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エクシィズ外伝  作者: シエン@ひげ
蛍石スバル、21歳の苦悩
125/202

現実と虚構の狭間で

 ドクトルに指定された会議室の場所を確認し、スバルとリナはそこへと向かう。

 道中、オフィスや他の会議室の様子を見たが、そこには誰一人としていなかった。


「本当に休暇を取らせたのか」

「私たちが来るのを知っていた、というよりもランナーズを使っておびき寄せたと考えていいだろうな」


 その為にリナに太刀打ちできない社員たちを非難させた、と考えられる。

 最も、社員たちはドクトルのことをどこまで知っているのだろうか。


「お前に聞きたいことがある。お前は精霊を知っているのか」

「さっきも言ってたね。精霊ってのは知らないけど、あいつは知ってるよ。前に俺の腹を解剖しようとしてた奴だ」

「お前の腹には何かあるのか?」

「昔、大変なものを食べちゃってね」


 とはいえ、それも昔の話だ。

 アメリカで戦ったサイボーグ集団は仲間たちと怪盗と警察という異色すぎる集団によって倒された。

 ドクトルはその時のサイボーグ研究者である。

 彼女がカイトによって殺されるのは、スバルもしっかり目撃していた。


「あいつは最強の人間を作るために、人間の体を弄ろうとしていた。今回も似たようなことをしていたんだろうけど……」

「最強の人間……」


 リナが訝しげに見てくる。

 当然だ。

 最強なんて定義は人それぞれ。

 嘗てそれに憑りつかれた人間が他にもいたが、彼女たちは夢を果たさずに消えてしまった。

 XXXも鎧もサイボーグも全員個性的だったとは言えるが、どれが最強の人間だったと問われたらスバルには答えられない。

 勿論、個人的に推していきたい人物はいるのだが、簡単に口にしてはいけない気がした。


「リナは、あいつを知ってるのか?」

「私のマスターを誑かし、嬲り殺した。それが精霊だ」


 以前、スバルは聞いている。

 精霊はサイ・ゲルパを作った研究室の写真だった。

 そこにはドクトルと思われる姿はなかったが、彼女はサイボーグだ。

 姿形を変えるのはわけないのかもしれない。

 

「マスターは生前、私に言った。幸せになれ、と」

「うん」

「だから私は、私の幸せのためにマスターを踏みにじった精霊たちを許さない」


 ゆえに、リナは研究室の人間をすべて殺して回っていた。

 彼女がいたサンタイトというのも天野や大星のテストケースによる世界だったのだろう。

 

「行くぞ。B会議室とやらへ」

「その前に」


 速足で進もうとするリナを制止させ、スバルは提案する。


「少し辺りを調べておきたい」

「なぜだ」

「ここはビルの36階なうえに敵の本拠地だ。しかもびびあんさんに何の連絡も入れずに突っ込むのはまずいだろう」

「さっき仲間は呼ばないと言っただろう」

「でも知らせないとは言ってないぜ」


 ドクトルの挑戦は受けるつもりだ。

 向こうがゲームで挑むのなら尚更である。

 しかし蛍石スバルは同時に己の非力さを強く理解していた。


「戦いはする。けど、勝ちの目はできるだけ作っておくに限るだろ」

「好きにしろ。私はもとよりひとりで戦うつもりだった」

「じゃあお言葉に甘えて」


 スバルはびびあんに現状を伝えるメールを作成すると、それを送信。

 念のため、連絡先を把握している仲間たちにも同じものを送信しておいた。

 スマートフォンを仕舞うと、今度はオフィスを簡単に探査。


「なにをしている」

「面白そうなのが置いてないか確認中」

「馬鹿馬鹿しい。そんなものがあれば真っ先に処分すべきだ」

「まあそう言うなよ。探索はRPGの基本だぞ」


 本音を言えば、ゲーム会社なのだから最新ゲームの情報がなにかないかと探しているのもある。

 言うなれば趣味だ。

 人のデスクを勝手に漁っていると、スバルは昔のゲーム筐体を発見。


「おお!」

「なにか見つけたのか!?」

「これは凄いぞ! 20年前に発売された激レアゲーム機だ。今買おうと思ったら俺の給料じゃ足りないぜ!」

「……それは役に立つのか?」

「立たないよ!」


 飛び切りの笑顔で言われたので、ムカついた。

 リナは反射的にげんこつ。

 スバルは悶えるも、お構いなしに襟首をつかんで引きずっていく。


「行くぞ。遊ぶのは終わらせてからだ」

「仰る通りです」


 調子に乗りすぎたことを内心反省しつつも、ふたりはB会議室へと到着。

 開けると、やはりそこには誰もいない。

 代わりにあったのは歯医者の治療にでも使われそうな巨大な椅子が2台あった。

 頭を乗せる部分には、嘗てSYSTEM Xで使ったことがあるのと同種のヘルメットが配置されている。

 天井に取り付けられているスピーカーからドクトルの声が聞こえた。


『ルールは簡単だ。その2台にはサンタイト・クエストがインストールされている。その世界で活動しているこの私、ドクトルを探し出して倒すことができたら君たちの勝利。君たちがふたりとも敗北したら私の勝ちだ』

「サンタイトに戻れというのか!?」

『不服かな? 確かにサンタイト・クエストは君の世界を模したゲーム世界だが、すべてがそのままではないよ』


 それに、


『君は私を殺したいんだろう? だったらサンタイト・クエストをプレイするしかない』

「よくわからないんだけどさ」


 勝手に盛り上がり始めているドクトルを睨みつけるように、スバルが説明を求めた。


「そのゲームで活動しているアンタを倒せって言うと、プレイヤー同士のバトルに勝利しろって話でいいの?」

『その認識で構わないよ。これは君たちふたりと、我々によるPVPと言い換えてもいい。負けた方が死ぬという罰ゲームがあるけどね』

「そういうのがまかり通るのは大人向けギャンブル漫画だけにしといてほしいかな。それに、負けただけならまた挑戦すればいい話だろ」

『やればわかるさ。このゲームがどういうものかはね』


 妙に自信満々なドクトルの言葉を聞いて、スバルは嫌な予感がした。

 なので、先に断っておく。


「休憩とかは?」

『なんだって?』

「休憩。適切なゲームのためには適度な休憩が必要なんだ。ゲーム会社の関係者ならわかるだろ」


 まさかそんな突っ込みを受けるとは思ってもみなかったのだろう。

 やや考え込むように間を置くと、ドクトルは『ふむ』と納得する。


『いいだろう。途中でゲームを抜けたい時はオプション画面から抜けると良い。だが、逃げられるとは思わないことだ』

「私は逃げる気はない」


 やる気満々のリナは殺意を表に出して、今にもビルを爆発させかねない勢いだった。

 彼女のその闘志に満足したのか、ドクトルはプレイ開始を促す。


『いいだろう。では椅子に座ってプレイ開始した前。そうすればゲームスタートだ』


 指示に従い、ふたりは椅子に背を預ける。

 慎重に、背中に何もしかけられていないことを確認。

 その後、ヘルメットを被る。

 

「うお!」


 その瞬間、スバルの意識は暗黒の彼方へと吸い込まれた。

 まるで自分の身体が浮遊しているような感覚を覚えつつも、目の前に白い文字が表示されていく。


『ようこそサンタイトへ! ここは人間と魔物が対立する戦いの世界だ。あなたはここでなにをするのも自由だけど、ひとつだけ重要な選択をさせてくれ。あなたは人間なのかな。それとも、魔物なのかな』

「リナ、聞こえてるか!? どっちを選ぶ?」

「どちらでもいい。私はどちらでもないから、お前に合わせる」


 淡白に言われてしまった。

 仕方がないので、スバルは考える。

 恐らく、この選択はゲーム開始時のステータスやスタート場所にも影響が出るだろう。

 まだ発売前のゲーム故、情報は未知である。

 どちらを選択した方が有利なのかはわからない。

 わからないのだが、ドクトルが目指すものはあくまで最強の『人間』だ。

 ならば、最初から人間の中に紛れ込むのは逆に危険なのではないだろうか。


「魔物だ。俺たちは魔物でスタートする」

『わかった。君たち魔物は人間と対立しながら暗黒大陸を中心に生息している。サンタイトの国にいけないこともないけど、人間たちには注意して進んでね』


 言われると、暗黒の世界が反転。

 一気に真っ白な世界に包まれていく。

 スバルとリナの意識は共にホワイトアウトしていくと、現実世界の感覚全てがゲームの中へと吸いこまれていった。

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