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エクシィズ外伝  作者: シエン@ひげ
超人大決戦! ~超人VS怪盗VS警察VSサイボーグ~
32/193

vs約束された勝利の来訪者

 シリトリ君の視界に激しいモザイクが生じた。

 マーティオの背部から膨れ上がった羽は巨大な鈍器として襲い掛かり、シリトリ君の顔面に直撃。また、その衝撃による副産物で肢体を繋げるネットワークにもエラーが発生。

 怪盗を掴んでいた腕が、力なく離れていく。


「よし!」


 解放され、腕を軽く回した後にエリックは下方から迫る怪物を見た。

 巨大な鳥。それだけならただの巨大鳥で済ませれるのだが、いかんせんクチバシからオッサンが唇を突き出してくるのだから怖い。

 口付なんかされた日には、悪夢を見る自信がある。


 ゆえに、


「アンタには後ろとキスしててもらうよ!」


 手を伸ばす。

 同時に、風が吹いた。

 ビーストもその風を肌で感じていたが、瞳を閉じたまま突進する。

 眼前の生き物を愛する為に。


「僕の愛は不滅! いつ、どこでも、求め、求められるがままに愛する!」


 ビーストに迷いはない。

 それゆえ、突進も止まらない。

 眼前に誰かがいるのだけは理解している。だが、それさえ理解できればどうとでもなるのだ。


「ぼくぁ、愛を受け止める! だから君も、受け取ってくれ! 僕の愛を!」


 鳥の足が眼前に突き出された。

 それは目の前にいる物体を鷲掴みすると、そのままクチバシの元へといざなっていく。


「待て。ビースト、待つでゴザル!」


 誰かが訴えてくる。

 しかし、ダメだ。止めてはならない。これは愛の儀式なのだから。


「らぁぶ」


 呟きつつもビーストは掴んだ獲物を愛で包み込んだ。

 直後、悲鳴が轟く。


 この声の主はビーストも知っている。

 同胞であるサイボーグ、忍者シリトリ君だ。


「お、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 鷲掴みにされたサイボーグが壊れていく。

 気さくな忍者マニアが崩れ、破砕音が鳴り響くのを感じながらもビーストはその血と、肉と、機械を食らった。

 それこそ、本当の獣のように。


「……」


 その様子を、地に降り立ったエリックとマーティオは呆然としながら眺めていた。

 当然ながらこの結果は彼らにとっても想定外だ。

 エリックは『特技』でビーストを上手く後ろに持っていっただけだ。


「えげつねぇ」

「あれがアイツの愛って奴か」

「あんな恐ろしいのが愛なら、俺は一生独身でいいや」


 破壊され、食われていくシリトリ君。

 もしもあのまま戦っていたら自分たちがああなっていたのだと思うと寒気がする。


「おい、マーティオ。アイツを倒す方法はあるか?」

「脳天にナイフをぶっ刺しても死なない上に、敵味方も区別できてない糞ヤローだぞ。オレたちの力じゃ難しいぞ」


 マーティオは破壊に。

 エリックは盗みに特化した新人類だ。

 どちらも強力な新人類だが、お互いの共通認識として確信がある。


 普通に戦っていたらアイツには勝てない、と。


「難しいけどよ。オレらしかいねぇってのが腹が立つ」

「他の連中に合流……は難しいかな」

「あの正義の味方はさっさと退散しやがったぜ。敵の親玉を潰すとか言ってな」


 苛立ちつつもマーティオは考える。


「正義の味方っていえばよ。警部はどうした」

「あの正面しか見えない熱血警部さんは、真っ先にビルに突撃したよ」

「じゃあ他の連中は?」


 言われ、エリックは思い出す。

 そういえばポイントサーチの中で留守番をしている人間が3人いた。


「入り口前でブレイカーと一緒に待機している筈だ」

「よし。こうなったらアイツらも巻き込んでやれ」

「ジョン刑事でどうにかなる奴じゃないぞ、あのバケモンは」

「若手には厳しく。正義の味方の仲間にはもっと厳しくしてやれ」


 あんまりな発言を残すと、マーティオは再びナイフを抜く。

 それをビースト目掛けて投げつけた。


 巨大鳥の羽に突き刺さると同時、ビーストがゆっくりと振り返る。

 忍者シリトリ君は、彼が身に纏っていた布だけになっていた。








 ドクトルの助手、サイボーグ・ヴェノムは自身が機械の身体であることに心底感謝していた。

 指示を受け、侵入者の仲間を倒す為に入口の前まで出向いたのだが、ここで彼女の予想を超える事態が発生していたのだ。


 全身をメイド服で身を包んだ少女(尚、実際は22歳の男)、六道シデンの桁外れな能力である。

 入口に佇んでいたブレイカーはシデンが放つ冷気を受けて凍り付いており、パイロットたちはコックピットで震えている。

 だがそれ以上に、シデンを倒す為に出向いたサイボーグが全員氷漬けにされているのだから笑えなかった。もしも到着タイミングがもう少し早ければ、自分もあの中の一体になっていたかもしれない。それと同時、人間のままだったら確実に凍死していただろう。機械の身体に感謝だ。


「ライトニング。あのお方、倒せますか?」


 自分より少し早く到着していた、両手に刀を持ったサイボーグに問いかける。

 彼は実戦派のサイボーグだ。自分から望んで戦いに出向く性格である彼が攻めれずにいることからも、シデンという新人類のポテンシャルの高さが伺える。


「……前に戦った新人類の方が戦いやすかったな」

「それは相性が悪い、と捉えても?」

「……そうだ。いかんせん、これしか取柄がないものでな」


 刀をちらつかせる。

 ライトニングは接近戦でとにかく叩き斬るタイプのサイボーグだ。たったひとりで災害を起こすような新人類とは、確かに相性が良くないだろう。


「仕方がありませんわね」


 ヴェノムが肩を落とす。

 見れば、シデンの周りに佇む氷のオブジェは10体以上を超えている。

 それだけ彼にサイボーグが倒された証拠だ。

 だが、ただ倒されたわけではなさそうだ。


「ふぅ」


 シデンが深呼吸。

 傷だらけのメイド服を整え、ヴェノムとライトニングを睨む。


「少し、お疲れのご様子ですね?」

「いい加減、全滅してくれないかな。話だと20体以上いるって聞いてたけど、これを見る限り殆どボクが倒してるもんじゃない」


 確かに。

 ヴェノムは氷のオブジェを再度見る。

 ドクトル曰く、先に何体か先行させるとは言った。また、彼らがピンチになったら駆けつける程度でいいとも言っていた。

 だが、これは認識が甘かったと言わざるを得ない。

 自分もドクトルも、ビルを蹴りでぶち抜いた新人類にばかり目が行ってしまった。てっきり居残りをしているのは戦闘ができないお荷物なのかと想像していたが、とんでもない。

 ここに待機していたのは人間冷凍庫だ。それも自分たちの大半を仕留めてしまう程の。


 最大戦力であるビースト達が不在とはいえ、よくもまあ、この数のサイボーグを倒したものだ。

 もしかすると、不死身のビーストでさえもシデンの手にかかったら氷漬けにされて動けなくなるかもしれない。


 それは流石に困る。


「では、ここでお休みになられてください」


 ヴェノムの口がそう告げたと同時。

 シデンは視界に違和感を覚えた。


「ん?」


 目の前にいる白衣の女性が喋ったと同時、何かが飛んできた。

 とっさに上体を逸らす。

 背後のコンクリートに突き刺さったそれを目の当たりにし、シデンは驚愕した。


「注射器!?」

「ああ、いけません。注射は素直に受けて下さらないと」


 再びヴェノムが口を開く。

 喉から補填され、口から凄まじいスピードで注射器が射出された。


「ちょ、ちょ!」


 とっさに躱しながらも、シデンは叫ぶ。


「ねえ、サイボーグっていうよりマシンなんじゃないの!?」

「昔、映画で見た怪獣型ロボットの口からミサイルを参考にしてみましたの。安心してください、爆発はしませんから」


 だがその代わり、


「ただ毒が全身に回って、とても苦しむだけです。あ、いえ。先に痺れが来るはずなので、正確には苦しむ前に痺れて、そのままお亡くなりになる筈です」

「えげつない!」

「まあ。私から言わせれば、アナタの方がえげつないですけど」


 人間災害と猛毒注射ミサイル女。

 どっちがマシかと問われれば、絶対に後者であるとヴェノムは断言する。

 彼らは既に自分たちが知っている新人類の分類から大きく力を伸ばし過ぎた。彼らを倒すのもジャスティスの思想のひとつだが、それを為す為には戦力があまりにも足りないのが現実である。

 では、いかにして六道シデンを倒すのか。


 決まっている。

 正面から倒すのが無理なら、搦め手で倒すのだ。


「ライトニング」

「ああ。準備はできている」


 もうひとりのサイボーグが告げる。

 彼の存在を視認したシデンは素早く構えるが、彼は襲い掛かってくる気配がなかった。

 その代わり、シデンが作り上げた氷のオブジェのひとつひとつに刀で切れ込みを造っている。


「ボクの氷を砕いて、サイボーグを復活させようって魂胆?」

「いいえ。そんな無駄な事はしません」


 数で取り囲んでも、きっとまた氷漬けにされるだけだ。

 それならもっと有効活用しなければなるまい。

 ヴェノムは白衣に手を突っ込むと、その中にしまっておいたスイッチを押した。


 同時に、ライトニングは跳躍。

 彼が天高く舞い上がった後、ひびが入った氷のオブジェに異変が起きた。


「え!?」


 氷が砕けた。

 そこまではいい。想定の範囲内だ。

 問題なのは、砕けた原因だ。

 中で凍結していたサイボーグが爆発し、その中から大量の注射器が飛び散ってきたのである。


「ウソ!?」


 身体の中にヴェノムの注射器をしまっていた。

 その事実を思い知ると、シデンは咄嗟に手を振るう。冷気を纏った強風が注射器に襲いかかり、一気に吹っ飛ばした。

 が、彼がそちらに注意を向けている瞬間こそが最大の隙でもある。


「!」


 背中に激痛が走った。

 徐々に身体が痺れていき、放出していた冷気もパワーダウン。


「く……く……」


 歯を食いしばりながら後ろを振り返る。

 ヴェノムが口を開きながら、こちらを眺めていた。

 既に格納された注射器は発射された後である。


「ええ。とても苦労しました。あなたのような、無駄に能力が強大な新人類も世の中には居ますからね。そういう方を倒す為に、こちらも色々と知恵を振り絞るのです」


 ヴェノムは本来、非戦闘員だ。

 だが彼女が格納する毒はとても強力である。そして想定する相手が動物である以上、これを有効活用しない手はない。

 その結果、ヴェノムの毒だけをしまい込んだサイボーグが実用化されてしまった。


「こ、の」


 ヴェノムに手をかざす。

 が、力が入らない。冷気はほんの少しだけ空気を冷やしただけに終わり、シデンは脱力していく。


 彼が膝をついたのを見て、ヴェノムは勝利の笑みを浮かべた。


「やっとひとり、処理できましたか。これだから無駄に力強い新人類は嫌いなんです。手間ばかりかかるのですから」


 後は念の為、ライトニングがおりてきたら首を落としてもらおう。

 そうすれば入口に残された超人は完全に排除される。


「あら?」


 だが、ヴェノムは気付く。

 膝をついたシデンが、ふてぶてしい笑みを浮かべているのだ。

 毒を受けたにも関わらず、まだ敗北を認めないというのだろうか。無駄に神経が図太いのが、気に入らない。


「なにを笑っているのですか。もう、あなたの出番は終わりですよ」

「……そろそろ、30分だ」

「え」


 30分。

 その時間にどういった意味があるか、ヴェノムにはわからない。

 一方、勝ちを確信したような笑みを浮かべたシデンは、そのまま倒れ込んだ。毒が身体に回り、意識が遠のいているのだろう。


 だが、解せない。

 30分とはなんだ。爆弾でも仕掛けたのだろうか。

 いや、そんな暇はなかった筈だし、もしそうなら最初に大胆な蹴りをぶちかます必要もない。

 では、応援が来るのか。


 周りを見てみる。

 ポイントサーチ以外に乗り物らしきものはない。

 あるとすれば、どこからか飛んでくるであろう奇襲を警戒すべきだろう。


「ライトニング。周辺に、なにか異変は?」


 上空に飛んだライトニングに報告を求める。

 が、その返答が返ってくるよりも前に、異変が起きた。


「!?」


 倒れたシデンの後方に小さな輝きが灯る。

 それは一瞬で周囲を照らしたかと思うと、輝きの中から人影がふたつ、姿を現した。


 ひとりは瞬時に全身がモザイクで覆われかと思うと、少女の姿に変貌する。

 長い髪をツインテールにし、無機質な表情で黄金の瞳を動かす、どこかクールな少女だった。

 そしてもうひとりは、青年だった。

 顔の右半分を長い前髪で覆い尽くした、見たところ20代前半程の男性。


「新手の新人類!?」


 ヴェノムがふたりを視認し、そのデータをドクトルたちに共有する。

 そんなことをしていると、突如として現れた二人組はヴェノムを睨んだ。


「アレがボスを困らせたサイボーグ、ですか。シデン様もやられてしまったようですね」

「……」


 少女が淡々と告げるも、青年は腕を組んだまま顔を伏せる。

 彼に態度が気に入らないのか、少女は注意するように言葉を投げた。


「わかっていますか、ゼッペル。先程のオーダーを遂行するのですよ」

「わかっている」


 ゼッペル、と呼ばれた青年が腕を解く。

 瞬間、ヴェノムは彼の眼光に飲まれた。

 左目しか見えないのだが、彼の迫力に尻餅をつきそうになるのをやっとの思いで堪えたのだ。

 さっきまでの人間災害が可愛く思えるような、そんな恐ろしい迫力を感じて仕方がない。


「10分で片付ける。それでいいのだろう」

「お願いします。首都の守りの件もありますから、それ以上の時間はかけれませんよ」

「残念だ。もう少し時間があれば、あの人と戦えたかもしれないのだが」


 この近くで戦っているのであろう、神鷹カイトの姿を思い出しながらゼッペルは呟く。


「まあ、いいだろう。楽しみは後にとっておくのも悪くないかもしれない」


 言い終わると同時、ゼッペルは駆けだした。

 ヴェノムの表情が恐怖で染まる。毒薬を仕込んだ注射器を吐きだそうとした瞬間、彼女の顔面は鷲掴みにされた。


「彼女にそういうのを見せると面倒なんだ。時間もない。早々に処理させてもらう」


 耳元でゼッペルが呟いてくる。

 待て、と訴えたかったが、言葉にできない。

 ヴェノムが喉まで出ている注射器ごと顔面を潰されたのは、それから一瞬の出来事だった。

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