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エクシィズ外伝  作者: シエン@ひげ
超人大決戦! ~超人VS怪盗VS警察VSサイボーグ~
33/192

vsゼッペル・アウルノート ~外伝編~

 上空に浮かんだサイボーグ・ライトニングはあまりの出来事に戦慄した。

 ヴェノムが破壊されたのである。あっさりと、しかも手の握力だけで。サイボーグだってそんな真似ができる者は限られてくる。

 あの前髪がやたらと長い新人類の青年も、彼らの仲間なのだろうか。

 だとしたらまずい。

 本当にまずい。

 あの調子でサイボーグを破壊されたら、瞬く間に全滅してしまう。既に半数近くが氷漬けにされて機能停止に陥れられている。こうなってしまったらジャスティスの目的どころの話しではない。


「ジャスティス、ドクトル。聞こえているか?」


 通信機能を起動させ、ライトニングは話しかける。

 が、返答がくる前に視界に影が映り込んだ。


「む!?」


 ゼッペルが跳躍してきた。

 文字通り、ジャンプで空を飛ぶ自分の位置までやってきたのである。


「なに!?」

「少し降りてくれないか。ずっとそこに居られたら目障りだ」


 脳天を思いっきり蹴られる。

 一瞬で自身のコンピュータが破壊され、先程繋げたばかりの通信もすべて遮断されてしまった。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 が、ライトニングの意識はいまだに健在である。

 それを見たゼッペルは僅かに口元を緩め、大地に叩きつけられたライトニングの後を追うようにして着地。

 前髪を僅かに掻き上げ、ライトニングを見た。


「あなたはさっきのと比べて、少しは頑丈そうだな」

「ぐ、く」

「戦闘用のサイボーグなのか? それとも、さっきのサイボーグはただ脆いだけだったのか?」


 頑丈。脆い。

 そんな話じゃない。

 強すぎるのだ、コイツが。

 今まで色んな奴らと戦ってきた。だが、あんなにあっさりとサイボーグを屠った奴は始めて見た。

 本当に新人類――――いや、人間なのか。


「私が人間なのか疑っているようだな。そういう顔をしている」


 ゼッペルがすべてを見透かしたように呟く。


「そんなに驚かなくていいだろう。みんな、あなたのような顔になるんだ。いい加減、慣れたとも」

「貴様、何者なんだ。新人類、でいいのか?」


 思わずそんなことを聞いていた。

 だってそうだろう。あまりに違い過ぎる。これまで戦ってきた新人類とも、旧人類とも。


「人間だとも。どこをどう見たってそうだろう」

「人間……?」

「そんなにおかしな話ではない筈だ。それとも、新とか旧とかつけた方がわかりやすいか?」


 ゼッペルは冷たく微笑んだ。


「馬鹿馬鹿しい。我々がやる事は変わらん筈だ」


 言い放つと同時、ゼッペルの表情から笑みが消えうせる。

 代わりに放たれたのは、拳だった。









 マリリス・キュロがシデンから連絡役を任されたのは、カイト達が突撃して間もない時だった。

 言いつけどおり、30分後にイルマに連絡を入れて応援を連れてくる事に成功したわけだが、彼女の目から見ても、ゼッペル・アウルノートの戦いぶりはあまりに世界が違い過ぎている。


「あわわ……」

「あ、あの人は本当に人間なんですか?」


 ポイントサーチのコックピットで震えているジョン刑事も同様である。

 震えているのはシデンの冷気で空気が冷えているのもあるだろう。だがそれ以上に、目の前で自分たちの応援として駆けつけたであろう、あのゼッペルとかいう男性に恐怖を覚えているのだ。


『人間です。それは間違いありません』


 ジョン刑事の疑問に答えるようにして、イルマ・クリムゾンが電話で呼びかけてくる。

 マリリスは電話に気付くと、慌てて耳を当てて喋り出した。


「あ、あの」

『話は後です。ひとまず、ハッチを開けていただけませんか? この方の治療をお願いしたいのですけど』


 ポイントサートのハッチから外を覗き込む。

 ヴェノムの毒を受けて、倒れたままのシデンがいた。


「わかりました! いますぐ私がやります!」

『お願いします』

「刑事さん。開けてください」

「は、はい!」


 ハッチが開くと同時、マリリスは外へと飛びだす。

 同時に、激しい打撃音が鳴り響く。驚き、思わず振り向く。


「あが!」


 ライトニングがゼッペルにいたぶられていた。

 弄ばれている、と表現していいかもしれない。頭を掴まれ、パンチを受けるだけの玩具だ。


「あ、あ」

「なにを立ち止まっているのです。早くしてください」

「あ、はい!」


 走ってシデンのもとへと駆けつけ、マリリスは解毒作業に入る。

 その作業を横で眺めているイルマは興味深げにマリリスを観察していた。


「あの、私の顔になにか?」

「なんでもありません。解毒を続けてください」

「は、はぁ」


 言われるまま、マリリスは羽を広げる。

 鱗粉が舞い散り、それがシデンの身体に回る毒を掃除していった。

 その様子を眺め、イルマは思う。


 やはり彼女の力は有能である、と。

 過去、トラセットで起きた新生物の襲来。彼女はその時の犠牲者であり、同時に産み落とされた戦力である。今ではカイト達に付き添い、自身を回復の役割に納めているようだが、それだけでもかなりの能力者だ。

 少なくとも、彼女がいれば医者は不要になる。

 そして戦闘面でゼッペルさえいれば戦闘面では無敵だ。


 だが、彼女自身は酷く弱気で貧弱である。その有用な力も、使い方をもっと攻撃的にするべきだと思う。

 やはりマリリス・キュロではダメだ。

 今はまだよくても、最後まで生き残れるとは思えない。

 だが彼女の力だけは絶対に必要になる。

 力さえあれば良い。


 だから今のうちに彼女が手に入れた力を保存しなければならない。


 イルマはマリリスを観察する。

 目で、肌で、耳で、鼻で。己の全ての感覚を使い、マリリス・キュロを捉える。

 どんなことがあってもいいように、だ。


「あの。すみません。私、あなたになにかしましたか?」

「お気になさらず」

「でも、さっきからずっと戦闘じゃなくて私を見てますけど……」

「あちらは問題ではありません。ゼッペルがいればこちらに敗北はありえないのですから」

「それは、確かにそうかもしれませんけど……」


 マリリスは改めてゼッペルの戦いを見る。

 既にライトニングの顔面は原形を留めていない。脳から火花と電流が散っており、見るからに痛そうだった。

 だがそれ以上に。


「あのサイボーグって、確かカイトさんと戦ってたサイボーグでしたよね」

「私は現場にいたわけではないので、存じません。あなたはいたのでしょう。それなら、その認識で正しいのでは?」


 マリリスもあの時は目を覆っていた。

 だが、新生物になって変化する目はよく見えてしまう。僅かな間だったが、摩天楼の中でカイトとエリックのふたりと純正アルマガニウム争奪戦を繰り広げていたのは確かにあのサイボーグだった筈だ。

 だが、彼らと激しい空中戦を繰り広げていた『凄い』サイボーグは、ゼッペルに圧倒されている。


「あの人は……」

「なにを驚いているのですか。ゼッペルの戦闘力はあなたもご存知でしょう」

「え?」

「レオパルド部隊と戦い、トラセットからあなた方を救出したのが、あのゼッペルです。オーガの戦いを、もう忘れましたか?」


 言われ、マリリスは気付く。

 ゼッペル・アウルノートとは鬼のパイロットだ。

 新生物との戦いの直後に襲いかかってきたレオパルド部隊から、疲弊しきった獄翼を守り通した化物のような魔人。

 機体も怪物なら、中身もまた怪物だった。


「あの人が、あの時の……」

「ゼッペルがその気になれば、ここら一帯を崩壊させるのは容易いことです。しかし、それをしてしまえば純正アルマガニウムに傷がついてしまうかもしれません。それだけは避けなければなりません」


 ゆえに、イルマはゼッペルを使う事を躊躇っていた。

 だがサイボーグたちの波は想像以上だったようだ。シデンは毒に倒れてしまい、カイトとエイジもまだスバルを助け出せていない。

 彼らの力が、きっとサイボーグ共に届いていないせいだろう。

 ならば仕方がない。物事には優先順位がある。そこを徹底して妥協するのも、秘書の役目だ。


 もっとも、ゼッペルが強すぎるのは紛れもない事実だ。

 あまり考えたくはないが、彼が反旗を翻した場合は誰も止められない可能性がある。

 XXX最強と呼ばれた、神鷹カイトでさえも。


 ゼッペルはイルマと比べ、我が強い。

 命令には大人しく従っているが、それも何時まで続くか。

 もしもこの場で裏切り、カイト達を倒してしまおうと言った時、どうする。


 イルマは頭の隅でそんなことを考えていた。

 カイト達はゼッペルを応援に来させろと訴えてきたが、彼はその気になればあっさりと命令違反を起こすだろう。この前も、カイトと戦おうとした。

 そういう彼の我儘さが、イルマには不安で仕方がない。


「どうした。早く反撃してくれ。そうでないと壊れてしまうぞ」


 そんなゼッペルは、ライトニングを一方的にいたぶっている。

 殴る手を止め、真顔で眺め始めた。


「おや」


 ライトニングの壊れた顔面を眺め、ゼッペルは溜息。

 戦闘用サイボーグは、既に目から光が消えていた。その事実を確認し、ゼッペルは手を放す。


「なんだ、その程度か。残念だな」


 頭部を完膚なきまでに破壊されたライトニングが崩れ落ちる。

 ゼッペルは動かなくなったサイボーグに興味を失くし、周囲を改めてみた。


 敵はいない。


 他のサイボーグはすべてシデンが倒してしまった。

 後は他に姿を見せていないサイボーグがどれほどいるのかだが、そんなことは途中からやってきたゼッペルが知る余地もない。

 結局のところ、暴れるだけ暴れて帰るしかないのだ。

 イルマにも10分しか行動したらダメだと言われている。


「……む」


 どうやって新たな『敵』を探すかと考えていると、視界にふたつの影が飛び込んできた。

 そしてそれらを追うようにして現われた、巨大な影も。


「なんだ、あれは」


 先にこちらに向かってきているのはふたりの若者だった。

 片方は翼が生えているところから察するに、新人類だろう。もう片方は、確かエリック・サーファイス議員だったか。なんで若い政治家がこんなところにいるのだろうと考えていると、彼らはこちらに気付いたようで、指をさしながら言いあいを始める。


「おい、なんか凄い数のサイボーグのゴミが転がってるんだが!」

「オレが知るか! 先に着いたのは貴様らだろうが」

「あの男女ちゃんがやってくれたんだとしたら、少し希望があるけど……!」


 だが、どう見ても違う。

 シデンは倒れており、代わりに立っているのはさっきまでいなかった筈の青年だ。

 前髪が異常に長い青年の姿を見て、エリックはぼやく。


「アイツもサイボーグかね!?」

「さあな。後ろの化物をぶっ潰すってんなら遠慮なく巻き込んでやるが」


 化物。

 その単語を耳にした途端、ゼッペルは小さな笑みを浮かべる。


「なるほど。そういう類の奴がいるわけか」


 ゼッペルは手を振り、若者たちに声をかけた。


「いいぞ。遠慮なく巻き込んでくれ」

「は!?」

「なに?」


 エリックとマーティオが驚くも、ゼッペルは彼らに向かってダッシュ。

 一瞬で間を詰めると、ふたりの間に割って入った。肩に手を置き、話しかける。


「化物と戦おう。サイボーグ退治に協力しろと言われてきたのはいいが、どうも消化不良なんだ」


 怪盗たちは戦慄した。

 言葉に棘はない。敵意もない。だが、溢れんばかりの戦闘意欲がある。

 身体能力も、今の動きを見る限り高い。


「それで、化物はどんなのだ」

「目の前にいるのがそうだ」

「ほう」


 見上げ、ゼッペルは『化物』の姿をすべて視認した。

 巨大な鳥だった。たぶん、自分の倍近くは身長がある。だがそのクチバシからはどういうわけかオッサンの首が生えてきており、こちらに唇を突き出してきていた。

 しかも目を瞑っている。まるでキスを迫ってきているかのような光景だった。


「……」


 予想していなかった化物の登場に、ゼッペルは退いた。

 そのまま回れ右。怪盗たちと一緒に化物から距離を取り出す。


「おいどうした」

「戦えよ。巻き込まれてくれるんだろ」

「いや、その。なんていうか、気持ち悪くて思わず」


 戦闘に特化され過ぎた新人類、ゼッペル・アウルノート。

 生まれて始めて敵から撤退した瞬間だった。

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