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エクシィズ外伝  作者: シエン@ひげ
蛍石スバル、21歳の苦悩
131/203

戦闘力の差をひっくり返すカラクリ

 スタミナを消費すれば疲労感を感じる。

 リナの炎で熱を感じる。

 空から急降下して寒気を感じる。

 考えてもみればおかしな話だ。

 必死すぎた1年間のせいか、感覚が麻痺していた。

 これはただのゲームじゃない。

 蛍石スバルはサンタイト・クエストの秘密に気付いた。


「ここではゲームの感覚が現実にリンクしている!」


 ゆえに、ここでクロエを殺せば現実のプレイヤーも死亡するのでは。

 辿り着いた持論を述べるも、リナは興味なさげにぼやく。


「それがどうした」


 既に火球は放たれた。

 止める気はない。


「敵なんだから、殺す気で撃つのは当たり前だ」


 炎がクロエに着弾する。

 だがその直前、倒れこんでいた彼の姿が消えた。

 床に火球が命中し、飛び散る。


「逃げたな」

「今のは回避系のスキルだな。でも、足を負傷してるならそんなに移動できない筈だ。見つけたらできるだけ殺さないようにね!」

「なぜだ」

「なぜってそりゃあ」

「生かす理由がない」


 敵なんだから当たり前だろう、と言われた気がした。

 氷のような眼差しをスバルに送りつつも、リナの尻尾が蠢く。

 別の生き物のように活動始めたそれは先端を鋭く尖らせると、まっすぐ飛んでいく。


「お前の知り合いなら諦めろ。そいつは敵だ」


 尻尾がスバルの目の前でまきついていく。

 同時に、嫌な音が鳴り響いた。


「あぐ!」


 何時の間にか後ろに回り込んでいたクロエのスキルが解除され、透明になっていた姿が再び現れた。

 巻きついた尾が継続的にダメージを与え続ける。


「後ろにいるお前を狙っての行動だな。ナイフも抜いている。明らかに敵だ」


 遠回しに命を狙われていたのだと警告された。

 だが、スバルは敢えて問う。

 リナではなく、クロエにだ。


「……俺の予想は当たってるのか?」

「ああ。だから弱そうなアンタから狙ったんだけどね……」

「どうしてそんなゲームに乗ってるんだよ!?」


 スバルには理解できなかった。

 少なくともクロエはこのゲームシステムを理解したうえでドクトルに協力しているのだろう。

 だが、なぜ協力するのかわからない。


「ゲームで人を殺すのが目的なのか!?」

「あ?」


 何を言ってるんだこいつ、という顔で見られた。

 同時に、スバルは理解する。

 クロエは自分を見下している。

 過去に何度も見たことがある、新人類軍が自分を下に見ている表情にそっくりだった。

 故郷にやってきた大男の嫌な顔が、クロエとだぶる。


「雑魚のくせに説教する気かよ」

「今はお前が捕まっているがな」


 締め上げの力が強くなる。

 クロエにダメージが入るが、その表情にはまだ余裕があるように見えた。

 疑問に思い、スバルはリナに尋ねる。


「リナ、手加減してる?」

「いや」


 だが、リナも違和感を抱いたらしい。

 殺す気で締め上げているが、クロエは全く抵抗する様子もなかった。

 

「貴様、なんのつもりだ。殺せないとでも思ってるのか?」

「少なくとも、背中のサハギンは抵抗感あるみたいだけど?」

「なら証明してみようか」


 クロエを締め付ける力が更に強くなった。

 激しい痛みと共にダメージが表示される。


「くく……」


 だが、やはりクロエは笑っていた。

 リナの記憶が正しければ『前のクロエ』はここまで頑丈ではなかった。

 死なないにせよ、もう全身の骨は砕けているはずだ。

 なのに、どうしてまだ笑っていられるのだ。


「いやぁ、つえぇつえぇ。聞いてた通り、マジで強いでやんの。まるで歯が立たないぜ」

「負けを認めて降参した方が身のためだよ」


 一応勧めてみるが、それが通用しない相手なのは承知していた。

 このゲームを始めてからずっと疑問に思っていたことへの答えが今、明かされようとしている。

 そんな予感があった。


「それとも、まだ戦う力があるから、ここからが本気ってことかな」

「なんだ。お見通しなのかよ」

「それだけ追いつめられて余裕面してたら誰でもそう思うよ」


 それに、他ならぬドクトルがリナの戦闘力に脅威を感じていないのだから、当然何かあるとは思っていた。

 戦闘力の差を埋めるカラクリだ。

 

「んじゃあ、浅慮なく使うとしますか」

「そうは――――」

「発動条件は、ゲーム内で致命傷を負った場合だ」


 ゆえに、ここで力を籠めることで発動条件は見たされる。

 力強く巻き付いた尾が、強烈なパワーに弾かれた。


「くっ!?」


 同時に、クロエの身体が輝きだす。

 彼を中心にして、凄まじい風が唸りを上げた。

 真正面からクロエを見ていたスバルは、徐々に変化していくその姿を観察していて呟く。


「大きくなってる!」

「巨大化の類か!」

「いや!」


 単純に大きくなっているのではない。

 姿も歪になり、翼のようなものも生えている。

 眩い中で見えていくそのシルエットは、スバルのよく知るものだった。


「ブレイカーになってる!」

「ぶれい、か?」


 ゲーム内で致命傷を受けると、そのダメージをキャンセルして強制的にブレイカーの身体を得るシステムだ。

 これが彼の切り札。

 スバルは即座にクロエのステータスを確認する。


「戦闘力130000!?」


 先ほどの10倍。

 リナの戦闘力すら大きく超える数値を叩きだしている。


『そりゃあ人がブレイカーに乗るんだ。重量がある方が強いに決まってるだろ!』


 変身が終わったのか、クロエだった物が動き出す。

 見上げた感じ、全長は嘗ての愛機達と大差がない。

 外見から判別したところ、ミラージュタイプの特機なのだろう。

 背中に取り付けられた飛行ユニットから小さな穴が展開され、そこから何かが飛び出していく。


「なんだ、あれは」


 見慣れぬ物体を見て、リナは首を傾げる。

 だが、スバルは青ざめつつも叫んだ。


「逃げて! ミサイルだ!」


 しかも完全に対人を想定したタイプ。

 1発だけ発射されたミサイルだが、それは空中に弾けることで、中から更に小さな小型ミサイルが射出される。


「人を殺すことに特化した武装だぞ! アイツ、そこまで再現されてるのか!?」

『当然だ。その方が遊びやすいしな』


 しかも敵は完全に遊び感覚でこの兵器を使ってきている。

 与えたダメージがそのまま人体に影響を与えると理解したうえで、だ。


「こいつ……!」

『何を許さないって顔をしてるんだサハギン野郎! お前が何を言いたくても、俺には届かないよ。雑魚の言葉なんてな!』


 ミサイルが弾ける。

 弾けた中から、更に小さなミサイルがばら撒かれた。

 周囲に着弾すると、爆発。

 リナの周りを爆炎が包み込んでいく。


「強烈な威力だな……」

「回復アイテムはいる!?」

「まだ必要ない。ところで、お前はいいのか。もう手加減とか言っている余裕はないが」

「話し合いが通用しないなら、仕方ない。諦める!」


 本当は良くない。

 気分がよくないが、しかし。

 今は倫理とか言っている場合ではない。

 クロエは本気でこの遊びを遊びつくすつもりでいる。

 雑魚だからと言って、そのまま遊ばれるつもりはない。

 その迷いは、あの地獄の中で捨てた――――筈だ。


「リナ、とにかくここから離れた方がいい! 一撃でも受けたら、殺されるかもしれない!」

『そうはいくかよ! さっきのお返しをさせてもらうぜ!』


 クロエが跳躍する。

 手にナイフを握りしめ、刃先を地面に向けた状態で飛びかかってきた。

 

『余波だけで死んだら、その時は諦めろよ』


 刃先が大地に叩きつけられた。

 衝撃が生まれると同時、それは波状に広がっては破壊を生んでいく。

 リナにダメージが初めて発生した瞬間でもあった。

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