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エクシィズ外伝  作者: シエン@ひげ
蛍石スバル、21歳の苦悩
124/202

ドクトル・リターンズ

 ランナーズが撃退されるのは想定の範囲内だ。

 サンタイトからやってきたドラゴニュートの娘、リナの能力は既にゲームの設定値を大きく超えている。

 これも恐らくは自らにマリスレギオンの呪いをかけた賜物だろう。

 ゲーム制作者としては感心するが、何時までも放っておくわけにもいかない。


「来たな」


 ゆえに、ヒントを与えることにした。

 彼女が天野たちを殺して回っていることは承知している。

 そして、最終的には自分のところにも辿り着くことだろう。

 執念深い奴は高く評価しておくに限る。

 そうしないと、思わぬ反撃を受けてしまうのはよく知っていた。


「ランナーズはスタンバイ。お客様は丁寧に迎えてくれ」


 カメラから送られてくる映像で、リナの様子はわかっている。

 周囲の人間から興味の目を向けられていないことから察するに、己に何かしらの呪いをかけたのだろう。

 恐らくは周囲の人間に自分の姿がおかしく見えないようにする、といった感じだろうか。

 アイアンゲームズまで乗り込むつもりなら、そのまままっすぐ来てもらおうじゃないか。


「ん?」


 だが、ここで気づく。

 リナから少し遅れ、青年もビルに入ってきた。

 しかもリナの後ろについてきている。


「まさか協力者か?」


 そういえばランナーズの映像にも映っていた気がする。

 あの時は金をたかっているだけかと思っていたが、まさか仲間がいるのだろうか。

 そう思うと、気になってくる。


「サンタイト起動。登録データにアクセス開始」

『アクセスします』


 画面が切り替わり、内部情報が表示された。

 リナはサンタイトからやってきた『キャラクター』だ。

 同じようにサンタイトから漏れ出したキャラクターかと思い、調べてみる。

 だが、ヒットしない。

 少なくともリナの様に、強引にこの世界にやってきたキャラクターではない。

 しかし、なぜか見たことがあるような気がする。

 サンタイトのキャラクターでないのなら、同期している誰かの知り合いか。


「再同期をかける」


 瞳を閉じる。

 言霊をトリガーとし、世界各地に散っている己の分身の意識を同期させた。

 

「最近の知り合いではない。では、昔の?」


 だとしても、そんな奴を覚えているわけがない。

 昔の知り合いだとしても、強烈なインパクトがないのなら放っておいてもいいのかもしれない。

 だが、同時に嫌な予感もする。

 以前、アメリカに派遣をかけた『ドクトル』と同期が取れなくなる事故があった。

 当時最も順当に最強の人間を作り上げようとしていただけに、あの事故は手痛かった。


「まさか、あの時の彼か?」


 純正アルマガニウムをギャグマンガ顔負けの展開で飲み込んでしまった運のない少年がいたのは覚えている。

 4年も前なので多少は体格や顔つきが違うが、当時のおぼろげなデータを思い出しつつ映像と比較する。

 どことなく面影があった。

 確か名前を蛍石スバルといっただろうか。

 彼自身にはそこまで思い入れはないが、彼を助けに来た超人軍団には深い思いれがある。


「と、いうことは!」


 ドクトルは思う。

 アメリカで自身を殺した最強の人間、神鷹カイトも近くにいるのかもしれない、と。

 思いの外早くやってきたリベンジの機会だ。

 

「こうしてはいられない! リナのことは後回し……いや、先に処理した方がいいな。うん」


 思いがけない標的の登場に興奮してしまったが、元々は自分の邪魔になりそうなリナの排除が優先目標だ。

 それに、彼女があの超人軍団の一員になったと決めつけるのは早計というものだろう。

 事実として、彼女と共にいるのは蛍石スバルだけである。


「よし、少し予定を変えよう」


 リナと蛍石スバル。

 どちらも因縁ある相手だが、それが奇妙な形で混ざり合った。

 ならば、このドクトルが用意した最高の舞台がまとめて相手をしてやろう。

 そう思うと、ドクトルは起立。

 画面を軽くタッチすると、瞼を再び閉じた。












 アイアンゲームズへのオフィスまでたどり着くのにそこまで時間はかからなかった。

 ビルの中ではリナの呪いの力のお陰で警戒されず、身構えていたエレベーターも異変なし。

 順当に受付へとたどり着いてしまった。


「静かだな。ランナーズの出迎えでもあるかと思ってたけど」

「言っておくが、最低限自分の身は守れよ」


 リナから釘を刺される。

 元々スバルは勝手についてきた身だ。

 これを庇いながら戦うつもりなど、リナには一切ない。


「任せておけって。安全な場所に隠れながら応援してる」

「そういう意味ではないんだが」


 何故だか自信満々な態度で答えられてしまった。

 ここまで強く言うのなら、相当な自信があるのだろう。

 安全な場所があるとは思ないが。


『ようこそ。アイアンゲームズへ』


 すると、受付から女の声が聞こえた。

 リナとスバルがそこへ視線を向けると、白衣の女性がいた。

 眼鏡をくいっと持ち上げつつ、彼女は言う。


『久しぶりだね、スバル君。お腹の調子はあれからどうかな?』

「は?」


 いきなり名前を呼ばれ、スバルは困惑。

 だが、しばし彼女を見つめてから思い出す。


「あ、お前はサイボーグの解剖マニア!」

『思い出してくれたようで嬉しいよ』

「知り合いか?」

『リナ。君も私を知っているはずだけど』


 驚きつつ、リナも記憶を探る。

 そして思い出す。

 この世界にたどり着いてから最初に殺したはずの人間が、目の前にいた。


「精霊!」


 炎を纏いつつ、リナは突撃する。

 右手で殴りかかろうとするも、その一撃は虚しくすり抜ける。


「立体映像だ! リナ、そいつを殴っても無駄だ!」

『そういうこと。いや、しかし驚いたよ。アメリカで私の邪魔をしてくれたXXXの金魚の糞と、日本で私の研究から這い出てきたリナが、まさか行動を共にしてるとは』

「お前は、カイトさんに」

『そう。確かにあのドクトルは神鷹カイトに殺された。君も見ていたね』


 だが、ドクトルは不滅。

 最強の人間を作り出すために、何度でも蘇る執念の塊なのだ。


『最初のドクトルは、死ぬ前に自分のコピーをいくつか残していてね。そのコピーが私であり、君の知るドクトルであり、リナの知る精霊でもある。私たちはみんな、ある目的をもって活動しているのさ』

「人体解剖図鑑とか?」

『解剖は好きだけど、図鑑まで作ろうとは思わないよ』


 どうやら嘗ての少年は当時よりも神経が太くなったようだ。

 眼前に嘗ての敵を捉えつつも、冗談を言う余裕がある。


『作りたいのさ。最強の人間って奴を』

「まだ諦めてないってことか」

『当然さ。前のドクトルが言っただろう。一世一代の挑戦なんだから、負けたとしても君たちの顔を覚えて挑戦するって!』

「だとしたら今度もまたサイボーグかな?」

『いいや』


 後ろを見やる。

 リナの悔しげな表情を眺めて満足そうに頷いたのち、彼女は自信満々にこう言った。


『ゲームさ』

「ゲーム?」

『そう。ここに足を踏み入れたんだから知ってるんだろう。ゲーム会社だぞ、ここは』

「いや、それは知ってるけど」

『つまり、ゲームで作ったのさ。最強の人間を』


 言ってる意味が理解できない。

 以前、アメリカで会ったときは人間をサイボーグにすることで最強の人間を作り出そうとしていたのだが、それがどうしてゲームに移行するのだろうか。


「育成ゲームで作った最強キャラクターって奴か?」

『君たちには直接体験してもらった方がいいかもしれないね。人払いは済ませておいた。今日は社員に特別休暇を出しておいたから、存分に楽しむといいよ。B会議室に用意してあるから、そこですべてを知るといい』

「待て!」


 消え去る立体映像を前にして、リナは叫ぶ。

 だが、ドクトルは嘲笑いながら宣言した。


『君もおいでよ、待ってるからさ』

「なんだと」

『懐かしいサンタイトさ。君の故郷だろう、そこで決着をつけよう。スバル君、援軍を呼ぶなら遠慮なく呼んでくれよ。特に神鷹カイトは私を殺した張本人だからね』

「いや」


 その名を呼ばれた瞬間だろうか。

 スバルの表情が、氷の様に凍てついたように感じた。


「その必要はないよ。ゲームは俺の得意分野だからね」

『そうかい。それは楽しみだ』


 映像が消える。

 ドクトルはその場から消え去り、ゲーム世界へと意識を切り替えていくが、その最中。

 己が緊張しているのを感じた。

 蛍石スバルに、わずかながらに怯えたのだ。

 その事実に気付くまで、ドクトルは数刻ほど時間を要した。

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