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エクシィズ外伝  作者: シエン@ひげ
蛍石スバル、21歳の苦悩
132/203

おたまじゃくし

 幸いなことに、スバルにダメージはなかった。

 だが、彼は理解していた。

 リナが咄嗟に羽を広げ、自分を庇ってくれたことに、だ。


「はぁ……はぁ……」


 息も荒げている。

 フレンドのステータスを確認した。

 体力が半分近くまで減っている。


「リナ、回復アイテムを使うよ!」

「頼む」


 簡単なやり取りが行われた後、スバルは回復アイテムを選択してリナを対象に選び、使用。

 だが、ほんの僅かしか体力は回復しない。


「くそ! そこらへんで手に入る回復アイテムだとリナの体力には追い付けない!」


 既にリナはこの世界でも破格のステータスを記録している。

 そんな彼女の体力を一気に回復させるだけのアイテムを、ゲーム開始直後で手に入れることなどできるはずがなかった。


「だが、やらないと殺される」


 ブレイカーとなったクロエがナイフを地面から引き抜き、再び跳躍してきた。


「来た!」


 次にまた衝撃を浴びたら、ふたりとも殺される。

 ゲームの仕組みを理解したふたりは戦慄を覚えつつも、対抗手段を探した。


「一気に離れることは!?」

「お前を背負ってだと難しい」

「だったら荷物は置いていけ!」

「だが、ここでお前を失うわけにはいかない」


 リナにとってスバルは荷物だが、それ以上に重要な情報源だ。

 幸運にもこちらに味方してくれている希少な存在でもある。

 幾らなんでもこんな早い段階で切り捨てるのは、あまりにも惜しかった。


「大丈夫。俺にも手段はある!」

「なに?」

「ログアウトする。だから急いで離れて!」

「この状態でできるのか!?」


 ログアウト、という技の詳細をリナは知らない。

 しかしスバルは自信満々で言う。


「あいつは中途半端な俺たちを倒しても満足しないさ。だから荷物な俺を逃がすことくらい、大目に見るよ」


 言い終えると、素早くステータス画面を展開。

 端っこにあるログアウトボタンを押下すると、半魚人の姿は光の粒子となって消えていった。


「いけた!」

『雑魚が消えたところでどうしようってんだ!』


 ナイフが突きつけられた。

 大地から衝撃波が放たれる。


「これならいける」


 背中が楽になった。

 羽が広がり、リナは一気に飛翔。

 猛スピードで離脱すると、衝撃の波から脱出する。


『なんだと!』

「ふぅ」


 だが、間一髪だ。

 少しでもスバルの脱出が遅れていれば、今の攻撃を躱しきることができなかった。

 

『まあ、いいや』


 一方、クロエはスバルが消えたことを気にしてなどいない。


『雑魚が何匹いたところで変わりはしねぇ。先にテメーを片付ければ、後は自然と俺たちの勝ちってことだしな』

「よく喋る奴だ。お前、さては友達いないな」

『うるせぇ!』


 巨人がナイフを構えて飛びかかる。

 だが、リナは慌てない。

 既にこの攻撃は2回見ている。


「お前たちがチームとしてまとまっていない理由が分かった」

『あ?』

「お前が喧しいからだな。それに発言も下品だ」


 飛翔。

 今度は顔面目掛けて飛んでくるリナを前にして、クロエは驚愕。


『テメェ、気が狂ったか!?』

「威力は確かにある。だが、それだけだ」


 空中で振りかざされたナイフを華麗に避け、リナはクロエの顔面まで飛んだ。

 手を翳し、カメラアイの部分目掛けて手を翳す。


「そういう奴と戦うのは、別に初めてじゃない」


 火球が放たれる。

 クロエは舌打ちすると、自身の身体を覆うようにいてバリアを展開した。

 顔面に迫っていた火球がバリアに阻まれ、はじけ飛ぶ。


『見たか! テメェら雑魚の攻撃なんか俺には届かねぇ!』


 だが、リナは悔しがる素振りを見せることなく後退。

 透明な膜のようなもので全身を覆うクロエを観察し、思う。

 これでは攻撃は届かない。

 だが、防御に徹するという事はつまり、攻撃を受けたら危ないと考えていると言う事だ。

 あの防御を突破出来れば勝機はある。

 問題はいかにして防御を突破するか、だが。


「……聞こえるか」


 試しにスバルとの連絡を試みる。

 無事にログアウトできたのなら、恐らく彼は元の世界に戻っているはずだ。

 そこから情報を連携できないだろうか。











 意識が覚醒すると、スバルはまず己の頬を抓った。

 夢ではない。

 それを認識すると、周囲を見渡す。

 隣の椅子にはリナが繋がれており、深く眠っていた。

 同時に、モニターにはリナとクロエの戦闘が表示されている。


『……聞こえるか』


 スピーカーからリナの声が聞こえたので、反射的に応答した。

 近くにあったヘッドフォンを手に取り、マイクをオン。

 リナへと追いかける


「聞こえている! 状況は!?」

『こちらはなんとか生きている。だが、妙な壁を展開されてしまって攻撃が届かない。あれはどういうものかわかるか?』

「全身を覆うタイプのバリアだ……」


 クロエの全身を目を凝らしながら観察する。

 始めて戦った敵がこんなバリアを使っていたのを思い出しながらも、結論を出した。


「少なくとも武装から発生しているものじゃないな。多分、内部機能だ」

『つまり、どうすればいい?』

「向こうから解除するのを待つ」

『やはりそうなるか』


 一見、全身を覆う鉄壁のバリアのようにも見えるが弱点もある。

 全身を覆うがゆえに、攻撃に転ずる場合はどうしても解除しなければならないのだ。

 特にクロエのようにナイフを扱うのなら、余計に。


『雑魚が! 俺がそんなへまをするかよ』


 こちらの会話が聞こえていたのか、クロエは大声で宣言する。


『確かにナイフで切るならバリアは邪魔だ。だが、こっちはブレイカーだぜ。ちっちゃいテメェをぶっ殺すだけなら、バリアのままで十分だ!』


 ナイフを仕舞う。

 クロエはバリアを展開したまま前進。

 リナに向かって体当たりを仕掛けてきた。


「リナ、バリアの強度はどの程度か見てるか!?」

『こちらの炎は受け付けない』

「攻撃で壊すのはできそう!?」

『恐らく無理だな』


 最初の敵と戦った時の攻略法は通用しない。

 ならばどうする。

 スバルは思考。

 今、自分が向こうに行ったところで邪魔にしかならない。

 できることは助言を送ることだけだ。

 せめて、自分がもっと戦えたら話は違ったかもしれないのだが。


「……いや」


 王宮に辿り着くまでの間、様々な説明を読んだ。

 その仕様が確かなら、自分がここからでもできることはある。


「リナ、少しだけ席を外す。少しの間、持ちこたえてくれ!」

『どうするつもりだ?』

「秘密兵器を出す!」


 会議室を出た。

 そのままスタッフが使っていたであろう席まで戻り、引き出しからあるものを取り出した。

 会議室に戻る。

 リナが座っている椅子にケーブルを差し込む。

 その後、椅子に取り付けられている機械を弄り始めた。


『おい、なにをしている! 急に目の前に何か出てきたぞ!』


 リナの慌てる声が聞こえる。

 だが、これでいいのだ。

 

「今から俺がリナを操作する」

『なに?』

「コントローラーを脳波からジョイコンに切り替える。これからは俺が見て戦う」

『な――――!』


 取り出したコントローラーにリナの操作を反映させた。

 同時に、飛び回っていたリナの動きが停止。


『お前!』

「話はあとだ! 大丈夫、ブレイカーが相手なら自信がある」

『心中するのは御免だ!』

「俺だってそうだ。だから全力で行くぞ!」


 慣れ親しんだ手つきでコントローラーを操作する。

 取り付けたのはブレイカーズ・オンラインでも使用したことがあるものだ。

 操作性も問題ない。

 寧ろリナは最高級の性能を持つ『機体』だ。


「速度、パワー共に良好!」


 翼を広げ、飛翔。

 

「実に俺向き!」

『雑魚がなんかしたところで、バリアを抜けれるかよ!』

「じゃあ蹴散らしてみなよ」


 不敵な笑みを浮かべ、スバルは宣言する。


「木偶の坊の体当たりで、俺を捉えらえるか? 噛みつくこともできないおたまじゃくし野郎」

『なんだと!』

「真剣勝負なんだ。真面目にやってくれないと困るぜ。それとも、負けた時の言い訳が欲しいのか?」

『この野郎……! もう許さねぇ!』


 クロエが体当たりしてくる。

 スバルはリナを操作すると、余裕をもって回避した。


『くそ!』


 ターンして再度突撃してくる。

 バリアを纏った巨体が猛速度でタックルしてくるが、リナは後ろを向いたままこれを回避。


『ちょろちょろしやがって!』

『……』


 リナは何も言ってこない。

 だが、スバルは理解している。

 既にコントロールを握られた手前、諦めているだけなのだ、と。

 もしもここで結果を出さなければ、自分は焼却されるだろう。

 しかし負けない。

 負ける筈がない。

 これまで様々な強敵と戦ってきた。

 信じられない超人たちや、とんでもないブレイカーや、営業数字という高い壁に、車を購入する前に体験した満員電車。

 ただ巨体になって粋がっている奴なんか、今更恐れる必要などない。


「どうしたおたまじゃくし野郎。雑魚相手にムキになって、その程度か?」

『なんでだ! どうして当たらないんだ!』

「お前の攻撃なんて目を瞑ってても躱せるぜ。尻尾を巻いて諦めるって言うなら、見逃してやらなくもないがな」

『誰が!』


 クロエがバリアを解除する。

 体当たりを諦めて、武器を扱おうとした証拠だ。

 にやりと笑みを浮かべると、スバルは相手が武器を取るよりも前に動いた。

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