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エクシィズ外伝  作者: シエン@ひげ
蛍石スバル、21歳の苦悩
134/203

終わりなき美への探究者

 クロエは決して弱くはなかった。

 しかし、だからと言って負けない理由にはならない。

 相手の戦闘力が下回っていても、負ける可能性はあると何度も言ってきた。

 なのに、彼は最後まで忠告を受け入れなかった。

 死んで当然だと思う。


『サイラスのところに移動してるよ』


 仲間からチャットが飛んでくる。

 遠回しに援軍に駆け付けようかと聞いてきているのは理解していた。

 ゆえに、サイラスを名乗る戦士は簡潔に答える。


「いや、僕だけでなんとかするよ」

『大丈夫か? 聞けば、本気で俺たちを殺しに来てるみたいだが』

「だったらネフィアの近くにいてやればいい。僕はひとりで立ち向かうさ」

『わかった。また、会おう』


 最後の一文が送られてくるまで、やや間があった。

 恐らく、勇者シンドーは彼なりに自分を案じてくれていたのだろう。

 その心遣いは嬉しく思う。

 しかし、サイラスは強く思うのだ。


「綺麗だ」


 鏡に映る自分の姿を見て、蕩けた声を漏らす。

 サイラスは鏡に近づき、指でなぞりながら己の肉体を見つめる。


「引き締まっている肉体。それでいて筋肉も無駄がない。絞りきっていて、綺麗なボディラインだ」


 今度は己の顔を見つめた。

 ひとつひとつを眺め、評価。


「瞳が曇ることはない。汚れのない肌。髪も艶がある。完璧だ」


 この完璧な肉体が仮想の作りであったとしても、それでいいと思う。

 今、この瞬間にあるということが大事なのだ。

 戦士サイラスという素晴らしい美の象徴がここにいるということだけが、彼をサイラスとして君臨させている。


「心配するのはわかるよ。クロエが負けたってことは、僕たちも殺されることが十分考えられるってことだからね」


 誰にでもなく、己自身に言い聞かせる。


 死。


 このゲームを始まる前までは無縁だった言葉だ。

 もしも自分が殺されたらと思うと、弱い自分の心が締め付けられてしまう。

 だから鼓舞してもらえないと、戦えない。

 他ならぬ『強い戦士』であるサイラスに。


「でも大丈夫。僕はこんなに美しい。最強の敵が相手でも勝つよ。だって、その方が格好いいからね」

「嘗められたものだな」


 背後から声を掛けられる。

 確かな熱を後ろから感じると同時、サイラスは振り返る。


「なら綺麗な顔のまま焼けて死ね」


 翼と尻尾のある娘がこちらに手のひらを向けている。

 クロエがいた場所からかなり距離があった筈なのだが、もう着いたのか。

 予想以上の機動力だ。


「君が」


 敵を認識した瞬間、先制攻撃が飛んできた。

 リナの掌から爆炎が放たれる。

 炎は周辺を包み込み、鏡は粉砕。

 壁も派手なエフェクトともに爆発四散。

 しかし、サイラスはダメージを一切受けていない。


「なに?」


 傷どころか火傷すら負っていない。

 その事実を認識し、リナは確かな驚きを見せた。


「驚くの無理はない。本来、僕とクロエの戦闘力にはそこまで差がない。だから、君の一撃をまともに浴びたら僕は死んでいただろう」

「……本物よりも頑丈、ということか」

「頑丈なだけじゃないさ。僕は最も美しい」

「…………」


 だからどうした、という目で見られた。

 しかし、そんな冷たい表情もサイラスは無視。


「それより、もうひとりはどうしたのかな。途中からログアウトしたようだが」

「私だけがいればお前たちを殺すのに何の問題もないと思うが」

「間違いない。でも、僕はクロエのように簡単にはいかないよ」


 煙が晴れていく。

 そこでリナはサイラスを守る物体に気づいた。

 彼を中心として、鏡のような物体が幾つも宙を舞っている。

 まるでサイラスを守っているかのようだ。


「戦士の役目は仲間の盾であり、攻撃の中心だと僕は思ってる。だから、僕はこれらのスキルを限界まで伸ばした。簡単に傷をつけられると思わないでほしい」

「お喋りだな」


 翼を広げる。

 リナは低空飛行。

 目にも止まらぬ猛スピードでサイラスに突進していく。

 宙を舞う鏡の間をすり抜け、サイラス本人にアッパーを仕掛けた。


「お喋りだよ。僕は美しくありたいからね。美しいと思う勝ち方をとるさ」


 アッパーを片手で受け止める。


「なっ!?」


 余裕な表情で受け止められたことに驚きを見せるも、リナは即座に離れようとする。

 しかし、受け止められた拳がサイラスから離れない。

 明らかに昔戦ったサイラスよりも力強い。


「美しくない勝ち方っていうのは、公平じゃないことだ。それ自体は別に悪いことでもないよ」


 寧ろ、勝ちたいなら当然のことだと思う。

 だが、サイラスの勝ち方は違うのだ。

 求めるモノが決定的に異なる。


「ただ勝つだけなら誰だってできるんだ。でも、僕は強くて美しいサイラスでいたいからね。美しい勝利を取るさ」


 鉄拳がリナに命中した。

 確かなダメージが体力ゲージを削り、リナの身体を弾き飛ばす。


「が!?」


 リナは疑問に思う。

 明らかにクロエとは違う、と。

 確かに盗賊と戦士では後者が優れた戦闘力を有しているだろう。

 だが、このダメージ量はおかしい。

 彼は力と防御を極限まで高めたと言っていたが、同時にこうも言った。

 本来、彼とクロエの戦闘力は同じクラスである、と。


 だとすれば、辻褄が合わない。

 これでは変身した後のクロエから受けたナイフの余波と大して変わらないではないか。


「……まさか、貴様」

「君が強いことは知っている。だから、僕はもう全力でいるよ」


 てっきりブレイカーに変身するのが彼らの切り札だと思っていたのだが、違った。

 彼らは各々、戦闘力にリミッターを設けていたのだ。


「クロエはブレイカーが強いと思ってるからそれになった。僕は戦士サイラスが強くて美しいと思ってるから、こうなってる」


 言われ、リナは相手の戦闘力を確認する。

 ブレイカーになったクロエ同様、己の数字から遠くかけ離れた高い戦闘力を有していた。


「ご理解いただけたかな。僕は戦士サイラスとして全力で君と戦うよ」

「……雑魚とは違うようだな」


 口から漏れた血を拭い、リナは辛うじてそう言えた。

 だが、内心では焦りがある。


 クロエは中身が大したことがない故、勝利することができた。

 しかしこのサイラスは以前戦った『本物』を遥かに凌駕しているうえに、驕りがない。

 今まで戦ってきた中でも、間違いなく最高に手ごわい敵だ。


 だが、負けるわけにはいかない。

 まだ最愛の主君の敵を討てていないのに、志半ばで倒れてなどいられないのだ。


「戦士として、全力で向かう敵は全力で葬るのが礼儀だ」


 サイラスが剣を抜いた。

 振りかざし、そのまま空を切る。

 剣圧が地面を切り裂き、そのままリナめがけて襲い掛かる。


「ぐぅ!」


 横に飛ぶことでこれを回避するも、通り過ぎた剣圧の余波だけでダメージが発生していた。

 このままでは体力を削り取られる。

 まともに勝負をしたら負けてしまう。


「ならば!」


 飛翔。

 空を飛び、向こうの剣が届かない空からの遠距離攻撃に切り替える。

 クロエはクリティカルヒットで倒しきれたのだ。

 倒せない道理はない筈だ。


「奥義!」

「!?」


 だが、地で構えるサイラスは新たな構えでこちらに攻撃を仕掛けてきた。


「雷神剣!」


 振りぬかれた刃から閃光が放たれた。

 光はリナにまっすぐ向かっていき、命中する直前ではじけ飛ぶ。


「がっ!」

「君はすばしっこい。まともに奥義を放ったところで避けられてしまう。ゆえに、確実な方法を取らせてもらう」


 弾けた雷神剣の威力が周囲に爆散し、リナの身体を襲った。

 激しい電撃をその身に受けて、リナは墜落。

 大地に叩きつけられる。


「ぐ、う……」


 辛うじて意識はある。

 まだ死んでいない。

 しかし、目の前が擦れていく。

 生命線である体力ゲージの残量でさえも、まともに視認できずにいた。


「殺そうとしてきたんだ。自分が殺されるっていう覚悟は、当然あるよね?」


 サイラスがとどめの一撃を放とうと剣をふるう。

 避けようと体を動かすも、全身に痛みが走る。

 リナの脳裏に確かな『死』の印象が刻まれる。


『アーガス・ダートシルヴィーがログインしました』


 そんな時。

 世界に新たな来訪者が訪れたこと示すログが刻まれた。


「え?」


 サイラスとリナの間に光がともる。

 光と共に出現した新たなプレイヤーは颯爽と身を翻すと、大量の花々を周囲にまき散らした。

 

「ふははははははははははは! 美しく待たせたなゲームの中の諸君!」


 天に指を突きつけ、高らかに叫ぶ。


「美しく自己紹介をしよう。我が美しき名はアーガス! 美しき美の狩人、アァァァァァッガス!」


 心なしか男の周辺に薔薇が咲いた――――気がした。

 サイラスは剣を止める。

 そしてアーガスの姿を見て、呟いた。


「……綺麗だ」


 すぐさまそのステータスを確認する。

 こちらのフレンドでないのは明らかだった。

 故に、この綺麗な人は間違いなく敵である。

 問題は戦闘力だ。

 このゲームではある程度実力が数値として反映される。

 果たしてこの男の戦闘力はどの程度あるのだろうか。


「え?」


 350000。

 戦闘力の桁が、本気の状態の自分たちを超えていた。


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