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エクシィズ外伝  作者: シエン@ひげ
蛍石スバル、21歳の苦悩
128/203

背負い半魚人

 街に到着したスバルが真っ先に行ったのは装備品の切り替えだった。

 ドクトル曰く、このゲームで戦闘力を上げるのに必要なのは経験値と装備品なのだという。

 しかし、武器屋にたどり着いたスバルを待っていたのは厳しい現実だった。


「ちょっとしかステータスが上がらねぇ!」


 装備できる武器や防具を見てみる。

 どれも所持金ギリギリで購入できるものばかりだが、いずれを装備したとしてもドクトルの戦闘力には遠く及ばない。

 ここまで辿り着く最中に出会ったエネミーの戦闘力の僅か上に行くか、程度の変化だった。


「なにを愕然としている。貴様が戦う必要はない。奴は私が殺す。お前は知恵を与えていればいい」

「いや、そんなこと言われても。参加している手前、俺も戦わなきゃ」

「しかし、貴様は動きが鈍い。これなら私が担いで戦った方が効率的だ」


 数年前、カイトに首を掴まれて大疾走された時のことを思い出す。

 ひょっとすると、ああいった経験が多いお陰で戦闘力が普通よりもちょっと高めなのかと思いながらも、スバルは項垂れた。


「流石に俺が地道に頑張っても、リナのレベルまでは追い付けなさそうだよな……」

「好きにすればいい。だが、待つつもりはない」

「わかってるよ」


 リナは何があろうともドクトルとその配下の者を殺すつもりでいる。

 しかも一刻も早く、だ。

 必要に迫られているならともかく、今のリナがスバルの成長を待つ必要性は全くないのである。

 彼女にとって、スバルはただの辞典でしかないのだ。

 だが、有用性があると判断されているのは事実である。

 そうでなければ話を聞いてくれていないだろうし、こうして協力体制をとってもいないだろう。

 最低限、仲間として扱っているのは救いだった。


「俺は助言に徹する。相手の行動を見て、予想を立てる。これを基本スタンスにしよう」

「いいだろう。その方が私も動きやすい」


 そう言うと、リナはなぜかロープを取り出した。

 無言のままスバルの身体に巻き付けていく。

 経験上、抵抗して無駄だと知っているので諦めているのだが、敢えて問いかけた。


「なにしてるの?」

「おんぶの準備だ。こうしておかないと吹っ飛ばされるだろう」


 やっぱり。

 どうして現実に続いてゲームでも荷物にされているのだろうと考えると、無性に悲しくなってきた。


「これでよし」


 ドラゴニュートの娘に背負われ、死んだ魚のような眼で虚空を見つめる半魚人。

 しかし、何時までも悲観してはいられない。

 知恵を回すのが自分の仕事なのだ。

 呆けていたら、切り捨てられてしまう。


「それで、これからどこに行くべきだ」

「ドクトルはあくまで人間勢力のはずだ。だから、人が集まる場所を目指した方がいいと思う」


 ここはモンスターがひしめく暗黒大陸。

 その街にいるのは、あくまでモンスターばかりだった。


「ここの光景を見た限りだと、少なくとも人間はいそうにないな」

「私が知っている世界から大きく様変わりしたな……」


 懐かしむような呟きを聞き、スバルは聞き返す。


「昔は違ったの?」

「ああ。モンスター側は寧ろ、人間に淘汰されていたからな。魔王が滅び、勇者一行という屑どもが勢いを増した影響だ」


 棘を多く含んだ物言いである。

 個人的な恨みが強いのだろうと察すると、スバルは考える。


「そいつ等が、リナのいたサンタイトで影響が強かったってことでいいの?」

「……そうだ」

「じゃあ、そいつらの話をどこかで聞けないかな」


 リナが反応したのが背中越しで理解できた。

 あまりいい感情を抱いていないのは察したが、そのうえでスバルは説明する。


「俺が知っているドクトルは、形から入るのが好きなタイプだ。だから、そういう凄い勇者一行とかがいるなら、そいつらをモチーフに取り上げると思う」

「……そう、か。確かに仲間が他に4人いるとか言っていたな」


 リナは歩きだす。

 近くのNPCが、こちらの動きに反応して話し始めた。


「こんばんわ!」

「人間がいない間は平和なものだよ」

「ここも何時襲われるか」

「暗黒大陸に人間がまた入り込んできてるらしい」

「勇者一行が来たらひとたまりもない……」


 あった。

 リナとスバルは振り向くと、そのNPCに詰め寄っていく。


「勇者一行が来たらひとたまりもない……奴らは魔王様を打倒した人類最強の戦士だ。君も気を付けた方がいいぞ」

「そいつらはどこに?」

「勇者一行が来たらひとたまりもない……奴らは魔王様を打倒した人類最強の戦士だ。君も気を付けた方がいいぞ」

「おい」

「駄目だ。NPCは同じセリフしかインプットされていない。他の奴を探そう」


 背中越しに激しい熱を感じる。

 このままでは鱗が焦げるのではないかと危惧し、スバルは反射的に問う。


「どうしたの。勇者一行って、そんなに嫌な奴なのか?」

「ああ」


 即答された。


「私が知っている中で、最低最悪の連中だ」


 隣のNPCがリナに反応し、言葉を続ける。


「勇者一行は役割分担がしっかりしている。前衛の戦士サイラス、中距離の盗賊クロエ、後衛でサポートに徹する聖女ネフィア、そして彼らを纏める中心人物の勇者シンドー。彼らこそが理想的なパーティーなんだろうね」


 直後、リナが拳を振りかざした。

 激しく大地に叩きつけられる。

 粉塵が舞い散るも、NPCや街には怪我ひとつない。

 どうやらここは戦闘を行っても周りに影響は出ない空間のようだ。

 そんなことを考えつつも、スバルは思う。


「……リナ、そいつらは強いの?」

「…………」


 リナは答えない。

 だが、しばしの静寂を挟んだ後にゆっくりと答えた。


「ああ。だが、みんな死んだ。私が、殺した」

「そっか」


 我ながら淡白なセリフだと思う。

 だが、自分が何を言ったところで彼女は止まらないだろう。

 ゆえに中途半端な慰めはかけない。

 それが逆に彼女を苦しめるであろうことは、容易に想像できた。


「多分、そいつらがドクトルの刺客だ。キャラクターを借りているのか、本当に再現されているのかはわからないけど、倒しに行くなら手掛かりが入りやすいそいつ等から先に狙うべきだと思うけど」

「ああ、そうだな。それが一番効率がいい」


 リナは己の身体に熱がたまっていくのを感じながらも続ける。


「任せてくれ。一度殺している。だから、もう一度殺せる。必要なら、何度だって殺せるとも」


 背負われていて、リナの表情は見えない。

 だが、きっと酷い顔をしているのだろうと予想できた。

 こんな時になんと言葉をかけたらいいのだろう。

 スバルは悩む。

 頼りにしていた兄貴分に、年齢的には近づいた。

 しかし、自分はまだまだ彼には及んでない。

 己が無力なのを知っているからだ。

 彼の様に実力があれば、あの素っ気ない『そうか』でも十分返答できただろうに。


「……」


 言うだけなら簡単だ。

 だが、背中越しに感じるリナの感情は、自分が言うにはあまりに熱すぎる。

 喉から出かかった嘗ての同居人の口癖にも似た3文字は、寸でのところで吐きだれなかった。


「急ごう。ぐずぐずしてたら、奴らが徒党を組む。その前に、狩る」

「でも、パーティーなんだろ? ひとりずつ行動してるとは思えないんだけど」

「いいや、あいつらは街にいるときはひとりさ。そういう連中だ」


 ゆえに、暗黒大陸で待ち伏せはしない。

 こちらから出向き、狩る。

 あの時のように。


「続きをしよう。大丈夫、奇麗に再現などしないさ。あの時よりも惨くて、残酷に殺してやる。これは、あの時の続きなんだ」


 己に言い聞かせ、リナは歩きだす。

 人間がいるサンタイト王国までは、船に乗って2時間ほどかかった。

 

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