vs約束の文字、Z
小さい頃、父親はよく語ってくれた。
『Zですかぁっー!?』
腹の奥から声を出し、戸惑う周りの人間の感情も余所に父は言う。
『Zがあればなんでもできる! いーち、にぃー、さーん! ゼェッーツ!』
あまりにもお決まりなので問うたことがある。
Zとはなんなのだ、と。
ただのアルファベットの最後の文字なだけではないか、と。
『甘いぞ我が娘! Zのように甘く、Zのように磨き甲斐がある!』
当時は意味がよくわからなかったが、父がそういうのだから自分はまだZをあまり理解していないのだとおぼろげながらに理解したもんである。
『Zには勇気がある! Zには美しさもある! Zにはロマンもある! Zは一言では説明しきれない程の魅力とパワーが詰まっているのだ!』
これを言葉ではなく本能で理解できた時、父のように立派な人間になれる。
周りからどんな目で見られていたのかは知らなかったが、彼は家庭の中では素晴らしい父親だった。
だから異性でありながら父親は尊敬していたし、独自の信念に敬意すら払っていた。
だが、新人類王国との開戦で別れは訪れた。
父はZの名のもとに家族と友人たちを守るため、軍隊に志願。
そして変わり果てた姿で帰ってきた。
娘は考えた。
父はなぜ死ななければならなかったのか。
娘は泣いた。
どうすれば償わせることができるのか。
娘は無言の父と約束した。
あなたの魂を引き継ぐ、と。
例えどんな手段でもいい。
この身体の内側から湧きでる感情をすべて処理してくれるなら、どんな姿にでもなってみせよう。おとぎ話の中に出てくる英雄でなくてもいい。父のように笑う姿がカッコいい人でなくていい。母のように優しい笑顔が似合う女性でなくていい。
禍々しい獣でも、誰もが遠ざける異形でもいい。
もっとZに相応しい力が備わるのであれば、なんでもよかったのだ。
ザンマから閃光が放たれた。
巨大な光だ。今度の光は身体を丸呑みできる。
だが、それでもザンマの顔面は殴らない。
綺麗な顔を殴り倒したら全世界の損失だ。シデンやタイラントのような凶暴さが際立つ可愛さよりも、もっと価値がある。
本人たちが聞いたら怒り狂いそうなことを考えながら、エイジは突進。
スコップも持たぬまま、肉体でザンマに向かっていく。
「消え去れ、Zの名のもとに!」
綺麗な顔が歪んでいる。
ああしたのは自分の責任だ。だからけじめはつける。
しかし、だからと言って自分自身を投げ捨てるわけではない。
まだスバルは助け出せていないし、カイトの行方も気にかかる。こんな中途半端なところで消えてしまうわけにはいかないのだ。
「うお!」
光がダンボールマンのナイスなフェイスに触れる。
紙袋が発火した。強烈な熱を受けたのを感じるも、エイジは怯まない。
「まだまだ!」
「ならば、次は紙袋ごと吹っ飛ばしてくれる!」
「そして背中は俺が狙うウホ!」
すっかり存在を忘れられたGGGが再びガトリング砲を抱え、エイジに狙いを定める。
奴はスコップを放り捨てた。これでもう追尾弾を防御する手段がない筈だ。
「さらば!」
引き金を引こうとしたその瞬間、GGGの肩が叩かれた。
「ちょっと待ちな、ゴリラ野郎。まだ俺の正義は燃え尽きちゃいないぞ」
「ウホ!?」
聞いたことがるオッサンの声だった。
反射的に振り返る。ところどころ黒焦げになっているが、青い装甲を身に纏った正義の使者、ポリスマン・パワードがそこにはいた。
彼は拳を握りしめ、GGGの顔面目掛けて振りかぶる。
「食らえ必殺、パワードパアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンチ!」
「ウホラァ!?」
強烈な打撃がGGGの頬に炸裂した。
機械の皮膚が歪み、抱えていたガトリングは床に落下。
ポリスマンは気絶して動かないGGGを一瞥した後、ダンボールマンに語りかけた。
「ゴリラは片付けた! 今俺が加勢するぞ!」
「来るんじゃねぇ!」
エイジが振り返る。
見たことがないナイスな格好をした何者かがいた。なんか聞いたことがある声な気がするが、そんなことはどうでもいい。
「これは俺とアイツの戦いだ。余計な手出しは無用だぜ!」
「覚悟を決めたか、タイツの人!」
「ああ。だが気を付けな。覚悟を決めた人間はとても強いぜ」
火がついた紙袋が破ける。
露わになったエイジの素顔が、満面の笑みで登場した。
「俺は今から、君に告白する!」
「え?」
強気な笑みでエイジは言った。
聞き間違いかと思い、ザンマは思わず聞き返す。
「えっと。今、なんて言ったんだ?」
「俺は今、君に告白する! 好きだ!」
「Zの使命を持つ耳を以てしても理解不能! というか、お前本当にやりやがったな!」
「今やらないで何時やるんだよ! 今がその時さ!」
曇りのない輝かしい瞳だった。
エイジの決意の言葉を受け、ポリスマンは激しく頷く。
「わかった! お前の心意気、このポリスマンが見守ろう! 安心して向かっていけ!」
「ありがとよ、ナイスなオッサン!」
お互いに親指を立てた。
男たちはわかりあったのだ。
ただ、その一方で彼らの話題の的になっているザンマは完全に取り残されている。
「ぜ、Zの代名詞であるこの私を口説こうなどと百年早いわ! 大体、タイツの人は私に酷いことをしたじゃないか!」
「そのとおりだ! だからこれからアンタと決着をつける。そして俺が勝ったら結婚してくれ!」
「タイツの人、結構話進めすぎていやしないか!?」
「そんなこたぁねぇよ! 人生は何時だって突然だ。突然燃え盛るような感情になっちまったんだったらお前、突撃するしかないだろうよ!」
「そ、そうなのか!?」
ザンマがどこか助けを求めるような視線をポリスマンに送る。
正義の熱血オジサンは拳を握り、深く頷いた。
「その通り! どんな時でも全力投球。俺が妻に告白した時もそうだった!」
「そうだったんだ!」
既婚者だったことに若干の驚きを覚えつつも、ザンマは突進してくるエイジに視線を戻した。
まあ、コイツが自分をどうにかしたい感情があるのはわかった。
だが父親から受け継いだZの意思を体現する者として、負けるわけにはいかない。
ましてや相手は新人類。はい、そうですかと納得できなかった。
「どちらにしても負けるのはお前だ、タイツの人! 私のZの光からは何者からも逃れられない!」
「そういうのは俺の必殺技を受けてから言うんだな!」
「必殺技!?」
そんなものがあるのか。
てっきりスコップを駆使したタイツマンなのかと思っていたのだが、なにをしてくる気だろうか。
内心焦るザンマを余所に、エイジは突進を止めることなく突撃してくる。
「なんだ!? タイツの人、なにをする気だ!?」
「なにをする気かって!? そりゃあお前、顔を殴るわけにはいかないからな。身体全体で受け止めるしかあるめぇよ」
「は!?」
なにを言ってるのだ、こいつは。
繰り返すが、ザンマは全身から熱光線を放出している状態だ。そんな身体に抱きついてみろ。身体が蒸発してしまう。
「心配するな、こちとらタイラントとやりあって我慢できる頑丈な男の子だって証明されてる! お前のZも俺が受け止める! そして、決着がついたら新婚旅行の行方を決める!」
「よせ、やめろ。来るな!」
異様な迫力で突進してくるエイジを見て、涙目のザンマ。
彼女の願いも虚しく、エイジは問答無用で突進。Zの光を浴びながらも、彼女の身体に飛びついた。




