、これから君に待ち受けるのは窮屈な世界だけど、耐えられるかな』
『耐えなければならないのでしょう。望みを叶えるためなら』
『そうだね。大体、力を得るなら代償はつきものだ』
そんなことはわかっている。
理解しているからこそ、このサイボーグ化に応じたのだ。
覚悟なんか、とっくにできている。
後は彼と再会する日を待ち続けるだけだ。
この組織が新人類を打倒する為に動くのなら、遅かれ早かれきっといつか再会することになる。
その日まで、ずっと心を研ぎ澄ませておくのだ。
「ドクトル、いるか」
スバルを担ぎ、ジャスティスは地下にあるドクトルの研究室へと足を踏み入れた。
白衣をまとったサイボーグマッドサイエンティストは、乱暴に入ってきた指揮官に振り返る事もなく答える。
「いるとも。なんの用かな」
「反応は見ているだろう。既に多くのサイボーグが破壊されている。既にビーストとザンマも戦闘に入っているが、どちらもまだ戦闘途中だ」
「つまり?」
「時間がない。私が出る。そしてやはり正義の名のもとに彼にカンチョーをするしかないだろう。回収を頼む」
スバルの尻に再び危機が訪れた。
担がれた少年の表情がどんどん青ざめていく。
精一杯の抵抗をすることにした。
「正義的に考えて、多数決で一度決めたことを撤回するのはいいのかよ!?」
「正義的に考えるとダメだが、今は非常事態だ。一刻を争う場合、より強い正義に従わなければならないこともある。臨機応変という奴だ」
案外正論で返された。
これは自身の尻にお別れを言わなければならない日が来たかと項垂れるスバルだったが、正面のドクトルが眺めていたモニターを見て、顔を上げる。
「カイトさん!」
神鷹カイトが映っていた。
さっきまで被っていたダサいマスクは脱いでおり、どういうわけか『手術台のようなベットの上で寝かされている』。
「お前、カイトさんになにをした!?」
「なにもしてないさ。ただ、彼に動かれたらとても面倒だと私も学習したんでね。以前から彼に執着していた観測者に協力してもらったのさ」
「観測者?」
「ホワイトか」
ジャスティスがスバルをおろし、モニターを見やる。
寝かされているカイトには身体中に妙なコードが繋がっており、頭に至ってはSYSTEM Xで使用されているようなヘルメットを被せられていた。
「健康状態とかは問題ない。別に殺そうとはしていないし、そもそも彼は殺そうとしても死なないだろう」
そこで否定できないのが悲しい。
肩を落とすスバルだが、ジャスティスはあくまで全体の状況を確認する。
「ビーストとザンマも私の正義的な命令で出たはずだが」
「そのふたりはまだ健在だ。他にも何体か残ってはいるが……正直、彼らの戦闘能力を甘く見過ぎていたね」
入口に集結させたサイボーグは六道シデンと新しい新人類によりほぼ全滅。
カイトとエイジが少し暴れたら防衛用のサイボーグも破壊された。
今はビーストとザンマが踏ん張っているが、彼らも絶対に勝てるとは言いづらい。ドクトルはこれまでの戦いを観察して、そう考えていた。
「運動能力に秀た彼を捕えられたのが幸運だったかな」
「でも、どうして。カイトさんが捕まるなんて」
「信じられないかな。そうだろうね。君は彼の活躍を一番近くで見て来ただろうから」
もっとも、
「彼自身、捕まった自覚はないだろう」
「え?」
「寧ろ、今も君の為に戦い続けている。違いがあるとすれば、それが現実と非現実の違いってだけさ」
「どういうこと?」
ドクトルは悪戯っぽく笑う。
まるで自分の玩具を自慢する子供のような、無邪気な笑顔で。
「君は彼につけられているあの装置が何だと思う?」
「改造手術?」
「違う。彼は今、VR空間にいるわけさ」
「VR!?」
バーチャル・リアリティ。現実にはそこに存在しないが、五感を刺激することで存在する様にみせるシステムだ。これを利用したゲームを過去にプレイしたこともある。
だが、VR空間にカイトを放り込んでなにをさせるというのか。
「まさか、大量のゾンビでも襲わせてるの?」
「近いね。彼は今、サイボーグ・ホワイトと戦っている」
「それはVRで設定されている敵キャラの呼称?」
「違うよ。彼はちゃんと存在している。現に、君のすぐ横にいるじゃないか」
言われ、スバルは横を見やる。既にジャスティスは部屋から出ていた。
後に残されたのは、彼の巨体で遮られていた巨大なカプセル。
透明な液体が詰め込まれているその中には、スバルも良く知っている、『脳みそ』が置かれていた。
気泡が溢れ出す中、ドクトルは彼を紹介する。
「改めて紹介しよう。彼の名はホワイト。新人類王国との戦いに敗れた後、観測者に徹することを望んだ兵士君だ。彼は肉体を捨て、VR空間で永遠に生き続ける。そしてそこに放り込まれた者を永遠に観察し続けるんだ。心が壊れるまで、ね」




