vs至高の文字、Z
サイボーグ・ビーストは追いかけてこない。マーティオも同様だ。文句を言いつつも、ビーストの足止めをしてくれていると判断し、カイトとエイジはジャスティスを追いかけていく。
「随分時間を稼がれたな。あの筋肉サイボーグの匂いはまだ追えそうか!?」
カイトに問う。
彼は覆面を脱ぎ捨て、発達した嗅覚をフルに活かした。
今日会ったばかりのサイボーグではなく、連れ去られた同居人の少年の匂いを探っていく。
「こっちだ」
倒壊しかけているビルから少し離れた地下へのエレベーターに辿り着く。
ボタンを押してみたが、応答はない。
「流石に電源は切られたか」
だが、こんなところで足止めを受けるわけにはいかない。
エイジはエレベーターの扉に指を突っ込むと、そのまま力任せにこじ開ける。鈍い『べきっ』という音が聞こえた。
扉から顔を覗き込み、真下に続くルートを見てカイトが呟く。
「見たところ、地下に降りてるエレベーターまでは特に邪魔はなさそうだ。一気にいくぞ」
「オッケー!」
ふたりは跳躍。
エレベーターの個室の屋根を爪で無理やり切り裂き、地下へと到達した。
迷うことなく個室の扉を開け、地下室に入る。
「ん?」
すると、視界に広い白が映り込んだ。
思わず目がくらみそうになってしまったが、純白の世界に足を踏み込みながらもカイトは目を擦る。
視界が空間に馴染んでいくのを感じつつ、彼は周囲を見やった。
「なんだ、この悪趣味な部屋は」
床は汚れがひとつもない白。
天井もそうだ。壁に至っては奥行きがないものかと錯覚するほど美しい白で構成されていたが、こうも綺麗すぎると逆に気味の悪ささえ感じる。
「スバル、いるなら返事をしろ!」
呼びかけてみる。が、返答はない。
まだ更に地下にいるのだろうか。匂いもここで消えている。かなりの量の消臭剤でも使われているのか、この部屋には匂いがしないのだ。
「この部屋は白の部屋!」
すると突然、鋭い声が響き渡った。
カイト達は声がする方向を見やると、そこにはなぜか大きな『Z』型の頭をした何者かが偉そうに腕を組んで佇んでいる。
「白の部屋にはなにもない! しかし、なにもないからこそ爪痕は大きく残るのだ!」
「なんだアレ」
「センスがあるマスクだな」
エイジは呑気に指を差し、カイトは物欲しげに観察している。
そんな彼らの態度を知ってか知らずか、Zの人影は続けた。
「見よ、私の大いなるZの文字を!」
腕を大きく広げ、自身の巨大な頭をアピールしだす。
「Zはいい! Zはいいぞ! Zはすべてを解決してくれる!」
「そうなの?」
「いや、始めて聞いたな」
Z頭の主張を聞き、カイト達は真顔で議論し出した。
「Zはアルファベット最後の文字だ! 最後だからこそ大きく目立つ! つまりすべての結末にはZがあるのだ! そんなZの化身、それこそがこのサイボーグ・ザンマ!」
腕を解き、両手でZの構えを取るサイボーグ・ザンマ。
傍から見るととても自己主張が激しいサイボーグだった。
「さっきの化物といい、サイボーグってのは、あんなのしかいないのか?」
「自己主張したいからサイボーグになったのかもな」
「私を見ろ、お前たち!」
言われたので、ふたりはザンマに視線を映す。
「ジャスティスとドクトルから聞いている。お前たちは私のZの威信に賭けて、ここで倒す!」
Zの構えに更にキレがかかる。
直後、ザンマの頭部が赤く輝いた。
これを見たカイトは見る見るうちに顔色が青くなっていく。ちょっと前に、アキハバラで遭遇した破壊の悪夢が蘇った。
「ジェネレート・ゼット!」
ザンマが叫ぶ。
同時に、その頭部から赤い閃光が解き放たれた。Z型の野太いビームである。
これを見たカイト達はそれぞれ横っ飛び。
彼らがいた場所にZの光りが命中し、床に大きなZ型の焼き痕が残った。
「おお! なんて素晴らしいんだ! やはりZの文字は至高! Zこそがこの世でもっとも優れた文字であり、Zこそが美しい!」
悶えるザンマを見てカイトは思う。
なんかアイツ、アーガスに似ているな、と。
「どうしたカイト」
「いや、便所ないかなっと思って」
「見たところ、なさそうだな」
「そうか」
とても残念そうに俯き、カイトはザンマを睨む。
すると、ザンマはカイトの顔を見て反応した。
「む、お前は!」
「ぬ?」
指を刺され、カイトは訝しげに首を傾げる。
ザンマはそんな彼の困惑を気にもせず、マイペースにポーズをとり、喋りつづけた。
「Zの構えをとれ! データベースにアクセスし、照合せよ!」
「なんなんだアイツは……」
再び両手でZのポーズ。げんなりとした顔のカイトを余所に、ザンマは照合結果を叩きだした。
「照合完了。結果、96パーセントの確率で奴をXXXの神鷹カイトと認識! 誇り高いZの文字に賭けて!」
「む」
が、カイトの表情はすぐに引き締まる。
サイボーグが自分の情報を持っていた。別段、それ自体は大したことはないと考えている。XXXに所属していたのも昔の話だ。
だが、わざわざ検索をかける程のことだろうか。
ザンマが『神鷹カイト』を敵がいる前で調べた理由が、わからない。
「いいだろう、神鷹カイト。お前は先に行け!」
「なに?」
答えは意外な形で返ってきた。
困惑するカイト達だが、ザンマはやはり偉そうに踏ん反り返る。
「お前を求めし者がいる。私は戦友であるがゆえ、友の獲物は横取りしない! 至高の文字であるZの化身である私は、任務よりも友情を選ぶ!」
そてはそれでどうなんだ、とカイトは思う。
が、これはチャンスだ。
「おい、あんなこと言ってるけどどうする?」
「乗るしかないだろうな」
「どう考えても罠だぞ」
「俺もそう思うが、わざわざ俺だけを呼びだす理由が気にかかる」
「再生能力を危惧してるんじゃないか? 連中、お前の情報も持ってるようだし」
そうかもしれない。
だが、匂いを辿れない手前、情報が欲しいのも事実だ。
「立ち止まってるよりはいい。俺は行くぞ」
「決まったようだな。ではZの文字の宿命に従い、お前は下の階にいるホワイトと会うがいい!」
なんだZの宿命って。
そんなことを考えていると、カイトが立っている場所に突然ぽっかりと穴が開いた。
「げ」
「あ」
気付いた時にはもう遅い。
カイトは地下へと真っ逆さま。エイジは反射的に手を伸ばそうと駆け寄るが、それより先に穴が閉じてしまう。
「くそ! こいつめ!」
拳を振るい、無理やり穴をこじ開けようとする。
だが、それよりも先に眩いZの文字がエイジに襲いかかった。
「エクストリーム!」
「ああ、もう! うるせぇな!」
Zの構えを取ったままザンマは跳躍。
そのまま空中で回転し出したかと思うと、全身に赤い輝きを纏いはじめる。
「案ずるなタイツマン。お前のステキファッションも、すぐさま私の手によって焼き焦げるだろう。素晴らしいZの焦げ跡を残してな!」
「焼印は趣味じゃねぇんだ」
スコップを掲げ、エイジはザンマを睨みつける。
彼は考えた。
あのサイボーグがカイトを助けるのを邪魔するなら、先にコイツを片づけるしかない、と。
さっきの不死身オッサンと同じような化物だったら勝機は薄い。が、見たところザンマはオッサンとはコンセプトが違うように思える。これなら十分勝ち目がある筈だ。
「ほざけ! 素晴らしいZの輝きに惚れ込むがいい!」
ザンマからZの光線が放射される。
今度の光りはただの直線状に放たれる光ではない。回転する胴体に合わせ、四方八方に向かって飛んでくる。
「私のZはどこからでも飛んでくる! この密室では避けきることなど不可能!」
「ご丁寧に解説してくれてありがとさん」
ザンマはとてもお気楽なサイボーグだった。
自分の好きなようにZの光線を放てて、とてもご機嫌である。
しかし、エイジとしてはそのまま受けるつもりはない。
避けられない攻撃なのだと教えてくれるなら、『防御』するに限るのだ。
「それじゃあ遠慮なくいかせてもらうか」
スコップの刃先を光線に当てる。
そのままスコップをスイングすると、光線は反射してまっすぐザンマへと命中した。
「あうち!」
自分の光線を浴びて絶叫するザンマ。
そのまま床に落下すると、ぷるぷる震えながら起き上った。
自分のお腹についたZの焦げ跡を見やる。
「おお! おおおおおおおおおおおおおおおおおお! 私の身体にまたZが増えた! やった、やったぞ! 誰だか知らんが、タイツの君! ありがとう! 本当にありがとう!」
その場で土下座しながら涙を流して感謝された。
こんな形で感謝されることに慣れていないエイジは、しばし考えた後、
「よかったね」
とてもどうでもよさそうにそう言ってあげた。




