鬼が喜ぶ日
「ちょっと強すぎじゃないですかね?」
ログに表示されているゼッペルとシンドーの戦いを見たスバルの感想がこれである。
というか、最早戦いにもなっていない。
「これじゃあ、旅に出たばかりの勇者が裏ボスに瞬殺されるようなもんじゃん」
「実際そうなのだ。美しいことにね」
再度ログインし、ゼッペルの帰還を待っていたのだが、まさかここまで圧倒的だとは夢にも思わなかった。
話だけなら聞いていたのだが、実際に戦いの様子を見せつけられると恐ろしさすら感じる。
「私は実際に戦ったことがあるからわかる。彼は天下無敵だ。勝てる人間などいない」
「らしくないよアーガスさん。それに、カイトさんは勝ってる」
「だが、彼は代償を支払いすぎた」
当時でも間違いなく人類最強であった筈の神鷹カイトですら子供扱いだった。
しかも身体を2回作り変えて、ようやくの勝利である。
果たしてアレを『勝利』と言ってもいいものだろうか。
アーガスは疑問に思う。
「間違いなく勝ちだよ。本人が認めてるんだから」
「……そうだったね。すまない、私としたことが美しくなかった」
「いいよ。アーガスさんも、美しくない時があるさ」
「スバル君、それは私がもっと美しくと励ましてくれているのかね!?」
とても嬉しそうな顔で言われた。
突然このテンションになるから未だに扱いに困るのだが、励まそうとした事実には変わらない。
「で、それが今回は俺と戦いたいと。しかも化けて出てきてるっていうね」
「既にドクトルの企画は完全に潰えたといってもいいわ。シンドーがここまで圧倒されてしまったのだから、もうどうしようもないもの」
「まだお前がいる」
「私に何ができるっていうの」
リナの殺意に満ちた視線を受けても、ネフィアはどこ吹く風だった。
「見たでしょう。あの破滅的な強さ。私たちなんて彼女の気まぐれで選ばれただけで、決まった役割しかできない」
その中でも特に強い役回りにいたシンドーがあっさりと倒されてしまった。
ドクトルが育てた人間の中では間違いなく最強だった。
彼女が願った最強の人間は、自分が蘇らせた恐るべき鬼に負けたのだ。
「残った私にできることなんて、もうない」
「じゃあ、蘇らせた責任はとってよ」
スバルは鋭い視線を向ける。
「最初は好奇心だったかもしれないけど、蘇らせたのは間違いなくアンタなんだ。だったらあの人の2回目の生き様は、きちんと見ていてほしい」
「……そうね。確かに、彼に怯えて他の皆を裏切るようなことをしてるわけだし」
「待たせた」
話をしていると、ゼッペルが帰還した。
彼はアイテムオブジェクトをスバルへ渡すと、一言説明。
「それがあれば君はこの世界で理想の姿に変身できる。君が考える最高の機体を用意してほしい」
「俺、イマジネーション能力は結構高いと思うよ。カイトさんも用心してるくらいだからね」
「それは楽しみだ」
だが、望むところでもある。
「では、私は君と同じ条件で戦おう」
同じアイテムオブジェクトを取り出す。
ゼッペルはそれを強く握ると、身体が発光しだした。
「発動条件はいくつかあるけど、プレイヤーが致死ダメージを受けるか、イメージを確定させたら変身できるわ。最初から、どんな姿で戦うか決めてたのね」
「当然だ。私が乗れるマシンはこれしかない」
光がどんどん大きくなる。
膨れ上がり、徐々に人の形を形成していった。
「鬼!」
「ビューティフルローズロボ!」
「どっちなんだ」
出現した巨大なブレイカーの名前は、人によって様々。
だが、ゼッペルはこの巨人の名を決まってこういう。
「私は当然鬼でいく。さあ、君はどう来る」
「俺は当然、これだ!」
イメージを確立させる。
サハギンの身体が光に包まれたかと思うと、その身体もまた膨れていった。
「同じ姿になるのか」
「いや」
リナの疑問はアーガスの口によってあっさりと覆される。
「恐らく、サイズはやや小さめだね」
言葉の通り。
ゼッペルの鬼と比べて小さいが、8枚の金の翼が生えた黒い巨人が形成されていった。
「やはりエクシィズ!」
「懐かしいな。だが、よくぞ選択してくれた!」
鬼が腕組をほどく。
膝が展開すると同時、柄が飛び出す。
それを素早くキャッチすると、柄から美しい剣先が伸びていった。
「それとやってみたかった!」
鬼が笑っている。
エクシィズとなって浮遊していたスバルは、目の前にいる鬼を見てそう思った。
勿論、ブレイカーの姿なので表情が見えるわけではない。
しかし感情はダイレクトに伝わってくる。
ゲームの中でも、確かに肌で感じるのだ。
ゼッペル・アウルノートの歓喜が。
「木偶の坊ではなく、本当の君と!」
「それはどうも!」
右腕で掌底を繰り出す。
掌が輝いた。
鬼の水晶の大剣が、エクシィズの掌に激突する。
「ぐぅ!」
激しい衝撃が身体を押した。
だが、スバルは耐える。
力では圧倒的にオーガが有利なのかもしれない。
だが、イマジネーション能力でその差を覆して見せる。
何故ならば、
「アンタは確かに最強の兵士なのかもしれない。だけど、この機体だって最強だ!」
それだけは譲らない。
譲れない。
あの人たちが魂をかけて自分に託してくれた物が負けてしまうのならば、それは自分が弱いからだ。
だからもっと強くなれ。
己に言い聞かせる。
「毎朝早く起きて仕事だってやって、給料も上げるくらいには評価されてるぞ。大丈夫、俺は凄い!」
「頑張ってるな。なによりだ!」
「どうもありがとう!」
先に砕けたのは、鬼の大剣。
勢い任せに鬼は柄を振りぬくが、即座に刃先を再生成。
今度は振り上げ、エクシィズに襲い掛かる。
「同じものは!」
「同じじゃないとも」
今度はもっと硬い。
右手で弾いたときに理解した。
「手を抜かれてたって!?」
「心配しないでも、ペースは上げていくさ。それに、私はそれに殺されているからね。手加減する気はないよ」
「よくもまあ抜け抜けと!」
「気に食わないなら、死ぬ気でかかってくるんだ!」
「真剣だよ!」
8枚の金の翼が輝く。
翼から拡散されたビームが放射され、鬼の装甲に命中。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!」
爆発を目くらましとして利用。
右腕で大剣を掴み、左腕の掌も輝かせた。
「これなら、どうだ!」
ダブル・デストロイ・フィンガー。
オリジナルでさえもできなかった荒業だが、イマジネーション能力が性能を左右するなら可能な技である。
左手が鬼の頭を掴む。
「う!」
ゼッペルから僅かに苦悶の声が漏れた。
「おお、彼にダメージを与えたのか! 美しいぞスバル君!」
「……アイツ、強いのか?」
エクシィズの動きをぼんやりと眺め、リナは呟く。
明らかにサハギンだった頃より強い。
これが蛍石スバルの本当の実力なのだろうか。
いかに変身を果たしたとはいえ、クロエやサイラスと比べても劇的に変化しすぎている気がする。
「恐らく、彼が想像している美しい最強を具現化したのが今のエクシィズなのだろう」
「それは、サイラスたちとどう違うんだ」
「彼には具体的な指標があり、他の者たちは具体性が示せていなかった……そういうことではないかな?」
だが、果たしてそれらをひっくるめても勝てるのだろうか。
あのゼッペル・アウルノートに。
「いい一撃だ! 私に攻撃を当てたのは、彼以来だ!」
「そうだろうな! だってアンタ死んでたし!」
声が弾んでいる。
ダメージとして攻撃は届いているのだろうが、効いていない。
王のグングニールでさえも一撃で弾いて見せた至高の腕なのに、ぴんぴんとしている。
「それに、アンタは今、鬼だ!」
「それは違う。今の私は鬼であり私自身だ。この鬼は確かに私が動かしていたブレイカーを模した物だが、その中身は君が知る物はまるで別物と心得ておけ!」
エクシィズの身体が宙に浮く。
「うお!」
宙に投げられた。
そのことを理解するまで、数秒の時間を要した。
「デストロイフィンガーに掴まれてこれか!」
力も耐久力も化け物クラス。
確かに普通の鬼と同じではなさそうだ。
だけど、どうやって倒そう。
思考するスバルをよそに、鬼が拳を向けてきた。
拳の先端に水晶が宿る。
ドリルのように伸びたそれはエクシィズに向けられると同時、無慈悲に発射された。




