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エクシィズ外伝  作者: シエン@ひげ
超人大決戦! ~超人VS怪盗VS警察VSサイボーグ~
19/193

機動警察犬、ポイントサーチ

 ニューヨークの夜は長い。

 特にこの日は一夜にして怪盗と変質者による大騒ぎがあったばかりなのだ。慌ただしい日常の到来に、街では興奮が収まる様子はない。


「おい、聞いたか。あの怪盗シェルが盗みに失敗したらしいぜ」

「怪盗シェルってあの新人類王国からも盗みを成功させた奴だろ? 警察は大手柄だな」

「それが警察が捕まえたんじゃなくて、別の変な奴に盗まれたそうだぞ」

「なんだそれ。どんな奴なんだよ」

「変質者だとさ」

「変質者?」

「なんでも、ハダカらしいぞ」


 街ではこんな噂が広がりつつある。

 口コミやインターネットを通じてどんどん広がっていく騒ぎは、あらゆる人に拡散されていった。

 情報をどう捉えるかは人次第だ。情報を受け、どう考えて行動するかも人次第だ。


 ゆえに、情報を入手した『正義の男』は行動を開始した。


「ジョン、準備はできているな?」

「はい警部! ポイントサーチ、いつでも動けます!」


 ネルソン・サンダーソン警部は部下のジョン・ハイマンを従え、あるブレイカーのコックピットへと座る。

 ブレイカーは獣のような形をしている、いわゆる四足歩行型のアニマルタイプだ。警察の特注品であるそれは、名を『ポイントサーチ』という。

 余談だが、ネルソンはこれを『ポチ』と呼んでいた。


「よし。現場から染み出た匂いを回収しポチに記憶させるぞ!」


 ポチは戦闘向けに作られたブレイカーではない。

 自衛のための武装は装備されているが、本来は犯人追跡用に作られたブレイカーだ。その特性はズバリ、特定の匂いをインプットし、犯人を追うことにある。


「これまで怪盗シェルは香水などを使う事でポチの追跡を回避してきたが、聞けば奴はダメージを受けたそうだな!」

「ツイッターで流れてきた映像を見た限り、血を流しているようですね」

「血か! 痛いなそれは! 逮捕した後は病院に連れて行かねばならんな!」


 ネルソンはその場で119番。急いで病院に連絡を入れようとするが、ジョンは慌ててそれを阻止した。


「警部! 相手は怪盗と、刀を持った危険な人ですよ! そんな悠長にしてられません!」

「それもそうだ。病院は逮捕が終わってからだな」


 己の頬を叩き、ネルソンは思う。

 これは立派な命令違反だ。イルマ・クリムゾンに釘を刺されているように、ネルソンにはもう後がない。

 ここで表に出ることで、職を失うことになるだろう。

 正義に生まれて正義に憧れ、正義に生きて40年。

 自分が正しいと思うことをやってきたが、報われたとは言いづらい。家族や部下にも迷惑をかけてしまった。


 しかし、だ。


 だからといって見て見ぬふりをするのは、無理だ。

 それはネルソンであってはならない。この事件の裏にどんな黒幕が控えていて、どんな陰謀があるのかは知らないが、ここまで生きてきた40年と、こんな自分を慕ってくれた部下の為にも、最後まで正義を貫かねばならない。


「では、ジョン! ポチで出勤だ!」

「はい警部!」


 ジョンが操縦席に座る。

 彼はブレイカーの免許を正式に取得している警察官だ。ポチのような警察用ブレイカーを扱うのが彼の役目である。

 機械の警察犬の瞳に赤い輝きが灯った。

 真っ白なボディがしなり、ポチは街を駆けだしていく。


「サンプルを投入します」


 既に仲間の警察官から怪盗のものと思われる血液サンプルをもらっている。

 この血液を操縦席の横にある試験管のような入れ物に流し込み、ポチは血液の持ち主を特定させるのだ。

 ややあった後、ジョンの目の前にあるモニターに光が灯る。


「警部、標的が出ました!」

「でかしたぞ、ジョン! それで、怪盗は今どこにいるんだ?」

「これはどうやら……」


 自分たちの位置とニューヨークの地図を照らし合わせ、ジョンは彼らの現在位置を辿っていく。

 ポチを自動操縦に切り替え、目的位置まで近づけながらも場所を確認した。


「レストランですね」

「レストラン? そこが奴のアジトだな。で、レストランの名前は!?」









 キッチン・ベルセリオン。

 怪盗シェルの仕事終わりの終着点はこの場所と昔から決まっている。

 レストランを寝床に使っているわけではない。ここに来ると、帰ってきたという気持ちになるのだ。帰巣本能、とでもいうのだろうか。


「ただいま」


 か細い声で言うと、丁度キッチンの方から怒声がとんできた。


「おらぁ! 帰ってきたのかクソヤロォッ! 今、あったけぇモン作ってやるから手洗いとうがいをすませておきなぁ!」


 凄い口の悪さだが、言動は確実にこちらを心配してくれている。

 このレストランの店主を務めるソルドレイク・ベルセリオンは兎に角口が悪いのが欠点だが、喋らなければとてもいい人間だ。事実、こんな危険なことしかしていない怪盗を匿ってくれている。


「悪い。その前にマーティオを頼む。どうも手を斬られたみたいだ」

「マーティオォ! 御指名だぜぇ!」

「アニキ、うるせぇ」


 気怠そうな顔で奥の部屋から長髪の白衣が姿を現す。

 どうやら先程まで眠っていたらしい。腰まで届きそうな青の髪をうっとおしそうにまとめ上げ、ポニーテールの形にすると眠そうに眼を擦る。


「で、どこをやられた?」


 マーティオが椅子に座り、問う。

 机の上に置いてあったメスを手に取り、指で器用に回転させ始めるのを見て、シェルは仮面を取った。


「包帯を巻いてくれ」


 ライトニングによって斬られた腕をマーティオの目の前にさしだす。

 傷跡を見て、マーティオは顔をしかめた。


「テメー、なににやられた?」

「刀持ってたサイボーグと、超人ダンプカー」

「今時、ブレイドを持った奴が斬りかかってくるってのか」

「信じられないかもしれねぇけど、マジだ。しかも純正アルマガニウムを奪われた」

「ああっ!?」


 マーティオが立ち上がり、シェルの胸倉を掴む。

 眠気が溜まっていた青の瞳が瞬時に覚醒し、兄譲りの口の悪さで怒声を飛ばした。


「ふざけんな糞野郎! テメー、オレもついてくって言った時なんて言いやがった!」

「……俺ひとりでなんとかなるから、留守番をお願いって言いました」

「それがどうだ! 商売道具の手をやられて、肝心の純正アルマガニウムも奪われたってか!? センセーに合わす顔がねぇぞカス!」

「おっしゃるとおり」


 マーティオが言っていることは正しい。

 自分ひとりでどうにかなると思っていた怪盗シェルの驕りが招いた、最大の失敗だ。


「だから、すぐに取り返しに行く。マーティオ、今度は一緒に来てくれ。あの連中に挑むためには戦力がいる」

「警部よりもヤバいのか?」

「警部はいい意味で純粋だけど、今度の相手は悪い意味で躊躇がないな。人殺しに手馴れてそうだ」

「じゃあ、センセーを殺ったのはそいつらか」

「サイボーグと人間ダンプカーはお互いに違う勢力みたいだな。後者とは少し話したけど、知らないみたいなこと言ってた」

「どこまで本当なのかは知らねーがな」


 マーティオが消毒を済ませている間、シェルは情報を友人に与え続ける。


「純正アルマガニウムは、16歳くらいの東洋人が呑み込んでる」

「なんでそんなめんどくせーことになってやがる」

「……俺にもわかんないけど、彼にはきっと不幸の素質があるんだと思うよ」


 しかも肝心の少年はサイボーグに連れて行かれてしまった。

 今頃、解剖されてしまっているのだろうか。サイボーグの目的と仲間の規模はさっぱりわからないので、そこも予想がつかない。


「問題はサイボーグがどこに逃げたか、だな。当てはあるのか?」

「怪盗の鼻をなめんなよ。一度逃したとはいえ、あんな極上のお宝の匂いはわすれねぇ。今度はこっちが仕掛けてやる番さ」

「それを聞いて安心したぞ」


 背後から声をかけられた。

 振り返るシェル。


「こっちはお前の嗅覚以外に手掛かりになりそうなのはなかったからな。まだ嗅ぎ取れるのなら、是非とも同行願おう」

「げぇ、お前は人間ダンプカー! なんでここが!」

「俺の鼻を甘く見過ぎだぞ、怪盗。いや、その顔は」


 怪盗シェルの後を追いかけてきたカイトたちだったが、先頭のカイトが訝しげに顔をしかめた。


「どうした、カイト」

「見おぼえがある顔だ。確か、最近テレビで見たことがある」

「あ。思い出した!」


 シデンが手をポンとたたく。

 それを見た怪盗が顔中汗だくになるが、そんな様子など一切気にせずに彼は続けた。


「彼はエリック・サーファイス議員だよ! 前大統領マックスの従兄弟で、若手の政治家ってことで特集組まれてた!」


 指を刺されながら言われ、怪盗はシェルは――――エリック・サーファイスはがっくりと項垂れた。

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