戦闘力の数値化は男の子の大好物
光が止んだと思うと、スバルはゆっくりと瞼を開ける。
「うわ!?」
すると、そこには想像を絶する光景があった。
見渡す限りの山。
山。
山。
先ほどまでいた高層ビルや、街はどこにもない。
見れば、自分の手足の皮膚の色も青くなっている。
顔をペタペタと触ってみた。
鱗がついている。
耳も、魚を彷彿とさせるような鰓のようなものが伸びていた。
『ようこそ、サンタイト・クエストへ』
頭の中にドクトルの声が響く。
同時に、視界の右上に『!』マークが表示された。
『今、君たちの視界にビックリマークが出た筈だ。まずはそれを指で押してみたまえ』
「これ、チュートリアル?」
『最低限のルールくらいは説明しておかないと公平じゃないだろ』
「自分の作ったゲームでそれ言うかな」
とはいえ、サンタイト・クエストは発売前だけあってまだ未知の部分が多い。
文句は言おうと思えば幾らでも出てくるが、大人しく聞くことにした。
『メニュー画面はそのビックリマークをタッチすれば表示される。ここで自分の強さや装備の切り替え、フレンドとの交流を楽しめるというわけだ。専門用語の説明なんかも検索できるから、とりあえず困ったことがあればこれを使うといい』
「お気遣いどうも」
『どういたしまして。それと、このゲームはいわゆるオープンワールドのRPGだ。行こうと思えばどこへでも行けるが、無理をすれば勿論リスクが生じる』
例えば、崖を伸びることや海を泳ぐこともやろうと思えば可能だ。
だが、途中で疲れがピークに達してしまい、溺れ死ぬ可能性もある。
『ステータスを確認したまえ。そこに君たちに設定されたスタミナが表示されている』
メニュー画面一覧の中から『ステータス』を押下する。
すると、青い皮膚の青年の姿と共に数値の一覧が映し出された。
『これが君の姿と強さだ。因みに、姿は装備や装飾で好きなように変えられる』
「今の俺の姿は?」
『お急ぎのようだったから、適当な魔物の種族をあてはめさせてもらった。君は海の半魚人、サハギン族の青年になる。リナはもともとこの世界の住民だから、そのまま姿だ。探したいのなら、少し歩いてみるといい』
自身のステータスを閉じ、今度は画面左上を見やる。
明らかにこのあたりの地図と思われる絵が浮かんでいた。
『MAP中央の緑の点が君自身の現在地だ。青はフレンドの位置になる。敵対エネミーは赤で表示される』
今、スバルの周りには青い点がひとつある。
恐らく、これがリナになるのだろう。
この山を少し上った先にいるようだ。
指示に従い、リナのいる場所へと歩き始める。
「特に疑問もなく歩いてみてるけど、これってどう操作されてるんだ?」
今、スバルはコントローラーを握っていない。
感覚としては己の足で歩いているときと全く変わりなかった。
『君の脳信号だね』
「脳?」
『そう。以前、ホワイトが君の兄貴分を捕まえた時にバーチャル空間に閉じ込めたのだけどね。それと同じような感じだ』
「ふぅん」
スバルは直接経験したことがあるわけではないが、そういう技術を確立していると言われてあっさりと納得した。
元々、ドクトルはサイボーグ集団を作り出す技術者だ。
そこで使われた技術を応用していると言われると、素直せざるをえない。
考えたところで今の自分の知識では理解できないのもあるが。
「これ、ダッシュもできる?」
『やってみるといい。さっきステータスで表示されたスタミナの数値だけ、ダッシュが可能だ』
「アクション系と同じ感じか」
スバルは走り出した。
普段、自分が走るのと同じ感じである。
それどころか、わずかに身が軽い。
「ふぅ」
少しダッシュすると、立ち止まる。
いつの間にかメニュー画面の真下に黄色いメーターが表示されていた。
訝しげに見ていると、それは間もなく非表示になる。
「これがスタミナかな」
『察しがいいね。さっきの黄色いゲージがなくなったらスタミナ切れで、行動が大きく制限されてしまう。もっとも管理力が大事になるパラメータだと思ってくれていい』
「ところでさ。このステータスってどういう基準で設定されてるの?」
スバルは思う。
先ほど軽く走ってみたが、ほんの僅かながら身の軽さを感じた。
恐らく、何らかの補正があるのだとは思うのだが。
『人間の頃の君の身体能力が基本だ』
「嘘!?」
予想外の答えが返ってきた。
『基本はね。君の場合、魔物になっているから多少のプラス補正が働いている。人間と魔物の違いは幾つかあるが、天然のステータスは僅かに魔物が上なんだ。その代わり、人間には強力な装備が多い』
「へぇ」
つまり、今のスバルは人間の頃と比べると多少強くなっているという事だ。
それを自覚すると、少しワクワクした。
丁度、視界にリナも収めた。
ステータスをお互いに比較しあい、どう立ち回るか決めていいかもしれない。
「おーい、リナ!」
「……!」
掌を向けられる。
が、即座に構えを解いた。
「その声はお前か。本当に魔物になったんだな」
「ゲームの世界だけね。俺の本体は今頃あのビルで横になってるんだろうさ」
サンタイトにおけるリナの姿は、ドクトルが言うようにそのままだった。
ドラゴンと人間を半分ずつ分け合ったような姿のドラゴニュート。
サハギンの自分と似たような出で立ちだった。
「リナ、早速だけどお互いのステータスを確認したい」
「さっき精霊が言っていた奴だな。私にはどういう意味があるのかよくわからないが……」
どうやらリナもチュートリアルを受けていたようだ。
だが、ゲーム専門用語に疎い彼女にはあまり理解できた内容ではないらしい。
「任せておけ。俺なら大体理解できるから」
「わかった。どうすればいい?」
『君たちは一緒にゲームに登録されたフレンドだ。メニュー画面を開いて、フレンドの欄を見てみるといい』
指示に従い、フレンドのメニューを開く。
リストが表示された。
一番上にリナがいて、他には誰もいない。
「これか」
リナの顔が写ったアイコンを押下する。
自分の時と同じように、彼女のステータスが表示された。
「げっ!?」
するとどうだろう。
リナのステータスはすべてにおいてスバルを大幅に上回っていたのだ。
力はスバルの1200倍。
スピードは1000倍。
スタミナは1500倍。
防御力や魔力といった類のステータスも同様である。
「け、桁がちげぇ……!」
『当然だろうね。彼女はこの世界で勇者の仲間を全員狩った女だ。ゲームを始めたての君では歯が立たないだろう。言ってしまえば、ラスボスを倒した連中を更に倒してしまった裏ボスみたいな子だよ。一般人である君が勝てるとは思わないことだ。君だって、神鷹カイトと戦って勝てるとは思わないだろう?』
「そりゃあね」
だが、だからってこの差はひどい。
ステータスを総合した『戦闘力』というものが一番上に大きく表示されていたのだが、スバルが120なのに対してリナは26000近くある。
まるでバトル漫画で起きた超インフレにおいていかれた戦士になった気分だった。
『だが、そんなに気を落とすことはない。君の戦闘力も一般的な成人男性の1.2倍くらいのものだ。まだ若いとはいえ、大したものだよ。気を落とさずにこれからゲームで精進してくれ』
「そりゃどうも」
パイロットとして基礎体力をつけていたのが功を成したのはいいが、それも雀の涙程度のものだ。
明らかに今の自分はリナのお荷物でしかない。
それに、ドクトルはリナのステータスを知っている上で余裕そうな声だ。
つまり、ドクトル陣営はリナの戦闘力では狼狽えることがない戦力を有しているということになる。
「……これ、どうしよう」
「何がだ」
「なんでもない」
戦闘力を開いてワクワクしていた頃の自分を叱ってやりたい。
そう思うと同時に、スバルは今後のゲーム生活をいかにして立ち回るべきかを考え始めた。




