vs最強の人間論
蛍石スバル、16歳。
ライトニングに連れてこられて早6時間。いまだに拘束されていた。
椅子に縛り付けられ、トイレにも行けずにいる。
「あの。すみません、お手洗いくらい行かせてほしいんですけど」
「ダメだね。君のお腹には純正アルマガニウムがあるんだ。悪いけど、そのまま大人しくしていてもらおう」
同室にいるのはふたりの女性だ。
ドクトルとヴェノムと呼ばれている、白衣の女性たち。見たところ、ドクトルの方が立場が上なのだろう。ヴェノムは淡々と彼女の指示に従って動いている。
「さて、大事な事を聞き忘れていた。少年、君の名前は?」
「蛍石スバル」
「いい名前だ。スバル君」
ドクトルは振り返り、口元を歪めながら笑う。
「ジャスティスはさっき私に解剖を任せてはならないと言った。だが、君のお腹からアルマガニウムを取り出す手段はまだ残っている」
「カンチョー以外に?」
「もちろん。準備は私の助手がしてくれている」
ヴェノムが小さく笑いながら手を振ってきた。一瞬ときめきそうになったが、唇から針のようなものが見えて一気に血の気が引いていく。
「……アンタ等はいったいなんなの?」
「ジャスティスは正義の味方だと言った。当然、そうは思っていないだろう?」
「全裸の正義の味方は嫌かな」
「面白いことをいうな、君は。それに度胸がある。捕まっている自覚があるのかな?」
「やばいところには結構行ってるし、やばい人間にはもっと会ってるから」
「新人類王国の精鋭とか?」
言われ、スバルは真顔になる。
「ライトニングが面白いことを報告してくれたんで、ちょっと君たちのことを調べてみたんだ。ライトニングと互角以上に戦える新人類の顔を拝見してみたくてね」
するとどうだろう。
あの新人類の顔を検索してみれば、隣にはこの少年がいるではないか。しかも、共に新人類王国に対して反逆を起こしている。
新人類の方は凄まじい経歴の持ち主だったが、この少年に関しては無名だ。特別な訓練を受けているわけでもない、ただの学生である。
「ブレイカーに乗せたら誰にも負けない自信がある?」
「……ある程度は」
「もっと自信を持っていいだろう、そこは!」
背中を叩かれた。
痛みに悶絶するも、ドクトルは謝罪もなしに話し続ける。
「私が思うに、君は優れた人間だ」
「新人類じゃないよ。れっきとした旧人類ってバトルロイドにも言われたし」
「種族の話は問題じゃない。努力や才能が土台になり、後は出会いや経験なんかで人間は育っていく。新人類はその土台が立派なだけだ。私が思うに、旧人類でもスペシャリストになれる」
「なにが言いたいのさ」
「余計な口は挟まないでくれたまえ。喋りたいことを喋らせるんだ。そうでないと私の脳にまた熱が溜まる」
酷い。
一方的に喋ってるのを聞くだけか。
ヴェノムに助けようと期待の眼差しを送るも、彼女は首を横に振るだけだった。
「まず、第一に。君とその友人の新人類のチームはとても優秀だ。なにせ元の新人類の方もまた、優れたチームだからね。君はXXXについては知っているかな?」
「知ってる」
「では、XXXを設立した現場に私も居合わせたのは知っているかな?」
「……なんだって?」
初耳だった。カイト達がXXXと呼ばれる特殊部隊だったのは知っているが、その監督をしていたのは今は亡きエリーゼと呼ばれた女性である。
「当時、新人類王国では次世代の兵士をいかなる方針で育成するかが課題だった。そこで国王が目につけたのが、当時大学生だった私たちなわけだ」
「あんたは……」
「学生だった私たちは共通のテーマで研究していてね。すなわち、最強の人間とはなにか、だ」
エリーゼは独自のヒーロー論を唱えた。
ノアは人間が操る兵器人間こそが最強であると反論する。
しかしドクトルは彼女たちの持論に対し、やはり否と答えた。
「最強の人間っていうのはさ。やはり自分からそうなりたいと志願してこそだと思うわけだ」
「はぁ」
「ノアの奴は勝手に動くわけだろ? エリーゼのだって、天然で生まれるのを期待するしかない。私は、そういうの好きじゃないんだよね」
「それで?」
「つまり、私が考える最強の人間は自分から立候補できる最強の人間。すなわち、RPGの主人公なのさ!」
あまりの結論にスバルは唖然とする。
「スバル君、少し調べさせてもらったけども、君は独学でブレイカーを動かしているそうじゃあないか。訓練を受けている新人類軍の、それも精鋭を相手に撃破するとは素晴らしい」
「なにをいいたいんだよ、あんたは!」
「まだわからないかな。君は私が論じているRPGの主人公にうってつけの人材なんだよ」
「はぁ?」
今のスバルの立場は誰がどう見ても囚われたヒロインである。
RPGの主人公には、とても見えないだろう。
「XXXのような新人類は力を極限まで高める代償として、幼少からの訓練を強いらざるを得ない。鎧もそうだ。1から製造するにはあまりにコストがかかりすぎる。ある程度年齢が発達し、尚も最高の逸材となれる。そして逸材を至高の人材へと変貌させるのが私の考える最強の人間だ!」
その手段のひとつがサイボーグだ。
年齢の数値に関係なく、装備を整えてやることで最高の強さを提供する。
「さて、いよいよもって本題なわけだが」
「長かったね」
「話が長くなるのはよくあることさ。天才となんとやらは紙一重というだろう」
「はい、そうですね」
そろそろスバルも頭が痛くなってきた。
この女と話しているととても疲れる。サイキネルやアーガスと話している方がまだマシだとさえ感じた。
「スバル君。君、最強の人間に興味はない?」
「ないね」
「おや、即答かい」
「当たり前だ。俺はそういうのに興味がないし、頷いたら解剖されるだろ」
それに、理由は他にもある。
「俺はもう最強の人間を知ってるし」
「彼か」
ドクトルが相槌を打つ。
すると、ヴェノムが資料を取り出して読み上げた。
「神鷹カイト。元XXXリーダーで、6歳にして新人類王国の最高戦力の一角を担っていたそうです」
「エリーゼが用意した下地だね。年齢を重ねて、まさかこんな対決の機会に恵まれるとは」
聞けば、XXXに所属していた新人類は他にも2人いるらしい。
また、怪盗と変態警官という未知の戦力もいる。
「ジャスティスから連絡があってね。こちらのサイボーグが早速スクラップにされたそうだ」
アクシデントは決して失敗作ではない。
ドクトルは一体一体を丁寧に作成している自負がある。それでも尚、負けたのであればエリーゼが論じていた『最強の人間』が最初の勝負を制しただけの話だ。
「学生時代は激論していたわけだが、結局のところ、誰の理論が正しいかなんてのは戦わせてみないとわからないわけだね」
「自慢のサイボーグが負けて、次はどうするのさ」
「当然、もっと強いサイボーグを稼働させる。それでもダメなら次だ。次の手段を考えて、また戦いを挑むとも。少なくとも私は君らの顔を覚えたからね。何度でも挑戦するともさ」
さて、そうなると問題になるのは切り札の稼働タイミングだ。
ジャスティスは自分の美学を大事にしているから、もしもサイボーグたちが全滅したら最終的には自分が出て、切り札を出すのだろう。それ事態は一向に構わない。
問題なのはジャスティスとは別にあるこちらの切り札だ。あれはある程度こちらが負けていないと意味がない。
「スバル君、君にもジャスティスにも悪いけど、今回の対決は私にとって一世一代の大勝負になりそうでね。だからしばらく景品として大人しくしておいてもらおうと思う」
「アルマガニウムを取り出すのはどうなるの?」
「当然、どちらかが追い詰められるまでは保留だ。ヴェノム、適当にジャスティスに報告しておいてくれ。ホワイトやザンの調整をしているとかさ」
「それは構いませんが、私はどうしましょう」
「景品を大事に守っておいてよ。私は切り札の準備をしてくるから」
呑気にそういうと、ドクトルはぷらぷらと手を振る。
「スバル君。わかってるとは思うけど、彼らが全滅したら君には私の逸材になってもらうよ。丁度、パイロットができるサイボーグも欲しかったから」
「知るか! 解剖なんかさせないからな!」
「のんびり待っておくといいさ。じゃあね」
ドクトルは自室から出ていくと、不敵に笑う。
さぁて、大学時代の決着をつけてみようじゃないか。残り25体のサイボーグが、君たちを待っているからね。




