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エクシィズ外伝  作者: シエン@ひげ
蛍石スバル、21歳の苦悩
136/203

ディザスターの再来

 アーガス・ダートシルヴィーの参戦は、ドクトルにとってまったく予想していないものであった。

 以前の戦いでもあんな美しさしかないような大馬鹿はいなかった筈。

 しかも総合ステータスでは間違いなく最強となってしまっている。

 美しさが高すぎるせいで。

 だが、侮ることなかれ。

 彼はこの美しさでサイラスを見事撃退(?)してみせた。


「……そんな馬鹿なことある?」


 一連の流れを見てのドクトルのコメントがこれである。

 あまりにもアーガスとサイラスのやり取りが馬鹿らしくて、思わずぼやいてしまった程だ。

 蛍石スバルの仲間である元XXXの参戦は予想していたのだが、こんな助っ人の参上は全く予想外である。


「まあ、いい」


 しかしドクトルは焦らない。

 元々彼らが強いのは承知していたし、クロエたちがやられることも想定している。

 数値の上ではこちら側が優位なのだが、彼らは『本物』だ。

 本物の戦いを理解している。

 その経験の差が、ゲームで鍛えられた最強の戦士の定義を覆してしまうかもしれないことを、ドクトルは予感していた。

 だが、それはドクトルの理論の完全敗北を意味している。


「まだ負けたわけじゃない」


 その嫌な予感を完全に振り払う為の戦いだ。

 だから残りのふたりには真剣にやってもらう必要がある。

 クロエやサイラスのような間抜けは、もういらない。

 

「ネフィア、敵が増えてそちらに向かっている。聞こえてるか?」


 ボイスチャットで呼びかける。

 が、返答はなかった。


「ネフィア?」


 ログイン状態は正常。

 キルされた痕跡もない。

 だが、彼女からの返答はなぜかなかった。

 よく見れば、ネフィア側がミュート設定にしている。


「何をしているんだ、君は」


 苛立ちつつチャットメッセージを送りつける。

 同時に、残る勇者にも指令を出した。


「シンドー、聞こえるかな」

『聞こえていますよ』

「いい返事だ。確認してるだろうけど、サイラスが負けた」

『ログアウトしたようですけど』

「頭痛がするからそれ以上は聞かないでくれ。兎も角、もうアイツに期待はできない」


 ゆえに、残る戦力はシンドーとネフィアのみ。

 もう彼らには油断という下らない贅肉は必要ないのだと理解してもらわなければならないのだ。


「急いでネフィアのところに向かってくれ。向こうも数が増えてるから、このままでは各個撃破される恐れがある。それと、さっきから彼女と連絡がつかない」

『何かあったんですか!?』

「わからない。向こうがミュートを解除しないんだ。それを確かめるためにも、君には一刻も早く移動してもらいたい」

『わかりました。それでは』


 シンドーどのボイスチャットを切り上げると、ドクトルは無言で考え出す。

 その思考の中心にいるのは突然ミュートになったネフィアの存在だ。

 彼女は他の3人と比べ、律儀だ。

 ドクトルの計画に賛同してゲームに参加しているのも『仕事だから』と割り切っており、結果も出している。

 聖女ネフィアは、本物よりも強力な魔法の使い手となった。

 癒しの力は闇の力を取り込み、遂には本物が成しえなかった『死者の蘇生』も成功したほどである。


「……まさか」


 彼女がこの魔法を会得したのは最近のことだ。

 この魔法の実験をしたくして勝手な行動をしている可能性は十分ありうる。

 今のネフィアは、そういうのを楽しみにする女だ。

 だが死者の蘇生といっても所詮はゲームの定義に限定される。

 テストプレイで何度も確認しているのだから間違いない。

 しかし、ゲームの中で死んだクロエを蘇生しようとしているのなら、わざわざミュートにする必要はないだろう。


「ネフィア、何をしている? 私の見えないところで、何をするつもりだ」














「なるほど。ゲーム内で他のプレイヤーを殺せば、そのプレイヤーは死ぬ、と。美しくないゲームのようだ」

『多分ね。クロエもそこは否定しなかったから、そこまで外れてないと思う』


 ゆえに、ログアウトが可能な状況のうちにアーガスには決めてもらう。

 このまま助っ人を続けてもらうか、生きて故郷に戻るか。


『だからアーガスさん。もし無理なら……』

「無粋なことを聞くのは美しくないな。だが、それに対して私はあえて美しく宣言しよう! 私は最後までこの戦いを見守ろう、とね!」


 無駄に身体をくねらせながらポーズを決めた。

 なぜか無数の薔薇がアーガスの周辺に咲き始めたが、今に始まった話ではないのでスバルは無視。

 尚、リナは物珍しそうにアーガスを見ていた。

 完全に珍獣を見ている眼差しである。


「わざわざここまで急いできたのだ。最後まで私にも美しく関わらせたまえよ」

『……ありがとう』

「ふははははははははははははははっ! 例には及ばんぞ! 何故なら私は美しいからっ!」

『これさえなければ心の底から感謝できるんだよなぁ』


 だが実際問題として、アーガスの参戦はこちらに優位性をもたらした。

 ドクトルはアーガスの存在を知らない。

 つまり、まだ未知の敵ということになる。

 それにサイラスを追い払ったのも間違いなく彼の力(?)によるものだ。

 傍から見れば、アーガスの存在はかなり不気味に見えることだろう。


「ところでスバル君。私以外の助っ人はいないのかね。まさか私が美しく最初の助っ人になるとは考えていなかったのだが」

『俺もまさかアーガスさんが来てくれるとは思わなかったよ。海外からわざわざ走ってきたのも含めてね』

「ははははははははははは! 褒めないでくれたまえよ、せめて美しいと言ってくれたまえ!」


 褒められたと思ったのか、アーガスは上機嫌になり始めた。

 こんなに何度も機嫌がよくなる男が珍しいのか、リナはやはり距離を置いて観察していた。

 実際珍しい。


『皆、今の環境が忙しい筈だからね。俺はたまたま巻き込まれて現場の中心にいるけど、普通にしてたら気づけないでしょ』

「ふむ……確かに、私も美しくタイミングが良かっただけだからね。お陰でこうして君たちの危機に駆け付けることができたわけだが」

「よくわからないが、こいつのような生き物が他にもいるということか?」

『リナ、流石にアーガスさんみたいなのはさっきの戦士だけだと思うよ』


 だが、仲間がいるのは事実だ。

 同時に、彼らが仮に全員駆け付けてくれたら間違いなく勝てるという自信がスバルにはある。


『流石に皆が来てくれたら化け物が1匹出てきたくらいだと何とかなる気がするね』

「油断するなよスバル君」


 呑気にそんなことを考えていると、アーガスが突然真剣な口調で語りだした。


「向こうから来ている」

『え?』

「それもかなりの速度だ。どうやら我々を待つのではなく、直接叩き潰すつもりらしい。美しい自信があるのだろうね」

『リナ、本当か!?』

「ああ、間違いない。確かに私たちが向かっているところの敵が、こちらに向かってきている」


 しかもとんでもないスピードだ。

 王宮に向かうリナも相当な速度だった筈だが、この敵はそれすら凌駕する速度である。


「もう肉眼でも確認できる。スバル君、そちらはどうだね?」

『こっちも見えてきた!』


 見えたエネミーの影はふたつ。

 ローブを羽織った女性と、それを担いでいる黒マントの何かである。

 後者は深く被っているいるため、正体は不明だ。


『ふたり!?』


 慌て、リナが表示してくれたマップを確認する。

 残る敵はこちらに移動してきているが、まだ重なっていない。

 寧ろ、こちらに到着するのにはまだ時間がかかる。


「戦闘力は女性の頭上に表示され、マントには出ていない。恐らく、彼女のスキルで使役されている使い魔の類だろうね」

『……アーガスさん、もしかして結構ゲームやる?』

「最近、美しく興味を持ってね」


 もしもアーガスの言うことが当たっていたと推理すると、本体はあくまで女性。

 彼女を倒せばマントの方は無力化できる筈だ。


『ふたりとも、気を付けてね! 向かってきたってことは、かなり自信があるはずだ!』


 そもそも、さっきまで動く気配がなかった敵が突然動いてきたほうが気になる。

 女性の戦闘力はクロエと特に変わらない数値だ。

 このまま戦闘になったら間違いなくリナとアーガスが勝つだろう。

 だが、彼らはまだ変身がある。

 その上、彼女を担いでいるマントはまだ未知数だ。


 警戒を強めるアーガスたちの前に、マントは着地。

 ほんの僅かな距離を保ったまま、女性を下した。


「ありがとう」


 女性は小さくお礼を言うと、アーガスたちへと向き直る。


「初めまして。私は」

「ネフィアだな」


 リナが憎しみを込めた眼差しで断言した。

 掌から爆炎が解き放たれる。

 問答無用の一撃だった。


「い――――」


 驚くネフィアと火球の間に、マントが割って入る。

 マントはそのまま腕を振るうと、火球を簡単に受け流し、空へと放り投げてしまった。


「なに」

「どうやら向こうのマントが本命の戦力のようだね」


 素早くリナの攻撃を受け流したマントの動きを見て、警戒心を強める。

 だが、一方のネフィアは安堵のため息をついてからマントへと顔を向けた。


「ねえ、やっぱり難しいんじゃない? 話を聞いてくれそうな雰囲気じゃないけど」

「だが、聞いてくれないと困る」


 マントが話しだした。


「喋った!」

「喋るのか」

『使い魔のスキルじゃないのか!?』


 明らかに意思のある生き物同士の会話だ。

 しかも、ネフィアの言葉をそのまま鵜呑みにするなら、彼女ではなくこのマントが自分たちに用があってここまで来たらしい。


「そこの君、私たちに何か用かね?」

「あなたに用はない。尻尾の君もそうだ」

「なに」

「私が用があるのは、ただひとり」


 マントが脱ぎ捨てられる。


「少年、無事に未来を掴めたな。嬉しく思うぞ」

『え?』


 いつかのデジャブ―が囁いてくる。

 巨大な悪意と力に挟まれて散っていった、史上最強の戦士の声が聞こえた。


「だから、正式に君と対決を申し込ませてほしい。オセロあたりで」


 ゼッペル・アウルノートが、そこにいた。

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