vs新たな生き物
「やっと見えてきやがったな」
アクシデントを倒し、翼を羽ばたかせながらもマーティオは目的地を目視する。
既に建物から煙があがっており、今にも壊れそうだった。寧ろ、まだ形状を保っているのが不思議である。
既にエリックたちは暴れているのであろう。
ならば、自分もさっさと空から援護してやろうではないか。
そう思い、ビルへと突進した途端。
「新たな生き物よ!」
ビルから何かが飛来してきた。
新手のサイボーグかと身構えるも、現われたのはまったく予想だにしていなかった生物である。
巨大な鳥だ。恐らく、全長5メートルはあろうほどの。
しかもクチバシからはオッサンの顔が見える。
「なんだ、あのバケモン!?」
反射的にマーティオが叫ぶ。
飛来してきたサイボーグ・ビーストは異形となった新人類、マーティオの目から見ても立派な化物だった。
「化物! 素晴らしい響きだ。それは僕がこの地上のありとあらゆる生き物と結ばれたことを意味している」
「意味わかんねーよカス!」
しかもオッサンの発言は常識を逸していた。
「テメェ、サイボーグか!?」
「サイボーグですとも! ナノマシンを投入された生き物ですよ。君の仲間さ!」
「誰が仲間だ!」
嘗てない怒りの口調で叫ぶ。
このままではぶつかる勢いで飛来してくるビーストに対し、マーティオは迷うことなくナイフを抜く。
コイツは敵だ。
サイボーグだと告白したし、間違いない。いや、内容を聞く限り本当にサイボーグなのかも疑わしいが、本人も認めているしきっそそうなのだろう。
仮に違ったとしても敵だ。敵でしかない。ここで殺さないと不味い気がするので、敵で問題ない。
「死ね、バケモノ!」
翼を羽ばたかせ、マーティオはビーストの脳天にナイフを突き刺す。
鮮血が噴き出た。
ビーストが一瞬、苦悶の表情を浮かべるが、
「おお、痛み! これこそ生きている証! 生き物である証拠!」
なぜか活き活きしている。
ていうか、なんで死んでないんだコイツ。
「マジで化物かよ、クソが!」
悪態をつきつつ、マーティオは更に飛翔。ビルの敷地へと突入していく。
なにかビーストを倒す手掛かりはないかと周囲を見渡した。
「ん」
見つけた。
正確には手掛かりではないが、助っ人になりそうなのがいる。
エリックの後を付けてきたコスプレ集団だ。
やたらと偉そうなのと、紙袋を被ったダンボール要素がなにひとつない『ダンボールマン』のふたりである。
「おい、テメェら!」
ふたりの後を追いながら、マーティオは叫ぶ。
「化物が出た。手を貸しやがれ」
「断る」
「あん?」
耳が腐ったのだろうか。
ピキピキと青筋が鳴るのを感じつつも、マーティオは再び言う。
「手を貸せっつってんだよ! ナイフを頭に突き刺しても倒れない化物が飛んできてるんだぞ!」
「案ずるな。アイツはお前を愛する為に飛んで行った」
「どこに安心する要素がありやがる!」
というか、戦ったのか。
戦って、こっちに向かっていったから丸投げしたのか。
この野郎。
正義の味方クソ野郎。
「テメェら、後で全員解剖して干物にしてやる……!」
わなわなと拳を震わせるマーティオ。
が、
「あ、後ろ」
「じゃあ頼んだぜ。こっちは敵の大将をとっ捕まえるからな!」
「あ、こら待ちやがれ!」
「ラヴ・サバイバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
後ろから悪寒がする叫び声が轟いた。
頭にナイフが刺さったまま、ビーストが突進してくる。しかも瞼を閉じて、唇を突き出したまま。
「ふざけんなクズ共! オレぁ、こんな野郎に愛されたくはねぇぞ!」
「安心しろ。俺たちも一緒だ!」
「ファーストキスは譲ってやる。後は仲良くしろ!」
「テメェら、後で本当にぶっ殺してやる!」
「君たちは友達かい!? 僕も混ぜておくれ!」
迫るビースト。
マーティオは振り返り、舌打ち。カイト達が鮮やかに去っていくのを見て、まったく頼りにならないことを悟りつつも思考する。
本当にどうすればこの化物を倒せるだろう。同じサイボーグでも、バイク野郎とはまったく異なるタイプだ。
「ナノマシン、か」
噂では聞いたことがある。
体内に注入するナノサイズの医療機械。腐っても医者を名乗っている手前、聞いたことはる。
だが、人間をこんな化物に変貌させる程に体内を激しく弄りまわる機械なんて聞いたことがない。
もし本当にナノマシンを投入しただけなのであれば、ビーストはそのナノマシンさえ無力化できれば倒せる。
しかしマーティオにはその算段が無かった。
できることがあるとすれば、力づくでビーストを破壊する事である。
「ふん。結局オレの役割は変わらんわけか」
自嘲気味に笑うと、マーティオは予備のナイフを抜く。脳天をぶち抜くだけではダメだった。では、頭を切り離せばどうだろう。
試してダメだったら、また違う手をその場で考えればいい。
文句を言いながら、考えて切りぬける。そうやって相棒を守りながら生きてきたんだから、これもいつもと変わりはしない。
違うことはただひとつ。相棒のエリックがいないことか。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」
「あ?」
そんなことを考えていると、真上から悲鳴が聞こえた。
しかも聞き慣れた声である。
思わず見上げると、そこにはビルから落下してくる相棒の姿があった。
「げっ」
しかもエリックだけではない。
彼を押さえつけるようにして、分裂した手足と胴体が落下してくる。
いや、胴体だけは宙に浮きながらゆっくり落ちてきていた。
「これぞニンポー、ブンレツアーツでゴザル!」
「もう忍法でもなんでもねぇよ、お前のは!」
言い争うエリックとサイボーグ・シリトリ君。
だが、このままではエリックが地面に叩きつけられるのは時間の問題である。
「クソが。簡単にやられやがって」
毒づきつつ、マーティオは羽を広げる。
ビーストを無視し、飛翔。真上から落下してくるエリックめがけて飛んでいく。
「ああ、待ってくれ新しい生物! 僕もいくよぉ!」
ビーストも翼を広げて飛翔。
追いかけてくるのを肌で感じるも、マーティオはビーストを完全に無視していた。
「エリック!」
叫ぶ。
声に気付き、彼は相方の姿を確認した。
「マーティオ!? お前、後ろからすげぇのが追いかけてきてるぞ!」
「知ってる。だがお前が先だ」
物事には優先順位がある。
その優先度は個人によって異なるだろう。
もしも戦士であるなら、敵の撃滅を優先しろと言われるに違いない。
しかしエリックとマーティオは常に教えられた。
敵の撃滅は優先度が3つ目である、と。
どんな危機的状況でも構わない。
お互いに役割は違うが、そこだけは共通項目だった。
お宝は二の次。
もっとも優先しなければならないのは、互いの命だ。
師は常々言ってきた。
どんなに価値がある物でも、誰かが作ることができる。
でもお前たちが出会い、築き上げたものはお前たちだけの物だ。
価値がないと言われてもいい。
でも、大切にしなさいと。
まったく、本当にスパイの発言なのか。
今にして思うと馬鹿馬鹿しい。
「エリック、オレがソイツを始末してやる。ありがたく思え」
「サンキュー。やっぱりお前がいると百人力だ!」
互いに笑みを浮かべた。
それを見て、シリトリ君は言う。
「ビースト。コイツはセッシャが抑えています!」
「おお、忍者シリトリ君! ではこちらは愛すべき新しい生物を!」
シリトリ君とビーストが意思疎通をする。
直後、マーティオは加速。一気にエリックとシリトリ君へと接近する。
「なっ!?」
そこでシリトリ君の予想を超える出来事が発生した。
マーティオがエリックの背後に回ったのだ。
つまり、位置的にエリックがビースト。マーティオがシリトリ君の胴体の真正面に来る形となる。
しかもあろうことか、マーティオはシリトリ君の胴体に背を向けたのだ。手にとったナイフで襲い掛かってくると予想していたシリトリ君は、ここで完全に虚を突かれた。
「いざ、愛のままに!」
一方、ビーストは落ちてくるエリックを見て標的を変えるつもりはなかった。
彼の身体はシリトリ君の四肢に押さえつけられたままだ。ゆえに、彼はこのまま倒せる。自分はあくまで空飛ぶ人間を愛するべきだと優先づけた。
そこまでは、いい。
「よし。絶妙の角度だ」
マーティオが背を向けたままエリックに語りかける。
「こっちもいいぜ」
「よし」
エリックが同意の意思を示したと同時、マーティオの背中から生える羽が蠢く。
コウモリのような黒い翼は、一瞬にして膨れ上がったかと思うと、そのまま拡大。一気に伸びていくと、そのままシリトリ君の胴体へと直撃した。
「おぶ!?」
シリトリ君が悶絶する。
巨大な羽は、見た目以上に強力な鈍器となってシリトリ君の思考回路を傷つけたのだ。




